◆鉄骨の入っていない橋脚の存在が明らかに! 南海電鉄は安全なのか?

12月18日、大阪地裁(森鍵一裁判長)で釜ヶ崎の住民訴訟が行われた。この裁判では、あいりん総合センター(以下、センター)に入っていた西成労働福祉センターとあいりん職安の仮庁舎を建てた南海電鉄高架下の安全性や、南海電鉄の傘下である辰村建設と随意契約したことの是非などを争っている。

大勢の労働者が集まり、昼間野宿者が休息する、毎日数十万人が利用する南海電鉄の耐震性は大丈夫なのか?

南海電鉄高架下、仮庁舎エリアの北側部分は、橋脚に鋼板をまく耐震補強工事が実施されている

高速道路の橋脚が倒壊するなど未曽有の被害を出した1995年阪神淡路大震災のあと、近畿運輸局は各鉄道会社に対して、既存のRC(鉄筋コンクリート)柱に緊急耐震補強措置を取るよう求めた。南海電鉄は、難波駅や今宮戎駅周辺で、橋脚に鋼板を巻き付ける耐震補強工事を実施、今年に入り仮庁舎エリアの北側萩ノ茶屋駅周辺や、南側新今宮駅周辺などでも同様の工事を実施してきた。しかし何故か、この工事が仮庁舎エリアでは行われていなかった。これについて南海電鉄は裁判で「このエリアはRC柱ではなく、SRC(鉄筋鉄骨コンクリート)柱であるため、緊急耐震補強の対象外だ」と反論し、橋脚の中央に鉄骨が入るSRC柱のイラストを証拠提出していた。

しかし、10月9日、住民訴訟の原告の仲間が専門業者に依頼し、センター仮庁舎の北側エントランスの橋脚6本の非破壊検査を行ったところ、「鉄骨反応は確認できない」との調査結果が報告された。

センターの解体・建て替えは「耐震性に問題がある」として始まったが、そのため仮移転した南海電鉄高架下の橋脚に、南海電鉄が「入っている」と豪語した鉄骨が入っていないとは?!高架下の仮庁舎には毎日大勢の労働者が出入りし、昼間段ボールを敷き寝ている人もいるし、職員も大勢働いている。その上を走行する南海電鉄には、1日数十万人もの利用者がいる。センターの耐震性が問題なら、仮庁舎が入る南海電鉄の耐震性も問題にすべきではないのか!

前回の裁判で原告は、「鉄骨反応は確認できない」とした非破壊検査の調査報告を裁判所に証拠提出し、裁判長も被告の大阪府に「事実を明らかにせよ」と要求していた。

そうして迎えた18日の裁判で、南海電鉄が提出してきたのが、80数年前の南海電鉄建設時の図面らしきものだった。そこで大阪府と南海電鉄は「鉄骨が入っている」とした従来の主張をくつがえし、一部の橋脚には鉄骨は入っていないこと、しかし「(せんだん破壊先行型ではなく)曲げ破壊先行型である」と主張を変えてきた。

南海電鉄高架下の西成労働福祉センター仮庁舎北側入口の橋脚2本に鉄骨が入ってないことが明らかになった

◆税金を使って無駄な引き延ばしを行った南海電鉄と大阪府

この結論を引き出すまでに、何回裁判を開廷してきたことか? どれだけのお金(税金)を費やしてきたことか?これまで南海電鉄は、コロコロ主張を変え、裁判を長引かせ、大阪府もきちんと調査、指導できないままできた。裁判で、原告弁護団の武村二三夫弁護士は、被告弁護団に「南海の主張がころころかわっているが、きちんと確認していないではないか」と厳しく非難した。森鍵裁判長も「曲げ破壊先行型だから、大丈夫というわけではなく、その根拠を示しなさい」と要求した。

実は、この裁判の数日前、仮庁舎の問題の橋脚の「破壊検査」(橋脚に穴を開けて中を確認する)が行われていた。大阪府が行ったか、南海電鉄が行ったかはわからない。中に鉄骨が入っていたかどうか、南海電鉄が裁判で提出した証拠のように、鉄筋の中心部に鉄骨が入っていたかどうかも含めて調査結果を明らかにすべきである。

破壊検査で穴を開け中を検査した跡が残る、南海電鉄高架下の橋脚

「大阪府敗訴」のビラ

◆地元のひとたちを大切にするまちづくりを!

