筆者が社主を務める「広島瀬戸内新聞」は、第3回オンラインおしゃべり会「介護と憲法」を2022年2月2日(水)、ZOOMにて開催し、全国からご参加をいただきました。

ご参加いただきました皆様に御礼申し上げます。今回は、自民党が改憲に前のめりになり、維新がそれを「右」から煽るという状況の中、改憲や維新がそれを先取りしている政治がどういう悪影響を介護に与えるか? どう、憲法をいかすか?筆者が問題提起してそれに対して討論を行う形で実施しました。

◆不十分ながらも、高齢者・障がい者介護にいかされてきた憲法

筆者から、前半では、「介護と憲法」をめぐるこれまでの状況をご紹介しました。昭和後期時代は憲法24条があるにも関わらず、いわゆるケア労働が女性の無償労働と見なされていたこと、夫の実父母の介護が「嫁の義務」とみなされていた(法的には義務はない)こと。しかし、そうはいっても介護の社会化を求める声から、介護保険が問題はあるにせよできたこと。

障がい者分野でも個人の尊厳を求める声を背景に、新自由主義的な「自立支援法」をやめさせ、総合支援法を勝ち取ったことなど紹介しました。

他方でまだまだ、ケア労働は「女性の仕事」と言うバイアスもあって現場労働者の給料が低すぎること、また老老介護、老若介護、ヤングケアラー、また男性介護者の増加など状況の多様化、複雑化があることを紹介しました。

◆介護保険のメリットと問題点について意見続出

参加された方からは、

「介護保険のお陰で自分はフルタイムで仕事ができるが、綱渡り状態だ。」(50代女性)

「遠方の母親が介護状態で介護保険は助かる。ただし、父親は弱っているが、介護状態まで行かない。こういう人への支援ももっと欲しい」(50代男性)

「家族が要介護状態になったときどうすればいいか? 教えてくれる教室があったらいい。」

等のご意見をいただきました。

また、20代の方からも「母親と二人暮らしだが、母親も脚を痛めたりして通院している。いつ自分も介護をすることになるか不安だ。ただ介護保険があるのを知って少し安心した」とのご感想をいただきました。

介護現場の女性労働者からは、入居者から暴力を振るわれるなどの実態が報告され、20代の男性からは、「そんな大変な仕事なのに、他の業種より低い給料なんてあり得ない。」との感想が出されました。

わたしからは、「要介護認定される前の方向けに、『総合事業』もあるが、仕事に対する報酬を介護保険の8割に設定しているので、やりたがる事業者が少ない問題もある」等とお答えしました。

◆介護を家族に押し込める自民党憲法改悪草案と先取りする維新政治

後半では、自民党憲法改悪草案、また、改憲草案を先取りしている大阪を中心とした「維新」による政治が介護にどういう影響を与えるかについてお話をしました。

自民党憲法改悪草案の24条では「家族の尊重」が「両性の平等」より前に来ています。さらに、改悪案憲法83条は財政の健全化を義務付けています。

自民党憲法改悪草案 第24条

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。(新設)

2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

緊縮財政条項 第83条

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。

2 財政の健全性の確保は、常に配慮されなければならない(新設)。

これらを総合すると「介護など社会保障を切り捨て、ケアに関する労働を家族の責任にする」ということです。

「財政の健全化」といいますが、財務省、また財務省の言っていることを先取りしている「維新」の標的になるのはいままでの経緯を見ても、社会保障です。

例えば、財務省は、人工透析の患者の方への訪問介護サービスがおおすぎる、無駄だから削れ、という趣旨の圧力をかけつづけています。実際には人工透析を受けていたら時間もなくなり、家事に手が回らなくなりますから、訪問介護サービスを受けるのは仕方がないのでのにもかかわらずです。また、「維新」は人工透析の患者に事実上「死ね」と言ったにも等しい発言をしたと非難を浴びた長谷川豊さんを、(落選はしましたが)衆院選で公認した実績もあります。「維新」は、これまでの政治を「シルバー民主主義」と決めつけ、若者の味方のふりをして、高齢者や障害者を切り捨てています。

