福島第一原発で増え続ける汚染水の処分問題が大詰めを迎えている。福島第一原発事故で破損した原子炉を冷却することで発生する放射性物質を含む汚染水は、1日約150~170トンで増え続けるため、敷地内の貯蔵タンクも、2022年夏頃には満杯になると予測されている。

経産省は、2013年から汚染水の処分方法について、希釈して濃度を下げて海に放出、水蒸気にして大気に放出、地下深くに埋設などの五つの方法について技術的な検討をはじめていた。今年1月31日、経産省資源エネルギー庁の「多核種除去設備など処理水の取り扱いに関する小委員会」は、海洋放出と大気放出の2案について「前例がある」ことを理由に前向きに進めるとした案をとりまとめ、2月10日「より確実に処分できる」として海洋放出を具体的に提言した報告書を公表した。

◆西尾正道氏が指摘するALPS処理汚染水の危険性

汚染水について経産省は、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなど62種類については「多核種除去設備」(ALPS)でほぼ除去され、トリチウムのみが残存するとしてきた。さらに「自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」「トリチウムはエネルギーが低く人体影響はない」と安全性を強調してきた。

しかし、北海道がんセンター名誉院長・西尾正道氏からは、低濃度でも人間のリンパ球に染色体異常をきたすこと、原発の下流域に小児白血病やダウン症、新生児死亡などの増加していること、トリチウム放出量が多い加圧水型原子炉の玄海原発(佐賀県)や泊原発(北海道)の周辺地域で、稼働後白血病やがんでの死亡率が高まったことなどが報告されている。

しかも2018年9月には、処理後に残存するのはトリチウムだけではなく、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素129などが基準値を超え、保管量の7割に残っていることも明らかにされた。海洋放出する際には二次処理を行い希釈するというが、薄めたとしても、トリチウム始めほかの62核種が、世界規模の環境汚染、そして漁業などへ「実害」をもたらすことは必至である。

◆地元で高まる「海洋放出反対」の声

政府は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国で自粛が続く中、今夏にも処分方法を決定したいがため、4月6、13日、5月11日、6月30日に限られた団体・関係者のみを集めて意見聴取会を強行した。

この中で、福島県漁業協同組合連合会、福島県森林組合連合会、福島県農業協同組合中央会は2案に対して明確に反対を表明し、その他の関係機関や自治体首長からは、もっと多くの県民に説明をして意見を聞くべき、必ず起きる新たな風評被害に対する具体策を提示するべきとの発言が大半を占めた。

処分方法を提言した報告書に対して、福島県内59の市町村議会の中から反対の声があがり、6月25日時点で会津若松、いわき市、喜多方市、相馬、郡山市、三春町など19市町村議会が、国に対する「海洋放出反対」「風評対策要望」などの意見書を可決した(ほかに継続審議が1市)。

また漁業関係者では、全国漁業協同組合連合会が6月23日の通常総会で「海洋放出に断固反対する特別決議」を全会一致で採択、コロナ禍の感染拡大防止の自粛活動が進むなかで、一部の関係者が一方的に議論を進めていることに対して「強い不信と憤りを禁じ得ない」と怒りを表明した。さらに26日福島県漁連も「海洋放出に断固反対する」とする特別決議を全会一致で承認した。

6月23日の福島県議会開会日に、福島県議会にも反対の意見書提出を請願した時のスタンディングの様子(大河原さきさん提供)

◆三春町在住・大河原さきさんに聞く汚染水問題

汚染水の海洋放出について、何が問題かを、福島県三春町在住で「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会・三春」の大河原さきさんにお話を伺った。

── 汚染水問題で福島県内では次々と議会で反対決議などがあがっています。具体的には「海洋放出反対」から「風評対策要望」などと、地域によって温度差などがあるようですが?

三春町議会に提出された汚染水の海洋放出に反対する意見書

大河原 地域の温度差ではなく、町村部は住民の意見を反映しやすく、反対や長期保管を求める意見書となったのは町村議会が多いです。陳情や請願を行った団体は「海洋放出反対」の意見書を求めていたと思いますが、市部の議会は自民党議員が過半数を占めるため、「反対」や「陸上保管」などを引っ込めて、自民党案の「風評対策の拡充要望」を加えるなど、苦渋の駆け引きとなったところもあり、意見書提出が否決されるより、可決されることを選んだ結果です。

── 実際は福島だけではなく、日本全体、そして地球規模で論議される必要があると考えますが?

大河原 その通りです。福島県は原発事故の被害県であり、県民は被ばくや避難を余儀なくされました。また第一次産業でなりたっていた県ですが、農畜産物、海産物の市場価格は下落したままです。福島原発で発電された電力はすべて関東地方に消費されているのに、事故による放射性廃棄物である汚染水処分が、福島県の問題であるかのようにされているのは間違いです。これは原発を推進してきた日本政府が責任を取らなければならない問題です。

また原発稼働が続く限り、今後各地で起こりうる問題として、日本全体で考えなければならないと思います。今回の意見聴取会のように、政府が指名した団体だけではなく、またパブコメのように一方的に意見を書いて送るものでもなく、意見を述べたい人が誰でも述べられる公開の場をつくるべきです。原発事故によって既に大量の放射性物質を海に流してきた日本に対し、国際的な批判もある中で、海外からの意見を聞く場も公開で設けるべきです。

6月23日の福島県議会開会日に、福島県議会にも反対の意見書提出を請願した時のスタンディングの様子(大河原さきさん提供)

── 政府はこのコロナ禍でも意見会を強行するなど、処分方法決定をかなり焦っていると思えますが、何故だとお考えでしょうか?

大河原 国内外で海洋放出に安泰する人々がコロナ禍で動けず、全国的、国際的な問題になる前に、すべての関心がコロナに向いているこの機会に、「海洋放出」という、一番安価で簡単な方法を、急いで決定したかったのだと思います。それに対しては、国連人権理事会の特別報告者も、6月9日に「処理水の海洋放出に関するいかなる決定も、新型コロナウイルスの感染拡大がひと段落するまで控えるよう求める声明を発表して、釘を刺したほどです。

◆「日本政府と東電は、陸上での長期保管の用地確保のための努力をせず、漁業者を犠牲にする形で海洋放出しようとしています」(大河原さん)

── 最後に、汚染水問題で全国の皆さんに訴えたいことをお聞かせください。

大河原 原発事故によって発生した汚染水問題は、福島県の問題でなく日本全体の問題です。日本政府と東電は、陸上での長期保管の用地確保のための努力をせず、漁業者を犠牲にする形で海洋放出しようとしています。

これを食い止めるための1つの方法として、皆さんがお住いの地方自治体議会からも、海洋放出に反対する意見書を国に提出するために、9月議会に陳情や請願をしていただけませんか? 県外からの意見書が沢山出てくることで、福島県だけの問題ではないということが具体的になると思います。

4月20日に国連人権理事会の特別報告者から、汚染水の海洋放出に関する申し入れがありましたが、日本政府からの回答がなく、前述したように、6月9日、特別報告者から生命が出され、政府は6月12日に(あわてて)回答を発表しました。

回答に「7月15日までの書面での意見募集(パブリックコメント)を行っている」と書いてあり、6月15日が締め切りだったのに、経産省のホームページにも6月12日急に1カ月延長したことが掲載されました。「市民の意見を聞いている」とやってる感を見せるためだったようです。ともあれ、全国からの海洋放出反対のパブコメをたくさん経産省に寄せてください。

経産省ウェブサイト「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 及び 書面による御意見の募集について」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/takakushu_iken/index.html

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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やがて武力をともなう政争が、京の都を覆うようになる。

私兵をたくわえた、武士の発生である。われわれが最初の節でみてきた、奈良の都の政争も軍事力によるものだが、それらは律令制の兵役者の動員が焦点だった。国家の兵を動員しようとした手続きが漏れることで、反乱はいとも簡単に露顕してしまっている。奈良朝の貴族たちは、ほとんど私兵を持っていなかったからだ。

皇族の末裔である源氏と平氏が地方に土地をもとめ、あるいは武装した農民たちが荘園を押し取って地侍となったのが武士である。京都においては上皇の警護役として、北面の武士たちが、律令制下の検非違使庁や弾正台に取って代わっていた。

