冤罪事件を色々取材していると、マスコミの犯罪報道はいかにいい加減かがよくわかる。とくに発生当初や被疑者の逮捕当初にマスコミが大騒ぎした事件はそうだ。過熱する報道合戦の中で事実関係のチェックが杜撰になるのか、誤報や飛ばし記事が多くなりがちなのである。

筆者が現在取材中の事件の中から、その実例を1つ紹介したい。
警視庁捜査一課の白鳥陽一警部(当時58)が逮捕されたのは昨年7月22日のことだった。容疑は地方公務員法(守秘義務)違反。警視庁が東京都豊島区の品川美容外科池袋院で起きた患者死亡事故について、担当医師らに業務上過失致死の疑いを抱いて捜査を進める中、白鳥警部は主任捜査官を務めていた。ところが、捜査対象である品川美容外科の渉外室に勤める元同僚の警視庁ОB・中道宜昭氏(当時53)らに捜査資料を渡し、職務上知り得た秘密を漏らしたという疑いをかけられ、逮捕されたのだ。

白鳥警部は一貫して容疑を否認したが起訴され、同年9月に懲戒免職に。そして、東京地裁の第一審では今年2月に懲役10月(求刑は懲役1年)の実刑判決を受けた。しかし、今も無実を訴え、東京高裁で控訴審を戦っている――というのが、この事件の概略だ。

警視庁では医療過誤捜査のエース格と目される腕利きだったが、地位を悪用し、病院にたかりまくっていた悪徳刑事。おそらく世間には、この白鳥「元」警部にそんなイメージを持つ人が少なくないはずだ。警視庁捜査一課の敏腕刑事の不祥事という世間の耳目を集めるネタをめぐって報道合戦が展開される中、そんな情報が大量に報じられていたからだ。

しかし、実はいざ裁判が始まると、そういう話のほとんどは幻のように消え去っていた。
たとえば、ある新聞では、白鳥元警部が品川美容外科側に「年収1千万円で雇ってくれ」と破格の好待遇での天下りをオネダリしたかのように報じられていた。だが、白鳥元警部の裁判では、そんな事実があったとは検察官ですら主張していない。

また、白鳥元警部から捜査資料を渡されたとされる警視庁OBの中道氏は、白鳥元警部のあっせんによって品川美容外科側が再就職させた人物だったかのように報じられていた。しかし実は裁判では、中道氏の品川美容外科への再就職には、白鳥元警部とは別の警視庁OBらがより深く関与していたのではないかと窺わせる証言なども示されている。

では、仮に白鳥元警部が捜査資料を流出させたのが事実なら、彼には一体どんなメリットがあったのか? 彼を有罪とした第一審判決では、実はその点について何も示されていない。白鳥元警部は頼まれてもいないのに、仲の良かった中道氏の自宅を遠路はるばる車で訪ね、何の見返りも求めずに捜査資料を渡してやったというストーリーで有罪とされているのである。現役刑事が捜査対象の関係者に捜査資料を流出させるリスクの大きさを考えると、これもまた変な話だろう。

一度では書き尽くせないが、この事件は報道のイメージと実態がかけ離れた事件の典型例で、他にもおかしなことが色々ある。控訴審もすでに結審し、この7月11日には白鳥元警部に二度目の判決が言い渡されるが、その結果がどうであれ、この事件についてはまた別の機会にもレポートしたいと思っている。

(片岡健)