ニセベートーヴェン騒動の“作曲家”佐村河内守氏が、暴露をした音楽大学講師・新垣隆氏の話には虚偽が含まれているため、名誉毀損で訴えると記者会見で述べていた。
実際にどうするかは調査中だそうだが、その調査をしている弁護士の一人は、かの有名な「カミソリヒロナカ」とも言われる切れ者ベテラン弘中淳一郎弁護士の主催する「法律事務所ヒロナカ」の山縣敦彦弁護士であった。
この弁護士には、取材に行って「ノーコメント」と言われたことがある。ちゃんと名刺交換するなど礼儀正しくはあったのだが。

これについて、かつて『紙の爆弾』 に記事を書いた(2013年1月号) が、あの池田ゆう子クリニックの豊胸手術を、熱心に奨められて受けることにした女性が、強引な勧誘だったうえ、失敗した女性の悲惨な話を知って不安にもなったから、拒否したところ契約違反で訴えられたというものだった。

前に 弘中弁護士は、薬害エイズ事件の加害者として批判された安部英医師の訴訟代理人となり、批判記事を書いた櫻井よし子氏を訴えたことがあった。一度は賠償を勝ち取ったが、最後には逆転で否定された。ただし櫻井氏の記事がいかにデタラメかは証明された、というのが弘中氏側の言い分である。
たしかに、判決文からその趣旨は充分に読み取れるし、そもそも櫻井よし子氏には、ずさんな取材に基づいた記事とか、思い込みによる発言などがあり、これについては批判が多い。

しかし、かつて弘中弁護士といえば医療問題で患者側について熱心に訴訟活動をしてきたことで有名である。「クロロキン網膜症事件」「六価クロム職業病事件」などである。
それが、安部英につづいて池田ゆう子の代理人とは、仰天するような話である。

また、私人でありながらマスメディアに総攻撃されていた三浦和義氏の弁護をしたり、デモに参加したことで在留更新を拒否された外国人が政治活動の自由を問うた「マクリーン事件」を担当したりと、弘中弁護士は常に弱者の側に立って進歩的な弁護活動を続けてきた。自由人権協会の代表理事を務めていたこともある。

しかし今では、弘中弁護士は有名人の弁護をする売れっ子の弁護士として知られている。 陸山会事件での小沢一郎氏を弁護したことは、その代表と言えるだろう。
こんな弘中弁護士に、フリージャーナリストの寺澤有氏が、たまたま会う機会があったので、そうした弁護でまた儲けようとしているのかという趣旨の質問をしたところ、弘中弁護士は、そのようなことを考えるのは君だけだ、という返事だったそうで、この話を聞いた者は一様に、誰だって同じように思っているぞ、と言ったのだった。

そして今度は、彼の事務所が、今話題の佐村河内氏の弁護をするというのだから、また話題の人というわけだ。
この一方では、逮捕されたから弁護して欲しいと事務所に電話をした人が、「うちの先生は紹介がないと引き受けません」と無下に言われているのだった。

これではまるで、松本清張の小説『霧の旗』である。

(井上 靜)