平安末期の保元・平治の乱をつうじて、まず平氏が中央政界に進出する。平氏の政権掌握は、藤原氏のそれと変わらない。娘を皇后や女御として天皇のもとに送り、外戚となることで実権をふるうものだ。平清盛の次女徳子(建礼門院)は、高倉帝の皇后となって安徳天皇を生んだ。武家の女性といえども、政治に関与できるのは子を産むことに限定されていた。

ところが武士の世となるにつれて、女性の政治への関与が大きくなってくる。男性的な戦乱が女性を表舞台に上(のぼ)せるという、一見して矛盾する現象が起きてくるのだ。あるいは女性たちを律令の位階・身分のくびきから、荒ぶる武士たちの時代が解き放ったというべきであろうか。

中世において際立つ女性政治家といえば、源頼朝とともに「鎌倉殿」と呼ばれ、夫の死後は「尼将軍」と呼ばれた北条政子であろう。彼女の荒々しくも情のある生きざまに、わたしたちは中世女性の逞しさを感じる。

政子が頼朝と恋愛関係になったのは、父の北条時政が京都大番役(警護)に出向いていた時期である。のちに政子は「暗夜をさまよい、雨をしのいであなたの所へまいりました」と、逢瀬の苦労を述懐している。父の反対にもかかわらず、頼朝を一途に想う大恋愛。最後は子(大姫)を宿し、堂々たるデキちゃった婚である。

したがって、気性の烈しい政子は嫉妬も並みではない。夫の頼朝も悪い。こともあろうに、彼女が妊娠中に頼朝は浮気をしていたのだ。相手は亀の前という女性だった。頼朝の側近・伏見広綱が彼女を屋敷に置いているのだという。

これを知った政子は、牧宗親に命じて亀の前が寄宿している伏見広綱の屋敷を打ち壊させた。これに怒った頼朝は、牧宗親の髻を(もとどり)を切るという恥辱を与える。牧宗親は北条時政の後妻の父親である。政子も黙ってはいない。

とうとう事態は、北条家と頼朝の対立にまで発展してしまった。北条時政は一族をひきいて鎌倉から伊豆にひきあげ、政子は伏見広綱を遠江に流罪にしてしまうのだ。武家の棟梁が何人も女性を囲うのは、後継者としての男子を得るための常識的な行為であるから、政子の嫉妬は並はずれていたというべきだろう。

そのいっぽうで政子は、義経を想う靜御前を哀れむなど、やさしい女性としての一面もみせている。静が生んだ男の子を、助命しようとしたのは有名な逸話だ。

頼朝亡き後の政子は、まさに尼将軍にふさわしい活躍だった。わが子で二代将軍の頼家は分別がさだまらない若武者で、きわめて独裁的な執政をおこなった。御家人の反発を抑えるために政子がしのんだ苦労はしかし、鎌倉が第一であってわが子のためにするものではなかった。

◆尼将軍

頼家の失政がつづき、さらに乳母の夫の比企能員を重用するにおよんで、北条氏と二代将軍頼家の対立は頂点にたっした。北条氏は政子の名で兵を起こし、謀叛の動きをみせた比企能員を討伐する。頼家は政子の命で出家させられ、伊豆修善寺に幽閉されたのちに暗殺された。それも政子の意志であっただろうか。

幕府を確固たるものにするために尼将軍政子の戦いは、実家の北条時政をも相手にせざるをえなかった。時政の後妻・牧の方という女性がなかなかの陰謀家で、三代将軍実朝を廃して女婿の平賀朝雅を将軍にしようとしたのだ。政子はやむなく弟の義時とともに、父を出家させて伊豆に追放した。だが、わが子実朝は頼家の子・公暁に殺されてしまう。

一族が相撃つ悲劇に苦しむ政子は、後鳥羽上皇に使者をおくり、上皇の皇子を鎌倉将軍として迎えようとする。

ところが、上皇は皇子を下らせる交換条件として、みずからの側室の荘園の地頭の罷免をもとめてきたのだ。この上皇の要求は、征夷大将軍の専権事項をくつがえしかねないものである。ここに、幕府と朝廷は冷戦状態に入った。

承久三年、後鳥羽上皇は京都守護を攻めて挙兵した。義時追討の院宣が発せられたのである。承久の乱である。このとき政子は、御家人たちに頼朝への恩義を言い聞かせ、彼らに鎌倉への忠義をもとめた。『吾妻鏡』にある、政子の演説を掲げておこう。高校生の歴史の史料問題でおなじみの一文だ。

皆、心を一にして奉るべし。これ最期の詞(ことば)なり。
故右大将軍、朝敵を征罰し、関東を草創してより、このかた、官位と云ひ俸禄と云ひ、
その恩すでに山岳よりも高く、溟渤(めいぼつ)よりも深し。報謝の志浅からんや。
しかるに今 逆臣の讒(ざん)によって、非義(ひぎ)の綸旨(りんじ)を下さる。
名を惜しむの族(やから)は、早く秀康(ひでやす)、胤義(たねよし)らを討ち取り、
三代将軍の遺跡(ゆいせき)を全うすべし。
ただし、院中に参ぜんと欲する者は、只今申し切るべし。

※秀康は藤原秀康、胤義は三浦胤義で、三浦は亡き頼家の妻を娶っていた関係で、在京中に鎌倉に造反した。

政子の檄にしたがった東国の軍勢は、19万騎といわれている。帝の錦旗を前にしてもひるむことなく、軍勢は北陸と美濃(墨俣)で朝廷軍をやぶった。京都は関東勢に蹂躙され、後鳥羽上皇は隠岐に配流となった。この乱に勝利することによって、鎌倉幕府の権威は全国に達することになったのである。

同時にそれは、天皇制が地に堕ちた時代の始まりである。所領(荘園)と座(専売権)を武士に押し取られた朝廷と公家は困窮し、受領名が勝手に名乗られるなど、天皇の権威は崩壊する。

ところで、承久の変は政子のように武家の棟梁となった人物の夫人であればこそ、果たすことができた女性政治家の壮挙なのかもしれない。それにしても、乱世のはじまりは、女性が家に籠って夫が通ってくるのを待つ受け身の状態から解放した。
女性たちは武器をとることも厭わなかったようだ。前述した二代将軍頼家が、建仁二年に修善寺に幽閉されたとき、警護したのは十五人の女騎だったと記録がのこっている(『日本の中世4』細川諒一)。

時代をくだって新田義貞が鎌倉を攻めたときに、材木座海岸で合戦になっているが、この合戦場跡地から249体の遺骨が発掘され、そのうち76体が女性のものだったと判明している(『骨が語る日本史』鈴木尚、『合戦場の女たち』横山茂彦、情況新書)。南北朝争乱の時期の記録『園太暦』(洞院公賢)にも、山名勢の残存兵は女騎ばかりだというものが残っている。中世は女性の時代だったのかもしれない。

◎[カテゴリーリンク]天皇制はどこからやって来たのか

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など多数。

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◆現役時代

鴇稔之(とき・としゆき/1963年5月3日生)は目黒ジムの、TBSテレビ放映時代末期の1980年1月、高校一年生の時に入門し、この老舗のジムで、創生期から多くのチャンピオンを輩出した歴史を間近で見て、先日亡くなった藤本勲会長と最も長く接してきた純粋なキックボクサーである。

王座初挑戦は21歳の時、武藤英男(伊原)と対戦は惜敗(1984.11.30)

防衛戦に臨む鴇稔之、リングに入場(1992.9.19)

1981年11月デビュー後、日本王座はフライ級で1度、バンタム級で3度目の挑戦で丹代進(早川)との王座決定戦を制し初獲得。菅原誠司(花澤)、三島真一(光)、船津勝人(治政館)らを相手に4度防衛。他、タイの大物プロモーター、ソンチャイ・ラタナスワン氏が率いる殿堂ランカーとの激闘に加え、日本フライ級チャンピオン.松田利彦(士道館)とのチャンピオン対決を制し、全日本バンタム級チャンピオン.赤土公彦(キング)との事実上の統一戦は引分けるも、いずれも名勝負を展開。1993年5月、室戸みさき(山木)に判定で敗れ、6年に渡る王座から陥落。減量がきつく、フェザー級転向も同年11月の初戦から挑戦者決定戦で再び室戸みさきと対戦し敗れ去った。ここに至るまで、鴇は左眼の疾患が原因で、相手の右フックでノックダウンすることが増えた結果、1994年(平成6年)11月、引退。

