ネットの質問サイトでこんな投稿があった。
「『Yesterday』という曲は、多くの有名ミュージシャンが歌っているのに、どうしてポール・マッカートニーが歌うものがポピュラーなのですか?」
人によっては「そんなことも知らないのか、常識だろう」とあざ笑うような質問だ。真面目に答えればポールが作曲し、ポールが歌ったものがオリジナルだから、という簡単な答えだ。しかし私は、どうしてこのような疑問が出るのか、考えてみた。

世の中の子供から老人まで、地方人から都会人まで全てに共通するスタンダードな常識など存在しないだろう。学校で習ったとか、法律で決まっているということを除いては。いや、学校で習った常識も疑わないといけない。コーラを飲むと骨が溶けてタコみたいにグニャグニャになるとか、ソウルオリンピックのドーピングでベン・ジョンソンが失格になったのは、CIAの陰謀だったとか私は教えられた。いい歳した先生に。常識は人の数だけあって、若者の常識は老人の常識とはかけ離れていることも、都会の常識が地方の非常識だっていうことも珍しくない。

そう思うと、冒頭の質問もおかしいことではない。「Yesterday」は1965年の作品だ。リアルタイムで聴いていない人の方が、もはや多いだろう。その上エルヴィス・プレスリーやボブ・ディラン、レイ・チャールズといったビッグ・スターをはじめ、ギネスブックに載るぐらい無数のカバーが存在している。ビートルズと同時代のミュージシャンでカバーしなかった人はいないと言われるほどだ。最初に聴いた「Yesterday」が誰かのカバーだったら、その人がオリジナルと思うかもしれない。ちなみに日本では勝新太郎もカバーしているので、勝新太郎の曲と思っている人がいる…… かもしれない。一人ぐらいは。

「Yesterdayはビートルズの曲」
世間では当たり前のこと、知っていることを前提として話される。しかしリアルタイムで聴いていない上に、知っていて当然というスタンスで世の中が動いていれば、知らない若者が知識を得ないまま大人になっても仕方がない。そういった教えられない「常識」は、年々増えていくわけだから、教えられていないのに知っていて当然、は若い人ほど多くなる。今時の若者は大変だ。

(Tacchi)