本稿は、兵庫県をモデルとした新聞のABC部数の実態を検証するシリーズの2回目である。1回目では、朝日新聞と読売新聞を取り上げた。これらの新聞のABC部数が、多くの自治体で複数年に渡って「増減ゼロ」になっている実態を紹介した。いわゆるABC部数のロック現象である。

※1回目の記事、朝日と読売のケース http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41812

今回は、毎日新聞と産経新聞を取り上げる。朝日新聞や読売新聞で確認できた同じロック現象が、毎日新聞と産経新聞でも確認できるか否かを調査した。

【注意】なお、下記の2つの表は、ABC部数を掲載している『新聞発行社レポート』の数字を、そのまま表に入力したものではない。『新聞発行社レポート』は、年に2回、4月と10月に区市郡別のABC部数を、新聞社別に公表するのだが、時系列の部数変化をひとつの表で確認することはできない。時系列の部数増減を確認するためには、『新聞発行社レポート』の号をまたいでデータを時系列に並べ変える必要がある。それにより特定の自治体における、新聞各社のABC部数がロックされているか否かを確認できる。

次に示すのが、2017年4月から2021年10月までの期間における毎日新聞と産経新聞のABC部数である。着色した部分が、ロック現象である。ABC部数に1部の増減も確認できない自治体、そのABC部数、ロックの持続期間が確認できる。ロック現象は、「押し紙」(あるいは「積み紙」)の反映である可能性が高い。新聞の読者数が、長期間にわたりまったく変わらないことは、通常はあり得ないからだ。

2017年4月から2021年10月までの期間における毎日新聞のABC部数

2017年4月から2021年10月までの期間における産経新聞のABC部数

前回の連載で紹介した読売新聞ほど極端ではないにしろ、毎日新聞も産経新聞もABC部数がロックされた状態が頻繁に確認できる。ロックしたのが、新聞社なのか、それとも販売店なのかは議論の余地があるが、少なくともABC部数が新聞の実配部数(販売店が実際に配達している部数)を反映していない可能性が高い。従って広告主のPR戦略の指標にはなり得ない。

◆新聞のビジネスモデルは崩壊

新聞のビジネスモデルは、新聞の部数を水増しすることを核としている。それにより新聞社は、2つのメリットを得る。

まず、第1に新聞の販売収入を増やすことである。ABC部数は新聞社が販売店へ販売した部数であるから、搬入部数が多ければ多いほど、新聞社の販売収入も増える。逆説的に言えば、販売収入の減少を抑えるためには、販売店に搬入する新聞の部数をロックするだけでよい。

新聞社は最初に全体の発行部数を決め、それを基に予算編成することもできる。

第2のメリットは、ABC部数が増えれば、紙面広告の媒体価値が相対的に高くなることである。それゆえにABC部数をロックすることで、媒体価値の低下を抑えることができる。もっとも最近は、この原則が崩壊したとも言われているが、元々は紙面広告の媒体価値とABC部数を連動させる基本原則があった。

一方、ABC部数を維持することで販売店が得るメリットは、折込広告の収入が増えることである。販売店へ搬入される折込広告の枚数は、搬入部数(ABC部数)に連動させる基本原則があるので、たとえ搬入部数に残紙(「押し紙」、あるいは「積み紙」)が含まれていても、それとセットになった折込広告の収入を得ることができる。客観的にみれば、この収入は水増し収入ということになるが、販売店にとっては、残紙の負担を相殺するための貴重な収入になる。

もっとも最近は広告主が、折込広告の水増しを知っていて、自主的に折込広告の発注枚数をABC部数以下に設定する商慣行ができている。そのために従来の新聞のビジネスモデルは、崩壊している。残紙による損害を、折込広告の水増しで相殺できなくなっているのである。

◆コンビニの商取引と新聞販売店の商取引の違い

最近の「押し紙」裁判では、だれが新聞の「注文部数」を決めているのかが争点になっている。コンビニなど普通の商店では、商店主が商品の「注文部数」を決めるが、新聞の商取引では、新聞社が「注文部数」を決めていることが指摘されている。その結果、ABC部数のロック現象が顕著化しているとも言える。

これまで兵庫県をモデルケースとして朝日、読売、毎日、産経のABC部数検証を行った。その結果、部数のロックという共通点が明らかになった。

次回の3回目の連載では、日経新聞と神戸新聞に焦点を当ててみよう。経済紙や地方紙にも、ABC部数の「ロック」を柱とした販売政策が敷かれているのかどうかを検証したい。(つづく)

◎黒薮哲哉-新聞衰退論を考える ── 公称部数の表示方向を変えるだけでビジネスモデルの裏面が見えてくる ABC部数検証・兵庫県〈1〉

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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