どこもかしこもメディアはイスラム国(ISISともISILとも呼ぶ)の悪辣さを報道しており、関係者はコメントでひっぱりだこだ。

イスラム国は「国ではない」。もともとは英名でIslamic State in Iraq and al-Shamと表記される。名称に「ステーツ」を含むため「国」と訳された。USAと同じ基準である。現在では略号としてISIS、ISILと呼称するようになって来た。ある組織が「国」と認定されるには国連の承認を含めいくつかの条件を満たす必要があるがISISは「国」としての体裁をなしていない。

では、実態はなにかというと、無数にあるイスラム系宗教集団の一つにすぎない。特徴としてイスラム回帰主義がきわめて強く、同時に闘争的である。

イスラムというと日本人にはなかなかピンとこないが、歴史的にはキリスト教以前、ユダヤ教から別れた一派である。ユダヤ教では旧約聖書を聖典とするのに対して、キリスト教ではイエスの言葉を集めた「新約聖書」、イスラムではムハマンドが神の啓示によってあらわした「クルアーン」(コーラン)を聖典とする。いずれもアダムとイブが人類の祖であり、呼称は異なるものの、崇める神も同一である。

イスラム教徒が住む地域はアフリカから、中東、アジアにかけて非常に幅広く、様々な宗教集団、主義主張が存在する。インドネシア、マレーシアはイスラム教国であるが、戒律は緩やかで対立も少ない。逆に激しい環境に面しているのがパレスチナであろう。イスラエルと国境を接し激しい戦闘を繰り返している。また、アルカイダなどは反米を掲げ、アメリカを攻撃の対象に据えている。その分、日本に対しては対米共闘を持ちかけるなど、寛容である。

ではISISの目的は何か? 世界中のイスラム教徒をイスラム法の下にまとめ、大イスラム帝国を再編するいわゆる「カリフ制」の復活とムハマンド時代の再建「サラフィーヤ」の実現である。誇大妄想的に聞こえるかも知れないが、現在の中東の国境線は第二次大戦後、戦勝国によって引き直された物であり、その土地に住むムスリムが合併しようとする動きはあり、なにもISISの専売特許ではない。しかし、ここにきてISISが注目されているのは、その軍事力と大きな発展、目的のためには手段を選ばない残虐性である

ISISはシリア内部で発生した。中核は旧イラク・フセイン大統領のスタッフであるという。軍人、政治家など実務経験がある閣僚級の人間が温存していた兵器、兵士を中心にして新興勢力を立ち上げたのである。正規軍として実戦経験を持ち、国家予算並みの資金、正規軍に準ずる装備があれば一時的に圧倒的な発展が期待できる。しかし、一定期間が経てば国内のインフラは不備、海外との交易もなく、経済的に追い詰められる。人心も離れる。国際的に考えても、日本は敵に回すべき国ではない。

軍隊は送ってこない。来るのは金と物資だけ、だが日本にケンカを売ったと言うことは、内部情況が相当逼迫していると見るべきである。いま、ISISは下り坂を転がり落ちている。

そんな苦しい情勢下で、彼らは乾坤一擲のテロを狙っているようだ。

オーストラリアのシドニーでテロを計画していたとして20代の男2人が警察に逮捕されたが、この2人は「イスラム国」関係者だとされている。

これだけでなく、スパイの動きは活発だ。別ラインでは、世界の各国にイスラム国関係者が潜入して、「兵器開発」のための情報を集めているようだ。
エジプトにいる外電記者は語る。

「イスラム国の幹部たちは、アメリカが地上戦を展開する情報を掴んだようです。対抗するためには、仮に自爆するにしても、『核』をもって対抗しないと、もはや空爆してくる連合軍に勝てないと判断したようです。石油でもうけた金を使って、自分たちが生き残る道を画策、あらゆるルートを駆使して探した結果、『北朝鮮の核開発チームが売ってくれる』となったようです」

もし事実なら、現在の勢力図がひっくりかえる話だが、疑問がある。本当に北朝鮮は核兵器を開発したのだろうか。一説には、パキスタンの核開発の父と呼ばれるA・Q・カーン博士が何回も北朝鮮に入り、技術協力していた。「すでに完成している」と見るむきは多い。

また、軍事評論家の青山智樹氏は言う。

「北朝鮮は間違いなく、ウラン濃縮技術を持ってます。イスラム国に供与の可能性もありますが、核兵器自体、高価であり、運用法も限られます。つまり、イスラム国が北朝鮮のようにミサイルを作れないと、普通は無理。ただし、自爆兵器としては、トラックでも使えるのです」

青山氏は、「核兵器よりも、シリアのアサド政権が化学兵器をイスラム国に売っているのではないかという疑念がぬぐえない」とも語る。

今もなお、ヨルダンやアメリカ空軍の空爆は続いているが、「イスラム国の主要なメンバーはもう海外にとっくに脱出している。残っているのは、幹部に見捨てられた若い兵士や、貧しい部族だけ」(外電記者)という情報もある。

怖いのは、「ジハード」の名目で、たとえばニューヨークあたりで、化学兵器をばら蒔かれることだ。「もしイラクの軍隊から技術が伝わっているとすれば、少なくとも1万人くらいは殺傷できる化学兵器を、イスラム国は持っている可能性は強いです」(同)

イスラム国が「石油の密輸で潤っている」と情報を聞きつけて、昨年の11月あたりから武器のブローカーが欧米や中東から大量に「セールス」にやってきていた。そうした中で「化学兵器」や「核兵器」のセールスがゼロだった保証はない。

一見して状況として「完全に不利」に見えるイスラム国は、「最高のカード」で勝負、一発逆転を狙ってくる日は近いのかもしれない。
[ハイセーヤスダ]※取材協力=青山智樹(軍事評論家)

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