◆衆院総選挙をどこに持ってくるのか

18日の国会再開をまえに、自民党内では総選挙の日程および政局の動きがかまびすしいという。

コロナ防疫の失敗(GoToの不手際)、桜を見る会の再審議、吉川元農水相をはじめとする鶏卵業者からの贈収賄疑獄という、政権が傷だらけになりかねない審議項目がならぶ。それに加えて、コロナ感染の爆発的な増加がオリンピックを風前の灯にするという、踏んだり蹴ったりの展開が予測されるからだ。


◎[参考動画]『緊急事態宣言』菅総理に聞く(ANN 2021年1月8日)

秋には任期満了をむかえる衆議院総選挙をどこに持ってくるのか、すでに「週刊ポスト」(1月15・22日号)では、自民党が40議席を減らして、過半数をギリギリでまもれるか、という政権維持の危険信号にちかい予測が立った。

「自民40議席減の惨敗となれば、菅首相は責任をとって総裁辞任と退陣は免れない」野上忠興(政治ジャーナリスト)というのは当然であろう。

総選挙の時期はいまのところ、5~6月は公明党が重視する都議選(投票は7月)があるので、その前か秋という観測が濃厚だ。コロナ感染の現状をみれば、10月の満期総選挙というのが現実的であろう。

そうすると、選挙前の菅退陣もありうる情勢ということになるのだ。今年全体の、内外にわたる政治スケジュールについては、別途に稿を起こす予定だが、菅おろしは意外に早いかもしれない。当面の政局を中心にまとめてみた。

◆都議選敗北でジリ貧に

今後の政局を左右するのは、おそらく自公の選挙協力であろう。

河井克行被告が議員辞職しないままの広島3区では、公明党が独自候補(斉藤鉄夫副代表)を立てている。自民党県連も独自の候補を立てることになれば、自公相打つ情勢が決定的だ。

しかも3区が宏池会の地盤であることから、公明党は「岸田(宏池会)会長が(自民党候補不出馬を)決定すべき。もしできないのなら、他の選挙区の岸田派候補は応援しない」と言明しているのだ。河井問題は県連と党本部の対立構造という矛盾であり、これが解消できない政権・党本部の求心力は低下する。

この自公対立は、東京都議選でも同じ構造になりつつある。すなわち、自民党都議団が小池知事に接近するいっぽう、都民ファーストの切り崩しに走るいっぽう、小池知事と公明党の急接近が顕在化しているのだ。

公明党は前回の選挙では都民ファーストと提携し、作年7月の都議補選ではみずからは擁立せず自民4候補を推薦した。いっぽうで小池氏との関係は良好で、次の都議選の選挙協力相手は「知事に対する姿勢次第だ」(会派幹部)と思わせぶりな態度を見せる。公明党は総選挙はともかく、参院と地方選挙は全員当選が至上命令なので、ここでの軋轢が自民の総敗北に帰結する可能性が高い。

選挙で勝てない総理ということにでもなれば、菅政権の命脈は早めに尽きると断言しておこう。

◆オリンピックの強硬開催で失敗

さて、菅政権にとって問題なのは東京オリンピックである。

スポーツは人々を鼓舞する。オリンピアは、とりわけ国民的な熱狂をもたらす。スポーツが嫌いな人でも、オリンピックに背を向ける人々でも、アスリートの努力に拍手するのは惜しまない。

だが、コロナ禍で失政をくり返し、その規模や構想において数々の失敗をかさねてきた五輪委員会やそれを後押しする政府に、国民がうんざりした気分をもっているのも現実である。アスリートの努力を惜しめばこそ、あるいは日常的にスポーツを愛するがゆえにこそ、安倍――菅政権のスポーツ利用主義、政治目的のオリンピック開催には疑義を呈する人も少なくはないのだ。

もしも、いまだ功罪不明のワクチンを頼りに、国際的な認知の展望がないオリンピック開催に踏み切った場合。それはおそらく無観客ないしは限定観客入場、テレビを主体とした開催になると思われるが、およそアリバイ的なものにしかならない。残されるのは、膨大な赤字と国民の空虚感だけではないだろうか。それは政権への侮蔑しか生まないはずだ。日本人選手と、わずかな招待選手だけの大会となったら、である。


