◆総理の犯罪 ── 経緯

このかんの経緯を確認しておこう。

一昨日、安倍元総理事務所の政治資金規正法違反について、東京地検特捜部は第一公設秘書配川博之(61)の略式起訴に踏みきった(罰金100万円)。この公設秘書は辞職したという(24日安倍会見)。そして事務所の最高責任者である安倍晋三の起訴は、ついに見送られた。

検察による任意の取り調べに対して「わたしは知らなかった」「秘書がやったことなんです」「秘書が勝手にやっていた」(元総理)という、およそ自己責任のない抗弁が、わが国の政界ではまかりとおるのだ。あれほど何度も(118回)確認を求められたのに、ウソをつきとおした人物を第一秘書を雇っていたこと自体、政権の最高責任者にはあるまじき事態である。

かくして、明らかな公職選挙法違反(寄付=買収行為)であるにもかかわらず、検察の方針は安倍元総理に忖度した格好になったわけだ。一説によると、黒川検事長(当時)の定年延長で、検察人事に介入した安倍への意趣返しと見られることで、地検特捜部には安倍起訴に躊躇があったという。

その黒川元検事長は、賭けマージャンの一件で検察審査会が「起訴相当」との議決となった。起訴猶予処分となっていたが、市民感覚では許すまじということであろう。このさい元検事長には後学のためにも、臭いメシを食べることをお勧めしたい。


◎[参考動画]【ノーカット】安倍前総理 「桜を見る会」で記者会見(テレビ東京 2020年12月24日)

◆参加費補填(選挙民買収)は5600万円か?

いっぽう、補填額にも異論が出ている。5年間にわたり、800万円もの参加費補填とされているが、その額は5600万円にもおよぶとの指摘があるのだ。これは安倍を刑事告発した泉沢章弁護士らによるものだ(12月21日共同通信)。

すなわち、告発状を提出した泉沢章弁護士ら(1000人の弁護士)は、今回は15~19年分を対象とし、「補填は一切ないという安倍氏の国会答弁は虚偽だったことが明確になった。幕引きを許すべきではない」としている。ようするに、幕引き出来ないのだ。

第一秘書を人身御供的に辞職と罰金刑に終わらせても、安倍晋三が刑事訴追される余地を残している(検察審査会)ことにおいて、積年の政権私物化の罪業が追及されなければならない。

世論はもとより、マスコミも安倍訴追には積極的だ。政権寄りと評価されてきた八代英輝(TBSひるおび、元裁判官弁護士)ですら、「無罪相当でも、起訴して疑惑を問うことが必要ですよ」「嫌疑なしではなく嫌疑不十分であれば、立件できる証拠が足りないということ。国民に知らせる意味でも起訴すべきだ」「なぜ秘書にだけしか確認されていないのか。これだけの問題になっていることを、というところも含め、ご自身の口で語っていただきたいと思います」というありさまだ。


◎[参考動画]桜前夜祭で安倍前総理が陳謝“説明”は尽くされた?(ANN 2020年12月24日)

◆総選挙の年に、自民を悩ます安倍訴追

かつて、陸山会事件で政治資金規正法違反の共謀に問われた民主党の小沢一郎幹事長(当時)は2010年2月に不起訴となったが、その後に地獄が待っていた。小沢氏を告発した市民団体がこの審査に不服を訴え、4月には「起訴相当」の議決が出ているのだ。検察の再捜査後、同年5月に再び不起訴となるも、10月には検察審査会が2度目の起訴相当の議決を出し、翌年1月に小沢氏は強制起訴されたのだった。

来年は総選挙の年である。元総理の犯罪をめぐって、何度も検察審査会がひらかれ、そのうち一度や二度は起訴相当の決定がなされるはずだ。悪の所業の報いとはいえ、安倍のみならず自民党にとっても地獄のような年になると予告しておこう。


◎[参考動画]小沢氏無罪判決から一夜 再び党内抗争の兆し(ANN 2010年4月27日)

◆安倍の謝罪と弁明

いっぽう、国会の場で118回にわたり虚偽答弁を重ねてきたことは、刑事処分とは別物である。国会での虚偽答弁は、いわば国民に対してウソをついてきたことにほかならないからだ。

衆議院調査局によれば「安倍事務所の関与はない(参加者が支払った)」が70回、ホテルからの「明細書はない」が20回、そして「補填はしていない」が28回だという。

虚偽答弁問題の拡散に、さすがに自民党も安倍元総理への事情聴取に応じざるを得ない趨勢となり、25日の衆議院議運理事会での弁明(答弁に事実ではないことがあった、との弁明)となったものだ。

安倍の政策には全面的に賛意をしめす橋下徹は、関西テレビの番組で「議員辞職せざるをえない」「国会の場であれほどのウソがまかり通ったのだから、辞職しなければ国会が成立しない」「議員や大臣がウソばかりつくのでは、国権の最高機関が地に堕ちる」「ホテル側に電話一本いれれば、確認できていた話」と口をきわめて、安倍の居直りともいえる態度を批判した。これこそ正論であろう。


◎[参考動画]桜を見る会 安倍氏の国会答弁を振り返る(朝日新聞 2020年12月22日)

◆菅総理も同罪である

この「謝罪」を受けて、国会(予算委員会)の場で答弁をせまられるのは菅現総理である。

過去の国会答弁では、野党の「(菅)官房長官の答弁も虚偽答弁になるんですよ」という追及に、

「ドン!(答弁席のテーブルを叩く)わたしの答弁が、なぜ虚偽答弁なのですか?」と気色ばみ、さらにこう断言したのだ。

「わたしの答弁は総理の答弁で、(安倍)総理の答弁は正しい!」

いや、元総理が認めたとおり、答弁は虚偽だったのだ。相応の責任を取ってもらう以外にない。24日段階では「総理の言ったとおりを答弁した」「国民には申し訳ないが、他の政治家の事務所の話でもあり……」などと、開き直りの「謝罪」が行なわれたのだった。自分がどこで発言をしたのか、このトホホ総理はまるでわかっていないのだ。

そのうえで、桜を見る会の疑惑(総理が犯罪の看板に使われたなど)について、再調査するか、という質問には「国会できちんとした質疑答弁が行なわれた」ことを理由に、拒否したのである。虚偽の答弁がなされたことを、つい今しがた謝罪しておきながら、またも居直るのである。国会答弁ではまたもやトホホな答弁、秘書官メモにたよる光景が予想される。

そしてもうひとつ、今回のことで菅総理が狙っているものを指摘しておきたい。すなわち、Go Toキャンペーン中断で二階派の反発を買い、相対的に孤立化を深めている菅総理にとって、安倍晋三の再登板の画策をここで断っておきたいのだ。

その意味で桜を見る会疑惑は、政権基盤の脆弱な菅総理にとって両刃の刃でもあるのだ。みずからも傷つきながら、安倍再登板の芽をなくす。今回の安倍の弁明よりも、年明け国会(1月18日)での菅総理の安部への責任なすりつけという、醜怪なふるまいこそ見ものだと指摘しておこう。

◎[参考動画]「桜を見る会」で菅総理を追及 衆院予算委(テレビ東京 2020年11月25日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか