「どうかマスコミの皆さん、皆さんも何度も過ちを犯してきたわけです、足利事件を含めて。報道のあり方も問われているんだから。警察がこれからも拘束したら犯罪だと言いましたが、いいですか、これから皆さんも同じように警察情報を垂れ流したら、皆さん自身の犯罪です! 犯罪報道の犯罪だと思う。だからどうか皆さん、自分の胸に手を当てて、自分はいったいどういうことでペンをにぎっているのか、考えてもらいたい」

これは今月22日、ヤフーニュースで配信された「弁護人が指摘した3つの誤報疑惑―PC遠隔操作事件」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20130222-00023565/)という記事に出てくる同事件の被疑者・片山祐輔氏の弁護人を務める佐藤博史弁護士の発言だ。記事の執筆者は、「GoHoo」というホームページを運営し、マスコミの誤報を收集、検証する活動をしている日本報道検証機構の代表・楊井人文弁護士。記事によると、佐藤弁護士は連日、勾留中の片山氏と接見した後、記者会見を開いており、この発言は19日の会見でなされたものだというが、筆者はこれを読み、「ああ、やっぱりな」と思わされた。

というのも、刑事事件を取材していると、不確かな情報をもとに被疑者を犯人視した報道に対し、弁護人や被告人本人が会見、公判などの「多くの記者がいる場」で批判的な発言をすることがたまにある。が、そういう発言が報じられることはほとんどない。この事件の場合も片山氏の逮捕当初から犯人と決めつけたような報道が目立ったが、佐藤弁護士が連日マスコミの取材を受けているにも関わらず、報道に批判的な発言をしたという話をまったく聞かなかったので、「佐藤弁護士は警察“だけ”を批判しているのだろうか?」と釈然としない思いを抱いていたのだ。そうしたら案の定、佐藤弁護士の報道批判をマスコミが隠蔽していたようである。

佐藤弁護士が報道批判をする中で「足利事件」を引き合いに出したのは、弁護人を務めた足利事件の菅家利和さんの場合も逮捕当初、凄絶な犯人視報道にさらされたからだろう。足利事件では、再審段階にDNA鑑定で菅家さんの無実が明らかになって以降、マスコミは全力で警察や検察を叩いていたが、一方で自分たちの報道を真摯に省みたとは言い難かった。そのことが今回の片山氏に対する報道により、改めて如実に示されたわけである。

そこで、菅家さんが1991年12月に逮捕された当初、マスコミがどのような報道をしていたか、ここで改めて振り返ってみよう。全国紙の見出しをざっと拾うと、それは以下のようなものだった。

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【1】スゴ腕DNA鑑定 園児殺害、捜査の決め手 100万人から1人絞り込む能力 「個人情報」保護絡み慎重論も(朝日新聞12月3日付け朝刊31面)

【2】菅家容疑者 2幼女殺害も供述 万弥ちゃん事件「騒がれては困る」と 有美ちゃん事件も追及(朝日新聞12月22日朝刊27面)

【3】真実ちゃん殺害 「可愛い」と連れ出す 菅家容疑者を送検(毎日新聞12月2日夕刊11面)

【4】“ミクロの捜査1年半” 幼女殺害、容疑者逮捕 一筋の毛髪決め手 菅家容疑者ロリコン趣味の45歳 “週末の隠れ家”借りる(読売新聞12月2日朝刊31面)

【5】真実ちゃん殺し菅家容疑者 「万弥ちゃん」「有美ちゃん」も自供 捜査本部裏付け急ぐ(読売新聞12月22日朝刊27面)

【6】可愛いから誘う 真実ちゃん殺害菅家容疑者 直後の7時に犯行 現場1・5キロに趣味の部屋 幼女に特別な関心(産経新聞東京本社版12月2日夕刊11面)

【7】菅家容疑者 幼女殺害で再逮捕 12年前に5歳児 遺体の土と葉 供述と一致(産経新聞東京本社版12月25日朝刊23面)

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筆者は自分自身、取材などのマナーが良いほうではないので、マスコミの「モラル」をどうこう言うのはあまり好きではない。とはいえ、マスコミはもういい加減、警察に逮捕されただけに過ぎない人を犯人と決めつけたような報道を展開すると、あとで恥をかく恐れがあることくらいは理解したほうがいいんじゃないかと思う。

(片岡健)

写真は、足利事件で菅家さんが逮捕された当時の新聞報道。