◆どうなる解散総選挙

岸田内閣支持率の低下が止まらない。毎日新聞では、同社世論調査の1947年以来最低という16%を記録した。 それでも、岸田首相の口からは「解散総選挙」の5文字は出てこない。

元々、この5文字は、昨年末のテレビ出演で、岸田首相自身の口から出てきたものだ。以来、今年初から、一年間、当のご本人により事ある毎にちらつかされ続けてきた。

ところが、物価高騰による生活苦の深まり、それに対する無策の上の増税など、岸田政権への信頼が揺らぎ急落する中、それに追い打ちをかけるように法務、財務、文科、三副大臣の不祥事とそれが元での辞任、自民党各派閥のパーティー券、「裏金」問題、等々が重なり、解散総選挙の来年への先送りを首相自ら口にした矢先でのこの歯止めの利かない支持率続落、どん底だ。

進退窮まった岸田首相がどう出てくるか。「支持率ゼロまでやめないつもりか」など、ヤジが飛び交う中、その出方に注目が集まっている。

◆開陳された泉房穂「政権交代戦略」

そうした中、今、日本政界で急速に脚光を浴びてきているのが「泉房穂」。前明石市長である同氏の言動が時期適切、とにかく面白い。

「政権交代は一瞬でできる。こんなことを言えば、〈泉どうしたんか〉と言われそうやけど、皆できないと思いこんでいるだけ」。

これは、「週刊FLASH」12月12日号に載った彼自身の発言だ。

そこで提起された「政権交代戦略」は迫力満点、大いに説得力がある。

まず、政権交代のための基本戦術を全国289ある小選挙区で野党候補を一つに結束し、与野党一騎打ちに持ち込んで勝つことに置く。

そのために野党の一本化が必要だが、それは、政権交代のリアリティがあれば十分可能だ。言い換えれば、権力奪取の可能性があれば、幾らでも連立できると言うことだ。

その上で、重複立候補は禁止する。同じ選挙区で候補者がかち合った場合は、予備選挙をして統一候補を決める。

今日、「生活を何とかしてくれ」という国民の声がいつにも増して高まっている中、野党の一本化を実現する上で何より重要なのは、「救民」の旗を掲げ、「救民内閣」実現を目標に、それに向けた流れをつくることだ。これができれば、小選挙区での「一本化」はあっと言う間に進み、次の総選挙一発で与野党逆転、政権交代は十分可能になる。

「解散総選挙」をめぐり、岸田政権の出方が問われ、日本政界が大揺れに揺れている今、週刊誌に開陳された泉房穂氏の「政権交代戦略」。これまで自分自身の明石市長選をはじめ、数々の首長選、一騎打ちで勝利を重ねてきている同氏だけに、大いに注目に値するのではないだろうか。

この泉氏の問題提起にどう対するか。野党ばかりでなく、日本政界全体の鼎の軽重が問われているのではないかと思う。

◆「解散総選挙」の意味と「政界再編」

岸田首相が今年、一年を通して持ち出してきた「解散総選挙」には、様々な意味が込められていたと思う。

一つは、「米中新冷戦」の最前線を日本が担うための核やデジタル、等々、「日米統合」と連関する、軍事、経済など各分野での政策、施策を野党の反対、抵抗を最大限避け、スムーズに成立させるため、「解散総選挙」をちらつかせて、その矛先をかわしたということだ。

その上で、もう一つ、実はこちらの方が本命だったと思われることとして、米国は本当に岸田政権に解散総選挙を望んでいたのではないかということがある。

一昨年の総選挙大勝利により、今は、「黄金の三年」、岸田政権は向こう三年間、選挙をする必要がない。その上、この一年、当初より岸田政権への支持率は下降線を辿っていた。そこでの「解散総選挙」は、岸田政権にとって、マイナスにはなってもプラスにはならない。それがなぜ今、「解散総選挙」なのか。

求めているのは、米国くらいしか考えられない。では、その目的は何か。なんのための「解散総選挙」なのか。

そこで想定されるのは、「政界再編」だ。

今日、「米中新冷戦」の最前線を日本に担わせるため、進行する「日米統合」。そこにあって、最も立ち後れているのが政治の統合だ。

日本を「日米統合」の「新冷戦体制」に「改革」するため、自民党は一丸となっていない。その内部は、親米改革派と非米保守派に分かれており、そこには国家主義、親中派などが混在している。これでは、日本が対中対決戦をその最前線で担うことなど到底できない。

そこで狙われているのが「解散総選挙」による自民党大惨敗であり、それを契機とする自民党の親米改革と非米保守、国家主義、親中などへの分裂、与野党の垣根を超えた親米改革派の大結集、「政界再編」といった青写真なのではないか。

この間進行するパーティー券、「裏金」問題などで東京地検特捜部による攻撃が比較的国家主義的、あるいは親中的な要素、傾向が濃く、党内影響力も強い安倍派や二階派へ集中されたのは、そのことを示唆しているのではないだろうか。

◆激動の新年日本政治

新年日本政治の展望はどうか。

それは、今、世界に広がる「大動乱」、非米VS親米の世界史的攻防と無縁ではあり得ない。

「米中新冷戦」とウクライナ戦争、そしてハマス・イスラエル戦争と「三正面作戦」に直面させられ、それに覇権国家としてまともに対処できない姿を全世界に晒した米覇権が新年、その世界史的終焉を全世界の前に刻印するようになるのはほぼ疑いの余地のない事実だ。

そうした中、米国の日本における策動はどうなるか。すべてを放棄し、米国に撤退するのか、それとも、その真逆に、従来の戦略をより悪辣に強行してくるのか。答えは明確だ。後者以外にあり得ないと思う。それが米覇権回復の死活的環となる対日戦略に他ならないからだ。

この対中対決戦に向けた「日米統合」にあっても焦眉の問題、「解散総選挙」「政界再編」をめぐる闘いは決定的だ。これがどうなるかですべてが決まる。

そのために、親米改革派の大結集による「新冷戦政治体制」の構築を許すのか、それとも非米保守派、国家主義、親中派、そして何より、広範な国民の大団結に基づく新しい日本政治の実現を勝ち取るのかが切実に問われていると思う。

この闘いにあって、泉房穂氏が提起した「政権交代戦略」は、極めて示唆的なのではないだろうか。自民党惨敗が目に見えている解散総選挙にあって、「救民内閣」実現を掲げながら、与野党の良心的部分を結集し、国民に直接訴える選挙がこれまでになかった結果を生み出すことは十分に予測可能なのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』