蘇我英樹が引退を決意し、ラストファイトの相手に選んだのは、昨年5月に激闘の末、判定で蘇我を破った大月晴明。最強で最も噛合う相手として、またリベンジも含め最高の相手となりました。

懸命の反撃、蘇我英樹

この日は蘇我の現役中で最も壮絶な打ち合いとなった試合。第1ラウンドに大月の右ヒジが蘇我の眉間辺りをカットし流血。これが精神的に焦ったか距離感が狂ったか、微妙に歯車を狂わせたかもしれない流れで、捨身の打ち合いでダメージを負った蘇我は2ラウンド半ばで脚にきたようなフラつき。懸命に打ち合いの姿勢で蘇我が出れば大月も応戦。

燃え尽きる前の捨て身のローキック

僅差で大月がリードしつつ、蘇我のダメージは深くなる一方。少しでも長く戦わせてやろうと意志が働いたかもしれないレフェリーの動きも、これ以上は無理といった感じでレフェリーが割って入ったところで精根尽き果てたかのように蘇我は崩れ落ち、3分ほど立ち上がれませんでした。

大月の爆腕の連打を浴び、立っているのが精一杯

公式戦の後、即引退式というパターンは過去にもありましたが、こんな壮絶な試合の後の引退式は過去になかったでしょう。引退式は一旦は中止かと思われる中、蘇我は落ち着きを取り戻し立ち上がって引退セレモニーに臨みました。

レフェリーが止めた途端、崩れ落ちる蘇我英樹

チャンピオンベルトの返上、役員各位より御祝儀授与、そして蘇我英樹の挨拶、「鼓膜が破れて頭の中の反響が凄いです」という状態でも周囲の仲間や役員に感謝の言葉を、やや呂律があやしい部分もありつつ、しっかり述べてテンカウントゴングを聴きました。雪辱は果たせぬも大月を褒め、感謝を述べた蘇我、すべてが激闘だったキック人生に悔いはなく、今後の天職となる転職はすでに決まっているようです。

蘇我の健闘を称え、見舞う大月晴明

スーパーキック / 4月10日(日)市原臨海体育館16:00~19:20
主催:市原ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆62.0kg契約3回戦
WKBA世界スーパーフェザー級チャンピオン.蘇我英樹(市原/61.9kg)
VS
大月晴明(元・全日本ライト級C/キックマスターズマスクマン/61.5kg)
勝者:大月晴明 / TKO 3R 2:39 / レフェリーストップ / 主審 椎名利一

インパクトある引退式となったテンカウントゴング。恩師の市原ジム小泉猛会長、蘇我、伊原代表

◆ミドル級3回戦 
日本ミドル級1位.今野明(市原/72.2kg) vs 徳王(伊原/72.1kg)
勝者:今野明 / KO 2R 2:53 / 3ノックダウン / 主審 桜井一秀
強い今野が観られた試合。バッテイングによるカットでレフェリーの曖昧なタイムストップ後、怒涛のラッシュでパンチによる2ノックダウンの後、最後はボディブローでKO

◆バンタム級3回戦 
日本バンタム級3位.阿部泰彦(JMN/53.2kg) vs 田中亮平(市原/53.1kg)
勝者:阿部泰彦 / 2-0 (29-29. 30-29. 29-28)
今年に入って3連勝の阿部。38歳になって調子が上向き気味。再度、王座を狙いたいところ。

◆59.0kg契約3回戦 
チュ・キフン(韓国/58.3kg)vs日本フェザー級4位.拳士浪(治政館/58.7kg)
勝者:拳士浪 / 0-3 (29-30. 28-30. 28-29)

◆エキシビジョンマッチ2試合

マネージャーの安奈さん、西島洋介、鈴木一成

鈴木一成(市原)vs西島洋介(元・東洋太平洋クルーザー級チャンピオン)
花澤一成(市原/12歳)vs蒲田拓真(治政館/12歳)

プロボクシング引退後、総合格闘技などに出場して世間を賑わせた西島洋介が42歳となって昔と変わらぬ風貌で登場。JBC管轄下では西島洋介山というリングネームでした。

エキシビジョンマッチは2回戦(2分制)で行われ、西島洋介はボクシングシューズを履きパンチのみの攻め、鈴木一成(47歳/市原)はスネ当てを着用でローキック、ヒザ蹴りも当てる中、西島は効いた様子はなく余裕で的確なパンチを当て軽いスパーリングをこなした表情。

蘇我英樹が引退した現在、来年の市原興行のメインイベントは誰でしょうか。今野明がこの日の弾みで再度、日本ミドル級チャンピオンの斗吾(伊原)に挑戦する道を開けば市原ジムのエースとして話題は明るくなるでしょう。

大月晴明は先月のNO KICK NO LIFE以来の試合、といっても1ヶ月弱で、1ヶ月ペースで試合をこなす選手はこのところ増えている感じです。連続で毎月試合は難しいでしょうが、ボクシングのように頭部にダメージを負わなければ安静期間も短く済み体調管理が上手くいくでしょうし、キックボクシングの創生期は試合で蹴られ殴られ、全身打撲で歩くのも困難なダメージを引きずって月2回以上試合をやっていた時代もありました。

時代の変化の中でも派閥や団体の壁は相変わらずですが、フリーのジムも幅広く興行が増えて緩やかに出場可能になったことや、科学的トレーニングやムエタイ修行、栄養学も加えて体調万全で頻繁に試合が出来る環境へ、大きく改善されてきたことが要因でしょう。

新日本キックボクシング協会の興行予定は4月17日(日)にTITANS NEOS,19、5月15日(日)はWINNERS 2016 2ndがそれぞれ後楽園ホールで17:00より行われます。

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

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