いっぽうで、財務省は国費や国有財産を私物化した安倍晋三さん・昭恵さんの立場が危うくならないよう、全力で忖度しています。

憲法改悪草案が実現して、財務省や「維新」(長谷川豊さん)が叫ぶような政策が実現した場合、どうなるでしょうか? 現代では、少子化・核家族化、さらには単身化ふくめ、昔と家族のあり方も変わってきています。もはや、「嫁」だけでなく、男性や子ども・若者も介護負担で大変なことになります。

「維新」が味方をしているふりをしている若者も「ヤングケアラー」状態になり、これから人生を切り開いていくべきときに、勉強や就職がおろそかになるなどの被害を受けることになるでしょう。そして、そうした被害は「自己責任」として「維新」や財務省に切り捨てられるでしょう。

以上のような提起をさせていただきました。

◆「自民より右」の維新への対抗軸をしめすことが重要

これに対して、大阪府民の女性からは、「地下にトンネルを掘るなど大型の事業は熱心だが暮らしは切り捨てている。」と実態のご報告をいただきました。

また、仕事で障がい者の就労支援にも従事する50代の男性は「支援対象者に『義務とは関係なく、権利があなた方にはあります。』と説明したら、みなさんはまったく何がなんだかわかっておられない様子だった。」と仕事での出来事を紹介。

「日本人には人権はうまれながらにしてある、という考えは薄いのではないか?ただ、介護保険の場合は『消費者として、保険料への代価としてサービスを受け取れる』という意識は強まっていると思う」と感想を述べられました。

また、20代の会社員男性からも「衆院選2021がおわったばかりで当面、政権交代はない。自民党に対して、介護などケア労働者の給料を上げていくよう、維新とは正反対の方向から突き上げていくこともしていきたい。」との提起をいただきました。

わたしからは、やはり、憲法とは国民が権力者を縛るツールであるということをもっと強調していくこと、この20-30年で強まった新自由主義の洗脳は強いが、すこしずつでもそれを改めていくよう粘り強く努力すること、とくに今年の参院選で維新に対抗軸をきちんと示す勢力をのばしていくことの重要性を強調してまとめさせていただきました。

◆継続的にオンラインおしゃべり会を開催

広島瀬戸内新聞では介護をテーマにオンラインおしゃべり会をシリーズで開催しています。

前回12月22日の第2回オンラインおしゃべり会 「どうなる 介護現場 働く人の処遇改善、そしてご利用者・ご家族の安心はどこへ」でいただいたご質問・ご意見と筆者の回答は以下です。

なぜ、昔は公務員でやっていた介護事業がなくなったのか?
回答→総務省が公務員をへらした自治体を優遇する制度をとっていたのが大きいのではないか?

介護を公務員でまたやるようにはできるのか?
回答→菅政権でさえ、国家公務員定数増加に転じた。 政治次第で可能と考える。

認知症現場について

認知症介護の現場経験を踏まえたご意見
認知症が迷惑に思われない、安心して認知症になれる社会を
回答→市場原理主義、生産性至上主義だから認知症が迷惑に思われてしまう。

ヤングケアラーについて
(現場経験を踏まえ)若い子どもから親への虐待で発覚することもある。
回答→虐待にいたるほど追い詰められる前に支援の手を。

緊縮財政だからヤングケアラーがおいつめられてしまうのでは?
回答→おみこみのとおり。 大阪維新などは高齢者や障害者の予算を切って若者支援を、などという方向だが、そうなると、ヤングケアラーは余計においつめられてしまう。

介護保険って必要なのか?
回答→市場原理主義であり、一部大手企業にお金をもうけさせるための道具になってしまった。 現行の保険では、逆進性もある。 やはり、介護は公費で賄うようにすべき。 当面は財政出動、そして中長期的には応能負担で。

第4回のおしゃべり会のテーマは「介護と参院選」です。これまでのオンラインおしゃべり会での議論をふまえ、現場労働者の待遇改善、そしてなによりご利用者・ご家族の安心をどう確保するか? 参院選に向けた戦略を語り合いましょう。お待ちしております。

第4回オンラインおしゃべり会「介護と参院選」
3月16日(水)20時~
Zoomミーティングに参加する
https://us04web.zoom.us/j/4117183285?pwd=bFhrcTlWOUpPRmZhUGFkTVpTZlV4Zz09
ミーティングID: 411 718 3285
パスコード: 5N6b38

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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