◆左眼の異変

1988年、アメリカ・カリフォルニア州遠征での試合の際、各州が義務付けるアスレチックコミッションの検診を受けた結果、眼圧が高いと診断され帰国後、日本で再検査を受けたところ、緑内障で左眼外側(耳側)の視野が狭いことが発覚。日常は右眼がカバーしたり、視線をずらすことで周囲はハッキリ見える為気付き難いという。相手の右フックでノックダウンすること増えたのはこのせいだった。

更に網膜裂孔を発症し、左眼はほぼ見えなかった。治療ではレーザーでの網膜修復や、眼玉を取り出して細かい部分まで再検査するといった聞けば怖くなるような手術は成功するも、後に網膜剥離も発症し、引退に導かれてしまった。眼疾患は無情な運命を迎えるものである。

[左写真]船津克人(治政館)と対峙する鴇稔之(1992.9.19)/[右写真]船津勝人との防衛戦、ハイキックが冴えた(1992.9.19)

[左写真]昭和の名レフェリー、李昌坤氏の勝者コールは何度受けたことか(1992.9.19)/[右写真]日本バンタム級チャンピオン.鴇稔之(目黒)、この時代の王座は価値があった(1992.9.19)

室戸みさき(山木)に敗れ王座陥落(1993.5.21)

目黒ジムで小野寺力とのスパーリングパートナーを務める(1995.4.25)

◆アマチュアムエタイへ進出

引退後は目黒ジムトレーナーとして選手を育てる側に回った。1990年代後半は後輩にあたる新妻聡、小野寺力らを指導し、幾人も日本のトップクラスに君臨させた。更に2011年には石井宏樹をラジャダムナンスタジアム・スーパーライト級チャンピオンに育て上げた。

鴇稔之は引退前からアマチュアムエタイにも力を注いでおり、毎年のアジア大会には日本勢を率いて参加してきた実績がある。タイ国はムエタイをオリンピック競技種目に加わることを目標にしており、その道程は険しくも、アジアエリアに於いて実績を積み重ねている中、今年は3月開催予定だったアマチュアムエタイ世界大会が、残念ながらコロナウィルスの影響で開催10日前で中止。数々の世界的スポーツイベントが中止になって来た今年の不運であった。

2007年5月、鴇稔之は大田区蒲田にKickBoxジムを開設すると、更にプロ・アマチュアともに自ら選手を育てる環境を整え、現在プロに於いてはジャパンキックボクシング協会事務局長を務めている。

◆目黒ジム危機から聖地を守る

1966年(昭和41年)、日本で最初のキックボクシングジムとして誕生した目黒ジムは、キックの帝王・沢村忠が所属し、富山勝治、亀谷長保をはじめ、多くの名チャンピオンを生んで来たその歴史は長い。そしてその聖地となった目黒区下目黒にある目黒ジムだったが、過去に何度か目黒ジム存続の危機が襲っていた。鴇稔之はそのすべてを見て来た一人である。最初はデビュー前のことで、1981年6月、権之助坂の名物だったガラス張り目黒ジムは目黒雅叙園近くにあるプロボクシングの野口ジムに吸収される形で移転。ここは1950年にライオン野口こと、野口進氏が御自身所有の敷地に開設した本家のジムであった。

目黒ジムでトレーナーとして小野寺力を指導(1995.11.17)

更に鴇稔之が直接関わったものは引退後の1995年から目黒ジム存続の危機が続いていった。諸々の事情は省かせて頂くが、ジム建屋が抵当に入り、賃貸契約を結んで経営続行、本家だったボクシングの野口ジムは北千住へ移転した。

更に2003年、建屋は解体されマンション建設に移った。その地下に藤本ジム開設に導くことに成功し2005年4月、落成式を迎えた。この聖地を守ることに全力を尽くした藤本勲会長と鴇稔之だった。

目黒ジムでのミット持ちは定着した存在(1996.4.11)

新時代のスターが揃った中ではあるが、残念ながら藤本勲会長重病の為、2020年1月31日(練習日は30日が最後、31日は撤収日)をもって歴史と伝統の聖地の幕を閉じ、同所を手放すこととなった。そして5月5日早朝に訃報が入り、藤本会長は永眠。静かに家族葬が行われたが、鴇稔之は関係者を代表して特別に通夜に参列。藤本会長は眠っているような穏やかな表情だったという。亡くなる一週間前にも電話で「“コロナ騒ぎでジムの練習生は減ってないですか?”と心配してくれる優しい藤本会長でした」と語る。

聖地を離れても、今後も目黒ジムの歴史と伝統を受け継ぐことへ、所属選手は皆それぞれの道へ進みつつ想いは同じであろう。過去、目黒ジムから独立した選手が開設し、活動を続けるジムが10箇所程あるが、鴇稔之氏は目黒一門会としての興行も目指している。

目黒ジムで名トレーナーとなった鴇稔之(1996.4.11)

新築された藤本ジムの披露パーティーにて、選手を引き連れ御挨拶(2005.4.17)

◆野口修さんとの最後の会話は新スタジアム構想

鴇稔之は老舗に関わる人物との交流は深い。キックボクシング創設者、野口修氏は2016年3月30日に永眠されたが、最後までお付き合いがあったのは鴇稔之であった。その最後となった会話の中には野口修氏のキックボクシングスタジアム構想があった。

タイのルンピニースタジアム、ラジャダムナンスタジアムに匹敵するボクシング向きの会場を作り上げようじゃないかという構想だった。

「いいブレーンが集まってきているからやれるぞ!」という野口修氏の試算があり、生涯最後の仕事として立ち上がりかけたところで、野口修氏は肺気腫で亡くなられてしまった。

野口修氏の人生は若い頃からとてつもない大きな野望を持って挑んで来た人で、渋谷、新宿、丸ノ内等、日本の一等地を候補に挙げていた。実際にはそうはいかぬ一等地でなくても、やや郊外での可能性は残っているだろう。その野望を聴いていた鴇稔之。遺志を受け継ぐことは難しいが、タイのようなスタジアム王座は、協会や連盟等の実態の掴み難い組織でなく建設物として残るが故の、ここに集まる群衆が価値を高めていき、支配人が辞任や死去に至っても必ず後継者が受け継ぎ、王座の価値は続くだろう。それが格闘技の殿堂後楽園ホールに例えれば分かりやすく価値が高いと考えられるが、実際は無理な話で、新たに日本にキックボクシングスタジアムが建てられたら理想的と以前から明言している。

セコンド姿も定着した鴇稔之氏(2016.9.18)

チーフセコンドとしての姿、内田雅之にアドバイス(2018.1.7)

◆キックボクシングの真の組織作り

「キックボクシングは公的機関が管轄する下で運営されないと真の競技とはならない。スポーツ省(庁)が定めてくれるのが望ましいが、それはまだまだ無理でも、キックボクシングが誕生して50年以上経つのだから、業界一丸となって確固たる組織作りに動き出さなければならない。」

そんな理想を語る鴇稔之氏はジムを運営し、トレーナーとして強い選手を育てることが本業で、決してスタジアム建設や公的機関に働きかけることが使命ではない。しかし強い選手を育てても、日本エリアでも世界広域でも乱立した中の一つのチャンピオンとなってもそこでの最高峰とは言えず、世間から評価もされず稼ぐことも出来ない。そんな勿体無い競技人生となってしまうことへの改善策として、アマチュアとしてもオリンピックを目指せる環境を整備し、プロとしてもムエタイ二大殿堂に匹敵する日本のスタジアム建設や、公的機関が定めるライセンス制度に業界を導こうとしている人物なのである。そういう思想を持ってメジャー競技に導き、自らの教え子がこの頂点に立つことを目指し活躍する鴇稔之であった。

その鴇稔之氏にこの格闘群雄伝の今後の価値も導く第一回掲載に選出し、御登場頂いた次第でありました(敬称略あり)。

高橋勝治のセコンドに付く鴇稔之(2019.3.3)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

5月20日に発表された宮司の死について、ここでは「怪死」としておこう。殺人など事件性のある「怪死」という意味ではない。おもて向きの発表が「病死」でありながら「自殺」が疑われているからだ。そしてじつは、そこにこそ宮司の死の真の原因が顕われているからである。

というのも、このかん神社本庁の実態を報じてきた「ダイヤモンド」(6月12日付/編集部・宮原啓彰)によれば宮司の死を、
「神社本庁は『存じていない』とし、岩手県神社庁は『心筋梗塞による病死と聞いている』とダイヤモンド編集部の取材に答えた。」
「だが、複数の神社本庁や岩手県神社庁、盛岡八幡宮の各関係者によれば自殺だったという。直前には、盛岡八幡宮の宮司を休職、神社本庁や神政連にも辞表を提出しており、覚悟の上での自死だったのではないかと見られている。」
としているのだ。もしも「自死」だとしたら、その原因は何なのだろうか?

