「総務省の4文書は捏造です」「この文書が捏造でなければ、大臣も議員も辞めます」と啖呵をきり、はては「わたしの答弁を信じられないのなら、質問をしないでください!」などと、答弁拒否にいたった高市早苗経安大臣。

この「答弁拒否」には党内からの批判もあり、参院予算委員長による異例の注意。高市大臣の発言撤回という顛末になった。師匠の安倍晋三同様、感情で発言するところにこの政治家の欠点がある。この気質はいずれ、政治生命に致命的な失策をもたらすであろう。

問題は単に言論弾圧と言われる、放送法の解釈見直しだけではない。いま永田町と霞が関で何が起きているのだろうか。高市を陥れる謀略文書なのか、それとも思想表現の自由を認めなかった政治統制への抵抗なのだろうか。


◎[参考動画]「ねつ造との認識ない」放送法めぐる行政文書の作成者らいずれも回答 “ねつ造”主張の高市氏に野党側の追及続く 高市氏は「質問しないで」発言を撤回【news23】|TBS NEWS DIG

◆小出しにしている意味は何なのか?

すでに国会で総務省が明らかにしたとおり、大臣レク(当時の総務大臣である高市への)はあった可能性が高い。しかし関係者への確認は精査を要するという。そもそも文書流出の過程がわからない。

放送法見直しにかかる高市大臣の関与はしたがって、総務相官僚によるリークだったと考えるのがわかりやすい。当時の事実関係は闇の中だが、霞が関官僚が文書をつくり、立憲民主党に流したのは間違いないところだ。

つまり、総務省によって高市大臣の過去の発言が暴露され、放送法にかかる自由権の侵害が告発された。その裏側にはしかし、岸田内閣の政局があると考えなければ話が通らない。いや、すでに政局が動くところまできてしまったのだ。閣内および党内の、高市にたいする冷淡な態度は、単に高市の失策を傍観するという印象ではない。

◆根深い財政対策と増税問題

ひるがえって、今回の暴露が大臣の進退という、みずから言い出した政局に発展してしまったところに、問題の本質があるのではないか。

すなわち、リークによって安倍派の残党たる高市早苗を政治的に葬り去る。結果としては、増税派(財務省・総務省)と増税反対派(安倍派)の政争が繰り広げられているのだ。その震源地は財務省であり、おそらくキーパーソンは麻生太郎であろう。

昨年末の防衛費増税にたいして、高市は増税反対の論陣を張ってきた。岸田政権の財政健全化政策に対しても、政調会長の立場から党内で反対の立場を突き出していた。そもそも経安相への抜擢は、高市を閣内に抱き込むことで党内闘争を封じ込める人事策だったのだ。経安相という、ほとんど実権のないポストに縛ることで、党内の最大のライバル(総裁公選で次点)を封じ込めたのだ。高市を更迭する(野に放つ)にも、岸田にはやりにくい面がある。

その意味では、岸田政権そのものが財務省と麻生太郎に揺さぶられている、といえるのかもしれない。旧安倍政権の基盤が経産省であり、税制をめぐる財務省との死闘がつねに政局の背景にあったことは、本通信でも触れてきた。そしていま、財務省の逆襲として、アベノミクスの残滓を葬り去ろうとしているのだ。

奇しくも森友事件において、財務省官僚が犠牲になった事件が想起される。安倍晋三個人が「わたしと妻が関与していれば、大臣も議員も辞めますよ!」と言いきり、その結果、財務省の職員が死に追い込まれたのだった。財務官僚たちが安倍政権にたいする、積年の遺恨を遂げようとしているようにも見える。

◆岸田は岩盤保守層を切れるのか?

安倍晋三という選挙につよい旧政権が崩壊したいま、財務省と経産省の暗闘は官邸主導に対する反乱として顕在化しつつある。総務省の問題とされながらも、じつは高市はその血祭りに上げられているのだ。

さて問題なのは、財務省に揺さぶられている岸田政権が、それでは高市を切れるのかどうかであろう。その高市早苗はガチ右翼であり、安倍政権いらいの岩盤的な保守層の支持に支えられている。

そして岸田政権の基盤はといえば、党内では圧倒的な少数派であって、むしろ霞が関に支えられる構造となっている。財務省・総務省の攻勢はまさに、官邸主導と呼ばれる安倍政権の残滓を葬るためにこそ、今回の政局を仕掛けたともいえるのだ。

もはや自民党内の問題ではなく、官邸VS霞が関、自民支持層の分裂として岸田政権に襲いかかる。そんな政局構造が見えてきそうな気配だ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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