薄気味悪い展開になってきた。PC遠隔操作事件をめぐるマスコミ報道のことである。

弁護団の熱心な冤罪PR活動などにより冤罪を疑う声が広まっていた片山祐輔被告(32)が一転して地獄に突き落とされたのは今月19日のこと。3日前の公判中に「真犯人」を名乗る人物から報道関係者らに届いたメールが片山被告の「自作自演」だったと判明したという“捜査情報”が相次いで報道されたためである。

報道によると、片山被告を尾行していた捜査員が荒川の河川敷で片山被告が不審な行動をしているのを確認。報道関係者らに「真犯人」からのメールが届いたあとで河川敷の地面を掘り起こすと、ポリ袋に入ったスマートフォンが見つかり、「真犯人」を名乗るメールが送信された痕跡や片山被告のDNAの付着が確認されたという。

こうした報道が出た後、片山被告が行方不明になったという情報が流れて安否が心配されたが、最終的に片山被告は無事現れ、22日の公判で無罪主張を撤回、起訴内容を全面的に認める急展開となった。では、マスコミ報道の何が薄気味悪いかというと、次のように警察捜査を礼賛する報道が相次いだことである(すべてヤフーニュースで配信された記事)。

《保釈の片山被告を徹底マーク=外出時の行動、執念で確認―証拠隠滅警戒で・警視庁》(時事通信5月20日18時55分配信)
《<PC遠隔操作>誤認逮捕の4警察本部…執念の尾行2カ月半》(毎日新聞21日7時24分配信)
《PC遠隔操作 佐藤弁護士「完全にだまされた」…スマホ掘り返した捜査員を称賛》(産経新聞5月21日7時55分配信)

見出しだけで一目瞭然だろうが、これらの記事は要するに捜査当局が決定的証拠に関する“捜査情報”をマスコミに漏洩させ、そのために片山被告に逃亡されたことを疑わざるをえない事態が発生したことを黙殺。そのうえで、警察が「執念の捜査」で真犯人を追い込み、誤認逮捕で揺らいだ威信を回復させたと手放しで褒め称えているわけである。

そこで筆者は警視庁と東京地検に対し、捜査情報を漏洩させた犯人を検挙すべく、捜査をしているか否かを問い合せた。すると案の定、警視庁は「この件に関しては今回、警視庁としては発表をしていません。何か発表していれば、広報文を読み上げて対応させて頂くのですが」、東京地検は「個別の捜査上の進行していることに関してはお答えしていません。捜査はしているのか? それも含めてお答えできません」などという返事。いずれの広報担当者も話しぶりからすると、日本全国の注目を集めた重大事件の「真犯人」を自殺させる恐れすらあった捜査情報漏洩事件が発生したという認識すらないようだった。

この事件は当初、警察が「真犯人」の罠にはまって4人も誤認逮捕し、大バッシングにさらされた。さらに「真犯人」として片山被告が逮捕されて以降も冤罪の疑いを指摘する声が広がり、検察も逆風にさらされた。筆者はこの間、正直この事件に関心が持てないでいたが、今こそ本当にこの事件の捜査が批判的に検証されるべき時が来たと感じさせられている。

誤認逮捕は重大な過ちだが、警察としても事件解決のために努力した結果の過ちではなかったかと善意の存在を見出しうる余地はある。しかし今回の捜査情報の漏洩については、その経緯に警察や検察の善意を見出すのは甚だ難しい。捜査当局が純粋に事件解決のために「執念の捜査」をしていたのなら、真犯人を永遠に逃亡(=自殺)させた可能性すら指摘しうる捜査情報漏洩事件の真相こそ一日も早く解明すべきである。

(片岡健)

★写真は、捜査情報漏洩事件の捜査をする気がまったくなさそうな警視庁