◎[参考動画]『東京五輪』菅総理に聞く(ANN 2021年1月8日)

◆総選挙前の菅おろし

菅総理の「おろされ方」はどうなるのだろうか。

「私は菅氏は『平時の総理』であり、コロナ禍の非常時には不向きなのだと思います」と語るのは、政治アナリストの伊藤惇夫氏である。

「菅総理は『ブレない』ことを大事にしているようです。確かに官房長官時代から、どんな質問をされても答えはブレなかった。かつて菅さんから、『米軍普天間飛行場の辺野古移設が進まないのはなぜかわかりますか』と聞かれたことがあります。『わかりません』と言うと、『それは諦めたからです。私は諦めませんから移設を実現させます』と答えました」

「その姿勢は平時ならば良い結果を生むかもしれませんが、非常事態には、一つのことに固執するのではなく、柔軟に対応することのほうが大事です。Go To トラベルの休止判断の遅れなどは、まさに菅総理の悪い面が現れたのだと思います」

このあたりの評価は的確であると思う。官房長官として、政権の広報を事務的に行なうのであれば、頑固な立場でも何ら政治責任は問われなかった。

その意味では「粛々と」「お答えは差し引かせさせていただく」「その批判は当たらない」などという木で鼻をくくる答弁でも済ますことはできた。

だが、総理は政権と政策の総責任者なのである。質疑答弁が内容にふれるほど、活舌も悪くないようがなくなる、トホホ答弁に終始しているのは、その依怙地なまでの頑なさにあるのだ。

「菅政権を支えているのは二階派です。二階幹事長は菅政権の生みの親ですが、だからといって体を張って政権を守るとは思えません。二階さんは政局を見ながら変幻自在に動くタイプの政治家ですから」

そして伊藤氏は、党内にある菅おろしの筋書きを、かつての三木おろしになぞらえる。派閥の力ではなく、政局のキーパーソンが「裁定」をするという筋書きだ。その場合も総裁選挙という形式は踏むと思われるが、現在の自民党総裁選挙はかぎりなく「裁定」に近い。

「二人を見ていて思い出すのは、三木武夫・首相と椎名悦三郎・副総裁の関係です。田中内閣が金権批判で退陣した時、椎名は総裁選をせずに、いわゆる『椎名裁定』で三木を総理に指名します。ところがその後、三木の党改革や政治資金改革に対する反発から党内で『三木おろし』が起こると、椎名はそれに同調した。そして有名な、『生みの親だが育てると言ったことはない』という言葉を残しました。菅総理と二階幹事長は、なんとなく三木と椎名のような関係になる気がします」

実際の政治を周知するがゆえに、政権にやや批判的なスタンスをとる伊藤氏だけではない。保守系の論者からも菅おろしの現実性が指摘されている。

ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰する倉山満は、選挙の顔としての菅総理の問題点を指摘する。

「9月は、自民党総裁の任期切れだ。今の菅首相(自民党総裁でもある)は、安倍前総裁の任期を引き継いでいるだけだ。その時に支持率がどうなっているか? もし『選挙に勝てない総裁』と判断されたら、菅おろしの動きも見えてくる。その時の自民党は、10月の衆議院任期切れまでに新総理総裁に代え、その御祝儀相場で選挙をやって政権を維持する、と考える。日本の政治家の絶対の原則は『自分は落選したくない』だ。安倍前首相が長期政権を築けたのは、すべての国政選挙に勝ったからだ。つまり自分を当選させてくれる総理総裁だから、引きずり降ろすはずがない。そして安倍政権では、緩やかながらも景気回復をしていた。菅内閣で、景気回復の望みは薄い」(日刊SPA! 2021/01/11)

結局のところ、政治家とは選挙で勝てる人間なのである。安倍晋三元総理が、あれこれと批判を受けながら超長期政権を永らえたのも、選挙に勝てる総理だったからにほかならない。菅総理はすでに、国民的な人気という意味ではダメな総裁であることが判明した。国会答弁、記者会見は「トホホ」である。早めに退陣して、次期官房長官をめざすのが得策ではないか。


◎[参考動画]【役員会後】二階俊博 幹事長(自民党 2021年1月5日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他