塩見孝也さん──。この人の発するエキスは雑誌や映画、あるいは友人を通じて何度も触れはしていた。ニアミスは過去何度もあった。が、ついに本物の塩見孝也さんにお会いすることとなった。

といっても偶然ではない。先に本コラムで紹介した同志社大学での矢谷暢一郎ニューヨーク州立大学教授講演会(同志社学友会倶楽部主催)の聴衆としてはるばる東京からお越しになっていたのだ。昔お会いしていないにもかかわらずお世話になったことがあったので、そのお礼を述べるとひとしきり昔話に花が咲いた。

丁度鹿砦社から、『革命バカ一代駐車場日記 たかが駐車場 されど駐車場』が発刊されたこともあり、鹿砦社の松岡社長が「自分の本は自分で売りに来い!」と呼びつけたとの説もあるが、真偽のほどは定かではない。もし松岡社長が元赤軍派議長の塩見氏の行動を指図できる人物であるとすれば、これはエライ大事件だ。なんせ塩見氏はかつて「日本のレーニン」と呼ばれた人物だ。レーニンに指示できるのはマルクスぐらいだろう。ということは松岡社長は「日本のマルクス」か? いや、いくらなんでもそれはないだろう。もしそうであれば我々は完全に表層に騙されていたことになる(いや、実はそうかもしれない)。

◆塩見さんなしに生まれなかった70年代「赤軍派」世界闘争の歴史

ともあれ、塩見さんである。20年の獄中生活後、娑婆に出てからの活動ぶりはさすが元赤軍派議長にふさわしいアクティブさだった。朝鮮民主主義人民共和国へ「よど号」ハイジャックで渡ったかつての仲間を訪ねに40回近くも訪朝し旧交を温める。いやそんな穏やかなもんじゃない。田宮高麿さん(故人)をはじめとするよど号グループに触発された塩見さんは「自主日本」という言葉を多用するようになる。当時はきっと何かたくらんでいたに違いない。

また、やはり元赤軍派でアラブに渡った重信房子さんを拘置所に訪ね、癌と闘病中の重信さんとプラスチックの壁越しに手を合わせ、帰路、感極まったという。「赤軍」といっても歴史の中でその主張や行動は随分変遷してゆく。「赤軍派」、「連合赤軍」、「日本赤軍」などの違い、定義をご存じない向きには本書を現代史のテキストとしてお勧めしたい。

実際1970年代、国内だけではなく朝鮮へ、中東へ戦線を広げた「赤軍」の闘争は世界史に確実に刻まれるべきものだ(それがどのような意味を持つかの判断はそれぞれの立場で異なろうが)。塩見さんなしにはそれらの歴史は生まれなかった。

また、左翼陣営のみならず、鈴木邦男さんらとの邂逅から彼は従来の新左翼の枠にとらわれない「パトリ」という概念(用語)を多用するようになる。鈴木邦男さんに限らず、右派へも人脈が広がって行き、その主張も一見「愛国主義者」と見まがう(実際現在の彼の思想にはある種の愛国主義が包含されている)様相を呈し、かつて「国際根拠地論」、「世界革命戦争宣言」を発した赤軍派イデオローグの思想はどうなっているのか?とかなりの論争を呼んだものである。

◆変わってないけど変化はしている

塩見さんは矢谷さんの講演会後の懇親会の席で挨拶をされた。要旨は「現在の日本は非常に危険な状態にある。日本は憲法を守り抜き軍事国家化してはいけない」という極めて穏当な主張だった。

『革命バカ一代駐車場日記 たかが駐車場 されど駐車場』を読むと、なるほど塩見さんの思想とは凡そ社会のほとんどの事象に適応可能なのだということが理解できた。「適応可能」は「解決可能」を意味するわけではないが、駐車場の管理人という職を得てからも彼の思索の中には常にマルクスや社会主義を根底にしたの現状分析や問題意識がある。しかしながら視点はそれだけではない。自然と人間、革命後の男女の性、広くは宇宙の成り立ちにまでを彼は思弁しながら日々の業務をこなしているという。

変わらないと言えば原則がこれほど変わらない人はやはり稀有な存在だ。逆に変わりうると見れば、思想において人間の変化の可能性を体現してもいる(しかし彼は「転向者」ではない)。「変わってないけど変化はしている」のだ。言葉足らずが悔しい。

私が述べるまでもなく彼に対する言説は世にあふれている。実際懇親会の席でも塩見さんに批判的論争を投げかける人が1人ならずいた。近くで聞いていたわけではないが彼は飄々と議論に応じていた。

私が塩見さんの立場で「総括しろ」と言われれば、何事も口にできないような気がする。でも塩見さんはこれまで何度も赤軍派議長としての総括を堂々と語ってきた(勿論反省も含めて)。総括にしてあの堂々ぶりだ。アジテーションはさぞや激烈だったことだろう。

と、構えて読むと拍子抜けする。実に実直。ひたむきに日常に立ち向かう塩見氏の日常が描かれており、微笑ましくさえある。しかしこの人怒らせたら怖いだろうな。

▼田所敏夫(たどろこ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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