『NO NUKES voice』Vol.22 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

ことし脇役から一転、政界再編成の中心人物として、クローズアップされた人物といえば、山本太郎氏である。参議院議員選挙で新党(わたしはその党名を書くことができない)を設立し、山本氏自身は当選を果たせなかったものの2名の参議院議員を誕生させた。

改選前に自由党の共同代表として、小沢一郎と同じ所帯にいた山本氏は、持ち前の瞬発力で新党を結成。野党にこれといって受け皿が見当たらない「反安倍」の世論をすくい上げる形で一躍「ときの人」となった。

◆それぞれの山本太郎評価がある中で私が山本太郎氏に危機感を持つ理由

山本氏に対する評価は様々だ。本通信や鹿砦社の媒体のなかでも、小林蓮実氏は『紙の爆弾』に同党の人物を紹介する連載を持っているほど、明確な支持を表明しているし、横山茂彦氏もMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)支持を明らかにしているので山本氏の考えに近いであろう。公式に聞いたわけではないが鹿砦社代表の松岡は「とにかくかき混ぜる勢力が必要」との立場から一定の期待をもっているようだ。

わたしは、現在の山本氏と将来の山本氏に対して、かなりの危機感を持つものである。まずは率直に生前譲位が行われた年に、新党を発足させたからか、彼が冠した党名が話にならない。わたしは、党名が発表された直後に一度だけ、痛烈に批判する意味でその党名を記したことがあるが、それ以降は文字にするのはおろか、口頭でも発語したことがない(山本氏が設立した新党に限らず、わたしは新しい元号を発語したくないからだ)。

政策云々のまえにあの党名を語ったり、記したりすることでその党名の一部をなす「元号」を承認してしまう仕組みに、わたしは乗じたくはない。「それはそれ、これはこれ」で済む話ではなしではないのだ。天皇制を承認したり称揚する党名などは、議論の対象に置くことができないひとをも巻き込んでしまう、あの党名のからくりと、政策に大きな違和感と今後の懸念をは増すばかりである。


◎[参考動画]れいわ・山本代表「寝たきりでも豊かに生きられる」(2019年7月21日)

◆山本太郎氏が100人単位の議員を抱える政党の党首に就任したらどうなるか?

 

『NO NUKES voice』Vol.22より

もちろん、偽物ばかりで異なる価値観が存在しない国会内に、違う価値観が持ち込まれることは歓迎する。自民党も、なんとか民主党も「われらが本当の保守」と保守争いしかない国会に、政策的に「保守」ではない勢力が誕生し大きくなることは望ましい。しかし、山本新党が果たしてそうなりえるかといえば、そうはいかないだろう、というのわたしの予想である。

何故そうはいかないのか? 第1の理由は、同党は政策で評価されているようにもみえるが、実際には山本太郎という人物の個性により注目を集めている側面が非常に大きいことだ。山本氏は俳優として一流であったし、頭の切れも相当なものだ。アドリブで演説させても1時間なんの資料も見ずに、語り続けひとびとの関心を引くことができる、ある種アジテーターとして優れた能力を持っている。

しかし、それは下手をすると結果的に「独裁」と紙一重の危険性を孕むことと大きく違いはない。わたしは彼の街頭演説を生で100回以上聞いているから、この点には自信が持てる。山本氏ほど弁舌鋭く、また現在では特に弱者に向けて、簡単な言葉で熱を持って語れる話者を現職の国会議員の中にわたしは知らない。ときには荒っぽい言葉も交え、乱暴と思われる表現も使い、相手を指弾してゆく質問力は野党にあっては非常に貴重である(実は感情の起伏などなくすべて計算されているのであるが)。

しかし山本氏が100人単位の議員を抱える政党の党首に就任したらどうだろうか。彼に匹敵する弁舌の持ち主はないない。しかし山本氏以上に「政治屋」として身の振り方に長けている人間はいくらでもいる。金に汚い人間もいれば、青いバッチを胸につけている人間も出てくるだろう。その100人を今の政策のまままとめきれるだろうか。


◎[参考動画]街頭演説会はやらせ!? 山本太郎 疑惑の真相を語る!!(れいわ新選組2019年12月1日)

◆山本太郎氏の力がどのような方向に振るわれるかで180度違う結果を生じせしめる

民主的な党運営をしていれば、必ず「現実路線」の名のもとに、原発廃止などの政策は「2030年に廃止を目標とする」などといった後退を強いられるだろう。もう過去の人(過去の人ではなかった、今年の参議院議員選挙で当選していた)嘉田由紀子元滋賀県知事が「未来の党」代表に就任したとき、反原発を掲げていながら嘉田氏は党首討論会で「2030年ごろには廃止」と素っ頓狂な発言をして、「未来の党」は未来を見る前に消滅してしまった。

