昨年11月、日本から「シティバンク銀行」が撤退した。日本では数少ない外資系都市銀行で、総資産2兆2000億ドル、アメリカ、ニューヨークに本店を置く世界最大の一般銀行である。銀行として初めて当座預金口座を開設し、複利預金、無担保ローンを商品化、クレジットカード「マスターカード」を提供し、いまではダイナースクラブもシティグループの傘下にある。ATMの24時間開放、支店数を絞って人件費を削り、穴埋めとしてATMを他行と供用するなど、現在では普通に行われている銀行の運営をはじめた先進的な銀行である。

シティバンクの日本上陸は1902(明治35)年、横浜に外貨取引銀行として支店を開設したのが最初で、実に百年の歴史がある。それが消えた。業務縮小や、旧顧客向けの窓口を残すこともない。顧客は日本の既存銀行、SMBCに託す形で跡形もない。

撤退の理由として「日本の市場には将来性がない」といささか腹立たしいと共に、捨て台詞とも取れる言葉を残している。

撤退に至るまで、確かにシティバンクはいくつもの「事件」を起こしている。2004年には、マネーロンダリングの幇助を指摘され、虎ノ門支店の認可が取り消されている。2009年、には大口顧客に対する利益誘導等があったとして続けて業務停止命令を受け、2011年に受けた「多数の法令違反」があるとして、業務停止命令が出された。何度も縮小や、関連グループとの合併、子会社化を行ったが、ついに2015年撤退ときた。

きわめて不自然な消え方だといえる。日本の証券会社や銀行でも一部顧客への利益誘導やマネーロンダリングによる不正はあったとしても、それが理由で廃業に追い込まれはしない。

ここで巷間、多くささやかれるのが「ユダヤ・イルミナティー」の策謀である。
ユダヤ・イルミナティ説の多くは眉に唾をするようなものから、真実味に富んだものまで挙げられているが、ここで注目したいのが「日本という地域性」だ。

古来、キリスト教が優勢になって以来ユダヤ人は被差別民であった。国土もなく、居住地、職業選択の自由もない。「ゲットー」と呼ばれる壁の中に暮らし、賤業に就いていた。この時代、アメリカはまだ存在せず、アラブ地域はオスマントルコ帝国の支配地である。ユダヤ人には、まだ、力もなく、影響力はヨーロッパに限られていた。ユダヤ人同士の繋がりがあるとしてもまだ細々としていた。

一方、貨幣経済が発達してくると卑しい職業とされていた「金貸し」が次第に力を得てくる。つまり銀行である。一部の富裕なユダヤ人が貴族に協力し「宮廷ユダヤ人」として力を得るようになる。

ユダヤ金融が一挙に勢力を拡大するのは1812年、ドイツ、フランクフルトのマイヤー・アムシェル・ロスチャイルドがワーテルローの戦いでイギリスの国債が高騰したのを得てからである。その後、マイヤーの息子たちはパリ、ロンドン、ナポリ、ウィーンへと散らばり、金融業を展開する。ユダヤ系資本は国籍にとらわれない特性から瞬く間にヨーロッパを席巻する。

とはいうものの、やはり歴史の古いヨーロッパはユダヤ人に対する弾圧は強い。対して、移民を受け入れてきたアメリカでは比較的、差別は少ない。ユダヤ・イルミナティーはヨーロッパを拠点に次第にアメリカでも広がってくる。もちろん、アメリカでもユダヤ差別は皆無ではない。アメリカの大統領はほとんどがプロテスタントであり、カソリックは少数に留まる。ユダヤ教徒に関しては皆無である。この状況の中で拡大するシティが経営陣からユダヤを排除する可能性は高い。

他方、今回取り上げた「シティバンク」は「シティバンク・オブ・ニューヨーク」として1812年、はからずもロスチャイルド銀行が設立したのと同年開業し、1895年、アメリカ最大の規模に発展する。この段階でユダヤ・イルミナティーが介入する余地はない。

ロスチャイルドの発展からアメリカでも後発のユダヤ資本が食い込んで、企業体を資金面から浸蝕していく。企業体、ロックフェラーなどはそれ自体がユダヤ系であるとされる。

もちろん、アメリカが食い荒らされている間も、入ってこられない地域がある。アラブ、中国、日本である。日本は徳川時代「鎖国」を行っていた。中国(清国)も、1717年から1842年まで「海禁」と呼んで事実上の鎖国状態にあった。

