産業革新投資機構 取締役の辞任表明について(2018年12月10日)

産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長が辞表を提出し、9人の取締役全員が辞職したのは12月10日のことである。クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)との統合が背景にあったという。このクールジャパン機構は、日本アニメの海外配信事業の中止など、出資事業の失敗が相次いで赤字続きの問題プロジェクトである。

◆95%が税金である官民ファンド(JIC)で、億単位の報酬

事業運営の以前に、われわれ国民には、やや奇怪な感じのする事態だった。この騒動の発端は、経済産業省が提示した報酬1億数千万円が、マスコミ報道で国民の疑義を呈したことによるものだ。95%が税金である官民ファンド(JIC)で、億単位の報酬は「ちょっとおかしいだろう」と、誰しも思う。

 

2018年12月7日付け毎日新聞

JICの事業はビジネスへの投資という博打にも似た業務である。だとしたら、出来高報酬というのが正論ではないのか。最初から報酬を約束した側にも、それに乗ったほうにも責任がある。問題は税金を軽々しく使う、官僚と金融関係者たちの金銭感覚のなさである。

経産省の発想が甘いとか、ゾンビ事業の救済(クールジャパン機構など)で失政を糊塗しているとかの指摘よりも、いわばプロジェクトへの投資を主柱とするマネーゲームの機構(JIC)に、われわれはNOを突きつけたい気分だ。田中社長以下の面々にも言いたい。そもそも「取締役の誰一人として、お金のためにここに来ていない。報酬が1円でも、ここに来ていたと思う」のならば、辞表を出す前にみずから高額報酬を返上するのが筋ではないか。1500万円だと、家族が恥ずかしがるような高級取りだった方々なのだから、報酬1円に耐えられるだけの蓄財もあるはずだ。

◆しょせんは、税金の無駄づかい──官僚と金融屋のビジネス感覚のなさこそが根本原因

官民ファンドの失敗については、本欄でも「安倍政権のマネーゲームの失敗」として報じてきた。そもそも官民ファンドなるものは、アベノミクスの三つの矢のうち、決め手とされる成長戦略、つまり投資部門である。地域活性化や企業の海外展開の支援、ベンチャー企業の支援を官民の投資で行なう「第2の財布」とも呼ばれてきた。それが無駄遣いや損益の発生で、再編成しなければならなくなっていたのだ。辞表を出した田中社長の産業革新投資機構(JIC)が1兆2483億円の損益(ようするに赤字)、地域経済活性化支援機構が3433億円の損益。以下、14すべてのファンドが赤字なのである。

主な官民ファンド(Wikipediaより)

金融アナリストのなかには、構造的な無理があると指摘する人もいる。
「日本の官民ファンドを、中東諸国やロシアのような資源大国の政府系ファンド」と同列に論じる人もいますが、これこれは大きな間違いである」

要するに、商品が違うという指摘である。
「クウェートやサウジアラビアのように、石油や天然ガスで稼いだ莫大な資金を原資に国の将来に備えて大事に運用しようとす場合、資金の余剰が前提なのだ。ところが、日本の官民ファンドは公的資金、血税を運用資金しにている。産業革新投資機構(JIC)も出資金3000億円のほぼ100%が政府出資だ。さらに1兆8000億円は政府保証付きで民間から借金することができることになっている。つまり国民の血税に、さらに民間からの借金をつぎ込んでバクチをやっているのと同じだ。その存在自体が悪すぎる」

そう。そもそもみずからが起業するわけでもなく、単に金融業の経験から成長ベンチャーを見極める。いや、それ以前に政府ベンチャー(国策プロジェクト)の破綻を糊塗するために資金が振り当てられてきたのだ。

田中社長らの造反に理があるとすれば、経産省の方針に反発したものだが、事業それ自体が国策なのだから、そこから自由に。たとえば民間ベンチャーの有力株を見出すといった、ほんらい想定されていたところまでは展開できなかった。その理由は、原資が税金だからなのだ。政府の保証付きの資金調達からはじまり、政府の失政を糊塗する。さらには、天下り的な人事で税金をかっさらっていく。もうやめて欲しい。その予算を国民の社会福祉にまわして欲しい。損をこれ以上膨らませないうちに。

◎株式会社産業革新投資機構 取締役の辞任表明について(2018年12月10日 プレスリリースPDF)

◎株式会社産業革新投資機構 社長辞任会見(2018年12月10日 プレスリリースPDF)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)