安倍からす菅へ──。政治とメディアが動き始めている。

昨年10月からの消費増税とコロナショックで生活や社会の破壊が進む中で、政権(とりわけ菅政権)と日本維新の会の蜜月ぶりがはっきりしてきた。

日本学術会議の新会員任命拒否事件で、維新の会の生みの親・橋本徹氏が菅首相をさかんに擁護しているのは周知のとりだ。今や「菅義偉政権と維新」はセット。

この状況において、11月1日の「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」(俗にいう大阪都構想)が焦点になっている。
 
大阪市廃止を批判する中で目立つのが「れいわ新選組」である。次期総選挙で大阪五区立候補予定者の大石あきこ氏をはじめ、山本太郎代表が大阪現地に乗り込み、大阪市を政令指定都市から特別区に格下げすることに反対運動を展開してきた。
 
結果は否決されたが、度重なる山本太郎氏の街頭演説などで世論が動いた可能性がある。今後は、大阪のみならず全国的に「維新VS新選組」が政治の核になる予感がする。維新的なるものVS新選組的なるもの、と置き換えてもいい。

◆山本太郎都知事選出馬で維新の勢力拡大阻止
 
その“予感”が強まったのは、新型コロナウイルスで緊急事態制限が発出されていた今年初夏。7月に予定されていた東京都知事選挙をめぐり様々な人々が水面下あるいは表に出て動いていた。

現職が強いことは自明であり、加えてコロナの影響で小池知事は連日連夜テレビに登場していたのだから、「何か事件」が起きない限り大量得票する可能性が高かった。

対する野党系の候補者として、宇都宮健児弁護士とれいわ新選組の山本太郎代表がリベラル派から期待されていた。

そして宇都宮氏が立候補を表明したのちに、ぎりぎりになって山本氏が出馬表明した。リベラル派分断という批判もおきたが、やはり「山本出馬」には重要な意味があったのではないか。

第一に、前年2019年夏の参院選で旋風を巻き起こした「れいわ新選組」の支持拡大が停滞し、その後大きな風は吹いていなかった。党代表の山本氏が都知事選に立候補しなければ、燃え上がった炎が自然沈下しかねないから政治的イベントが必要だった。

第二は、“維新勢力”の拡大阻止である。宇都宮候補に投票するのは、立憲民主支持の中のリベラル派や共産党支持層など、ある程度限られている。

無党派層を一定程度引き付けられるのは山本太郎だった。維新の会も無党派票をある程度取り込める。前年の参院選で日本維新の会から立候補した音喜多駿氏が当選。東京で初の議席獲得となった。

維新としては、ホップからステップを狙って小野泰輔氏を擁立したことだろう。立候補を表明する少し前、テレビ各局は維新の吉村洋文大阪府知事をさかんに持ち上げ、ブームを作ろうとしていた。その波に乗って小野氏が当選しないまでも順位をどこまで上げるかが最大のポイントだった。

ブームに乗った維新だから、仮に山本太郎代表が立候補しなければ、小池氏につづく第2位についた可能性もなくはないのだ。

そうなれば、東京都知事選というよりも、国政において与党勢力・右派勢力が一気に拡大し、リベラル派による挽回はきわめて困難になる。

結果は、(1)小池、(2)宇都宮、(3)山本、(4)小野、となった。東京都知事選という最大の首長選での4位は明らかに敗北であり、山本票より下回った事実は重い。山本票との差は約4万票で大差とは言えないが、勝つか負けるかは政治的に重大だ。これにより、春先からの維新勢力拡大にブレーキがかかったのである。

この結果をもたらしたのは、山本太郎出馬だろう。筆者は、現職の小池VSその他候補よりも、あるいは宇都宮と山本のどちらが得票数が多いかよりも「維新VS新選組」の結果に注目していた。

なぜなら、今後は維新か新選組かどちらに向かうかで日本は大きく変わる可能性があると考えるからである。

◆1869年体制と新自由主義勢力の行方

この原稿で二つの政党の略称である「維新」と「新選組」を取り上げるのは、明治維新に至る1860年代に実在した尊王攘夷派(維新勢力)と新撰組と同じ名称だからである。それは偶然なのか、それとも必然なのか。

言うまでもなく、戊辰戦争という内戦で江戸公儀(江戸幕府)を倒し明治維新を成就させたのが尊王攘夷派である。彼らを「維新勢力」と呼んで差し支えないだろう

これに最も激しく敵対したのは、江戸公儀を守る新撰組であったのは言うまでもない。彼らを現在の政党名で使用されている漢字になおし「新選組」と呼ぼう。

1869(明治2)年に戊辰戦争に勝利した明治維新勢力が、その思想や文化、機構などを根底に残し2020年の現在まで続いている。昔とは大幅に変わったとは言え、「維新勢力」が日本を統治している。

現在の日本維新の会は、「改革」「既得権打破」と口では言うが、いま権力を握っている支配層のシステムや思想を改革するどころか強化している。とりわけ新自由主義政策の拡大にやっきだ。

それに思想やシステム全般にノーを突き付けているのが「新選組」ではないか。まるで1860年代の政治闘争が再現されたかのようだ。

象徴的なのは、いわゆる大阪都構想をめぐる「日本維新の会(大阪維新の会)VSれいわ新選組」の対決だ。

11月1日投票の住民投票「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」が告示された10月12日、山本太郎・れいわ新選組代表が反対の街頭演説を行っていたとき、大阪府警が妨害した事件があった。


◎[参考動画]大阪府警が山本太郎氏の街頭演説を中止させようとしたときのYouTube映像

大阪府警に力を及ぼせるのは与党である大阪維新の会である。

大阪市廃止を叫ぶ「維新」と全面対決する「新選組」。この間の両勢力の行動を見ている、150年以上前は主に京都市内で刃を交わしていた維新勢力と新撰組の闘争が大阪市内で再現されたかのようだ。

2020年の今は日本刀を振り回すわけではないが、意味的には通じるものがある。大阪の住民投票の結果の如何にかかわらず、維新VS新選組の構図は深まっていくだろう。

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25