韓国の社会派ドキュメンタリー2本。特に『共犯者たち』は、連帯・共闘の現場を目にし、怒りを共有することを愛する人、闘いに学びたい人には必見だ。『スパイネーション/自白』は、1つの現実を知るためにおさえたい内容といえるかもしれない。

◆「被害を受けている人たちの姿を主に浮き彫りにし、劇的な面白さを確保」

 

『共犯者たち』監督:チェ・スンホ/脚本:チョン・ジェホン/撮影:チェ・ヒョンソク/音楽:チョン・ヨンジン/製作:ニュース打破/配給:東風(2017年/韓国/105分/DCP/カラー/原題:공범자들(英題:Criminal Conspiracy)/日本語字幕:安田幸広/字幕監修:根本理恵)

『共犯者たち』は、李明博(イ・ミョンバク)と朴槿恵(パク・クネ)政権によるTVメディアの弾圧と、それに対抗する人々とを描き出す。そして、韓国では26万人を動員したという。李明博は、公共放送局KBSと公営放送局MBCの自らに批判的な経営陣を排除し、調査報道チームを解散させる。ストライキで対抗する労働組合の組合員たちを、新たな経営者たちは不当解雇や懲戒へと追い込む。結果、両局は韓国の「大本営発表」的なるものを垂れ流す、完全な御用メディアとなっていく。それでも労働者たちは激しいストライキをおこない、解雇されたチェ・スンホ監督やジャーナリストたちは独立メディア「ニュース打破」を立ちあげ、人々の支持を得る。この映画のテーマである「主犯」は2人の大統領、「共犯者」は両局に送り込まれた経営陣、そしておそらく、言論をあきらめ、自粛したメディア関係者でもある、というわけだ。

韓国の運動をみていると、国内に比べ、その規模や熱意に圧倒される。だが、よくいわれることは、彼らも、他の国の人々もまた、私たち同様に、もしくはそれ以上に苦しみ、それを乗り越えんと地道な活動を継続しているということだ。本作を観ている際にも、労組メンバーやジャーナリストたちの闘いに共感を抱いて涙し、いっぽうではこれをどう自らの運動に生かせるかということを考えていた。1つは、「たとえ変人と呼ばれることになろうとも、やれることをやる」ということ。2つ目は、「それを継続する・あがき続ける」ことなのだろう。なぜなら、それこそが民主主義だからだ。

背景には、独裁政権のなかソウル大生が声をあげ、またマスコミもともに闘って87年には民主化政権を勝ち取り、その後も労働組合が闘い続けたこと。そして2008年に李明博の大統領就任以降、闘争を再び激化させ、言論団体も自らを省みた。やはり、「継続する・あがき続ける」ことが重要なのだ。

©KCIJ Newstapa

また、本作では、人々の声が大きく影響していくさまをつぶさに目にすることもできる。やはり私たちも、1人ひとりの声を聴き、自分ができることを実行し、それを継続するしかないのだろう。

パンフレットの文面によれば、「社会派のドキュメンタリーは退屈だという先入観の突破口は?」と尋ねられ、チェ・スンホ監督は、「多くの映画が善悪の対決を描くが、ドキュメンタリーでは難しい。だから、被害を受けている人たちの姿を主に浮き彫りにし、彼らが共犯者たちを尋ねることで、劇的な面白さを確保できたと思う」などのように語っている。ぜひ、劇場で確かめてほしい。

©KCIJ Newstapa

◆見逃せないショッキングなシーンも

 

『スパイネーション/自白』企画:キム・ヨンジン/監督:チェ・スンホ/脚本:チョン・ジェホン/撮影:チェ・ヒョンソク/プロデューサー:キム・ジェファン/製作:ニュース打破/配給:東風(2016年/韓国/106分/DCP/カラー/原題:작백(英題:Spy Nation)/日本語字幕:根本理恵)

『スパイネーション/自白』は、2013年、華僑の脱北者で公務員のユ・ウソンさんが「北朝鮮のスパイ」として拘束されるが、国家情報院による証拠ねつ造が疑われるところから幕を開ける。チェ・スンホ監督は「ニュース打破」取材班とともに、闇を暴いていく。

私は、脱北者や「スパイ」とされる人の存在は知っていたが、国家情報院のでっちあげはまったく知らなかった。本作が国内の公開作品として選ばれたのは、日本が関連しているからではないだろうか。衝撃的なシーンもいくつかあり、2作品をおさめたパンフレットも販売されている。

また、レクチャーやトークが大変勉強になるので、イベントのある劇場・日時に合わせ、2作品連続で鑑賞するのもいいだろう。個人的には東海テレビ作品も連想したので、お好きな方、メディアに携わる方も、ぜひ。記録を残し、発信しなければ、なかったことになってしまう。だが、こうして映画作品になれば、国外にも真実や現実の詳細、思いなどを伝えることができるのだ。

現在、韓国は文在寅(ムン・ジェイン)が大統領となったが、当初80%だった支持率が低下していき、2019年1月8日の報道では、45%まで落ち込んでいる。最低賃金アップ・労働時間の制限は進められるものの企業の経営は厳しく、結果的には財閥を潤わせてしまっているという。いずれも解決には根が深すぎる問題であり、また現在世界的に同様の問題を抱えているといえるだろう。そして国内に目をうつせば、安倍政権が猛威を振るい、もはや民主主義の前提がすべて破壊され、強行採決やそれに近い手法による採決が次々とおこなわれている。本作を観て私も、さらに行動するつもりだ。

© KCIJ Newstapa

※『共犯者たち』『スパイネーション/自白』は東京都・ユーロスペース、ポレポレ東中野、大阪府・第七藝術劇場ほかにて上映中。神奈川県・横浜 シネマ・ジャック&ベティ、兵庫県・元町映画館ほか近日公開予定。愛知県・名古屋シネマテーク1/12(土)より公開予定。福岡県・KBCシネマ1・2は1/21(月)・1/24(木)のみ上映予定ほか。詳細は下記公式サイトでご確認ください。
公式サイト:http://www.kyohanspy.com/


◎[参考動画]映画『共犯者たち』本予告編


◎[参考動画]映画『スパイネーション/自白』本予告編

▼小林 蓮実(こばやし はすみ)
1972年生まれ。韓流ドラマ&K-POPファンで、ソウルを1回、平壌を3回訪れたことがある労働運動等アクティビスト兼フリーライター。『紙の爆弾』『NO NUKES voice』『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『情況』『救援』『週刊読書人ウェブ』『現代の理論』『教育と文化』『neoneo』ほかに寄稿・執筆。書評、映画評、著者・監督インタビューなども手がける。

週刊読書人ウェブ対談=斉藤渡×前田浩/牧原依里<手話を排除する歴史との苦闘>書籍『手話の歴史』発売と、映画『ヴァンサンへの手紙』公開を機に(全3回)

デジタル鹿砦社通信《鼎談》排除の歴史と闘うための書籍『手話の歴史』/映画『ヴァンサンへの手紙』(全3回)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか