50万円なら立件され、7万円なら犯罪ではないのか。

総務省および国会では、政治倫理規定に反するという処分、あるいは批判に終始しているが、東北新社による総務省官僚接待はれっきとした「収賄事件」なのである。そのことを慮り、すでに総務省の11人が処分された。

同じ収賄事件で何ら処分されなかったのが、元総理秘書官であり、菅内閣の広報官・山田真貴子である。そう、あの総理記者会見の仕切り人である。

まず、収賄罪を条文で確認しておこう。

刑法 第197条(収賄、受託収賄及び事前収賄)

公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。

条文にある「請託」の有無は、収賄という犯罪の構成要件に関係がない(加重にすぎない)。ただ単に「ご馳走になった」だけで、構成要件は成立するのだ。
国税調査を受けた方ならご存じだろう。

国税調査官は絶対に、出されたお茶やジュースなどを口にしない。調査を受ける対象からの「収賄」に当たるからだ。

公務員、とりわけ国家公務員には、この種の教育が徹底されている。にもかかわらず、高級官僚たる彼ら彼女らは「役得」として接待に応じる。いや「役得」ではないかもしれない。相手が政治がらみのキーパーソン(今回は菅総理の息子)ならば、みずからの出世を左右する内閣人事局の力を怖れて、接待に応じざるを得ないのだ。

冒頭に書いたとおり、50万円の収賄ならば間違いなく起訴されていただろう。いや、過去の接待を累積すれば、この「断らない女」には50万といわず、数百万の収賄容疑が飛び出すかもしれない。

7万円のステーキご馳走で「お目こぼし」にされたのは、相手が総理のお気に入りの女性広報官だからにほかならない。そして総務省を退官後に特別公務員となった彼女は、上司たる総理から「反省している」「給与も返納した」として、何の処分もなしに続投を許されたのである。


◎[参考動画]7万円超接待は「心の緩み」 山田広報官 国会で追及(FNN 2021年2月26日)

◆菅義偉に抜擢された異例の出世

事件と国会での答弁をふり返ってみよう。

東北新社に務める菅義偉首相の長男らによる総務省幹部接待で、山田真貴子は同社から総務審議官時代の2019年11月に約7万4,000円に上る高額な接待を受けていた。2月25日の衆院予算委に参考人として出席し、「公務員の信用を損なったことを深く反省している。本当に申し訳なかった」と陳謝したものの、「今後、職務を続ける中で、できる限り自らを改善したい」と述べ、引き続き内閣広報官を務める意向を示したのだ。

「その場に菅正剛さんがいたかどうかは、横並びの席だったので記憶にない」「わたしにとって、菅さんは特に大きな存在ではない」

そうではないはずだ。

じつは山田真貴子のキャリアアップには、菅総理が大きくかかわっている。安倍晋三総理(当時)の秘書官となり、総務省にもどっては審議官、官房長、国際戦略局長と階段をのぼったあと、菅政権で内閣広報官(省庁でいえば、次官級)となったのだ。このキャリアアップはすべて、ほかならぬ菅義偉の推挙によるものだったのだ。したがって、その息子菅正剛が「大きな存在ではない」はずがない。

◆謝って給与の一部返納で済ますのか?

加藤勝信官房長官の25日の会見によれば、接待問題を受けて給与報酬月額の10分の6を自主返納する山田真貴子の返納額が明らかになった。70万5,000円に上るとのことだ。広報官の給与報酬は月額で117万5,000円。地域手当などを含めると、給与は月額で約140万円ほどになる。

国税庁の調査では、サラリーマンの平均月収は約35万円である。このコロナ禍で残業代も減り、給与はさらに下がっている。

サラリーマンたちが身を削る思いで必死に納めた税金で、疑惑の広報官女史には自分たちの月収の約5倍も支払われていたのだ。彼女の高額の給与は、税金で出来ているのだ。

さらに利害関係のある業者からも、賄賂性の高い飲食代を負担してもらっていたのだ。怒れ、納税者たち、である。あまりにも「官僚天国」すぎるではありませんか。

◆「断わらない女」とは、どういう女なのか

山田真貴子は広報官に抜擢される直前の昨年6月、若者への動画メッセージで「幸運を引き寄せる力」について語っている。

「イベントやプロジェクトに誘われたら絶対に断らない。飲み会も断らない。出会うチャンスを愚直に広げてほしい」と呼びかけていたのだ。

彼女自身も「飲み会を絶対に断らない女としてやってきた」のだそうだ。そうして巡り合った幸運のひとつが、菅首相の寵愛だったということなのであろう。

だが、一見女性の時代に即した官邸のこの女性官僚の抜擢は、およそ時代に逆行してはいないだろうか。

いま、社会的に活躍しようとする勤労女性にとって、上司の誘いを「断らない」ことがいかに苦痛で、仕事と子育ての阻害物になっているか、おそらくこの女史は知らないのであろう。イベントやプロジェクトはともかくとして、接待や飲み会への付き合いは、いわば男性社会の旧い慣習文化である。

総務省OBの話を聞こう。

「飲み会などで、彼女はあえて遅れて登場することがある。自己演出に長けていて、『仕事で遅れまして~』と颯爽と笑顔で入室してくると、男たちは一斉に立ち上がり、やんやの喝采で迎えるのです」

ようするに男性に媚びて、出世のための人脈やチャンスを得るために、働く女性は男性社会の風習に馴染め、と言っているに過ぎない。

女性がスキルを磨き、家事や子育てをしながら仕事を続けるのではなく、飲み会で培われる人脈や情実といった、男性社会のコネで出世をめざせと、そう説いているのだ。まさに女性の自立や社会進出に逆行する、男社会に隷属する女性像ではないか。

◆広報官の都合で、総理の記者会見が中止に

2月26日に、政府はコロナ禍の緊急事態宣言の中止(首都圏をのぞく)を宣言した。しかしその総理記者会見は中止され、総理の「ぶら下がり取材」となった。

つまり記者会見の場で、総理があらためて国民に「自粛」や「緊張感」をうながすという、メッセージの場にはならなかったのだ。ポンコツ答弁と揶揄される菅総理に必要なのは、国民への生の言葉によるメッセージではなかったのか。

いや、このうえ犯罪容疑者たる女性広報官に、会見の場を仕切らせることに無理を感じたのであろう。

山田広報官といえば、事前に報道各社(官邸記者クラブ)に質問を募り、幹事社をはじめ総理が答えやすい質問をする記者だけを指名する仕切りに終始してきた。そして質問時間が長びくと「次の予定がありますので」と質問を打ち切る役割だった。

今回、記者会見が行われていれば、以下のような事態が生起したにちがいない。

記者    「総理、山田広報官の接待問題ですが。収賄容疑にあたるような行為をした人物が、内閣広報にふさわしいとお考えですか?」
菅総理   「……」
山田広報官 「つぎの予定がありますので、ここまでにしたいと思います」
記者    「あなた、自分のことだから打ち切るんですか?」
記者B   「質問に答えろ!」
山田    「終わりにします」
記者席   「(怒号!)」

という具合だ。

広報官の犯罪容疑が、すでに総理の公務に支障をきたしているのだ。この収賄容疑者はただちに更迭せよ、と提言しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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