◆大阪府敗訴!! ──ホームレスの占有を認めて勝たせた初の事例!!

日雇い労働者の町・釜ヶ崎(大阪市西成区)の「あいりん総合センター」(以下、センター)の建て替え問題を巡って大きな動きがあった。建て替え工事を進めるため、周辺の野宿者を強制立ち退きさせようとした大阪府の仮処分の訴え(土地明渡断交仮処分命令申立事件)が、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)で却下されたのだ。弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)の遠藤弁護士によれば「ホームレスの占有を認めて勝たせた事例は初めてのこと」だそうだ。

◆「耐震性に問題がある」と始まった建て替えだが……

昨年センター閉鎖後も、上で営業を続けていた「医療センター」は、11月末閉鎖され、昨日フェンスで囲われた

2019年4月24日、強制的に閉鎖されたセンターの周辺には、それ以降も多くの野宿者が生活していた。閉鎖されたセンターは、閉鎖後も上で営業を続けていた「医療センター」が移転したのち解体をはじめ、2025年新センターを完成する予定だという。

大阪府は4月22日野宿者らに対して「立ち退き訴訟」の本裁判を提訴したが、これが長引いた場合、解体や業者の入札などに遅れが生じるためと、一気に仮処分を断行し、強制立ち退きしようと目論んできた。仮処分裁判は10月末までに2度の審尋(非公開)を終え、裁判所は11月以降決定を下すとしていた。そこで出された決定が「債権者(大阪府)の申し立てを却下する」であった。敗訴した大阪府(債権者)の主張について、大阪地裁がどう判断したか見てみよう。

大阪府はセンター建て替えの最大の理由を「耐震性に問題がある」としてきた。これに対して決定文は「本件建物の耐震性に問題があるとの指摘は平成20年(2008年)になされたところ、それにもかかわらず債権者(大阪府)及び大阪市は本件建物について、その後10年以上も補修を重ねながら利用を維持してきたこと、令和2年12月に終了予定であるとはいえ、同建物内において本件医療施設が稼働している状態にあること、本件建物の建て替えなどにあたって、本件建物の耐震性を喫緊の課題であると認識していたとはうかがわれない」と大阪府の主張を否定した。

◆「西成特区構想」を進めるまちづくり会議

確かに、耐震診断を行った2008年から13年も経過しているが、大阪府が「一刻も早く建て替えを」などと動いた形跡はない。じつは耐震診断後、建て替えだけでなく、耐震補強工事案も出ていたが、「建て替えを」に一挙に変わったのは、2012年、当時大阪市長だった大阪維新の橋下徹氏が「西成特区構想」を打ち出してからだ。大阪維新の西成特区構想を進める形でセンターをどうするかが話し合われてきたことは、解体後の跡地をなるべく広い、使い勝手の良い跡地にするため、耐震性に問題のない第二市営住宅まで解体・建替えすることからも明らかだ。

しかしまちづくり会議において、センター解体後の広大な空き地の南側に「新労働施設」(西成労働福祉センターとあいりん職安)を新設することは決まったものの、跡地全体をどうするかの具体例は示されていない。それについて決定文は「おおまかな方針(利用イメージ案)は示されたものの、その内容は、概略的なものにとどまっており、同施設自体の規模や機能といった基本的な計画さえもいまだ定まっていないこと、本件敷地全体については、利用イメージ案が示されているにすぎず、個々具体的な利用計画に関しては,未だまちづくり会議において検討の基礎とされる案が行政機関からも示されていない段階にある」として、「債権者がその遅れを懸念する本件建物の建て替え計画について、それ自体が将来にわたる不確定要素を多く含むものといわざるをえない」と批判的に捉えている。

さらに大阪府は、建て替え計画が遅れることで、大阪府とまちづくり会議に参加する委員との信頼関係が損なわれると主張していたが、決定文は「会議の経過やその内容等によると、そもそも、まちづくり会議の参加団体などと債権者の間の信頼関係なるものは、きわめて抽象的かつ主観的なものにすぎないといわざるをえない」「これまでも会議を開催するたびに、スケジュールが度々変更されていること、まちづくり会議の委員の中には、本件建物の解体工事に伴う野宿生活者の排除について懸念を示す者もいたこと」などから「本訴訟の帰趨によって再びスケジュールが変更されても、大阪府とまちづくり会議の委員らとの信頼関係に悪影響がおよぶとは考え難い」として、大阪府の主張を退けている。

広大な跡地を確保するため、耐震性に問題ない第二市営住宅(右)まで解体され、隣(左)に新設中だ

◆センターより耐震性に問題がある南海電鉄高架下の仮庁舎

非破壊検査で鉄骨が入っていないことがわかった南海電鉄高架下の仮庁舎の橋脚。大勢の労働者が出入りする

「耐震性に問題がある」として、センターの建て替えと仮移転先を南海電鉄高架下に決めたのはまちづくり会議の場であり、反対したのは稲垣浩(釜ケ崎地域合同労組委員長)委員たった一人だった。

7億5千万円の血税をつぎこんで造った仮庁舎の建設費用を巡っては、住民訴訟が提訴され、なぜ入札ではなく、南海電鉄傘下の南海辰村組に随意契約したか、操業から80年以上経つ南海電鉄高架下が安全であるかなどを争っている。後者の南海電鉄高架下の安全性について、先日大事件が発覚した。原告の一人が、専門業者に依頼し、高架下に入る西成労働福祉センター仮庁舎の橋脚6本の非破壊検査を行ってもらったところ、南海辰村組と大阪府が「入っている」と何度も主張した鉄骨が入っていないことが判明した。住民訴訟の弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)は、調査結果を大阪地裁に証拠提出し、裁判長は大阪府に事実を明らかにするよう求めている。

次回裁判は12月18日。南海電鉄はこれまで「仮庁舎の入る場所は耐震補強工事をしなくていい場所だ、何故ならRC柱(鉄筋コンクリート造り)ではなくSRC柱(鉄筋鉄骨コンクリート造り)だからだ」と主張し、裁判所にイラストまで証拠提出していたが、あれは嘘の証拠だったのか?仮庁舎を使用する労働者や職員の命だけではなく、上を走行する南海電車を利用する1日何十万人もの利用者の命がかかっているのだぞ!

◆「死ぬのは嫌だ」

先日、センター裏で野宿していた男性が亡くなった。時々弁当を届けていた男性だ。痩せてがりがり、最後は米粒どころか飲み物も受け付けなくなっていた。先週、救急隊員と役所の職員らに「救急車に乗って病院に行こう」と2時間近く説得されたが「病院にはいかない」と頑なに断っていた。

救急隊員が帰ったあと、職員に「どうしたらいいか?」と尋ねると「意識がなくなったら(交通事故のように)救急車を呼べる」と聞き、翌日朝と昼に声をかけた。しかし男性は、やせ細った身体を震わせ「嫌だ」と拒否した。施設や病院、あるいは行政の世話になることを拒否しているようだ。職員に「このままだと死ぬよ」と言われ「死ぬのは嫌だ」と答えていたという。死ぬのは嫌だが、それと同じくらい病院に行くのも嫌だと野宿を続けた男性。野宿がいいか悪いかの問題だけではない。冷たいコンクリに直接敷いた布団の上で、自分の吐しゃ物にまみれた頭を震わせ「嫌だ」と振り絞るように上げた男性の声が忘れられない。(※この詳細は尾崎美代子のFacebookを参照ください)

搬送された病院で死亡が確認された野宿の男性が住んでいた場所。コンクリートに布団を直に敷いた寝床でも、男性は「離れたくない」と訴えていた

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』12月号

NO NUKES voice Vol.25