わたしが東京での活動を継続しており、そのなかで「よど号」メンバーの支援もしていることを以前お伝えした。彼らは朝鮮民主主義人民共和国の首都・平壌直轄市の端に「日本人村」をかまえて暮らしながら、帰国に向けた活動をおこなっている。そんな彼らから、『紙の爆弾』6月号に寄稿した「地方で考える この社会と私たちの生活の行く先」の感想が送られてきた。今後このコーナーに、彼らとの「往復メール書簡」を時々、アップしたい。

左から魚本公博さん、森順子さん、小西隆裕さん、若林盛亮さん、赤木志郎さん、若林佐喜子さん

◆「地方で考える この社会と私たちの生活の行く先」に対する魚本さんからのメッセージ

「よど号」ハイジャックで朝鮮に在住する魚本公博です。

私は地方出身ということもあって、地方問題に関心があるのですが、『紙の爆弾』6月号に掲載された小林蓮実さんの「地方で考える この社会と私たちの生活の行く先」、大変面白く読ませていただきました。

政府の地方政策は、2017年に地方制度調査会が打ち出した「中枢都市圏連携構想」に端的に示されているように、新自由主義的発想で各地の中核都市を中心に都市圏を形成し、そこにカネとヒトを集中して効率化を図るというものでした。

問題なのは、そこに米系外資を入れ、彼らに、その効率経営を任すということにあり、地方自治体が管理する水道事業などの運営権を民間に譲渡するコンセッション方式の導入が奨励されたことです。

菅政権も、この方式を踏襲し、「活力ある地方を創る」としながら、「大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じ、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介」とか「コーポレーション・ガバナンス(企業統治)を進める」などとしています。すなわち、これは地方の銀行や企業の新自由主義的改革を進めながら、地方自治体自体を企業統治の方法で経営し、それを外資に任すということであり、こうなれば、地方自治は消滅し、地方は米系外資に牛耳られることになり、更には大阪維新が言うように、これが「地方から国を変える」ものとして、日本自体が米系外資・米国に牛耳られるものとなります。

しかし地方・地域は、必死に努力しているのであり、そうした策動を乗り越え、地域住民自身の力で、衰退を克服し、地方・地域を守っていくと私は思っています。

小林さんのルポは、その思いを証言するもので、非常に元気づけられました。取り上げられた南房総市・大井区の区長をされている芳賀裕さんの見解や努力もそれを垣間見させるもので、とくに「顔の見える関係を育むことが重要」との意見は大事なことだと思います。いずれにしても、「地方・地域」は自民党の売国的策動に対決する最前線の1つであり、今後とも、地方・地域に根を下ろした小林さんの現地報告を期待しています。

平壌「日本人村」にて、カラオケで「いい日旅立ち」を熱唱する魚本さん

◆「連携中枢都市圏構想」の罠

わたしは水道民営化の問題も、『紙の爆弾』に寄稿したことがある。

2015年に都市圏の名称が「地方中枢拠点都市圏」から「中枢都市圏連携構想」に変更された。総務省は次のように説明する。「『連携中枢都市圏構想』とは、人口減少・少子高齢社会にあっても、地域を活性化し経済を持続可能なものとし、国民が安心して快適な暮らしを営んでいけるようにするために、地域において、相当の規模と中核性を備える圏域の中心都市が近隣の市町村と連携し、コンパクト化とネットワーク化により『経済成長のけん引』、『高次都市機能の集積・強化』及び『生活関連機能サービスの向上』を行うことにより、人口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有し活力ある社会経済を維持するための拠点を形成する政策です。本構想は、第30次地方制度調査会『大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申』を踏まえて制度化したものであり、平成26(2014)年度から全国展開を行っています。」

そもそも、もはや経済成長を求めることに現実味はない。2019年の1人当たりGDPは33位だ。また、高次都市機能とは、行政・教育・文化・情報・商業・交通・娯楽など、サービスを提供する都市がもつ、広域的に影響力のある高いレベルの機能とされている。これは実態としては、市町村でまかなえない部分を近隣が補い、それでも不足する部分をやや遠方のエリアが補っている。千葉県南部でいえば、千葉県の左寄り真ん中のエリアまでいけば、ほぼ不足はない。それでも足りなければ、北部、それでも足りなければ東京という感じだが、日常的には南部で事足りる。芳賀氏は「スーパーシティは不要」とも述べていた。あとは、「生活関連機能サービスの向上」でもSDGsでもそうだが、資本主義や経済の文脈で語られ、実際には利権と搾取、格差拡大に結びつけられがちだ。そこに、地方の資源をむさぼろうとする企業や人が群がる。パソナが淡路島を乗っ取る様子についても、わたしは同誌に寄稿した。マンモニズム(拝金主義)の魔の手は現在、地方を握りつぶそうとしている。

それに対し、行政の対応はさまざまだ。だが、現場では対抗し、自分たちにとって本当に心地よい社会をつくろうと奔走する人が多くいる。仲間とつながろうと活動しているわたし自身も、その1人であるつもりだ。金銭ばかりに頼らずとも、野菜を作り、田んぼを手伝い、物々交換をする。作れるものは作る。このようなライフスタイルに参加するメンバーを拡大し、支え合いながら、私たちは食べて生きていくことができるはずだ。

ちなみに、3回の訪朝経験が、現在に生きている部分もある。たとえば、共産主義国が何を重視し、何を目指し、どこまで人々を支えているのか。(国内では地元の小商いによって)「外貨」を獲得して地元に還元する発想も、そこから学んだものでもある。

機会があれば、自分が生活するエリアの活性や理想的な社会を現場から実現しようとしているローカリゼーションの実践者の方々とさらにつながり、情報交換や連携をしたい。Facebookなどから連絡をもらえると、うれしい。

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性運動等アクティビスト。個人的には、労働組合での活動に限界を感じ、移住。オルタナティブ社会の実現を目指しながら日々、地域に関連する、さまざまな人の支援などもおこなっている。月刊『紙の爆弾』2021年8月号には「『スーパーホテル』『阪急ホテルズ』ホテル業界に勃発した2つの『労働問題』」寄稿。Facebook https://www.facebook.com/hasumi.koba/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』8月号