 

岩手県神社庁長・盛岡八幡宮宮司だった藤原隆麿氏の訃報(2020年5月20日付中外日報)

「怪死」したのは藤原隆麿氏(岩手県神社庁長・盛岡八幡宮宮司・66歳)である。肩書のとおり岩手県神社界のトップであるとともに、藤原氏は全国7万9000社の神社を統括する神社本庁の理事、そして憲法改正を推進する神道政治連盟の総務会長なのだ。まさに大物宮司の謎多き「怪死」である。

だが、これを詳報した「ダイヤモンド」によれば、前出の宮司職の休職も、神社本庁や神政連への辞表にも、有力な動機がある。藤原氏を刑事告訴する動きがあったというのだ。したがって自殺である可能性が高い。

神社本庁といえば、不動産売買(職員用宿舎の売却)をめぐって、執行部(田中恆清総長・小野崇之総務部長=当時)の背任疑惑があり、内部告発が行なわれている。その告発者への処分も行われている。

◆三角不倫疑惑

藤原氏を刑事告訴する動きとは、それでは何だったのだろうか。その動きが明らかになるのは、3月に暴露されたスキャンダルにさかのぼる。

そのスキャンダルとは、神社本庁の秘書部長兼渉外部長の小間澤肇氏(57歳)とその部下の女性職員(51歳)の不倫疑惑である。ふたりは新宿歌舞伎町のラブホテルから出てきたところを、張り込んでいた取材陣に活写されたのだ。ふたりは焼き肉屋で飲食ののち、ラブホテルに2時間滞在したという。計画的な取材であることから、内部からのリークによるものであるのは明白だ。(2020年3月16日付『週刊ポスト)

そしてじつは、「怪死」した藤原氏を刑事告訴しようとしていたのは、ほかならぬこの不倫疑惑のある女性職員なのだ。藤原氏から何らかの被害を受けた彼女は、小間澤氏にラブホテルで「相談していた」というのだ。なぜ焼き肉屋で「相談」は終わらなかったのだろうか。三角不倫を想像させるが、それはともかく、事件の概要を整理してみよう。

藤原氏→何らかの犯行?→女性職員→相談?(焼き肉屋・ラブホテル)→刑事告訴の準備?→藤原氏→怪死(病気か自殺) という構造なのだ。

藤原氏と女性職員のあいだに何があったのかは、もはやわからない。だがたとえば、元テレビ局の記者で自称ジャーナリストによる昏睡レイプ事件が、民事では有罪になっても刑事では立件もされない現実を考えると、相応の事実があったのだろう。事実無根として戦う余地がなかったのだと考えられる。その意味では、藤原氏は神職者らしく恥を生きることを拒否して、帰幽(逝去の神道用語)されたのかもしれない。

不倫がいけないとか、神職でありながらけしからんとかの道徳者視点で批判をするつもりはない。しかるに、神社本庁およびその政治団体である神道政治連盟は、夫婦別姓に対して「家族崩壊」につながる。あるいは「不倫の温床になる」と批判をくり広げてきたはずだ。その意味では、死に値する事態だったのかもしれない。

 

ラブホテルから出て来る小間澤肇氏と部下の女性職員(2020年3月2日付地球倫理:Global Ethics)

◆その利権と内部抗争

そして問題なのは、小間澤氏が神社本庁不動産不正取引疑惑を告発した元総合研究部長の稲貴夫氏を懲戒免職処分に、同じく財政部長の瀬尾芳也氏を降格処分にした責任者であることだ。このことからラブホテルの一件(リーク)は、おそらく反執行部側の人物によるものであろうと考えられるのだ。不倫疑惑事件の背後に、明らかな内部抗争がみてとれる。

じっさいに、稲氏と瀬尾氏が処分無効等を求めて東京地裁へ提訴したさいに、小間澤氏は「処分は妥当」とする神社本庁側に立って陳述書を提出しているのだ。そうすると、今回の事件(ラブホスキャンダル・藤原氏の怪死)は、三角不倫と思われる三人のうごきをつかんだ反執行部派がリークした上に、執行部の重鎮でもある藤原氏を刑事告発するうごきがあったと考えるべきであろう。

ここで、上述した神社本庁不動産不正取引疑惑を解説しておこう。疑惑が露見したのは、2015年のことである。全国の神社から選出される評議員会において、神社本庁所有の「百合丘職舎」の売却が承認された。売却先はディンプルインターナショナルという不動産会社で、その額は1億8400万円であった。ところが、ディンプルは百合丘職舎を転売し、最終的には3億円をこえる物件として大手ハウスメーカーの所有となったのだ。

転売した売却益はどこへ行ったのか? いや、それよりも問題となったのは、基本財産目録に記された百合丘職舎は、簿価ベースで土地建物合わせ7億5616万円だったのだ。この一件をめぐって、背任との内部告発が行なわれ、告発者が処分されたのは前述のとおりだ。

民間の財団である神社本庁が憲法改正を掲げ、日本会議など右翼団体に大きな位置を占めているのは、一般にも知られるところだ。あるいは日本遺族会の一部とともに、天皇の靖国参拝を求めている。きわめて政治性の強い組織であるいっぽう、じつに穢れた利権抗争をその内部にはらんでいることが鮮明になってきた。継続して、神社本庁および神道政治連盟の実態を明らかにしていきたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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私は、このかん標記の「カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)」の検証と総括作業に取り掛かっています。このブレーンストーミングを兼ねて、くだんのリンチ関連本5冊や「デジタル鹿砦社通信」の記事などを読み直し、資料を整理してきました。この作業の一端として4月からこの連載をやって来ました。

誰が撮ったか、ネットに出回る香山リカの雄姿!怖い!

今「平気で嘘をつく人たち」について記述していますが、やはり忘れてならないのが香山リカでしょう。彼女が鹿砦社に対して行った誹謗中傷ツイートはひときわ多いです。

本来なら名誉毀損で提訴するところ、今のところは対李信恵、対藤井正美との訴訟に集中するためにペンディングにしていますが、決して諦めたわけではありません。

「売られた喧嘩は買う!」「挑発には乗る!」を信条としてきた「棺桶に片足を突っ込んだ爺さん」(by藤井正美)としては、このままでは終われません。ここでは、香山のツイートを幾つか挙げてコメントしておくに留めます。

「ガチャ切り」されたとの大ウソ!

◆鹿砦社取材班が電話を「ガチャ切り」した!?

香山には、他のリンチ隠蔽に関わったと推認される者らと同様、質問書を送っています。当初は、自宅住所が把握できませんでしたので大学宛に郵送し回答がないので、彼女が業務委託している事務所に電話しました。ところが、「ガチャ切り」されたなどとの事務所の者の言葉か、香山自身が盛った言葉かわかりませんが、そうツイートしています。

しかし、これはウソです! 取材者は「ガチャ切り」などしていませんし、終始慇懃丁寧に対応しました。これは音声データがありますので、香山のツイートがウソだとわかります。

だってそうでしょう、相手が録音しているかもしれないのに「ガチャ切り」などするわけがありません。取材者は鹿砦社本社から電話しましたが、この場に私もいて聞いていましたので間違いありません。あまりに稚拙なウソです。

◆質問書を「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」というから素直に書いてみましたが……

次は、鹿砦社のツイッターアカウントが一時止められ有名になりましたが、質問書を「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」というから、素直に応じ送った住所を答えました。この頃には、各方面からの情報提供もあり自宅住所も把握でき直撃取材するかと思っていたところでした。

ところが香山は、自らの挑発に私たちが率直に対応したことに慌てふためき、神原元弁護士に連絡し助けを求めたのでした。香山先生、あなたが「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」と言ったんじゃなかったんですか!? 

[左]「どこに送付したかちょっと書いてみては?」というから書いてみました。[右]慌てふためいて守護神・神原元弁護士に事態収拾を依頼

◆鹿砦社が裁判を起こし「小口ビジネスモデルに活路を見出した」という大ウソを捏造した香山の「責任は重い」!

「小口ビジネスモデルに活路を見出した」?