11月4日、中日本高速道路は耐震補強工事で、鉄筋が8本不足するなどの施工不良が判明したとして、工事のやり直しとともに、工事を発注した大島産業に賠償請求している。本来大阪府も、南海電鉄に賠償請求を求める立場なのに、これまでまともに調査を要求してなかったどころか、センターを解体したいがために、なんとかごまかし仮移転を強行してきた。センターを早急に解体したい大阪府と、大阪府の税金で賄われる仮庁舎建設費用でガッポリ儲けたい南海電鉄の利害が相互に合致したためたろう。それもこれも大阪維新の会が進める「まちづくり」で、新今宮駅前の一等地をきれいで広大な更地を確保するためだ。

識者、専門家、地元のNPO団体、労働組合、市民団体、町内会らが集まる同会議で、この土地をどう使うか検討されている。しかし、もともとこの町に住む日雇い労働者、生活保護、年金などで生活する人たち、野宿者らの生活を最優先に考えられているのだろうか? インバウンド頼みで一時的に賑わい儲けても、新型コロナの感染拡大などの非常事態に一気に衰退してしまうようなまちづくりでは、もともといた労働者らの暮らしは守れない。釜ケ崎の持つ魅力を最大限に引き出すまちづくりこそが、今、問われているのだ。

◆「一等地」の確保を最優先する開発主義

先日、大阪市立の高校21校を大阪府に移管する条例案が府議会で可決した。移管時期は2022年4月で、これにより1500億円の資産価値をもつ大阪市の学校や土地などが大阪府に無償譲渡されることになる。大阪都構想の住民投票に負けた大阪維新は、その後もこうしてあの手この手で大阪市から金をむしりとろうとしている。JR新今宮駅前の広大な「一等地」を奪おうとする大阪維新の「西成特区構想」もその1つだ。下のチラシにあるイラストを見てほしい。凸凹のセンターを「耐震性に問題がある」として解体・建て替えようとしているが、更に使い勝手を良くするため、L字内に建つ第二住宅まで解体してどかそうとしている。そこは耐震性に問題はないのに、しかも税金を使って。
 
◆釜ケ崎を破壊していく大阪維新の「成長を止めるな」

南海電鉄を挟んでセンターの反対側に出来たインバウンド向けのおしゃれなホテルは早々と閉鎖された

先日、神戸大学准教授の原口剛さんを講師に学習会を行った。テーマは「開発主義の暴力を解体するために~反五輪、反万博、反ジェントリフィケーション」。2002年小泉内閣によって制定された「都市再生特別措置法」により全国で都市再生特区がつくられ、開発されていく。

重要なのは五輪、万博などメガイベントのために土地の開発があるのではなく、まずは土地の確保が先行的に行われていることだ。2020東京五輪や2025大阪万博ほか様々なメガイベントは、そうした開発を正当化・加速させるために強行されていく。

大阪維新の会は、新今宮駅前のきれいな台形の「一等地」を何が何でも手にいれたいがために、センター周辺の野宿者を立ち退かせようとした。しかし大阪府が提訴した土地明渡断交仮処分は、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)によって却下され、その後大阪府・吉村知事は期限までに異議申し立て出来ず、決定は確定した(本訴は係争中、次回裁判は、来年2月9日午後14時30分より、大阪地裁202号法廷)。住民訴訟でも、大阪府と南海電鉄は嘘をつきとおすことができない事態に追い込まれている。決して気を抜かず、今後も闘っていこう!大阪維新のなりふり構わぬ、「成長を止めるな」という開発主義を解体するために!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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