当欄で冤罪事件として繰り返し取り上げてきた米子ラブホテル支配人殺害事件。一貫して無実を訴える被告人の石田美実さん(61)は、裁判員裁判だった鳥取地裁の第一審で懲役18年の有罪判決を受けながら、広島高裁松江支部の控訴審で逆転無罪判決を勝ち取った。しかしその後、最高裁で控訴審の無罪判決が破棄され、審理を広島高裁に差し戻されるという憂き目に遭った。

と、ここまでは、すでに新聞などでも大きく報道されていることだが、石田さんは現在、さらに理不尽な目に遭っている。11月27日に広島高裁(多和田隆史裁判長)で差し戻し控訴審の初公判が行われ、即日結審したのだが、その翌日から広島拘置所に勾留されてしまったのだ。

一度は無罪判決を勝ち取った冤罪被害者が、その無罪判決を破棄されたばかりか、有罪判決を受けたわけでもないのに、獄中の身になってしまう……この理不尽な仕打ちを受けた石田さんを広島拘置所に訪ね、現在の心境などを聞いた。

石田さんが勾留されている広島拘置所

◆本人は案外落ち着いた様子

筆者が広島拘置所で石田さんと面会したのは、広島地方は小雨が降っていた12月17日のこと。面会室に現れた石田さんは案外落ち着いていて、「無罪判決が破棄されたので、いつかこういうことになるかもしれないとは思っていたんです」と言った。そして、ここに連れてこられた日のことをこう振り返った。

「初公判の次の日、朝8時頃に広島高検の人たちが私の米子の自宅にやってきたんです。そして、勾引状を見せられ、車で広島高裁まで連れて行かれました。そこで、裁判官たちが協議して、勾留されることになったんです」

石田さんは2014年2月に逮捕され、2017年3月に控訴審で無罪判決を受けて釈放されるまで3年余り身柄を拘束されていた。ようやく勝ち取った自由を奪われ、再び勾留されてしまった現在は精神的にも相当きついはずだ。

しかし、石田さんは淡々とした話しぶりで、自分の置かれた状況を冷静に受け止めているように見えた。

◆現在は手記の公表を検討中

もっとも、静かな口調の中にも怒りは混じる。

「差し戻し控訴審は初公判で即日結審し、あとは判決を待つばかりなので、私が証拠隠滅する恐れはありません。それでも、(検察官や裁判官は)私が逃亡する恐れがあるから勾留するというのですが、私は控訴審で逆転無罪判決を受けて釈放されてから、鳥取県を一歩も出ていません。それに、先日あった差し戻し控訴審の初公判では、私は出廷の義務はないのに、米子から広島までやってきて、出廷したのです。そんな私が逃亡などするはずはありません」

石田さんの差し戻し控訴審が行われている広島高裁

まったくその通りだ。判決公判が来年1月24日なので、石田さんは獄中で年を越すことが確実になったが、あまりに酷い話である。

ただ、石田さん本人は前向きだ。

「これまでマスコミから取材依頼があっても、私は受けないようにしていました。裁判が続く間は、波を立てないようにしようと考えていたためです。しかし、今後は事実に基づいて、検察に言いたいことは言ってやろう、おかしいことはおかしいと言っていこうと思っています」

石田さんは現在、獄中で手記を執筆し、公表することを検討しているという。来年1月24日に無罪判決が勝ち取れたら一番いいが、石田さんの勾留を認めた広島高裁の裁判官たちの態度を見ていると、楽観はできない。この事件の動向については、今後も適時報告したい。

《お断り》
当欄で繰り返し取り上げてきた事件のため、事件の詳細については、今回は説明を省略しました。事件の詳細を新たに知りたい方は、過去の記事をご覧ください。
◎2016年の冤罪判決──再審無罪も出た一方で裁判員裁判で新たに2件の冤罪判決
◎鳥取の「知られざる冤罪」──米子ラブホテル支配人殺害事件、控訴審も結審
◎逆転無罪が相次いで出た広島と米子の冤罪事件「知られざる共通点」
◎2017年冤罪事件回顧 逆転無罪2件、再審開始1件をはじめ空前の当たり年に

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)