さらに香山は、創業50年にわたり一貫として出版社としての矜持を堅持して出版活動を継続してきた鹿砦社に対し、あろうことか、「『裁判を起こす→支援者からカンパで費用を集める→本を出して支援者に買わせる』という小口ビジネスモデルに活路を見出したのだろうか」などと倒錯した記述をしています。

「カンパで費用を集める」? 「本を出して支援者に買わせる」? M君裁判は、あえて鹿砦社は費用は出さず、広く心ある皆様からのカンパで賄いましたが、そのカンパを鹿砦社が流用し、これで本を出したことは断じてありません。会計報告を出さず資金の行方に疑問譜が付く「李信恵さんの裁判を支援する会」と違い、M君裁判支援会では、弁護士が管理し、皆様方の前に収支を報告しています。

作った5冊の本の費用は鹿砦社が出しカンパ金は1円も使ってはいません。また、本は、広く関心のあるみなさんには任意で買っていただきましたが、(半)強制的に「支援者に買わせる」ことなどしてはいません。むしろ、取材や支援会運営に協力してくれた者には献本しました。さらに鹿砦社 vs 李信恵/藤井正美訴訟の費用は、M君訴訟へのカンパは1円も流用せず、全て鹿砦社自身の資金で遂行しています。

「小口ビジネスモデル」? いい加減なことを言わないでください。香山による、このツイートは鹿砦社に対する度し難い名誉毀損です。

◆私たちに「しつこく嫌がらせをされ続けている」とウソを公言している香山の「責任は重い」!

「お金取り尽くしたらそれで終わり」? 失礼なことを言わないでください!

香山の“毒舌”は続く──「その後しつこく嫌がらせされ続けている。私だけではない。今日、高裁でそれは『リンチ』ですらなかったと確定した。鹿砦社の責任は重い。」

私たちにいつ、どのような「嫌がらせされ続けている」のでしょうか? 具体的に明らかにしていただきたいものです。私たちは、あくまでも取材の範囲内でのアプローチであると認識していて「嫌がらせ」などやったことはありません。このかん特ダネを連発している「文春砲」の足元にも及びません。

裁判所は、判決文のどこに「『リンチですらなかった」と書いていますか? リンチがあったからこそエル金こと金良平らに罰金(刑事)や賠償金(民事)を課したのではないですか? リンチ被害者M君のリンチ直後の写真をしかと見よ! リンチの最中の音声データを聴け! 凄絶な殴る音を聴いて、香山先生、どう感じますか?

「鹿砦社の責任は重い」だって?── 私たちは(少なくとも私は)出版社(者)としての「責任」から、このリンチ事件の被害者救済/支援と真相究明に乗り出しました。これはリンチという現実に直面した時に、一人の血の通った人間として、また出版人の末席を汚す者として、私(たち)の選択は正しかったと今でも思っています。みなさん、そうではないですか? 私の言っていることは間違っていますか?

香山こそ、リンチ事件の隠蔽に加担し、逆に私たちの真相究明の作業に茶々を入れたり、「小口ビジネスモデル」など、ありもしないことを公言したりし、私たちを誹謗中傷し名誉を毀損しました。その「責任は重い」と断じざるを得ません。

「しつこく嫌がらせされ続けてる」というウソをつく香山先生の「責任は重い」!

◆高橋直輝こと添田充啓の死についても香山らの「責任は重い」!

同志・安田浩一と(沖縄にて取材班撮影)

最後にもう一言。高橋直輝こと添田充啓が、死因不明で亡くなり2年が経ちました。香山先生、三回忌はされましたか?

高橋(添田)は、執行猶予中で沖縄に、まさに“鉄砲玉”として送られ逮捕、勾留されました。精神的に追い詰められていたとも耳にしましたが、事実はどうなのでしょうか? 

高橋(添田)の死因が、彼を精神的に追い詰めたことにあるのならば、香山やしばき隊界隈の者らの「責任は重い」と言わざるをえません。

香山は精神科医として、精神的に病んだとされる高橋(添田)に親身になって寄り添うべきではなかったのか、この意味でも香山の「責任は重い」と言わざるをえません。(本文中敬称略)

この連載は今後も続きます。次回は、最近明らかになった“あること”に対し怒りを持って糾弾します。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/
鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

《7月のことば》人間万歳 何があっても 生きてゆくんだ(鹿砦社カレンダー2020より/龍一郎・揮毫)

今年も半年が過ぎ後半に入りました。コロナ、コロナで振り回された半年でした。多くの方々が感染され、また不幸にも多くの方々が亡くなられました。

さらには、本来ならお店を閉めたり事業を停止しなくてもいいのに、コロナのせいで休業や事業停止に追い込まれた方々も少なくありません。

幸いにもまだ鹿砦社は、売上の低下は余儀なくされつつも、のた打ち回り奮闘しています。せっかくこれまで頑張ってきたのですから、今自転車を漕ぐのを止めるわけにはいきません。

人間万歳 ── 魂の書家・龍一郎らしい言葉と筆致です。本年後半、日本は、世界はどうなるのでしょうか。なにがあっても生き抜こうではありませんか!

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

〈原発なき社会〉をもとめて『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

「安倍政権の敵=すべて正義」という思考回路になっているのだろうか。いま話題の国会議員夫妻、河井克行氏(57)と案里氏(46)の公選法違反(買収)事件に関し、普段は「反権力」をウリにする識者たちが繰り広げる発言を見ていると、そう思わざるをえない。

これまでの報道などを見る限り、河井夫妻が地元広島で大勢の地方政治家たちに金を渡していたことや、昨年7月の参院選の際に官邸から河井陣営に1億5000万円の資金が渡っていたことは事実で間違いないだろう。ただ、河合夫妻は「買収」目的で金を渡したことは否定し、無罪を主張している。であれば、無罪推定の原則に従い、夫妻の主張の信ぴょう性も慎重に検討されるべきだろう。

しかし、「反権力」がウリの識者たちのメディアやSNSでの発言を見ていると、河井夫妻を有罪と決めつけたうえ、検察の捜査が政権中枢に及ぶことを期待する意見に終始しており、「検察の応援団」と化している趣だ。しかも、彼らの発言内容を見ていると、自分で独自に取材などはしておらず、報道の情報に依拠して発言しているのは明白だ。

彼らは普段、「権力は暴走する」だとか、「権力は監視しないといけない」だとか、「現場に足を運ぶのが取材の鉄則だ」などと言っておきながら、自己矛盾を感じないのだろうか。

筆者自身、安倍首相のことは好きではないし、無罪推定の原則を絶対視しているわけでもない。しかし、普段は「反権力」をウリにする識者らがこの事件に関し、事実関係をないがしろにし、「検察の応援団」となって盛り上がっている様子には、正直げんなりしてしまう。

有罪視報道を繰り広げるマスコミ

◆事実を見極める目を曇らせるものとは……

検察捜査への疑念を表明した橋下氏と堀江氏のツイッターでのやりとり

この事件に関する著名人の発言をチェックしてみると、普段は「反権力」などと声高に言わない人たちのほうが、むしろ「権力監視」や「無罪推定」といった原理原則に沿った発言をしていることがわかる。たとえば、元大阪府知事の橋下徹氏だったり、実業家の堀江貴文氏だったりだ。

スポーツ報知の記事(http://ur2.link/UqHa)によると、橋下氏は報道番組に出演した際、金を受け取った政治家たちが河井夫妻側の意図について「選挙買収目的でした」と検察の有罪立証に資する証言をし、立件されずに済んでいることを問題視。堀江氏もこのスポーツ報知の(グノシーで配信された)記事に、ツイッターで反応し、橋下氏とやりとりする中で、「正式に司法取引してないんですか、、普通にすればいいのに」(http://ur2.link/oZWJ)などとツイートしている。要するに2人は、暗に検察が違法な司法取引をやっている疑いを指摘しているわけだ。

そして橋下氏は結論的に、金を受け取った地元広島の地方政治家たちの証言の信用性に疑問を投げかけたうえ、「有罪心証報道が先行し過ぎ」(http://ur2.link/THKi)と述べている。刑事事件や事件報道の見方として、きわめて的確な意見で、まったくケチのつけようがない。

翻ってみると、橋下氏や堀江氏は普段、「反権力」をウリにする識者たちから批判的されることが多い人たちだ。そういう人たちがこの事件の検察捜査への疑念を表明する一方で、普段は「反権力」をウリにする識者たちが報道の情報に依拠して「検察の応援団」に化している現実を目の当たりにすると、「歪んだ党派性」は事実を見極める目を曇らせるのだということを再認識させられる。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

