政治的な危機になると、病気になったり姿を隠す。そんな卑怯な男の容疑に、検察審査会は「不起訴不当」の議決を行なった。


◎[参考動画]【速報】検察審査会 処分の一部「不起訴処分は不当」 桜を見る会 夕食会めぐり 安倍前首相について(日テレNEWS 2021年7月30日)

昨年12月、桜を見る会前夜祭の安倍元総理事務所の政治資金規正法違反(不記載・寄付買収行為)について、東京地検特捜部は第一公設秘書配川博之(61)の略式起訴に踏みきっていた(罰金100万円)。この公設秘書は辞職したという(12月24日安倍会見)。そして事務所の最高責任者である安倍晋三の起訴は、見送られていた。

検察による任意の取り調べに対して「わたしは知らなかった」「秘書がやったことなんです」「秘書が勝手にやっていた」(元総理)という、およそ自己責任のない抗弁が、わが国の政界ではまかりとおったのである。

あれほど何度も(118回)確認を求められたのに、ウソをつきとおした人物(第一秘書)を雇っていたこと自体、政権の最高責任者にはあるまじき事態だと、誰もが首をひねっていたものだ。

部下への責任転嫁という卑怯きわまりない立場、コロナ禍への無為無策に追い込まれた安倍は、にわかに発病して退陣した。第一次政権の病気退陣とまったく同じ手法だった。

安倍不起訴について、本通信は昨年12月26日付けの記事(「安倍晋三を逮捕せよ! 自民のアベ切りの背後に、菅首相の思惑」)において「来年は総選挙の年である。元総理の犯罪をめぐって、何度も検察審査会がひらかれ、そのうち一度や二度は起訴相当の決定がなされるはずだ。悪の所業の報いとはいえ、安倍のみならず自民党にとっても地獄のような年になると予告しておこう。」としてきた。

その第一歩が、現実のものになろうとしているのだ。予告が当たったことを、単に喜んでいるのではない。

ボロボロ、トホホの菅義偉おろし政局のなかで、ひそかに準備されようとしていた策謀がある。総選挙用のサプライズと言ってもいいだろう。

それは、党内主流派3Aライン(安倍・麻生・甘利)が自派の大臣候補者の不満を満たすために菅を降板させ、返す刀でキングメーカーを標榜する二階俊博幹事長を引きずり降ろす。そして、三すくみの次期総裁候補を出し抜くかたちで挙党体制を打ち出し、選挙の顔として「ある人物」を再登板させようというものだ。

その「ある人物」こそ、安倍晋三前総理にほかならないのだ。

すなわち、二階によって石破茂派や中間派を巻きこんで画策されている保守連立(2021年7月21日付け記事「五輪強行開催後に始まる「ポスト菅」政局 ── 二階俊博が仕掛ける大連立政権」)に対し、3Aが政局の落としどころとして、安倍の総裁再登板(中継ぎリリーフ)を画策していたのだ。

それゆえにこそ、安倍晋三はあれほど力を入れてきた東京オリンピックの開会式を欠席し、政局・公式日程のあらゆる局面から姿を消していた。つまり禊を行なっていたのだ。

それもこれも、菅総理では選挙に勝てない。もし勝てるとしたら、安倍が後継者を介添えしながら総裁として再登板し、中継ぎ政権として総選挙にのぞむ。このような筋書きである。

オリンピック強硬開催によるパンデミック、とりわけ東京における爆発的な感染拡大も、65歳以上が3%以下とワクチン効果がみとめられる。したがって、秋には国民の免疫獲得が実現し、「人類が感染症に勝った」という成果をもって、総選挙にのぞむ。その顔が「選挙につよい」安倍というわけである。

◆政治家としての命脈が尽きた安倍晋三

今回の検審の議決は「不起訴不当」(11名の審査員の過半数)で「起訴相当」(11人の審査員中、8名)ではなかったが、秋の安部再登板はいったん潰えたといえよう。

今後は東京地検の再捜査が行なわれる。再度の検審は行なわれない可能性が高いものの、今回の議決は安倍邸の強制捜査をもとめているのだ。被疑者への任意の聴取ではなく、容疑者としての捜査である。

前元総理の犯罪に、かたちの上だけではあれ、段ボール箱を抱えた検察官が自宅強制捜査(がさ入れ)を行なうとしたら、もはや政治家としての命脈は尽きたにひとしい。頓死である。報道関係者には暴力団捜査などと同様に、強制捜査の実況中継を望みたい。

いずれにしても、おなじ公選法違反で6月に略式起訴された菅原一秀前経産相との公平性を考えても、捜査に手心を加えるのは国民感情を逆なですることになる。その意味では、安倍を選挙の顔にすることは、もはや不可能となったのだ。

政局はしたがって、二階俊博が仕掛ける保守連立にシフトしつつある。その連立相手が維新の会をふくめた、小池新党とのブリッジ共闘になるのか。その小池新党が本当に実現するのか、いよいよ真夏の政局が動きはじめようとしている。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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