昔から歌舞伎町を知る飲食店の経営者に聞くと「最近のぼったくりは暴力団追放の流れと無関係ではない」という。

「もともと歌舞伎町には縁もゆかりもない不良連中が突然やってきては短期間で稼いで売り抜ける「ゲリラぼったくり」が多い」という。セノーテもそのひとつだった。これは大手を振って暴力団が仕切っていた頃はなかった現象だった。

「いまの歌舞伎町でのヤクザは他からの侵出にうるさくなくなった。酒と少々の金を持って挨拶されたら、その後にどんなひどい営業をしていても黙っているし、あいさつに来ない者を脅しに行くこともなくなっている」と経営者。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆「セノーテ」のベテランキャッチが語るぼったくりの世界

ぼったくり店「セノーテ」のキャッチをやっていた山崎哲夫(仮名)はこの世界でのベテラン。30年以上もキャッチを続けている。

「昔は店の前に店員を立たせて『いらっしゃいませ』と通行人に呼びかける通称『ポーター』だったんですよ。でも、2006年にいわゆる『新風営法』ができて、客引きが禁じられ、独立したキャッチになったんです。俺らはいま店とは直接関係ない立場。客がキャッチに3000円ぽっきり飲み放題と聞いたと騒いでも、店側はそれは知らないと言い張ることになっている。ときどき店がキャッチを主犯に仕立てようとすることもあるけどね」

セントラルロードに立ち尽くし、客が望むならストリップ、キャバレー、カラオケ店、裏ビデオ店……。どこでも連れて行くのが山崎氏の仕事だ。たとえ1円の利益にもならなくても、客に信用されるために道案内をすることもある。

「ストリップ劇場はとり半(50%)、キャバクラは30%前後」
客を紹介すれば見返りに店からキックバックを受け取る。キャッチのがんばりに、店側も応えようとする。多くのぼったくり店は、キャッチが入れた客の売上げによって歩合を支給する。もし新人のキャッチの場合、だいたいは、売上げの2割前後とされる。

売上だけではない。入れた客の本数(人数)に賞金をつける店も多い。5本入れたらいくら、10本入れたら何万円など……。今や稼げないキャッチでも、1日2万円前後。稼ぐキャッチは1ヶ月で200万円以上の収入を手にするのだという。

◆不景気と『半グレ』進出で増えてきた悪質ぼったくり店

山崎氏はバブルの時代も歌舞伎町で稼いだ。オールバックで、一見してキャバレーの支配人風。こぎれいなグレーのスーツを着た男性は上品な顔つきだ。そんな人物でも悪質なぼったくり店に客を紹介したのは、近年の不景気のせいもあるという。
「セノーテを始めた経営者のTは、もともと池袋でやっていた水商売の業者。開店にあたっては資金のスポンサーを集めていました。その中で中国人の事業家から開店資金を引っ張っていた。そこで僕らキャッチにも連絡がきて、当初はぼったくりをやるということは聞いていなかったけど、すぐにそっち系だというのが分かった。僕らはぼったくりだから仕事を断るということはしたくないけど、昔より仕事は少ないからこれは仕方ない」

ゲリラぼったくり店は基本、公安委員会に必要な届け出を出していないことが多いという。許可が出ていない状態で2、3ヶ月で一気に稼いですぐ消えることもあるという。最近は『半グレ』と呼ばれる不良連中の進出も増えたという。

「揉めた客には路地裏で取り囲んだり、警察が呼べないようにうまくやっていた。でも、そういう連中のせいで、今の歌舞伎町は青パト(行政がパトロール用に巡回させている警備車)もかなり増えて、『キャッチはすべて違法です』という放送も流れるようになった。いまは何度めかのぼったくりブームだと思いますが、本来は『ゲリラぼったくり』があると困るのは我々。窮屈になっている」

山崎は、酔って『おい、きれいな姉ちゃんがいる店を紹介しろ』『ちゃんと案内しろよコラ』という傲慢な態度の客にはあえて「ぼったくり店」に案内する意地悪もあるという。

「態度が悪い客に、ぼったくりだったと文句を言われたら、『もう一度、案内させてください。チャンスをください』と懇願して、2軒目のぼったくり店に案内したこともあります。その客だけで10万円近くキックバックがあった」
この非情なキャッチの話は続く。

「僕自身は風営法が改正された直後の1991年に客の進路をふさいだという微細なことでヨンパチ(警察署で48時間勾留)を2度くらったことがあり、それで罰金を払ったことがあります。風営法違反で5万円の罰金は痛かったですが、長くやっていてもその程度」

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆ここぞとばかりに高い金を払う外国人観光客もいいカモ

外国人観光客もターゲットだ。韓国人や中国人の観光客にも声をかけるという。
「外国人はポールダンスをする店に引き入れることが多いです。追加料金を払えば女性を連れ出して『抜き』もできるんですが、観光客はここぞとばかりに高い金を払うのでいいカモです。だいたい、こっちには韓国人や中国人の仲介人もいますから、もはやなんでもあり。歌舞伎町には14歳の少年キャッチもいますよ」

キャッチになりたいという若者がやってくることもあると山崎。
「やりたいやつがいたら、30~40%の手数料をとってやらせます。成績が上がらないやつはダメでも内情を知ることになるので、暴力団とか身近なところで働かせて飼い殺しにするんですよ。ただ、今のキャッチになりたい若者は、『いつか歌舞伎町で店をもちたい』とか『こうしてのしあがる』というビジョンも野望もない。『ガソリンスタンドの仕事がおもしろくない』『営業の仕事はもう嫌』という『デモしか』キャッチしかいないような気がします」

中には山崎よりベテラン、40年以上もキャッチをしているおばあさんもいるという。
「彼女は通称マリアって呼ばれていて、伝説の人です。誰にもでもつきまとう。相手がヤクザだろうが警官だろうが気にしない。店を案内させたら天才的なうまさで、前に摘発されたときは裁判で『私はマリア様だと呼ばれている。ぼったくり店に案内するわけがない』と叫んだそうですよ」[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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