〈昨年まで、仕事始めは3年連続で元旦からだった。朝から、NHKラジオ第一の全国放送で「福島から2時間出しているラジオ」という番組に出演していたのだ。
 様々な切り口で東日本大震災・福島第一原発事故以降の福島の現状を全国に発信する番組だ。ウェブサイトには、「福島の『いま』と『元気』を全国に発信するトークバラエティー番組」と説明されている。福島の問題がニュースになると暗い話、難しい話になりがちだ。だから、多くの人が関心を持てなくなり、タブー化すらしている現実もある。そんなテーマを、正月に2時間、全国放送するのは簡単なことではない。重い話になってしまえば、聴く人たちもついてこられない。競合するラジオでもテレビでも賑やかな番組、めでたい番組ばかりやっている。聴取者・視聴率が取れないとか、切り口によっては何を言っても放送局にクレームが寄せられるとかリスクもある。それでも、意義あることを正月の番組編成にねじ込むのは、さすが公共放送・NHKだ。〉

1月19日京都新聞夕刊1面下段の「現代のことば」に立命館大学衣笠総合研究機構准教授の開沼博が、NHKを持ち上げる記事を寄稿している。「現代のことば」執筆陣が昨年発表されたとき、そのなかに開沼の名前があったので京都新聞の人選には「ああ、またやったな」と舌打ちしたい気分になった。福島原発事故から技術者ではなく社会学者として自ら手を挙げて「御用学者入り」を志願した開沼博。事故後の「ご活躍」も原発推進側の期待を裏切らないものであることは、上記ご紹介した記事だけでも充分に伝わることだろう。

NHKラジオ第一「福島から2時間出しているラジオ」HPより

NHKラジオ第一「福島から2時間出しているラジオ」HPより

◆福島県は「難しい状況にない」というのか?

開沼は、「福島の問題がニュースになると暗い話、難しい話になりがちだ。だから、多くの人が関心を持てなくなり、タブー化すらしている現実もある」と言い切るが、どこに福島の現実をしっかり伝えて、その深刻さを報じる番組があるというのだ。「タブー化」しているのは報道だろうが。「福島の問題がニュースになると暗い話、難しい話になりがちだ」と開沼は言うが、原発4機爆発で深刻な放射性物質汚染にさらされ、既に甲状腺がんの手術を受けたひとびとが千人を超える(参議院委員会での山本太郎議員に対する政府答弁)福島県は「難しい状況にない」というのか。「放射能は笑っている人には来ません。くよくよしている人のところに来るんです」と事故後福島各地で講演して回った山下俊一同様、開沼は深刻な現状隠しに余念がない。こんな人間を3年連続元旦にラジオで使うのだというからNHKの放送内容もだいたい想像できる。

「切り口によっては何を言っても放送局にクレームが寄せられるとかリスクもある。それでも、意義あることを正月の番組編成にねじ込むのは、さすが公共放送・NHKだ」とまで国策宣伝放送機関、NHKを持ち上げるのだから開沼を「御用学者」と呼んでも、何の不足もないはずだ。

開沼には経験がないのだろう。NHKの番組に意見や苦情があって、新聞に記載されているNHKの電話番号にかけると「ふれあいセンター」につながる。「ふれあいセンター」はあらゆる意見・相談・苦情の窓口だが、「事実と異なる報道をされた」と申告しても「貴重な意見として上にあげておきます」以外の回答をすることはない。開沼が懸念しているように「苦情によって」番組内容が影響を受けることなど、「国策」に沿っている限り皆無だ。一方民放のニュース番組で誤報があれば、代表番号に電話を掛けたら番組制作部署につないでくれる。天下のNHKの福島報道における問題はむしろ逆の現象にこそ指摘されるべきだろう。

◆現実を直視しない詐欺師的言説は耳に優しい

開沼博『はじめての福島学』(イーストプレス2015年2月)

「ウーマンラッシュアワー」という漫才師が社会ネタの漫才をやった。そのことについて「漫才師は社会ネタをやるべきかどうか」などと馬鹿げた顔をした、キャスターやお笑い芸人と、恥知らずな大学教員といった出演者で構成される情報番組のいくつかでは話題にされたらしい。そんなことが話題にされること自体が「笑う」に値する風景なのだが、元旦に「福島の虚構」を放送するのに熱心なNHK、そしてそれを称揚する開沼の神経は、遠回りでありながら、事実を直視しないで、体調不良に苦しむ人、「ここに住み続けてもいいのか」と自問する人、はては亡くなる人を度外視し、「正月の楽しさ」を放送するのが、人道的であると信じているようだ。

〈地震・原発事故による直接的な被害とはまた別の、誤解・偏見による被害が生まれ続けている。今年は正月ではなく成人の日に「福島で活躍する若者」をテーマに番組があった。原発廃炉のためにロボットを開発する高専生、福島の農家などをまわってその産品と物語をまとめた冊子を制作する高校生などの出演。番組をはじめた時以来の反響があった。これからも「楽しさ」を伝えつづけた。〉

開沼は「これからも『楽しさ』を伝え続けたい」という。私は楽しさを否定するものではない。けれども現実にある「危険性」を覆い隠そうとする政府や県、果ては開沼らの「楽しさ」に惑わされることなく、いっときの「ごまかし」ではなく、長期間福島に居住すればどんな健康リスクがあるかを、厳しくともお伝えする方が人の道に沿った行為であると思う。現実を直視しない詐欺師的言説は耳に優しい。けれども騙されてはいけない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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