感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。安倍晋三首相は4月7日、特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令したが、「首相の決断の遅れが感染を拡大させた」と批判する意見は少なくない。緊急事態宣言の発令に伴う「補償」も不明確なままだ。

そのため、新型コロナに関する安倍首相の責任を問う声があちこちから噴出しているが……よくよく考えれば、新型コロナをめぐる現在のパニックはむしろ安倍政権にとって「神風」になっているのではないか。新型コロナに国民の関心が集中して以降、安倍政権のそれ以外の問題が目立たなくなっているからだ。


◎[参考動画]安倍総理会見「1カ月でこの緊急事態宣言を脱出することが可能となる」(ANNnewsCH)

◆赤木氏の手記と妻の提訴は凄まじい反響だったが……

まず、安倍首相の妻・昭恵夫人との関係が取り沙汰されてきた森友問題の公文書改ざん事件をめぐり、自殺した財務省の元職員・赤木俊夫氏(享年54)の妻が国と同省の元理財局長・佐川宣寿氏を提訴した一件。週刊文春の報道により、赤木氏が手記などで「文書の改ざんは佐川氏の指示だった」と告発していたことが判明、凄まじい反響を呼んだのは3月中旬だから、つい最近だ。
(※『週刊文春』2020年3月26日号 ※文春オンラインで全文公開中)


◎[参考動画]森友「再調査せず」に遺族抗議(テレ東NEWS)

だが、その後に新型コロナの感染が爆発的に広がった中、この件はあまり話題にならなくなった。昭恵夫人が新型コロナの感染拡大リスクがある花見をしていたことが明るみに出て、そちらのほうに国民の関心が集まった感すらあるほどだ。

また、赤木氏の件が報道される少し前には、東京高検の黒川弘務検事長の前代未聞の定年延長が閣議決定され、「政権寄りの人物を検事総長にするための違法の措置だ」との批判が渦巻いていた。だが、新型コロナの感染が拡大する中、この件もほとんど話題にならなくなっている。

緊急事態宣言発令の前日である6日、日本弁護士連合会の荒中(あらただし)会長が「定年延長の撤回」を求める声明を出したが、このことに気づかなかった人も多いのではないか。


◎[参考動画]【暫定字幕表示】山添拓(日本共産党)VS森まさこ法務大臣 (Makabe Takashi)

◆河井議員夫婦の事件もとんでもない事態になっているが……

そして、もう1つは、自民党の河井案里参議院議員の陣営による選挙違反事件だ。この件では、すでに案里議員の秘書が公職選挙法違反の罪で起訴されたほか、同議員の夫である河井克行前法務大臣の秘書も同罪で起訴されている。

さらに最近になり、安芸太田町の小坂真治町長が案里氏が自民党候補として公認された後、克行氏から現金20万円を受け取っていたことが判明し、辞職。ほかにも複数の広島県議が克行氏から各30万円の現金を受け取っていたことや、三原市や大竹市、廿日市市の市長が地検の任意聴取を受けていたことが報じられている。


◎[参考動画]河井案里参院議員の秘書ら2人を起訴 公選法違反(ANNnewsCH)

だが、かくもとんでもない事態になっている河井議員夫婦の問題も地元メディア以外ではさほど大きく報道されていない印象だ。法務大臣まで務めた有力現職議員とその妻の現職議員の大問題であるうえ、2人の疑惑は自民党本部が出した1億5千万円の選挙資金にも及んでいるにも関わらず……。

仮に新型コロナの問題が存在せず、以上のようなことが連日、大きく報道されていたら、さすがに今度こそ「政権交代」の機運が高まっていただろう。そう考えてみると、新型コロナに関する安倍首相の対応への批判が高まるほど、実は安倍首相としては、その他の問題が国民の記憶から薄れ、むしろ助かるのかもしれない。


◎[参考動画]「緊急事態宣言」を発令 安倍総理が会見【ノーカット】(テレ東NEWS)

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

絶賛発売中!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)