知名定男と夏川りみの歌う「十九の春」が、熊本の空に響く。
奇跡のデュオに、2000人を超える聴衆が、聴き入った。
9月29日、熊本フードパルで開かれた、フェスティバル『琉球の風2013 ~島から島へ』でのことだ。
知名定男は、フェスティバルのプロデューサー。沖縄民謡界を代表する唄者の1人であり、レゲエを島唄に取り入れた「バイバイ沖縄」を発表し人々を驚かせ、ネーネーズをプロデュースするなど、後進の育成にも力を注いできた。
夏川りみは、知名定男から楽曲の提供を受けているが、2人が同じステージで歌う姿は、なかなか見られるものではない。

夏川りみは大島保克ともデュオ。大島保克は、かりゆし58ともジョイントする。
こんな貴重な演奏が聴けるのも、『琉球の風』ならではだ。
その秘密は、『島唄よ、風になれ! 「琉球の風」と東濱弘憲』(鹿砦社)で、出演した様々なミュージシャンの口から語られている。
東濱弘憲という1人の男の強い意志で始まり、共感するボランティアたちで支えられてきたこのフェスティバル。楽屋もひとつになっていて、「あの人と一曲やって」「あそこで三線弾いて」と話が弾んで、そのままステージで展開される。
何が起こるか分からない、他のフェスティバルにはない楽しさがある、と語られる祭になっている。

午後1時、およそ100人の琉球國祭太鼓九州各支部のエイサーで、フェスティバルは始まった。
続いて登場した、パーシャクラブの新良幸人が「酔ってまーす」と声を発し、熱い演奏が始まる。金城安紀、よなは徹、村吉茜、 関島秀樹、下地勇、大島保克と島唄が続く。
知名定人が「酒持ってこい」で盛り上げると、会場では酒瓶を持って踊り出す若い女性も見えた。
とにかく、祭である。会場には、沖縄料理や沖縄そば、オリオンビールの屋台がある。東濱弘憲が店主だった店の名「ゆがふ」の屋台では、泡盛を売っている。出版記念ブースでは、『島唄よ、風になれ!』も売られている。

東濱弘憲は昨年、がんによって、この世を去った。
祭を見守っているであろう東濱に伝えるように、知名定男は空に向かって言った。
「去年で終わるつもりだったが、亡くなった東濱の信念を受け継いで、今年もやることになった。来年もやる!」
断乎とした宣言に、会場は沸く。

夏川りみ、かりゆし58と続き、トリに登場したのは、THE BOOM。知名定男の「バイバイ沖縄」のカバーから始まり、新曲「世界でいちばん美しい島」などを演奏。会場は総立ちとなる。
フィナーレは、出演者全員がステージに現れ、「島唄」が歌われた。

思いっきり楽しい祭であるとともに、「情熱こそが人を動かす」という東濱弘憲の思いを参加者が受け取ることになった、素晴らしい一日だった。

(FY)