8月2日13時から15時まで、大阪梅田の梅田アブローズタワー会議室で、関西学院大学と、金明秀教授による暴行被害者A先生が加盟する新世紀ユニオンとの団体交渉が行われた。関西学院大学からは柳屋孝安副学長(法学部教授・労働法専門)をはじめ、人事部部長や社会学部事務長ら6名が出席した。組合側からはA先生とご伴侶はじめ7名が参加した。

双方が自己紹介を終え、団交に入るとまず角野新世紀ユニオン委員長が関学に対して、就業規則の開示、パワハラ等の相談窓口の規則・内規等の開示を求め、大学側は開示を約束した。同時に両者間で和解が成立しているからといって、大学には「使用者責任」(民法715条)「安全配慮義務」(労働契約法第5条)があり、それが果たされているかを検証する質疑がなされた。

関学側の回答者は主として柳屋副学長であったが、社会学部事務長によると、A先生が金明秀教授により暴行を受けたと知ったのが2013年5月20日。同月の後半に当時の学部長から金明秀教授に「口頭注意」があったことが明かされた。ただし社会学部事務長はその詳細についての資料を持参しておらず、「口頭注意」がいつ、どのような内容で行われたかが不明であったので、組合側はその記録を後日開示するよう求め、柳屋副学長は「検討する」と回答した。ただし「口頭注意」は同学の規定上「処分ではない」ことを柳屋副学長は明言した。

大学側はこの事件にかんして、「いろいろやっている」と語ったが、その内容はA先生の研究室を別の建物に移動した(A先生の希望ではない)、大学に届いたA先生宛の荷物を研究室に運ぶ、試験監督の日が金明秀教授と重ならないように配慮しているなどであった。たしかに「A先生に対して全く何もしていない」わけではないことはわかったが、本来研究室を移動すべきは、加害者である金明秀教授ではないのか。さらに、A先生は金明秀教授が教授会に出席しているために、教授会に出席することができていない。大学教員にとって教授会に出席できないことは大きなマイナスであるが、この現実への対応や配慮は大学側から、全くなされていない。

そして驚いたのは、2013年5月後半に当時の学部長が金明秀教授を「口頭注意」したのち、大学は調査委員会を設けることはおろか、金明秀教授になんらの処罰も行っていないことが明らかになったことである。柳屋副学長は「当時双方が代理人を立てて、和解の可能性もあったので大学が口を挟むことは控えた」と語ったが、これは全く失当な発言である。結果として同年8月に和解が成立したものの、当初金明秀教授の代理人は、金明秀教授の非を全く認めておらず、仕方なくA先生は警察に告訴をし、受理されているのだ。刑事告訴を金明秀教授側に伝えたところ、急に態度が一変し和解へと向けた交渉へと方向性が変わっているのが事実だ。だいたい「代理人を立てた」ら「大学は口を挟まない」理由の合理性はどこにも見当たらず、まさに「使用者責任」(民法715条)、「安全配慮義務」(労働契約法第5条)違反は明らかだ。

そして柳屋副学長は「A先生が13発殴られ、声帯が破損していたのが事実であれば酷いと思う」と言いながらも、A先生が持参した金明秀教授代理人から暴行を認める内容の文書を柳屋副学長に示し、読み上げるも「どこにも13回殴ったと書かれていませんね」と回数に拘泥し、A先生はこの発言を受け、精神状態に悪化をきたしはじめた。殴った回数が問題なのか?

その後驚くべきことに柳屋副学長はA先生を「金先生」と(!)被害者を加害者の名前で呼んだ。いくらなんでも被害者を目の前にした団交の席で被害者の名前を加害者で呼ぶのは、過ちであったにしろ取り返しのつかない重大な無礼だ。この行為が仮に金明秀教授に対して行われていれば、彼は「劣悪なレイシャルハラスメントだ!」と激怒したことであろう。

◆「次なる暴行事件」が起きるまで「待つ」というか?

さらに金明秀教授からはもう1件暴行を行ったことを聞いていると柳屋副学長は発言したが、その暴行は木下ちがや氏に向けてのものであることが、2週間前の聞き取りで判明したことを認めた。2週間前には組合が既に団交を申し入れており、団交の申し入れがなければ関学は木下ちがや氏に対する金明秀教授の暴行事実も知り得なかったと考えるのが妥当だろう。そして木下ちがや氏への暴行も「口頭注意」で済まされている。

そして柳屋副学長はA先生への暴力事件で「口頭注意」をし、木下ちがや氏の件で「口頭注意」をしたので「次は懲戒処分になると思う」と発言した。ということはもう1件の「暴力事件」がなければ金明秀教授には、何のお咎めもなしということか。2件の暴行事件を確認している関西学院大学は「次なる暴行事件」まで「待つ」というのだろうか。

しかし、ここに柳屋副学長が見落としている重大な事実がある。金明秀教授についての「口頭注意」は、われわれが知りうる限りでも、これで3度目である。2016年8月23日、取材班が金明秀教授に電話取材を行った際、M君に関する下記の書き込みを行ったことについて「口頭注意」を受けたことを金明秀教授は自ら認めている(『反差別と暴力の正体』77頁)

金明秀(キム・ミョンス)関西学院大学社会学部教授が2016年5月19日、ツイッター上でM君に向けて行った書き込み

また、A先生が大学に訴えている別件のハラスメントの申立てについて、驚くべき事実が明かされた。関西学院大学では「療養規定」(体調不良などで仕事を休む制度。正規の給与と賞与が支払われる)の教員が、別の大学で非常勤講師を勤めることを「例外的」に認める場合があるというのだ。病気や体調不良で本来の仕事ができなくて、休んでいる教員がよその大学で仕事をすることが認められる場合があると柳屋副学長は断言した。

このような行為は社会通念上許されるであろうか。これまでこのような行為を是認する大学や企業を、取材班は耳にしたことがない。さらに金明秀教授には「サバティカル」不正問題も明らかになっている(団交ではこれを論じる時間はなかった)。

◆関西学院という大学は、暴力と不正にまみれたブラック大学なのか!?

この日の団交では、結果的に金明秀教授の暴行事件を調査する委員会の設置が、新学期が始まる9月22日までになされることが関学側によって確認された。調査委員会の中には大学とは関係のない「第三者」を入れることを組合は要求し、柳屋副学長はこれを了承した。一定の成果があったとはいえる団交ではあったが、これまでの関西学院大学の対応のまずさと、関西学院大学に宿る「非常識」の一面が浮き彫りになる団交であった。

対日大とのアメフト問題では、暴力を非難し爽やかなイメージを醸し出した関学が、これまで金明秀教授による暴力と不正を放置していたことは、常識的に考えて大問題だろう。ことは、単なる同僚教授間の対立や口論などではない。この間に<暴力>が介在していたことが問題なのは言うまでもない。関学側はこのことを基本的に押さえておくべきだ。

これから、大学にとって大きな行事である入試が近づく。関学の対応次第では、爽やなイメージが急落し受験者も急減するかもしれない。問題をしかと見据え、真摯な対応をしなければ、〝第二の日大〟と化すこともリアリティとしてありえることを関学側は肝に命じなければならない。

本件は今後も漸次報告していく――。

(鹿砦社特別取材班)

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