1年過ぎても裁判が始まらない福岡女子予備校生刺殺事件・現場の謎と二次被害

福岡市で女子予備校生が同じ予備校に通う少年に刺殺されるというショッキングな事件が起きて、1年が過ぎた。逮捕後に20歳になった元少年は起訴され、裁判員裁判で裁かれることになったが、まだ公判の日程は決まっていない。事件現場を訪ねたところ、元少年の行動に疑問を抱かせる謎が浮かび上がると共に深刻な二次被害の痕跡を目の当たりにした――。

朝日新聞2016年3月12日付
朝日新聞2016年3月26日付

◆謎めいている元少年の人物像

事件は昨年2月27日夜、福岡市西区姪の浜の住宅街の路上で起きた。女性が男に襲われているという110番通報があり、福岡県警西署の署員が駆けつけたところ、予備校生の北川ひかるさん(当時19歳)が血を流して倒れており、病院に搬送されたが、ほどなく死亡が確認された。

一方、北川さんと同じ予備校に通っていた犯人の元少年(当時19歳)は犯行後ほどなくして「知り合いの女性を刺した」と近くの交番に出頭。両手を血だらけにしており、いったん病院に入院させられたが、翌3月11日、北川さんの首などを刃物で刺したとして殺人の容疑で逮捕された。地検は元少年が逮捕後に20歳になったため、家裁に送致せず、精神鑑定を実施したうえで起訴。現在は公判前整理手続きが続いている。

この事件に関しては、成績優秀だった北川さんが事件後に難関の大阪大学法学部に合格していたことが判明して涙を誘った一方、犯人の元少年は人物像が謎めいている。動機一つとっても「彼氏がいないと嘘をつかれた」とか「バカにされたと思った」などと報道の情報は錯綜気味。起訴前に行われた精神鑑定でも一度、鑑定留置が延長されるなど、水面下でドタバタしているような雰囲気が感じられる。

産経新聞2016年6月9日付

◆犯行後、川に飛び込んだそうだが……

私はそんな事件がまもなく発生から一年になりつつあった時期、現場を訪ねてみた。すると、犯人の元少年が犯行時、思った以上に不可解な行動をとっていることがわかった。

事件発生当初の報道では、元少年は北川さんを刺した後、現場近くの川に飛び込み、その後に交番に出頭したと伝えられていた。この情報から元少年について、自殺しようとしたが死に切れず、自首することを選んだかのように思った人は少なくなかったろう。

しかし現場を訪ねたところ、元少年が飛び込んだ川というのは、写真のように船着き場になっている河口付近で、水深も浅そうに見え、飛び込んでも死ねるとは到底思えなかった。元少年が川に飛び込んだ目的が何であれ、合理的な思考ができない異常な精神状態だったのはたしかだろう。起訴前に精神鑑定を施されたのも当然だと思わされた。

元少年が飛び込んだのはこんな場所。これでは死ねない

◆被害者が倒れていた場所は今……

事件発生当時の報道を見ていると、北川さんが元少年に刺され、倒れていた場所には、多くの花が手向けられていた。ところが、その場所を訪ねると、二次被害の跡が見受けられた。花が手向けられていたあたりの民家の外壁に次のような看板が設置されていたのである。

〈この場所は私有地です。ものを置かないで下さい〉

北川さんが倒れていた場所は、写真のように奇しくも祭壇のように使える状態だったから、その死を悲しむ人たちはここに花を手向けていったのだろう。しかし、この部分は看板を出した家の人の私有地で、迷惑したのだと思われる。花を手向けた人たちに悪気はなく、心から北側さんを悼んだのだろうが、結果的に二次被害をつくることになったわけである。私が訪ねた際には花は一切手向けられていなかったが、おそらく二度と花は手向けられないだろう。

元少年は今、自分がしたことをどう思っているのか。私は福岡拘置所に勾留中の元少年に取材依頼の手紙を出し、面会に訪ねたが、案の定、面会を断られた。元少年は動機から何から気になるところが多いので、裁判を傍聴できたら続報をお伝えしたい。

被害者が倒れていた場所への献花は迷惑だったらしい

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

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