◆「特重」問題とは何か

「特定重大事故等対処施設」略称「特重」。現在稼動している原発も「新規制基準適合性審査」の審査書が決定し再稼働準備中の東海第二や柏崎刈羽6、7号機、女川原発2号機も、どこも完成していない。これが完成しない限り、本来は原発を動かすことは出来ないはずだった。

「特重」は既存の原発とは別棟として建てられる。そこには原発の中央制御室を代替できる設備として、原子炉を直接コントロールできる制御盤等がある緊急時制御室、送電線からではなく自立的に発電できる発電設備、格納容器に水を送るスプレイポンプ、溶融した炉心を冷却する水を送るポンプ、そしてこれらの水源(淡水タンク、枯渇する場合は海から取水)を設置する。これが「特重」の主な役目だ。

「特重」とは、いかなる考え方から出てきたのか。

「『特定』重大事故等対処施設」とは、重大事故が起きている状況下でさらに『特定』のシナリオに乗って拡大することを防止するために対策することであり「特定重大事故等対処施設」として準備するよう法令上(原子炉等規制法第43条)で義務づけた。「テロ対策」のみをするような設備ではない。

新規制基準では「重大事故対策」が必須であり、それをさらに超えるシナリオ、予測困難な事態を想定しなければならない。そのことから「重大事故」の発展として「特定重大事故」がある。テロ対策はその中の1つに過ぎない。

現在重大事故になり得るものとして想定されているのは「地震」「津波」に加え、「火山噴火」「竜巻」「大規模火災」「内部溢水」などがある。

これらが発生し、原子炉冷却用のシステムが使えなくなり、外部電源はもちろん非常用電源も全て失って、炉心溶融へと進行し福島第一原発事故への道を辿る恐れが高まった場合に、代替冷却、拡散防止対策を実行できるように「特重」が設けられる。

なお、「テロ対策」としても機能させるかの法令上の記載、国や事業者の説明があり、マスコミでもそのように記載しているが、特重を対テロ施設、設備として活用できる証拠は何処にも示されていない。国や事業者は「テロ対策施設、設備は相手(テロリスト?)に手の内を晒すわけにはいかないから「秘密」などともっともらしいことを言うが、これは説明責任を回避するための方便に過ぎない。

特重については、規制委が2015年11月13日に出した文書に考え方が書かれている。

「特重施設等は、発電用原子炉施設について、本体施設等(特重施設等以外の施設及び設備をいう)によって重大事故等対策に必要な機能を満たした上で、その信頼性向上のためのバックアップ対策として求められるものである。」現状の重大事故対策では不足しているので、重大事故時においても大量の放射能を格納容器の外に出さないなどの規制基準を満たす「信頼性向上」のために求められている。

更田豊志委員長は「施設が完成し、実際に使えることがきちんと示せて初めてOKとなる」としているが、私たちに具体的な実証をしないまま理解を求められても認めるわけにはいかない。

「対テロ施設」が必要な状況ならば、テロ攻撃を受けるリスクのあるものを作るべきではない。現実に航空機の故意による衝突による攻撃があり得ると想定しているのであれば、そのような攻撃を受けた場合は「特重」があろうとなかろうと、結果に大きな違いはない。なぜならば「特重」の機能を使う想定をしているケースでは、炉心が溶融し、建屋にも大きな損傷が発生して格納容器から大量の放射性物質が拡散し続ける中、放水砲で大量の水を掛けてチリをたたき落とすことを「最終防衛」としている。この程度で大量放出を本気で止められると信じる人はいない。

大規模な土木工事を実施し、1000億円以上(川内原発は2基分で2420億円)もの費用を掛けても、福島第一原発事故を超える事故にならないような対策をすることはできない。ましてテロ対策としての特重では、攻撃内容、規模などが想定不可能なので、その実効性についての評価も不可能だ。

◎[参考資料]原子力規制委員会が2015年11月13日に出した特重に関する文書

◆全原発へのフィルタ・ベント設置

 新規制基準では「フィルタ・ベント」設置が全原発で要求されている。格納容器から配管を出して高圧になった蒸気を外へ抜く装置だ。原発サイトによっては、これを「特重」に分類するか、一般の重大事故等対処設備に分類するか違いがある。東海第二や柏崎刈羽原発の場合は、これを一般の重大事故等対処設備に分類しており、再稼働するときには必須なので新規制基準適合性審査前に工事を行っている。

◎[参考図版]柏崎刈羽原発のフィルタベント設備概念図(東京電力)

 

◎[参考図版]高浜発電所1、2号機の特定重大事故等対処施設について(関西電力)

一方、PWR(加圧水型炉)の9原子炉(大飯・高浜・玄海・川内・伊方など)の場合、「フィルタ・ベント」装置は「特重」に分類されているので完成するのは特重設置と同時で良いとされる。

「フィルタ・ベント」を再稼働後で良いとする理由は、炉心溶融が発生し放射性物質や水素ガスが充満するような状況で、格納容器が危機的な場合でも、BWRよりもPWRの格納容器の体積が大きく破壊されにくいとしているからだ。しかし事故の進行具合で、いくらでも変わり得るところである。大きな格納容器のPWRの場合はBWRよりも耐圧(格納容器が圧力に耐える力)が低いという問題もあり「フィルタ・ベント」を後回しに出来る理由にも疑問がある。

フィルタ・ベントには原発の設計思想と運用上の問題もある。ベントは福島第一原発にもあった。しかしこれは3号機では使用できたと見られるが、2号機では使用できなかったと考えられている。そのため2号機の格納容器は破壊され、放射性物質が大量に放出されている。

福島第一原発のベント装置は後から排気筒に配管を伸ばして取り付けたもので、電源がなくなると使用できなくなり、さらにバルブ開放は人が格納容器直ぐそばに行かなければならなかった。このため大量被曝覚悟の作業になってしまった。その反省でベント装置を独立して設置し、制御室からの遠隔操作で作動可能としている。

しかし本来は最後の砦として密封し続けるべき格納容器に予め穴を開けるような行為には問題がある。また、ベント装置の間には水槽があり、一端水の中を気体が通過することで放射性物質を取り除き排気するが、ここで大きく除去できるのは水に溶けやすいヨウ素や水で冷やされれば固体になるセシウムなど。希ガスのクリプトン、キセノンは全量放出される。それが敷地内空間に滞留した場合、空間線量が急速に高くなり作業員が被曝して活動できなくなる恐れがある。また、ベント装置自体が地震などで損傷を受けて破壊されれば、格納容器に穴を開けたことと同様の事態になりかねない。

こういったことにならない運用を問うても、規制委も事業者も「テロ対策設備」を理由にまともな回答はしない。実効性が証明されない設備を信じることなどできない。

◆特重施設全般の問題点

「特重」には格納容器スプレイ・圧力容器注水・格納容器の真下のペデスタル注水という3つの注水ラインがあるとされる。そこに水源から特重に設置されたポンプを使って水を入れる。

建屋は100m以上離れた場所にあり、特重施設との間の洞道を介して注水する。特重と原子炉建屋を離したのは、航空機が意図的にぶつかってくるような場合を想定しているからだという。これで特重施設が生き残るから重大な炉心溶融に陥ったとしても原子炉建屋に注水できる、というのだ。

新しい注水ラインを100mも引き延ばしたため、複雑な問題が発生する。まず、圧力容器への注水ラインを何処に取り付けるのかだ。既に圧力容器には通常の給水ラインに加え、非常用や水位計など様々な配管が繋がっている。

新たに圧力容器に取り付けるような改造工事は構造上不可能。従って既存の給水ラインに繋がる配管のどれかに接続するしかない。その配管が破断するなど機能を失っていれば、このラインも機能しない。信頼性はその程度である。

次に、圧力容器の他にもペデスタル(格納容器下部)への注水も行う想定だが、切り替えがどのように行われるのかを含め、運用が明確ではない。圧力容器は沸騰水型軽水炉で70気圧、加圧水型軽水炉で130気圧もあるので、高圧注入でないと入らないが、ペデルタルは数気圧から10気圧程度で入るだろう。どちらに何時注水するかの判断は難しい。

さらに、ペデスタル注水は別の問題も引き起こす。それは水蒸気爆発。最大2800度の溶融燃料を冷やすために水を張ると、落下した時に水蒸気爆発を引き起こさないか。事業者も国も何度も延期している。直近の計画では、2020年度末(2021年3月末)までに対策を完了するとしていた。