必ず強烈な圧力と現世利益(議席数の獲得から政権奪取へ)に直面し、政策変更を余儀なくさせられる場面が近くあらわれる、とわたしは推測する。その際山本氏は「脱原発」すら公約の中から排除する可能性を、わたしは感じている。仮にそうでなければ、公開討論会でのディベートで彼が反対派を圧倒し、より一層熱狂的な支持を生む(その光景はすでにファシズムめいている)。彼はすでにタレント議員ではない。非常に緻密かつ冷静に将来の展望をもち、政治家としての方向性を描いている。その究極の目標は政策実現よりも、政権奪取にある。そのためにはかなりの危険も冒す。山本氏にはその勇気(あるいは見極め)の力がある。力はそれがどのような方向に振るわれるかにより、180度違う結果を生じせしめる。

多様な議論を交わすのが言論の場であり、意見が異なるからといって、それで議論を排除したり、人間付き合いができなくなるほど、鹿砦社は窮屈な空間ではない。競争をしているわけでもなく、個々人が思ったことを素直に述べあう。そのことによりバランスや多様性が確保される。山本太郎氏への評価ひとつをとっても十人十色でよいだろう。

わたしの見立てはかわらない。


◎[参考動画]山本太郎 街頭記者会見 神戸市三ノ宮(れいわ新選組2019年12月3日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』Vol.22 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

『NO NUKES voice』Vol.22
紙の爆弾2020年1月号増刊
2019年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて
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[グラビア]山本太郎「原発事故の収束の仕方も分からないのに滅茶苦茶だ」(鈴木博喜さん)ほか

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東京五輪・崩壊の始まり──IOC「マラソン・競歩札幌移転」の衝撃

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山本太郎の脱原発政策は新党結成で変わったか?
「政権交代」が脱原発を可能にする唯一の選択肢

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
福島〈水害〉被災地を歩く
懸念される放射性物質の再浮遊と内部被曝リスク

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈6〉
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経産省とNUMOが共催する説明会での質疑応答

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[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
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ケント・ギルバート『天皇という「世界の奇跡」を持つ日本』

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
熟年層の活躍こそ、わたしたちの道しるべだ
かつての革命運動の闘士たちがたどった反原発運動

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈6〉記憶と忘却の功罪(中編)   

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク(全12編)
関西電力「原発マネー」─東京電力「二二〇〇億円援助」─日本原電「東海第二原発」
三つを関連させ、くし刺しにして原発廃止を迫ろう!

《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
日本の原発はこのまま「消滅」へ 
日本の原子力政策は嘘だらけでここまでやってきたから
田中俊一(原子力規制委員会前委員長)語る(月刊『選択』11月号)

《東北電力》舘脇章宏さん(みやぎ脱原発・風の会)
女川2号機の審査「合格」が目前
東日本大震災でダメージをうけた「被災原発」を動かすな!

《日本原電》玉造順一さん(茨城県議会議員)
東海第二原発を巡って-当初から指摘されてきた日本原電の経理的基礎の無さを露呈
日本原電を含む電力業界 これまで反対運動に対峙してきたノウハウの蓄積もあり、決して侮れない

《東京電力》斉藤二郎さん(たんぽぽ舎)
東電による日本原電支援(二二〇〇億円)に反対する 
「巨額の支援」おかしい、反対意見多い、電気料金が上がる
東海第二原発は事故原発-再稼働はムリだ

《東海第二原発》たんぽぽ舎声明
東海第二原発再稼働への資金支援をするな 日本原子力発電に対する三五〇〇億円
日本原電は廃炉管理専業会社となるべき

《原発マネー》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関電も東電も原電も徹底追及するぞ! 
原発マネー、二二〇〇億円支援、東海第二原発再稼働を許さない

《市民立法》郷田みほさん(チェルノブイリ法日本版をつくる郡山の会=しゃがの会)
次の世代に責任を果たすために、やらなければならないこと

《関電高浜》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
関電不祥事を、原発全廃の好機にしよう!

《玄海原発》吉田恵子さん(原発と放射能を考える唐津会世話人)
水蒸気爆発を起こす過酷事故対策、トリチウムと使用済みMOXの危険性

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
規制委による新たな原発推進体制の構築を止めよう
~「原子力規制委員会設置法」の目的と国会付帯決議を守れ~

《本の紹介》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『原発のない女川へー地域循環型の町づくり』(篠原弘典・半田正樹編著 社会評論社)

《浜岡原発》鈴木卓馬さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
浜岡原発は世界で最も危険な原発-南海トラフの震源域の真上に建つ
JR東海のリニア新幹線を懸念-トンネルで地下水が流出か?

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