「これはけっこう踏み込んだ内容の判決が出たね。今後、著名人の写真を掲載する場合は、この判決を知らなかったでは済まなくなるだろうな」(週刊誌デスク)
ピンク・レディーの2人が、週刊誌の記事で写真を無断で使われたと訴えた裁判で、最高裁判所は、2月2日、著名人には顧客誘引力を利用する目的で名前や写真などを無断で使われない権利「パブリシティ権」があると認めた。これまでも下級審レベルでは、パブリシティ権の概念が認められていたが、最高裁では初めて。その一方で、表現の自由に配慮して権利の侵害に当たるケースを限定的に示し、今回のピンク・レディーの写真についてはパブリシティ権の侵害とはいえない、として訴えを退けた。

「この問題は、報道の自由にも表現の自由にも抵触するだろう。たとえば黒澤明の映画『七人の侍』のスチール写真で、立ち回りの写真を使うとする。『あなたが三船さんに斬られている写真を使いたいのですが』と、斬られている人すらも探し出して許諾をとらないと、使えないということになりかねない。肖像権の過保護になっていくのではないか」(法曹関係者)
女性週刊誌「女性自身」07年2月13日発売号の、「振り付けのまねをしてダイエットする」という記事の中で、無断で写真を使われたとピンク・レディーの2人が訴えていたものだ。最高裁判所第1小法廷の櫻井龍子裁判長は、「著名人には、名前や写真などを商業目的のために無断で使われない権利『パブリシティ権』がある」と初めて認めた。その一方で、報道など表現の自由にも配慮が必要だとして、権利の侵害に当たるケースをグラビア写真やキャラクター商品など、商品の販売を促進するために利用した場合に限るとした。問題のピンク・レディーの写真については、記事を補足する目的で使われたもので違法とは言えないとして訴えを退けた。パブリシティ権を巡って最高裁は、競走馬の名前など「物」には認められないという判断をすでに示しているが、「人」については権利があると認めた。一方で、認められる範囲を限定的に捉えた。

最高裁が示したパブリシティの類型は
① ブロマイドやグラビアのように、写真(肖像)などを独立して鑑賞対象となる商品として使う。
② キャラクター商品のように、商品の差別化を図る目的で写真などを商品に付ける。
③ 写真などを商品の広告に使う。
とのことだ。

パブリシティ権とは何か。
「パブリシティ権というのは、著名人だけに認められている権利であり、その名前、肖像、言動、 趣味、嗜好その他あらゆるものが衆人環視の対象となり、かつ経済的効果を齎すものであると社会的にも、判例上も認められています。タレントの●●が使う化粧品、となったとき『著名人の名前+商品』となって、パブリシティ商品となります。 著名人はそれだけではなく、言葉や、着ている服、ヘアスタイル、声などありとあらゆるパーツが商売のネタとなる可能性を秘めているからです」(弁護士)

2000年2月にサッカーの中田英寿の半生を描いた本に、名前や写真を使われたことに対して、中田が出版社を提訴したが、東京地裁はパブリシティ権の侵害とは認めなかった。05年6月に矢沢永吉がパチンコメーカーに「歌っている姿が肖像権を侵害している」としたが、これも東京地裁は認めず退けた。つまり「正当な表現行為として受容すべきこともある」としているのだ。
著名人のパブリシティ権と、その法的な保護はもっと突っ込んだ議論をすべきだと思う。

(渋谷三七十)