東北電力によると、女川2再稼働に必要な改修工事計画を規制委との協議を踏まえ、見直したという。その結果、工事全体の計画が遅れ、2022年度中(2023年3月期)まで後ろ送りとなった。

原因について日本経済新聞は5月4日の記事で次のように指摘している。

「2月に原子力規制委員会の安全審査に合格した後に精査したところ、重機などを置く場所などが同時並行では確保できないことが分かった。それぞれの工事を順番に行うことで再稼働が当初見込みより最短で2年遅れる。東北電の見通しの甘さが問われそうだ」。

東北電力は、2013年12月に規制委に対し女川2号(82.5万kW沸騰水型軽水炉)の新規制基準適合性審査を申請し、規制委は新基準に適合する対策がされていると判断した。審査書が決定され、再稼働への道が開かれた。今後は、対策工事の完了と地元自否定するが、これも「絶対に起きない」という保証はない。結局「背に腹は替えられない」とばかりに設計したとしか思えない。

欧州の新型加圧水型軽水炉「EPR」では、直接水で冷却せず回りを水で冷却できる「コアキャッチャー」という溶融燃料の回収装置を組み込んでいる。

これならば水蒸気爆発を極力抑制できると思われる。

◆女川原発2号機の工事に遅れ

2020年2月26日に規制委が原子炉等規制法に基づく新規制基準適合性審査の審査書を決定した女川原発2号機(以下、女川2)について、東北電力は4月30日、安全対策工事完了が予定より2年遅れ、2023年3月になると発表した。

東北電力は女川2の耐震補強や津波から発電所を守るための高さ29m、長さ800mの防潮堤建設などで約3400億円の対策費を見込んでいる。同社は当初、この工事を2017年4月までに完了させる予定だったが治体の住民との合意が必要となっている。しかし安全対策工事は進んでいない。被災原発として反対の声は強い。再稼働へのハードルは極めて高い。

女川原発は東日本大震災で被災した原発だ。揺れと共に耐震壁にも1130箇所にも上る重大な損傷を受け、さらに1号機のタービン建屋では地震直後に大規模火災(高エネルギー・アーク放電火災)が発生、鎮火まで半日を要し冷温停止にも支障を来した。

外部電源や非常用ディーゼル発電機が遮断や破壊されていたら福島第一原発事故と同様の事態になっていた可能性は高く、そうなったら津波で避難していた地元住民を多数巻き込んで大惨事になっていたと思われる。

たまたま津波よりも高い位置に設置されていたとはいえ、それ以上の津波が来ない保証もなく、過酷事故も偶然回避できただけの、結果オーライといえる。

しかしながら、その検証も十分されないまま再稼働へと突き進む姿は異常だ。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)さん

たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。著書(共著)は『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

6月11日発売開始!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

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◆物件探し回った時代

コロナの影響は政府から要請された自粛で各ジムは閑散とした日々。家賃と光熱費は嵩むばかり。優遇されるジムもあるかと思うが、練習生は減り、経営が難しなるばかりだ。

ニシカワジム、オープニングパーティーでは藤原敏男さんスパーリングで御登場(1983年)

元々、コロナとは関係なく、キックボクシングジムの開設は簡単なものではなかった。それは加盟団体に認可を受けなければならないといったものだけでなく、不動産物件が少ないことにもある。その上、リングやサンドバッグなどの設備費用も必要となる。

現在のキングジムの前身、ニシカワジムは1981年(昭和56年)開設当初、他のジムでの間借りや路上(路地)練習、夜の市場の空きスペースを借りるなどを経て、1982年12月、当時国鉄小岩駅近くの雑居ビルの一室を借り、リングもある設備揃ったジムを構えた。昭和の時代、キックボクシングジムに貸す条件は厳しく、西川純会長の苦労が伺えたものだった。

設備整ったニシカワジム、ここからデビューした赤土公彦は大きく飛躍した(1983年)

平成に入り、所属の向山鉄也氏が引退後、会長となってキングジムへ移行も、当初は都営新宿線一之江駅からやや離れたところに借りられたのは、トイレも無いバラック小屋。2007年2月には江東区の都営新宿線大島駅近くのビル2階に開設され、設立披露パーティーで公開されたジムは、今迄より遥かにグレードアップしたジム設備であった。

キングジムの新装開店は賑やかなオープニングだった(2007年)

OGUNIジムが板橋区中台にあった頃のジム、当時の選手は想い出深いだろう(1992年)

現在のOGUNIジムは現・会長の斎藤京二氏が現役時代の1983年(昭和58年)に開設し、路地や公園、他のジムでの間借り練習を経て、1986年10月、後援会会長(当時小国ジム会長)が探し回ってくれた末に建てられた、板橋区中台の狭い道の分かれ目、三角地帯の二階建てバラック小屋でスタート。

都営三田線志村三丁目駅から15分ほど歩き、初めて行くには分かり難い道だった。リングは無く、それでも「雨露凌げて遠慮なく動ける環境が整って有難い」と当時の選手が語っていたほど、揶揄されることなく居場所があることは有難いことだっただろう。1995年(平成7年)に現在の池袋本町のビルに移ってからはリングも整い、JR池袋駅からは商店街を通り、やや歩くが山手線主要駅周辺となれば練習生は大幅に増えたという、やはり立地条件は重要なことが伺える。

◆キックボクシングという競技は肩身が狭い!

ある、某ジム会長は、「木造の狭い古い自宅の1階を改良してジムとしてきましたが、老朽化で床に穴が開いたり、シャワーのお湯が出なくなったり、住宅密集地で夜8時頃に終了しなければならないという条件があり、かなり不便でした。次には小学校や区の体育館を借りるも、子供たちの空手指導をするという条件で借りた手前、プロ選手が練習に専念したくてもキックボクシング練習だと使用不可になるので、子供達の空手の練習時間と同時にキックの練習をしました。空手は社会的に認知された競技で低年齢層の裾野まで広く、キックボクシングは危険、野蛮的イメージが強く、認知されない昭和の時代でした。」と語り、またある某ジム会長は、「ジム探しは苦労しましたね。 物件はあっても当時、ガチンコファイトクラブが流行っていて、こいつらもガラが悪いと思われたんではないでしょうか。家主さんからOKもらったのに、契約前に急に断られたり。ボクシングとか格闘技する人間は不良みたいな感じと思われていたでしょう。」と語ってくれた。

キックボクシングは世間との認識のズレがあるなあと思ったものだった。私(堀田)がこの業界にすんなり馴染めたのも、選手やジム会長、トレーナーさん達が皆、一般の人と変わらぬ穏やかな人達だったからであるのだが。

市原ジム、男の汗がムンムンする昭和のキックらしさがあった(1983年)

市原ジムは草木が室内に伸びてくる自然さが良かった(1983年)

◆物件探しは楽になったか

現在、練馬区大泉学園駅前にあるクロスポイント大泉ジムは雑居ビルの2階にあるが、1階は賃貸物件を仲介する不動産屋さん。以前、店員さんが「2階の音や響きは伝わってくることがあるが、もう慣れました」と笑っていた。階下に店舗を構えるお店としては、業務に影響するような事態は無いが、これが生活空間となると騒音や響きは気になることだろう。

昭和の時代から練馬区に住んでいた私は、当初一番近いキックボクシングのジムと言えば所沢の士道館、次はかなり遠いが目黒ジムだった。主に千葉方面にキックボクシングジムが多いと思ったことがあるが、地元の選手に「土地が安いからだよ!」と簡単な理屈であった。

現在も昔も、物件はどの鉄道沿線でも駅近は家賃が高い、僻地は練習生が集まり難いといった現象は当然だろう。飲食店や美容室、雑貨屋など、どの業種も物件探しは苦労するところだが、不動産業者は良い物件はなるべくイメージの良い業種に貸したいと見られ、物件が空いていても、キックボクシングは激しい運動による振動や壁や床の傷み、叫び音が煩い、汗臭くなるとか、「ヤクザ者の類が出入りするのでは?」などのイメージがあり、なかなか借りることが難しい場合も多いが、昔のような扉を開けただけでカビ臭い風通しの悪いジムや、鬼のスパルタ指導となるジムも極めて少なく(厳しいことは確かだが)、冷暖房完備、女性専用シャワールーム更衣室などの環境が整い、女性が気軽に練習出来る等、イメージが良くなって来た分、土地柄にもよるが、借り難さは少なくなってきているかもしれない。

