所属するライジングプロダクションに安室奈美恵が突きつけた提案書とは、いかなるものなのか。

報道によれば、これまで安室とライジングプロとの専属契約は5年ごとに更新され、現在の契約は2017年2月末に終了することになっているという。

提案書では、これまでのライジングプロと安室の個人事務所、アフタービートが契約を結んでいたが、アフタービートを清算し、契約を解消し、5億円ある資産を退職金として安室に支払い、ステラ88とライジングの関連会社であるヴィジョンファクトリーが改めて契約し直す。そして、ライジングが保有する安室に関するすべての商標権や原盤権の一部をステラ88に譲渡し、印税の配分や報酬の割合を引き上げるよう求めている。

これにライジングが難色を示すと、安室は「これでは奴隷契約よ!」と言い放ったという。

どういうことなのか。

◆脱税で実刑判決を受けたライジング平社長の思惑

現在の安室の個人事務所、アフタービートの代表取締役は、安室ということになっているが、ライジングプロの平哲夫社長が株式を100%保有している。安室の主張する通り、アフタービートを清算すれば、資産はすべて平のものとなってしまう。個人事務所といいながら、安室には何の権利もなく、最初からライジングプロに囲い込まれているのだ。平社長は提案書を受け取った翌月に安室をアフタービート取締役から解任した。

また、契約先をライジングからヴィジョンファクトリーに変更するという安室の意向には、多くの有力芸能プロダクションが加盟する日本音楽事業者協会(音事協)の統一契約書の問題が絡んでいるようだ。

ライジングプロは音事協に加盟しており、タレントとの契約については音事協の統一契約書を採用しているが、ヴィジョンファクトリーは、音事協非加盟で、ライジングプロ所属タレントのブッキングを専門に行なう会社であり、所属タレントはいない。ライジングプロからヴィジョンファクトリーへの移籍は、音事協の統一契約書の枠から外れたいという安室サイトの意向があるようだ。

なお、ライジングとヴィジョンファクトリーが分離している背景には、平社長の過去が関係しているのかもしれない。

平社長は2001年に発覚した脱税事件で2年あまりの実刑判決を受けている。芸能プロダクションが行う有料職業紹介事業は、職業安定法の規定で、禁錮以上の刑に処せられた者に対して、その執行を終わってから、5年間、厚生大臣の許可が下りない。

この問題を回避するため、平が代表を務めるライジングプロではなく別の者が代表を務めるヴィジョンファクトリーがタレント斡旋業を表向き行なっているという形にしたかったのではないか。

◆タレントに事務所「奴隷」化を強いる音事協の「統一契約書」とは?

さて、安室とライジングプロが交わしている音事協の統一契約書とはいかなるものなのだろうか。

かなり古い話になるが、芸能ジャーナリストの竹中労が1968年に敢行した『タレント帝国』の中でこれを明かしている。芸能界の仕組みは、当時も今もまったく変わらない。契約内容もほぼ同じだと考えられる。以下、重要だと思われる部分を抜粋する。

第一条 乙(タレント)は甲(プロダクション)の専属芸術家として本契約期間中、甲の指示に従い、音楽演奏会、映画、演劇、ラジオ、テレビ、レコード等、その他一切の芸能に起案する出演業務をなすものとし、甲の承諾を得ずしてこれをなすことができない。

第三条 甲は甲乙共通の利益を目的とする広告宣伝のため乙の芸名、写真、肖像、筆跡、経歴等を自由に使用することが出来る。

第四条 本契約期間中に於て乙のなした一切の出演に関する権利は総て甲が保有するものとする。

これらの条項によれば、タレントは一切の出演業務について、専属契約を結んだプロダクションから指示を受けなければならず、自分の意志でこれを行なうことはできず、肖像権などもプロダクションに帰属するものとされる。タレントは、まさに事務所の「奴隷」なのである。

さらに、重要なのは次の条項だ。

第十条 本契約書に基づいて甲乙両者間に係争が生じた場合は、日本音楽事業者協会がその調停に当るものとし、甲乙両者は協調の精神を以て話合いに応ずべきことを誓約する。

「奴隷契約」に疑問をもってタレントが独立しようとして、事務所との間に紛争が生じると、音事協が調停役として出てくることが契約に書かれているのである。

だが、音事協は裁判所ではない。プロダクションの利益を代表する団体であって、タレント側に立った判断をしてくれるわけではない。

実際、過去にはタレントの独立トラブルで音事協が介入したケースがあった。

1986年に歌手の小林幸子が所属する第一プロダクションが独立しようとしたとき、第一プロは音事協仲裁を申し入れた。その結果、小林は第一プロに2億円を払うことで独立を許してもらうということになった。だが、そのような手切れ金を支払う法的な義務はない。業界から干されたくなければ、カネを積め、ということなのだ。

そして、今、その音事協が安室の「奴隷契約」発言を問題視し始めたという。安室が「奴隷契約」と批判したのは、音事協の統一契約書であり、「奴隷契約」を所属タレントに強いている音事協の体質に対する批判に繋がる。それは芸能界全体を敵に回すことを意味する。

(星野陽平)

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