クロは動かしがたい状況の中、無実を訴え続けた上田美由紀死刑囚が昨年7月に上告を棄却された鳥取連続不審死事件。上田死刑囚は死刑確定後、刑場のある広島拘置所に移送されており、社会を騒がせた鳥取連続不審死事件もすでに終結した感がある。

だが、私は、この事件はまだ終わっていないと思っている。なぜなら、私は、裁判中に上田死刑囚に対して行っていた直接取材を通じ、上田死刑囚が他者の財産や生命は簡単に奪うが、自分の財産や生命を奪われることは絶対許さない人物だと確信しているからだ。上田死刑囚は今後も死刑執行を免れるために無実を訴え続け、再審請求を繰り返すことは間違いないだろう。

そこで当連載では、上田死刑囚の裁判や裁判終結後の処遇が公正か否かを見極めるうえで参考になるような情報を今後も提供し続けたい。今回は、事件前に上田死刑囚の周辺で起きていた3件の火災について紹介する。

◆最初の火災は上田死刑囚が暮らしていた県営住宅で発生

1件目の火災が発生したのは、2001年11月29日。鳥取連続不審死事件が表面化する8年前のことで、上田死刑囚は当時まだ20代。結婚を2回している上田死刑囚だが、この頃は1回目の結婚生活を送っており、現在とは名字が異なっていた。

現場は、鳥取市の隣にある八頭郡の山すその町にある県営住宅の1棟だ。この棟には2つの部屋があり、1つの部屋には高齢の単身入居者、もう1つの部屋には上田死刑囚とその家族が住んでいた。同日午後1時35分頃、外出中だった高齢の単身入居者の部屋から出火し、この部屋は全焼したという。

現地の人たちに取材したところ、上田死刑囚による放火を疑う声も聞かれたが、鳥取県庁の担当者によると、「火災の原因は不明」という。上田死刑囚の家族が暮らしていた部屋には延焼しなかったそうだが、建物は1棟丸ごと取り壊されてしまった。

上田死刑囚が暮らしていた県営住宅は火災後、更地に

◆上田死刑囚と金銭トラブルになっていた被害者宅で不審なぼや

2件目の火災については、裁判でも上田死刑囚の関与が取り沙汰されている。発生は2009年2月26日。現場は、上田死刑囚に殺害された被害者の1人で、トラック運転手の矢部和実さんの鳥取市内にある自宅だった。不幸中の幸いで、ぼやで済んだが、矢部さんは翌27日、警察官の事情聴取に対し、次のように話していたという。

「昨日、上田死刑囚がうちで食事をして帰ったあと、眠っている間に火災が発生しました」「もしかしたら誰かに殺されそうになったかもしれません」

警察官が「誰かとは上田のことか」と尋ねたところ、矢部さんは否定も肯定もしなかったそうだが、矢部さんと上田死刑囚の間では当時、金銭トラブルが生じていた。普通に考えれば、矢部さんは上田死刑囚のことを疑っていたのだろう。

死刑が維持された控訴審判決公判後、「ほっとした」と語った矢部さんの兄

ぼやの7日後にあたる3月5日、矢部さんと上田死刑囚の間では、貸主を矢部さん、借主を上田死刑囚、連帯保証人を上田死刑囚の同居男性とする金銭借用証書が作成されている。その金額は270万円で、返済期限は同月31日。債務の内容は定かではない部分もあるのだが、矢部さんが上田死刑囚に対し、かなり強く返済を求めていたとみるのが妥当だろう。

しかし、返済期限を4日過ぎた4月4日早朝、矢部さんは上田死刑囚と共に車で日本海に向かったのちに失踪し、1週間後に日本海沖で遺体となって見つかったのである。

矢部さん宅の火災については、上田死刑囚による放火事件として立件されたわけではないが、上田死刑囚と何も関係ないと考える人は少ないと思われる。

◆罪を押しつけられそうになった男性の実家で土蔵が全焼

そして最後の1件の火災は、矢部さんの死の2カ月後にあたる2009年6月9日に起きている。発生現場は、上田死刑囚が当時同居しており、取り込み詐欺を一緒に行っていた男性の鳥取市内にある実家だった。家族が全員外出して留守だった午前10時ごろ、土蔵から出火。けが人はいなかったが、木造2階建ての土蔵は全焼したという。

同居男性の実家で起きていた火災を伝える日本海新聞2009年6月10日の記事

この男性は、上田死刑囚から「金を得るための道具」として使われていた感が否めないこと(2017年8月16日付け当連載記事)や、裁判で上田死刑囚から罪を押しつけられるような主張をされたということ(2017年6月30日付け当連載記事)はすでにお伝えした通りだ。そんな男性の実家で火災が発生したのは、まさに男性が上田死刑囚と一緒に取り込み詐欺を繰り返していた最中のことだ。そのためか、2人を知る関係者からはこの火災についても上田死刑囚の関与を疑う声が聞かれた。

私が男性に取材を申し込んだところ、男性は電話口で「私には生活がありますんで」などと言うばかりで断られてしまったことはすでにお伝えした。しかしそんな中、男性はこの火災について上田死刑囚のことを疑っているのではないかという雰囲気が感じられたのも事実だ。

私は上田死刑囚が最高裁に上告していた頃、この3件の火災について、「すべての火災は上田さんが放火したのではないかと疑っている」と手紙で上田死刑囚に伝えてみたが、上田死刑囚から返事はなかった。

結局、「真相は闇の中」というほかないが、私は1つだけ確信していることがある。それは、上田死刑囚が本当のことを話す日は永遠にこないだろうということだ。

【鳥取連続不審死事件】
2009年秋、同居していた男性A氏と共に詐欺の容疑で逮捕されていた鳥取市の元ホステス・上田美由紀被告(当時35)について、周辺で計6人の男性が不審死していた疑惑が表面化。捜査の結果、上田死刑囚は強盗殺人や詐欺、窃盗、住居侵入の罪で起訴され、強盗殺人については一貫して無実を訴えながら2012年12月、鳥取地裁の裁判員裁判で死刑判決を受ける。判決によると、上田死刑囚は2009年4月、270万円の借金返済を免れるためにトラック運転手の矢部和実さん(当時47)に睡眠薬などを飲ませて海で水死させ、同10月には電化製品の代金約53万円の支払いを免れようと、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)を同じ手口により川で水死させたとされた。2014年3月、広島高裁松江支部で控訴棄却、2017年7月に最高裁で上告棄却の判決を受け、死刑が確定。現在は死刑確定者として広島拘置所に収容されている。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)