8月にフィンランドに行ったのは、エアギター世界選手権のファイナルステージを見るためで、開催地のオウルでは、全く日本人には出会わなかった。日本人も出場していて応援団も来ていたかもしれないが、街では見なかった。

オウルから電車で5時間ほど。タンペレという街に行くと、けっこう日本人に出会う。
ムーミン谷博物館、スパイ博物館、レーニン博物館まであり、見所が多い。
ムーミン谷博物館は図書館に併設されている小さな博物館だが、トーベ・ヤンソンの原画などが展示されていて人気。日本人も多い。
受付では、どこから来たかを訊かれて、その国の言語で書かれた案内書をくれる。
「ありがとう」「グラッツィエ」「メルシー」「グラシアス」「カムサハンニダ」「謝謝」と、受付の男性は、その国の言葉で感謝しながら、手渡してくれる。

筆者は、「キートス」とフィンランド語で返したが、他の日本人は「サンキュー」と返していて、改めて日本人の英語一辺倒主義を見せつけられた。
もちろん筆者にしても、意気込んでフィンランド語のテキストを買ったものの、今頭に残っている構文は、「クカシナオレット(あなた、どこにいるの?)」と、会話では絶対に使わないものだけである。
でも、「こんにちは」「ありがとう」だけでも、その国の言葉を知っておくと、旅は10倍以上に楽しくなるものだ。

その点、フィンランド人は心得ている。レストランでの食事や買い物で、英語で用を済ませた後に、「キートス」と言うと「ありがとう」と返してくれることが多い。筆者の英語が日本語なまりだからだろう。
世界を支配した言葉で「サンキュー」と言い合うのは、お互いに単なる記号のやりとり。なんとも味気ない。

英語以外の言語を学ぶと、意外な発見がある。
30代の頃、スペイン語を覚えて、ラテンアメリカを放浪した。
グアテマラでは、やたらとアメリカ人に英語で話しかけられた。
グアテマラには安いスペイン語教室が多くあり、ラテンアメリカを旅するバックパッカーの出発点となっていて、アメリカ人が多い。

なぜ、アメリカ人が話しかけてくるのか? 現地で多いのは混血だが、彼らグアテマラ人の多くはスペイン語しか話さない。白人も、グアテマラ人かアメリカ人か分からないから、英語を話すかどうか分からない。
日本人なら英語を知っているだろうと思って、話しかけてくるのだ。

「アブロエスパニョール(スペイン語で喋れ)」と言ってアメリカ人を追い払うと、白人コンプレックスなど一挙に吹っ飛ぶ。最もその頃の筆者は、英語はからきし駄目で、単語のやりとりくらいしかできなかったのだが。

(FY)

★写真は、ムーミン谷博物館にある、ムーミン屋敷の模型