一般クラスのボクシング教室、地道な活動がジムを支え、会員との絆も深る(2007年)

◆苦しい経営

ジム設備は揃っても経営が苦しい場合は多い。あるボクシングジムトレーナーさんは、知り合いのジムオープンのお手伝いに始まり、そのジムが事情あって閉鎖が決まると、そこの会員さんから「新たにジムをオープンして欲しい」と頼まれ、その会員さんが探してくれた物件でジムオープンするも、何年も赤字経営が続いたが、3年掛けて地道にボクシングのフィットネスクラブ的コーチを続け、ようやく会員さんが増えて安定し始めた。

そんな頃に東日本大震災で外出を控える会員が増え、電力削減等でのジム練習時間短縮で会員が著しく減って収入が大幅に減少の経験もあるが、会員さんの協力でジム運営をいろいろな策を練って続け、なんとか徐々に回復してきたところで、今年はコロナウイルス蔓延影響で再び経営危機を迎えた。今は東日本大震災の経験を活かし、禍を転じて福と為す状態という。

コロナによる自粛の影響でジム閉鎖したという話は今のところ聞かれないが、今後もそんな事態に至らないよう、各ジム会長やトレーナーさんとまた後楽園ホールで再会したいものである。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

◆住民票は給付金支給の条件ではない

6月17日、釜ヶ崎地域合同労組、釜ヶ崎公民権運動、人民委員会らは、大阪市の松井市長、特別定額給付金を担当する市民局に対し、すべての野宿者、住民票をもたない人にも給付金を渡すようにと、新たな要望書を提出した。

毎月、月末に開かれる「センターつぶすな!」のデモ

前回提出した要望書の回答で、大阪市は相変わらず『給付金の支給にあたっては、住民基本台帳に登録されていることが必要である』としている。

給付金は、新型コロナウイルス感染拡大の防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要領)として、国から唯一出された支援策であり、その権利は全ての人にある。「住民基本台帳に登録」は給付の条件ではなく、給付方法として便宜的に利用されたものでしかない。現にDV被害者や無戸籍者らは、実際に居住している自治体で給付できる特例措置が取られている。「あまねくすべての人々に」というならば、野宿者、ネットカフェ難民など住民票がない、もてない人たちにも同様の特例措置が取られるべきだ。

国の「給付金実施要領」にも、「記録がなくても、それに準ずるものとして市区町村が認めるものを含む」とある。また5月20日の国会で、共産党の清水ただし衆院議員が「住民登録ができないという路上生活者の方々を、どう給付金からこぼれ落ちないように支えていくのか、支援していくのかっていうのは喫緊の課題です」と質問したところ、総務省の斎藤洋明政務官は「現に居住している市区町村と認めていただけるように、必要な支援が行われるように、総務省としても取り組んでまいりたい」と回答している。

さらに、そうした国会のやりとりも紹介したMBSの情報番組ミント(5月26日放送)の番組の最後に、人権問題などに詳しい南和幸弁護士(大阪弁護士会)がこうコメントしている。

「給付金について、ホームレスの人だから受け取る権利がないというのは間違いです。ホームレスに人にも受け取る権利がある。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、どのように受け取るかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いで、総務省は形式的な答弁だけではなく、実際ホームレス状態にある人に、どのように今回の給付金だけではなく、補償などを行き渡らせていくかという抜本的な問題を突きつけられていると思う」。


◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

◆住民票を持てない人を大量に生んだのは行政の無策
 

コロナで炊き出しが止まっため始めたお弁当作り、炊き出しが再開したため個数は減ったが、日曜日以外は毎日続けられている

日雇い労働者が多く住む釜ヶ崎では、ドヤ(簡易宿泊所)に住む人、ドヤと飯場を行き来する人など居住形態はさまざまだが、かつてはどんなに長く同じドヤに住んでも住民票が置けなかった。しかし労働者は仕事に必要な免状や白手帳(日雇い雇用保険)を取得するため、住民票が必要になる。そこで大阪市や西成警察は、釜ヶ崎地域合同労組などが入る「釜ヶ崎解放会館」などに住民票を置けばいいと労働者に勧めてきた。解放会館には最高時、5000人もの労働者が住民票を置いていた。ところが2007年、大阪市は2088人の住民票を突然強制削除してきた。しかもその後も放置したままだ。そうした大阪市の無策こそが、現在も大勢の野宿者に住民票のない状態を強いていることを忘れてはならない。

また大阪市は、公園などから野宿者を閉め出す行政代執行などを行う際には、朝、昼、晩かまわず野宿者のテントを訪れ、ネチネチと長時間、公園から出るよう「説得」にあたってきた。昨年閉鎖された「あいりん総合センター」の周辺に野宿する人たちを、裁判に訴え追い出すため、大阪府と市は、野宿者のもとを訪れ執拗に名前などを聞き出し「債務者」に特定してきた。野宿者を追い出すときには必死で本人確認するくせに、給付金支給の際には「住民票ないから渡せない」とは、そんな勝手は断固許さん。
 
◆「給付実施要領」から逸脱する住民票の有無

総務省の6・17「通達」でも、「住民票の確認」が給付の条件から外されず、ネックになったままだ。これは「あまねくすべての人びとに」の論理から逸脱する行為ではないのか。国と大阪市は、いつまでも住民票の有無に固執せず、住民票をとれない人達への様々な給付方法を駆使していくべきだ。例えば、市民局は、野宿者らに住民登録されれば給付金の給付対象となることを「周知を図る」と回答しているが、周知するその場で野宿者の名前、本籍地などの確認作業を行えばいい。

国と大阪市は住民登録にこだわる理由について「二重払い」を防ぐためという。しかしこれは、わずか1.5%の生活保護の不正受給率を取り上げ、生活保護バッシングに躍起になる連中の発想と同じで、野宿者、住民票を持てない人は「犯罪を起こす人」という極めて差別的な発想が根底にある。実際の「不正受給」の内容は、子どものバイト代を申告しなかった、働いた日数を2日ごまかしたレベルのものが多い。本来厳正に取り締まるべきは、それよりはるかに膨大な金額を不正に集める「囲い屋」など貧困ビジネスの連中の方だ。実際、今回の給付金でも彼らは、あの手この手で労働者からむしり取ろうとしているぞ。

ここに住む野宿者は、どうにか田舎から戸籍謄本を取り寄せることが出来そうだと話した

◆松井市長はまじめに仕事をしろ!

大阪市の給付金給付率は、現在わずか3.1%で全国最下位だ。都構想実現のために大阪副都市推進局には府市あわせ80人以上もの職員を配置するくせに、給付金担当の市民局には18名しか配置していない。先日の交渉で「18名の職員はどこにいるか?」と尋ねたら「非公開です」と回答された。市民から逃げ回るようなコロナ対策では、全国最下位になるのも当然だ。松井市長に至っては「今回をきっかけにぜひ、ホームレスから脱却してもらいたい」という始末。何を寝ぼけたことを言っているのか? 今回の給付金は「ホームレス脱却」のためのものではないぞ。もちろんこれを契機に住民票をとり生活保護を受けるのは個人の自由だ。しかし生活保護を受けたくない人、様々な理由で住民票を取ることを拒む人に、住民票の取得を強要することなどあってはならない。

松井市長には、総務省「給付金実施要領」を一から読み直してから出直してもらいたい。不必要、しかも市火災条例違反の疑いを指摘される山積みの雨合羽で市役所を埋め尽くし、その整理で職員を疲弊させたうえに、給付金でさらに職員を追い込むようなことはするな!

一方で、「納税しない人間に給付金支給するな」などと的外れな批判をする人もいる。今回の給付金はオギャーと産まれた赤ちゃんにも払われることを知らないのだろうか。納税していない赤ちゃんも産まれてすぐに「コロナ禍」に放り込まれるのだから、支給されて当然だが、ならば長年、建設現場など社会の末端でこき使われ、働けなくなったらポイと捨てられ、あげく野宿に追い込まれた人が、住民票がないだけの理由で支給対象から外されるなんて理不尽すぎるだろう。

第2、第3のコロナ禍が吹き荒れたあと、膨大な数の人々が野宿状態に追いやられるのは想像に難くないが、今回の給付金支給を、住民票をもたない、もてない人たちにどこまで行き渡せることが出来るかの闘いは、コロナ後の社会をどう作っていくかの問題にもつながるだろう。全国の皆さんにご注目頂きたい!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

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