またも恫喝訴訟かと耳を疑う案件はまだまだ世の中にごまんとある。
日本経済新聞社と同社の喜多恒雄社長は2012年9月に恫喝訴訟を行った。事実無根の見出し・記事により、名誉を著しく傷つけられたとして、週刊文春を発行する文藝春秋社などに対して、合計1億5400万円の損害賠償の支払いと、謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こしたのだ。
これとは別に女性デスクも文芸春秋に1815万円の損害賠償などを求めて提訴。2つの訴訟の審理は併合された。

請求額は、日経が1億2100万円、喜多社長が3300万円。記事の対象は、2012年7月11日発売の7月19日号でタイトルは「スクープ撮! 日経新聞 喜多恒雄社長と美人デスクのただならぬ関係」というもの。

3月4日、判決が出た。
東京地裁は「(記事が)真実と認めるに足りる証拠はなく、取材結果の冷静な評価も誤った」として、文芸春秋などに対して計1210万円の支払いと謝罪広告の掲載、ウェブサイトに掲載している記事・写真の削除を命じた。

判決は、日経新聞社の女性デスクの訪問先が喜多社長のマンションの部屋であるとの記事について「真実であるとする根拠は薄弱」と指摘。喜多社長による情実人事についても「真実性の証明は認められない」としたうえで、記事は「取材結果の冷静な評価を誤ったものといわざるを得ない」と判断した。

さらに、日経新聞社の損害について「記事は、日経新聞社の長年の実績に対する信認を大きく傷つけ、公的な言論機関としての在り方に重大な疑念を抱かせることは明らかであり、無形的損害は甚大」として、550万円を認定。喜多社長の名誉毀損の損害額を330万円とし、女性デスクについてはプライバシー権の侵害も認め330万円の賠償を命じた。

ポイントは2つあり「喜多社長が自宅がある新宿の高層タワーで美人デスクと逢い引きしていた」「美人デスクは、社長のお気に入りで人事を握っている」というもの。「逢い引き」については、社長がマンションから出て来てから10分後に同じエントランスから出て来たという事実を写真で抑えて、「人事を握っている」という件は、「だれも知らない人事を知っていた」と日経の経済部関係者のコメントで補強している。

「社長にも、その美人デスクにも直撃取材しているのだが、いかんせん決定的な証拠がない。文藝春秋は、控訴するとしているが、判決がひっくり返ることはないだろう。記事も裁判になったときのことを考慮して取材しないとならない時代がきたということだ。この先、1000万円訴訟クラスの判決はどんどん出てくるだろうな」(弁護士)
文藝春秋社は「承服できない判決。ただちに控訴する」とコメントを出した。
大型賠償金が当たり前となってきたが、「悪しきモデルケース」とならないように祈る。

(小林俊之)