複数の情報筋によると、どうやら月刊雑誌『漫画実話ナックルズ』(ミリオン出版)が夏から隔月となるようだ。
「事件や芸能ゴシップを漫画にする手法は画期的だった。一時期は実売が10万部を超えたこともある。カストリといっては失礼だけど、よく頑張った雑誌だと思う」(週刊誌記者)

いうまでもなく、『漫画実話ナックルズ』は、アウトローを主体に据えて、暴走族や不良にスポットを当ててきた画期的な雑誌である。そこから派生した『漫画ナックルズGOLD』も多くの優れたコンテンツを擁していた。好きな作品に、映画『仁義なき戦い』を別の視点から見た『もうひとつの仁義なき戦い』などは、楽しみで仕方がなかった。
「アウトローコンテンツが読者にとって魅力的ではなくなったのでしょう。暴力団排除条令で、警察がアウトロー雑誌に目を光らせて、記者までも暴力団員とつきあうと“密接交際者”扱いをされる。さらに、橋下徹大阪市長が『市役所の職員に刺青などもってのほか』と吠えまくる。アウトロー文化への弾圧ですよ」
(夕刊紙記者)

さて、『漫画実話ナックルズ』には、さまざまな企画があるが、週刊誌記者が登場して、最新のゴシップの裏事情を暴露したり、AV業界の裏側を暴露するなど、実に大胆にタブーに挑んできた。
4月号については「徹底リサーチ東京激裏エロスの新名所」などはかなり楽しんだ。
「でもどうだろう。漫画の読みやすさという点では、5、6年前のほうがよかったのではないか。なんだかすごく漫画そのものが読みにくくなったね。原作はおもろしろいのにね」(講談社の漫画編集者)

「4、5年前までやっていた編集長は、プルーストの『失われた時を求めて』を全巻読んだという読書好き。哲学、文学、美術、政治でも、一晩でも語り明かせる人だった。それだけのインテリが、アウトローを扱っていたから面白かった。素材を掘り下げること、それをきちんと漫画として動くように成立させることには、かなり、こだわりがあった。原作の書き直しもしばしばだったし、ベテランのマンガ家にも下書きを直させていたよ。その後、編集長は2人代わったけど、彼ほどの力はなかったんじゃないかな」(漫画原作者)

漫画を作る、ということは「漫画を熟知している」という点が大前提となる。
「手塚治虫や松本零士やちばてつや、小山ゆうや、さいとうたかをなどの大御所の漫画を知らない漫画編集者が増えている。いきなり、スクリーントーンを多様するようなライトノベルを漫画にしたような作品ばかり見ている人が漫画を作ると、おそらくは見にくい漫画雑誌ができる」(ベテランの漫画編集者)

漫画は、「縦の物語」と「横の物語」があると言われる。
「縦」とは成長を意味する。「巨人の星」や「あしたのジョー」などは「縦の物語」だ。
横とは、同じ時間軸で物語が進むストーリーで、麻雀漫画の「アカギ」や「カイジ」、「土竜の唄」「社長 島耕作」などがそれだ。
力量のある作家は、プロットを何通りも組む。
石ノ森章太郎や、手塚治虫、藤子不二雄ら漫画家が集まった伝説のアパート「トキワ荘」で、悩める若い漫画家に寺田ヒロオがこうアドバイスする。
「僕なら、このストーリーなら10通りくらい展開を考えられるな」

『ワイルド7』の望月三起也氏の創作メモを見たが、少なくとも20通りのガイドプロットがあったと記憶している。
柳沢きみお氏などは、連載を頼むと5、6種類のプロットを編集者に出すという。

漫画が、いつの時代から「見づらく」なったのだろうか。作り手に問題はありはしないか。
「見にくい漫画がかっこいい時代が90年後半から流行しはじめたからね。そうした時代の中で『ワンピース』が出てきた。それは、見にくい漫画へのアンチテーゼだったのです」(漫画ウオッチャー)

うむ、『ワンピース』の構図は小学生が見てもすぐに何が起きているかわかるコマどりで満ちている。
さらに驚くべきことに、漫画を読まない世代が増えてきた。携帯やスマホで、どこでも動画が見られ、ゲームが楽しめる。漫画さえ読まなくなったのだ。「漫画の読み方を解説する本を作るのはどうだろう」なんていう話が平然と出版社の企画会議で行われている。にわかには信じられない時代だが、いい話かもしれない。

このほどマンガ大賞2012を受賞した『銀の匙』には、ハマった。農業高校を舞台とした、ならではの展開は、やはり秀逸であり、古きよき時代の漫画のにおいがする。
だれが漫画を読みにくくしたのか、分析が必要だが、少なくとも、エンターテイメントとして読者に読ませる漫画編集者の育成が、各出版社とも急務である。

(渋谷三七十)