4年前、福島県田村郡三春町に華々しくオープンした「コミュタン福島」(福島県環境創造センター交流棟)。8月10日、避難先から一時的に郡山に戻っていた松本徳子さん(「避難の協同センター」代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に避難継続中)に館内を観てもらった。

政府の避難指示にかかわらず娘を守ろうと区域外避難をし松本さんの目に何がどう映ったのか。90分ほどの滞在で、松本さんは呆れたように言った。「こんなの茶番ですよ」。今月20日には双葉町に「伝承館」がオープンする。果たして「原発事故のリアル」が伝わるような施設になるのだろうか。

福島県田村郡三春町の工業団地にある「コミュタン福島」

◆「こんなの茶番だ」

「こんなの茶番ですよ。ちゃんちゃらおかしい」

展示スペースを一通り巡り、松本さんは呆れたように言った。もう笑うしかない、という感じでもあった。三春町の工業団地に建てられた立派な施設には、〝原発事故のリアル〟とはほど遠い空間が広がっていたからだ。

受付で手指消毒をし、額で体温を測って入館。途中、ボタンなどに触れる場面もあるため、ビニール手袋を渡された。料金は無料。入るとすぐに来館記念バッジが配られていた。

実は、2011年当時を少しだけ感じ取れるコーナーもある。地元紙2紙がパネル展示されていて「第一原発3号機も『炉心溶融』」、「20キロ圏 警戒区域」、「高濃度放射能漏れ」、「汚染水1万1500トン海に放出」、「子ども全員 甲状腺検査」などの見出しが目に飛び込んでくる。「2011・3・11 14時46分からのふくしまの歩み」という年表もあった。インパクトのある言葉に、一気に2011年に引き戻される。松本さんがスマホで撮影を始めた。しかし、あの頃を想起させる展示は結局、ここだけだった。

パネル展示の横で、10分ほどの動画が上映されていた。女性のナレーターが「ようやく許された一時帰宅。しかし、そこにあったのは、すっかり変わり果てた故郷の姿でした」、「人々の生活は、毎日が放射線という見えないものとの闘いになりました」、「原発事故は福島から多くの物を奪い去りました」と読んでいる。そして、途中から構成は一変。ナレーションも「着々と避難指示が解除されてきました」、「復興へ向けての歩みは、一歩一歩着実に進んでいます」に変わった。原発事故被害に触れているようでいて、しかし、区域外避難の苦労やモニタリングポスト撤去計画、除染で生じた汚染土壌の再利用計画などには一切、触れていない。上映中、松本さんは何度も首を傾げていた。

原発事故発生当時の生々しい様子を伝えるのは地元紙の展示くらい。松本さんは「茶番だ」と呆れた

◆「福島はがんばっている」

「コミュタン福島」は2016年7月21日、「福島県環境創造センター交流棟」として田村西部工業団地内にオープン。ホームページには「県民の皆さまの不安や疑問に答え、放射線や環境問題を身近な視点から理解し、環境の回復と創造への意識を深めていただくための施設です」と書かれている。

2013年02月28日の福島県議会で、当時の生活環境部長が次のように答弁している。

「福島県環境創造センターにつきましては、放射性物質に汚染された環境を一刻も早く回復するため、モニタリング機能を初め調査研究、情報収集・発信、そして教育・研修・交流の4つの機能を有する施設を三春町に、モニタリングや安全監視機能を有する施設を南相馬市に整備します。また、全体事業費は概算で約200億円、そのうち整備後10年間の調査研究費を含む維持管理費は概算で約100億円を見込んでおります」

福島県が2018年3月時点でまとめた資料では、「環境創造センター」全体の整備費は約127億円、年間維持費は約9億円とされている。それだけの金をかけて、特に子どもたちには何を伝えたいのか。

「放射線に関する学校での学習内容を踏まえ、「知る」「測る」「身を守る」「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、このうち「知る」エリアでは、宇宙からの放射線についても展示するなど、子供たちの関心や疑問などにわかりやすく答えるようにするとともに、体験を通して学ぶ展示と知識を探求する展示等を組み合わせることにより、子供たちがみずから考え、行動する力が育まれるよう取り組んでまいります」(2014年03月03日の福島県議会)

「「知る」、「測る」、「身を守る」、「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、体験や対話を通して子供たちの疑問にわかりやすく答えるとともに、学校の授業と連動した学習教材の配布、放射線測定器などを使った実験、360度全球型の環境創造シアターにおける「放射線の話」と題した映像での学習などを通して、子供たちの関心を高めながら放射線を正確に理解できるよう取り組んでまいります」(2016年06月28日の福島県議会)

しかし、歴代生活環境部長の期待に応えているのか反しているのか、来館した子どもたちの感想文は次のようなものだった。

「大きくなったら原発に関係する仕事について、避難している人が早く戻って来られるようにしたいです」

「コミュタンで学んだことがあります。福島はがんばっているということです」

「放射線で人々が苦しみましたが、放射線は悪いものばかりではなく、私たちの暮らしの中で使われていることが分かりました」

館内に展示されている子どもたちのメッセージ。放射線に対して好意的な内容ばかりだった

◆「広島を見習って」

「環境創造シアター、間もなく上映開始いたしまーす」

スタッフの声に誘われるように、全球型のシアターに入った。360度の迫力ある映像を堪能出来るという。しかし、内容は原発事故と全く関係無かった。「海の食物連鎖」。ナレーターは俳優の竹中直人。ディズニーランドのアトラクションのような5分番組を2本、続けて観たら、酔ってしまった。後に「放射線の話」と「福島ルネサンス」の2本を再び観る事になるのだが、こちらも物理の授業のようなものと福島の観光案内。ナレーターは福島出身の白羽ゆりと西田敏行だった。

「原発事故の生々しさはここでは扱っていません。そういうものは双葉町にオープンする『伝承館』であります」と男性スタッフ。シアターを出ると、「コミュタン、またくるー」、「福島がんば」など、目の前の画面に様々なメッセージが流れている。シアター前に設置されている機器で入力すると、「ニコニコ動画」のコメントのように、画面の右から左へ表示される仕組み。

90分ほど館内を歩き、松本さんは言った。

「広島の平和記念資料館のように、原発事故で起きた事を具体的に感じるものを展示しないと。ここにあるような綺麗事ではなくて、つらくなるようなもの、見たくなくなるものも必要だと思うんです。ここには感じ取れるものが無いですね。生々しさがありません」

そして、冒頭の言葉になった。「復興」と「がんばろう」と「原子力の有用性」が飛び交う施設。女性スタッフは、先の男性スタッフと同じような言葉を口にした。

「双葉町に出来る『伝承館』で、これまでを振り返るとこを強く展示していきます。コミュタンは、これからどうしていくかという方をフォーカスしているのです」

「伝承館」は9月20日、オープンする。そこでは「原発事故の生々しさ」は感じ取れるだろうか。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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    「原発事故被害者」とは誰のことか

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