「アベノマスク」といい、実現性も経済効果も希薄な「GO TO トラベルキャンペーン」といい、冗談のように派手な看板を掲げては、世論の反発を受けている安倍政権の「アイデア」政策である。

だが、こと国防問題においては、これが単なる冗談では済まなくなる。イージス・アショワ設置が停止になったあとの、ミサイル防衛戦略である。

安倍政権は17日にNSC(国家安全保障会議)の4大臣会合を首相官邸で開き、地上配備型迎撃システム、イージス・アショアに代わる新たなミサイル防衛について協議した。政府は9月をめどに方向性をまとめたい考えだという。

◆トランプに媚を売った安倍総理の失敗

そもそもイージス・アショアは、きわめて杜撰な計画だった。秋田県男鹿市の設置場所では、死角になる本山への仰角をグーグルアースで計測した(三角系数で試算しなかった)ために、ミサイルを発射できないというチョンボを犯し、山口県においてもブースター(第一段ロケット)が住宅地に落下することが判明したのだ。

しかも、高額(トランプに押し付けられた)のうえ、当面は役に立たないという頼りなさである。設置予定だった迎撃ミサイルSM3ブロック2Aは2200億円以上、じつに12年の開発期間を要するものだったのだ。河野防衛大臣は6月16日の記者会見で、計画停止の理由を「約束を実現するためにコストと時間がかかり過ぎる」「(ブースターが地上に落ちるので)計画どおりに運用できない」「ハードウェアを改修すれば倍のコストがかかる」などと説明した。

ようするに、安倍総理の「思いつき」(トランプからの押し売り)で設置を計画してみたものの、あまりにも杜撰で使いものになりそうになかった、というものだ。12年間もの空白が生まれることに、安倍総理は契約時に思いをめぐらせなかったのだろうか。日米同盟の健在(トランプとの蜜月)をアピールするあまり、押し売りでしかない防衛装備を大量に買い入れ、効率の悪い防衛戦略を抱え込んでしまったのだ。

◆敵基地への先制攻撃?

ところで、このチョンボを奇禍とするがごとき動きが、安倍政権内部に起きつつあるのだ。冒頭に紹介したNSC(国家安全保障会議)の4大臣会合こそ、新たなミサイル防衛戦略にほかならない。それはしかし、専守防衛の壁をこえて一気に先制攻撃に道を開こうとするものなのだ。

安倍首相は6月18日の総理会見でイージス・アショアの配備計画停止について「わが国の防衛に空白を生むことはあってはならない」などと言い、敵基地攻撃能力の保有について「抑止力とは何かということを、私たちはしっかりと突き詰めて、時間はないが考えていかなければいけない」「政府においても新たな議論をしていきたい」と発言していた。その発言につづいて、政府高官のあいだから「守るより攻めるほうがコストは安い」(テレビ報道)という発言が飛び出すなど、従来の防衛戦略を突き崩す動きが顕著になっているのだ。

敵基地の先制攻撃論は、北朝鮮がミサイル実験をはじめた当初から議論されてきた。発射されてからでは遅い。ミサイル(液体)燃料の注入が始まった段階で、攻撃の意志ありとみなして攻撃すべきだと。実験のためのミサイル発射準備も「攻撃意志ありとみなす」じつに危険きわまりない発想である。北朝鮮のミサイルが固形燃料になった今、どうやって敵の攻撃意志を確認し、どの基地をどう叩くというのだろうか。

この点については、軍事評論家の香田洋二氏(元自衛艦隊司令官・統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など)が警告を発している(ネットマガジンなど)。

「イージス・アショアの配備断念を決定する段取りが拙速との評価を免れ得ない一方で、その善後策として敵基地攻撃能力の議論が始まるのも同様に拙速」であると。

◆偶発的「戦争の準備」よりも外交努力を

「敵基地攻撃は、やる以上、相手のミサイル能力を殲滅(せんめつ)する必要があります」(香田氏)

当然のことであろう。北朝鮮は500発以上の弾道ミサイルを保有し、そのうち数十個の核弾頭を装着可能だといわれている。攻撃の意志ありと「判断」し、先制攻撃したとして、一個でも撃ち漏らせば核弾頭が日本を襲う可能性があるのだ。北朝鮮のミサイル反撃はアメリカの応戦を呼ぶかもしれないが、核の応酬は惨劇を招くいがいの何ものでもない。核時代の戦争に勝者はないのだ。

香田氏はまた、ワイドショーのインタビューでは「日本には北朝鮮のミサイル基地を把握するスパイもいません。基地を叩こうにも、肝心の情報がないのです」と、指摘する。けだし当然である。

すでに北朝鮮は、潜水艦からの弾道ミサイル発射に成功している。自衛隊のP3C(早期警戒機)が領海をこえて、北朝鮮のミサイル潜水艦を索敵するのは、もはや戦争行為である。

いや、日本を仮想敵国にしている韓国・中国の防衛攻撃を受けかねない。その方面(歴史認識と島嶼領土問題)では、日本の政治的孤立は深刻である。安倍政権の外交努力の貧困こそ、問題にしなければならない。アメリカにすり寄るだけを外交だと思い込んでいる人物を、総理の座から引き下ろすのでなければならない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政 河合夫妻逮捕も“他人のせい”安倍晋三が退陣する日

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機