安倍首相が衆議院の解散を決定した。「アベノミクスをよりしっかりしたものにするために国民の真を問う。消費税の10%への引き上げは1年8ヶ月延期する」らしい。

先に発表された6-9月のGDPが前期よりさらに悪化し、年間で見れば1.8%以上のマイナス成長になることがすでに判明している。しかし、こんなことは経済に疎い私にすらわかりきっていたことだ。

消費税は1988年竹下政権時代に「社会保障目的税」(全額を社会保障に使う)を謳い3%で課税が始まった。1997年村山政権時代に5%へアップし、民主党政権下で8-10%への段階的増税が自民、民主、公明の3党によってなされ、今春から8%に上がったばかりだ。

経済を冷静に見る複数のエコノミストは、消費税が導入された1989年以降日本は長期にわたるデフレに突入しているという。消費税を導入したものの税収自体は落ち込み、1997年の5%への引き上げの際も、増税前である1996年の国税収入52.1兆円と比較して国税収入が2.7兆円減少している。ほぼ間違いなく今年度の国税収入も前年比減収になるだろう。

導入時、5%への引き上げ時、いずれも国税収入が減収になっている実績を見れば今回の減収も当たり前ではないか。

◆「土建屋公共事業景気」を当て込んだド素人の経済失策

「アベノミクス」とは、財務省が目先の帳尻あわせに消費税増税と合わせ、従来型の箱物、道路整備といった「土建屋公共事業景気」を当て込んだド素人の経済失策で、最初から破綻するに決まっていたシナリオだ。

安倍は「株価が上昇した。民主党政権ではなかったことだ」と自画自賛するが、株価の上昇など庶民には何の関係もない。一部大企業と機関投資家がその売り買いをインサイダーまがいに繰り返し利益を上げているだけのことであり、かといって大企業は利益が上がってもそれを労働者には配分しはしない。内部留保として溜め込むだけだ。しかもそんな大企業には「法人税の引き下げ」をプレゼントしようというのが安倍である。現行法人税の最高税率は35%だが、財務省主税局によれば、この国で35%の法人税を納付している企業の数は「ゼロ」だそうだ。

それでもさらに法人税を引き下げる。消費税は8%に上げた。安倍の読みでは一時の落ち込みはあっても円安による輸出企業の持ち直しと企業の設備投資が勢いを取り戻し、株高とあいまって、つかの間の「バブル」を演出できるはずだったのだろう。本当に浅知恵、救いがたい馬鹿だ。馬鹿は馬鹿でいいけども、そんな輩はその辺りの飲み屋で愚痴を言いながらクダを巻いていればいいのだ。まかり間違っても権力者になんてなってはならない。その能力がないのだから。

戦後歴代、ろくな政治があった試しはないけども、その中にあって中曽根、岸に匹敵する悪党に安倍を並べなければならないだろう。

◆「徴税=富の再配分」という大義の破綻

どだい、1億3千万の人口でここまで商工業中心に経済発展して一時は世界2位の経済大国になった日本の豊かさとは一体何だ? 我々は世界有数の豊かな暮らしと生活を享受しているか? 逆だろう。

かつて、それが幻想であっても「1億総中流」と言われた時代があった。焼け跡貧乏の中から経済発展を遂げた日本には消費税はなかったし、所得税の累進税率の最高は75%だったが、今は最高が40%だ(高額所得者ほど今より多くの所得税を納付せねばならなかった)。健康保険も本人は負担ゼロ(今は3割)、73歳以上は医療費完全無料だった。もちろんその当時だって格差はあったし、食い詰める人もいたけども、今日のように大学を出ても正規雇用の職が得にくく年収200万円代が精一杯と言うような惨状ではなかった。「富の再配分」は今に比べれば余程公平さが保たれていた。

このような構造的な庶民の貧困化は偶然起こったことではなく、小泉、竹中らが「雇用の多様化」と言いながら派遣労働の大幅緩和を行ったことと直結している。企業は使いたい時に、使いたいだけの労働力を確保すればよい。要らなくなれば即雇い止めだ。また労働組合の実質的解体(連合の結成)=御用組合化により資本家、経営者へ労働者が対抗軸を失ったことも大きく影響している。最近行われた消費税に関する有識者会議で消費税の10%への再引き上げに連合の会長は賛成していた。もはや労組とは呼べない。

忘れられがちだが、東京都知事のねずみ男が厚生大臣時代に発覚した年金問題も国民には深刻(いや、もう諦めるしかない)だ。ねずみ男は「3年以内に完全に解決する」と大ぼらをふいたが、失われた年金記録の照合作業は、現在もまだ終わっていない。

「社会保険庁」を「日本年金機構」と名前を変えたって、問題が解決するはずがないだろう。失われた年金記録問題も深刻だが、年金の原資自体が確実に枯渇しつつある。政府は国民にこっそりと年金の原資を株式運用などに使える制度を導入しており、この運用は選挙などの際に恣意的に行われている(PKO=Price Keeping Operetionとも呼ばれる)。

そんな投機的に年金原資を使っていいはずがないだろう。現に国民年金や介護保険の徴収額が上がっているのに、年金支給額は下がっているではないか。今50代後半の世代まではかろうじて持つかもしれないが、それ以降の世代の方々は「年金は払ったけど貰えない」覚悟をしておいたほうがいい。政府の約束と私の予想どちらが当たるか、それは読者の皆さんの判断に任せるが、私の試算(人口減、税収の低下、国債の払い戻しなどを勘案すれば)では年金はほぼ確実に破綻する。

そのことについて安倍は一言でも言及しているか。奴の披瀝する「アベノミクス」などまったく何の意義もないものだったことはもはや自明だ。さらに今日の経済は大企業がいくら収益を上げようとも、それが労働者や社会に還元されないと言う特徴を持つ。大企業に勤務している方々は「私は大樹に寄りかかっているから」と安心しているかも知れないが、その幻想だっていつまでも続くものではない。韓国のサムソンを見れば明らかだ。寡占大企業は多国籍金融のターゲットとなりその餌食になっていくのだ。

はっきり申し上げれば、安倍は何ひとつ経済を安定化させ国民生活に資する政策を行っていない。異論があれば聞きたい。

今日、私は敢えて安倍の政治的な悪辣さには一切言及していない。

素人の私が見るだけでも、安倍が「真を問う」とする経済政策は無残極まりないものだ。

 
▼田所敏夫(たどろこ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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