小学館「ビッグコミックスピリッツ」に連載中の『美味しんぼ』(作・雁屋哲、画・花咲アキラ)の「福島の真実編」の内容に、環境省、福島県、双葉町、大阪府、大阪市が声明を出し、閣僚たちが批判している。
福島第一原発の事故を、あたかもなかったのごとく封じ込めようとしてきたことに、マンガが亀裂を走らせた。これには快哉を叫びたい。

東京電力福島第一原発の事故以降、周辺の地域で、それまであまり鼻血を出したことがない者も含めて、鼻血を頻繁に出すようになった者が多いことは、野党時代の自民党が国会に参考人を招致して述べているくらいだから、否定しようがない。

問題は、鼻血と放射線被曝との関係だが、声明や批判の中で、「因果関係がない」といっているものと、「因果関係は科学的に立証されていない」といっているものとがある。この両者は、似ているようでいて、まるで違う。
科学的に立証されていないというのは、その通りだ。だがそれは因果関係があるかないか、まだ分からないということであって、因果関係はあるかもしれない。
だから、「因果関係がない」というのは、ウソをついていることになる。

これは、少し考えてみれば分かるだろう。
アイザック・ニュートンが『自然哲学の数学的諸原理』を刊行する前にだって、万有引力そのものは存在した。
ニコラウス・コペルニクスが『天球の回転について』を記す前から、地球が太陽の周りを回っていた。
科学的に立証されてないからといって、ないことにはならないのだ。
それを考えてみれば、今『美味しんぼ』に対して行われているのは、ガリレオ・ガリレイへの異端裁判と同じだ。

広島への原爆投下で自身が被曝した、肥田舜太郎医師は、被爆者の診察を続けた。一方で、直接被ばくを受けなかった、低線量被曝の健康影響について研究を続けてきた。
体力・抵抗力が弱く、疲れやすい、身体がだるい、などと訴える患者に多く出会い、肥田医師は、「原爆ぶらぶら病」と名付けた。
鼻血が出やすい、という症例も多く見られている。

放射能の身体への影響は千差万別だ。同じような環境で暮らしていたとしても、まったく健康で長生きした者も多いのも事実だ。
それだけに、因果関係の立証は難しく、科学的な立証に至っていないのは事実である。

同様の症状は、チェルノブイリ原発事故の被災者や、米国の大気圏核実験で被曝したアメリカ兵、日本やその他の国の原発労働者にも多く見られてきた。

環境省の声明ではこう言っている。
「東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません」
さすがは霞ヶ関文学である。
ここでは、住民に鼻血が多発しているという事実は否定せず、因果関係を否定している。だが、住民に鼻血が多発という事実も否定しているかのようなニュアンスも漂わせている。

いずれにせよ、環境省は因果関係を否定しているだから、ウソをついているのだ。

これをあぶり出した、『美味しんぼ』の功績は大きい。
ただ一点残念なのは、福島には住めない、という言葉があることだ。
福島は広く、問題のない放射性濃度の地域も少なくない。
そこで、改良を重ねながら仕事を続けている生産者も多い。
風評被害がおこるという指摘も、まったく的外れではない。
食をテーマにした作品なのだから、そうした生産者との出会いも描かれるに違いないと期待している。

(深笛義也)