北九州市議選挙における自民党の惨敗の詳報、7月都議選がダブル選挙になるかもしれない観測記事が目を惹いた。

 

2021年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』4月号

青木泰の「山が動く──政権交代の足音」、山田厚俊の「7月『都議選ダブル』解散」である。

北九州は元来、旧社会党時代から革新系が強い場所でもあった。高齢率も政令指定都市のなかで日本一高いことも、根づよい反自民の地盤を象徴している。その北九州で1月末の市議選の結果、自民党候補22人(定数57)のうち、現職の6人が落選した。野党では立憲民主党が5人から7人、維新が0から3人、無所属が7人から10人。明らかに自民批判の有権者の動きである。これが政権交代を占うバロメーターになるかもしれないことは、本通信でも指摘してきたところだ。

北九州市議選では「お前も自民やろ!」(罵倒するときに関西弁風の訛りが入る北九弁特有のもの)などと、自民党候補が街頭でヤジられる事態が頻発したという。何が起きているのかは本誌の記事を参照して欲しいが、11選をめざした県連副会長、をふくもベテラン議員の落選は、個々の議員ではなく自民党批判が鮮明になっている。1月24日投開票の山形知事選挙でも、前回衆院選挙で3小選挙区を独占した自民が、3割も取れない惨敗。加藤鮎子(加藤紘一の娘)が県連会長を辞任する事態となった。

◆1989年、2009年と酷似している

青木はこの流れを、1989年に社会党の参院選挙での大勝、いわゆる「山が動いた」減少となぞらえる。このときは、4カ月前の小金井市議選挙での社会党の上位独占、参院新潟補選での社会党女性候補の当選と、ここから衆参逆転のマドンナ旋風が想起される。

当時はリクルート問題で竹下政権が崩壊し、宇野新総理の愛人問題で、自民党がカネとスキャンダルにまみれた政治危機にあった。

政権交代となった2009年の総選挙では、民主党が選挙前を大幅に上回る308議席を獲得し、議席占有率は64.2%に及んだ。単一の政党が獲得した議席・議席占有率としては、現憲法下で行われている選挙としては過去最高である。

その前年の都議会選挙で、民主党が圧勝していることも見逃せない。当時は消えた年金問題で、これ以上自民党にまかせていたら、老後の生活がおぼつかないという、年金生活を目前にした団塊世代の危機感があった。

今回は言うまでもなく、モリカケ桜疑惑の隠ぺい、コロナ禍での無策・手詰まりに、もうこれ以上自民党ではダメだろう。という空気が支配的になっている。安倍長期政権の経済政策が、経済(生活)を何とかしてくれるはずだったのに、けっきょく株主しか儲からない社会だったと、その正体が顕わになったのである。

国民はまだこの「政権交代」空気にあまり気づいていないが、自民党の危機感たるや凄まじい。青木がレポートした西東京市長選挙では、ヘイトまがいの「違法ビラ」で個人中傷を行なっているのだ。記事には反自民候補だった平井竜一氏のインタビューも収録されているので読んでいただきたい。

◆都議選とのダブルの可能性

山田厚俊のレポートは、自民党議員の取材から都議選(衆院)ダブル選挙が30%ありうるという情報だ。どうやら現在の自民党に「菅おろし」をする体力はない。たしかにそうかもしれない。派閥が金力と人脈、そして一応の政治理念で抗争していた時代とはちがい、官邸一極集中で総じて自民党政治家が小粒になっている。派閥の力が自民党の活力を生み出していた時代とは違うのだ。

それにしても、「ネクラ」の菅では総選挙は戦えない。自民党総裁は選挙に勝ててなんぼである。あれほど身びいきと政治の私物化で、なおかつネオファシスト的な反発を買っていた安倍晋三が「安倍一強」だったのも、選挙に勝てたからにほかならない。思い返してみれば、安倍晋三は中身はともかく、見てくれだけは国際政治のどの舞台に出しても、他国の政治家と遜色がなかった。

安部は一流の政治家一族に生まれ、秀才とはいえないまでもアメリカ留学して英語を磨き、それなりの二枚目であり、かつ長身でスマートな体躯。これらはぎゃくに、菅義偉総理にはないものばかりなのだ。いわば日本のアッパーミドルの期待と上級国民たちの熱烈な支持、そして排他的なネトウヨに支えられてきた。そしてその政治の私物化・お友だち優遇という醜い側面を暴露されていくなかで、引き時を誤らなかったのも政治センスなのであろう。

さて、山田レポートでは選挙の「新たな顔」に、河野太郎と野田聖子を挙げている。順当なものだと思う。あとは公明党(ダブル選挙に反対)との関係の変化である。解散の時期をどうするのか、菅総理にとってそこが正念場であるのは変わりない。

◆令和の「奴隷島」

パソナ竹中平蔵の「奴隷島」のレポートは衝撃的だ。いよいよ日本の階層分化が「奴隷島」を作ってしまったのだ。

抽象的な意味での「資本主義の賃金奴隷制」とかではない。竹中が淡路島に新型の貧困ビジネスを作ろうとしているのだ。パソナグループの新卒学生対象(契約社員)が「日本創成大学校ギャップイヤープログラム」というものだ。小林蓮実のレポートである。そのプログラムの内実は惨憺たるものだ。

小林によると、週40時間労働で手取りは12万ほど。受講費2万8,000円のほかに寮費が2万6,000円、食費が5万4,000円。ここまでで、手元に残るのは1万円ほどになってしまう。これでは島から外に出ることもできない。SNSで「奴隷島」「貧困ビジネス」と揶揄されるゆえんだ。読むほどにオドロオドロしい実態だ。悲惨な体験レポートとか、その実態を生々しく暴露する追加記事に期待したい。

「コロナワクチンの現実と『ワクチン後』の世界」(西山ゆう子取材・文、中東常行協力)は、ロサンゼルスの動物病院で働く西山のレポートだ。これから始まるはずの、日本のワクチン接種の参考にしたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年4月号