年賀状だけで繋がっている古い友人も少なくなくなり、何枚かの年賀状を出す。
以前に住んでいたアパートで、隣に住む若い男は郵便局に勤めていた。
年賀状を買ってほしい、と頼まれたので、彼から買った。だが郵便局で買うより安くなるわけではない。

彼は30代で、シナリオを書きたいという志望を持っていた。
初めて飲んだ時に、松山大学の出身だというので、「松山はいいとこだよね」と言うと、「え!? 来たことあるんですか?」と、目を剥いた。
同席していた年輩者が、「おいおい、いらしたことがあるんですか? だろう」とたしなめたが、それで話は萎んだ。
初対面なら、出身地などから話を広げるのは定番のパターンだと思うが。
「どんなシナリオ書いているの?」と訊いても、はっきりとした答えはない。
どうもソリが合わない。向こうもこっちを嫌っているだろうと思っていたが、たまたま顔を合わせたら、パソコンの調子が悪いから、と頼まれて見てあげた。

まったくコミュニケーション能力がないのだから、接客業などは無理だろう。郵便局で配達をしているのは幸運であると思えた。
だが、そんな彼にも、年賀状を売るノルマが課せられる。
確かに、頼めば持ってきてくれる。
だが、話すこともない彼の顔を見ても面白くも何ともない。郵便局で買ったほうがいい。

この時期に金券ショップに行くと、まっさらな年賀状が売っている。
郵便局員が売ったものだ。
明確なペナルティーはないようだが、なんらかの不利益を被るのでは、と恐れて、郵便局員がノルマ分を自分で買って、金券ショップにに売るわけだ。非正規社員なら社員になりたいと思って、そのような自爆営業をしてしまう。もちろん、定価より安く買われるわけだから、自腹を切ることになる。

この前、書留を持ってきた郵便局員も、「年賀状のご用はありませんか?」と訊いた。
金券ショップで安く買えるわけだから、「大丈夫です」と断る。
完全な悪循環だ。
そもそも、そこら中にある郵便局で普通に売っている年賀状について、営業ノルマを課すのがおかしくないか。
本屋の店員が本の営業ノルマを、花屋の店員が花の営業ノルマを、酒屋の店員が酒の営業ノルマを課せられるようなものだ。

(深笛義也)