プロ野球公式戦開幕を前に、選手が金銭のやり取りをしていたことが問題とされた。試合前のノックでエラーをした選手への「罰金」的な徴収から、「声掛け」担当した選手が当該試合に勝利すると各選手から集めたお金を手に入れる手法など様々な行為が指摘された。プロ野球選手が「わざと負け」たり、「わざと勝ったり」する行為に手を染めれば、それは明らかな背信行為だから指弾されたり、球界から追放されても仕方ないともいえる。

◆日常的に「賭け」を強いられる職業としてのプロスポーツ選手

しかし、彼らは職業運動家(プロスポーツ選手)なのだ。勝つか負けるかを常に争う世界は、年度ごとの予算を立てて、決算を締める商売の世界とは「仕事」への向き合い方がおのずから異なる。

例外もあるがルールが複雑になるほど優秀なスポーツ選手には、明晰な頭脳が要求される。生まれ持った肉体的運動能力の優位さだけでプロの世界では活躍できない。一流選手は皆、聡明である。と同時に彼らはデータや経験値、直感に基づいて、あるプレーに「賭ける」ことも日常的に行う。

野球の打者であれば投手の投げる球種を予測(山を張る)したり、打席の中で立つ位置を微調整したりする。この行為は経験値に依拠しているが、最後は「勘」に頼るものであり、その点で彼らは日常的に業務上である種の「賭け」を強いられることと直面せざるを得ない職業人だといえる。

◆「賭け」の要素が入り込んではならない職業としての行政

この性質と全く逆に位置するのが行政に携わる人たちの仕事だ。行政は法律なり条例に依拠し議会の決定を受けて行われる公的業務であるから、本来行政に「賭け」の要素が入り込む余地はないし、入り込んではならない。

つまり「賭け」を論じる際には前提としてまず、行為者が誰であるか、そして「賭け」と言われるものの実態がいかなるものであるかが冷静に分析されなければならない。その上で行為の正邪が判断されるべきだ。

◆公営による競馬、競輪、宝くじは合法だから「良い賭博」なのか?

そもそもなぜ「賭博」は良くない行為とされるのだろうか。宝くじは「賭け」ではないのか。競馬は「賭博」ではないのか、競輪は、競艇は、オートレースは?どこからどう見ても全て明らかな「賭博」だ。では雀荘で行われる「賭けマージャン」、「闇カジノ」、「ゴルフコンペ」という名の賭けゴルフはどうして悪行とされ時に摘発されるのだろうか。

回答は極めて簡単。「賭博」の胴元が実質的に「国」(もしくは国に準ずる団体)であればその行為は「合法化」され、私人が胴元になる「賭博」は「違法」とされるのだ。賢明な読者においては勘違いされることは無かろうけれども、決して「賭博」の内容により「合法」、「非合法」の区別が線引きされる訳ではなく、あくまでも基準は「国」(もしくは国に準ずる団体)が胴元であるかないかだけが法的には「合法」、「違法」の基準なのだ。

◆試合結果を予想するサッカーくじ(toto)は国が胴元の「賭博行為」である

「野球賭博」を司る国家的制度は今のところない。したがって野球に関する全ての「賭け」は「違法」と認定される。他方サッカーには、試合結果を予想する明らかな「賭博行為」であるtoto(サッカーくじ)が存在する。国が胴元となる賭博の中でも比較的新しいこのtotoは、明らかな賭博行為のイメージを隠ぺいするために「サッカーくじ」などという名前を付けたが、「くじ」と「賭博」は全く異質かつ相いれない性質を持つ行為であることをご理解いただくのに、多言は必要あるまい。

勝負を強いられる仕事には判断においても、プレーの選択においても「賭け」が必ず必要だ。だから(言い過ぎかもわからないけれども)勝負師にとっての「賭け」は日常的行為だともいえる。よって私はあまりプロ野球選手が小銭のやり取りをしていた行為に興味が湧かない。所詮その金は彼ら自身が稼いだ金であるし、それによって試合に緊張感が出ることはあっても「わざと負けてやろう」という動機が強く引き起こされることは稀だと考えるからだ。

◆最大の「賭博」犯罪は国がGPIFに委ねた「年金原資の投機的運用」である

むしろ関心と指弾は本来「賭博」と無関係であるはずの行政が実質的に「賭博」に手を染めていることに向かうべきではないのか。目下最大の道義的犯罪は「年金原資の投機的運用」であろう。年金の資産は2016年3月現在135兆円だと言われているが、その運用は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に委ねられている。しかし実際の運用はGPIF自身が行うのではなく国内外の「民間金融機関」に委ねられていることはほとんど知られていない。いわば「年金原資運用の民営化」が既に強行されているのだ。しかも委託先は国内の金融機関だけでなく「JPモルガン」、「ゴールドマン・サックス」といった海外大手の多国籍金融機関にまで及ぶ。

年金を天引きされる多くの給与所得者にとっては、青天の霹靂ともいうべき狼藉が合法的に行われているのだ。年金の運用を民間会社に任せて、損出が出たらどうするのだ?誰も責任を取りはしない。仮に運用益が出たところで「瞬間的博打に勝った」だけのことで、年金が極めて不安定な運用に委ねられている構造に変わりはない。

そして、実際に運用損は計り知れない額になるだろう。2015年7月-9月の運用損が9.4兆円との実績がある。1ドル120円前後から110円前後への円高と、今後ますます進む株安により20兆円近い運用損を予想する専門家もいる。

これが「賭博」でなくて何なのだ。

プロ野球選手の賭け事(?)はスポーツ新聞の中で報じていればいい。過剰な報道に「あら、いやだわねぇ」、「子供の夢を壊す」(本当にそんな事思っているのか?と疑問だが)と感じられる方がいるかもしれないけれども、実生活上私たちには「全く関係のない話」だからだ。

一方、年金原資を投機的に運用した結果の損益は、一部富裕層を除くほとんどの人びとにマイナスの影響を及ぼすことが間違いない。

今50歳以下の人が年金を受給できる計算が、どうしても私には出来ないのだ。私の計算が間違いであればよい。誰か安心できる「回答」を示してくれないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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