しかし、日本は太平洋戦争の敗戦で「染まりきったアメリカの資金」が大量に導入されてくる。

10年ほど前、ある大手出版社の雑誌が廃刊になった。昨今、雑誌の廃刊など珍しくないが、退職した当時の編集者、A氏とのコンタクトに成功した。
「突如上の方から『その本は出すな』号令がかかった。記事の差し替えや、書き換えは珍しくないのでその類だろうと高をくくっていた。内容はユダヤ資本に関する批判でどこにでもあるような内容です。『あれよあれよ』と言う間に雑誌は休刊。編集部は解体。異動されるか、退職した者もいます。しばらくしてわかったのが、銀行から圧力がかかっていたんですよ。日本の銀行ですが、ユダヤ資本が入っていて、記事のうちどれかが本筋をついていたのでしょう」

日本の金融市場を狙うのはユダヤ資本ばかりではない。近年になって膨大な資金源が登場した。いわゆる「チャイナ・マネー」だ。

2010年「日本の総生産が中国に抜かれた」と報道された。その後も中国は毎年10%近い成長を続け、昨年度でGDPは日本の二倍を突破した。決済通貨としても「USドル」「ユーロ」「イギリスポンド」「中国元」「日本円」の並びになり、昨年「元」の流通量が「円」を越えた。

中国にとって日本は豊かな「餌場」なのだ。資金のやり取りも為替を使用するより、銀行を介した方が早い。となると、日本に居座る外資系銀行「シティ」は邪魔物となった。

日本ではあまり普及していないが、マスターカードが運営するCirrus(シーラス)という銀行決済システムがある。世界93ヶ国、100万か所のATMで利用できる。クレジットカードの多くは海外でも利用できように、クレジット払いのシステムを銀行決済に適用したのがCirrus。日本国内で預金した「円」を、海外に出向いて同じ銀行カードを使って外貨を引き出すことができる。ビジネスには圧倒的に有利な海外決済、送金方法だろう。

Cirrusを真っ先に日本に導入したのが、シティバンクであり、実に30年前である。他に日本では、シティと最初に提携した「ゆうちょ」、2007年から提携を開始した「セブン銀行」、シティから業務委託をうけた「SMBC」しかない。

一方、日本にも次々と中国系の資本が入ってきている。中国国営銀行である「中国銀行」、中国系クレジットカード「ユニオンペイ(中国銀聯)」などである。中国銀行は日本での支店数は少なく、「ユニオンペイ」こそ、日本とアメリカで提携を増やしているが、世界的に優勢なマスター系列のCirrusとも、ビザ系列のPLUSとも連携していない。一方、中国は銀聯に続いて、Alipay、Chinapay、快銭の導入を開始している。

Cirrusの大元であるシティを日本から追い出すのは、中国にとって欠かせない戦略だ。

中国の動きはシティの不祥事にも影を落としている。

「実はシティ撤退のきっかけとなったマネーロンダリング事件、これは日本の暴力団が覚せい剤で得た利益をシティバンク経由で香港で現金化したという内容です。マネーロンダリングには色々な方法があるが、多く使われる方法が投資を装うやり方だろうね」(経済ジャーナリスト)

不正に得た現金を損益が出ると判っていても第三者に貸し付ける。数年経って減額した資金をひきだす。引き出したカネは株なり、国債なりの売却資金として「洗われたカネ」になる。ところがシティの場合は虎ノ門の支店で預金した資金を単純に香港で下ろしただけだ。資金洗浄だとしたらあまりに稚拙に過ぎる。

状況証拠でしかないが、中国当局にはめられた、という見方もできる。

シティはユダヤ・イルミナティーに疎まれ、中国との交流もない。旧勢力と、新勢力の戦いによって日本という戦場からたたき出されたのである。

確かに日本の一般銀行にはイルミナティーの息がかかっているだろう。だが、例外も多い。農家の資金運用を一手に引き受けるJA。民営化された「ゆうちょ」。日本にはまだまだ手つかずの膨大な資金が眠っている。

これらを虎視眈々と狙っているのが、ユダヤと中国。

いま、日本という豊穣な市場をめぐって、新旧の大勢力が火花を散らしている。

(伊東北斗)

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