《ウィークリー理央眼008》札幌攻防戦!ヘイトスピーチを撮影せよ!

久々に晴れた日曜の札幌、北海道警察に守られながらヘイトスピーチ・デモ隊が人でにぎわう大通りを行進した。デモ参加者30名は東京からやってきた桜井誠・在特会前会長に率いられ、口々に在日コリアンに対する侮蔑語を叫び、人種差別アジテーションを行なった。
しかし、札幌はこのような卑劣な行為を許しはしなかった。この日、札幌過去最大のカウンター行動が展開され、差別を許さない市民の声によってヘイトスピーチの大部分はかき消された。


[動画]2015.7.5札幌ヘイトデモへのカウンター(7分14秒)

ここから今回メインの個人的な話が始まる。
7月5日(日)13時から札幌市中央区・創成川公園まんなか広場(北海道電力本店前)でヘイトスピーチ・デモが行なわれるというので、私は前日から札幌入りし、当日は1時間前には現場に着いていた。
警備が厳しい他の都府県なら考えられないことなのであるが、集合場所には桜井前会長と現地メンバーの2名しかおらず、なんと警察官はゼロであった。これはチャンスと思い、ハードコア系カウンターの方と一緒に直接文句を言いに行くことにした。

現地メンバーである在特会・北海道支部運営で維新政党新風・北海道本部事務局長の渡邊喜楽という人物が私達の抗議の対応をしていたのだが、その間中ずっと桜井前会長はPCをいじっていて一瞬たりともこちらを見ようともしなかった。カウンターは非暴力ということになっており、いきなり揉めるのも問題があるので「ヘイトやめろ」の意を伝え、コワモテの男性はとりあえず引くことになった。
私はどうしてもこの時間帯のこの公園内から札幌テレビ塔が撮影したい気分だったので、桜井前会長から10mくらい離れた場所に留まっていた。それから10分経った12時35分頃、2名の私服警察官がやってきて桜井前会長に頭を下げて挨拶をした。その直後、桜井前会長はその刑事と一緒に私のもとへやってきて「お前ここで何やってるんだよ!!!」「逮捕しろよ!こいつを!」と激昂しだした。

一方的に突っかかってこられたものの、私もすぐ退去しなかったり、あれこれあって揉めたということになってしまい、私服警察官2名が私の監視につくことになってしまった。
実は今回の映像や写真は1~2mくらいの近距離にお巡りさんがいた状態で撮影していた。これダメ!あれダメ!と言われたりして非常に大変だったので実力が発揮できず、普段だったらもっと良く撮れたというのは正直あった。しかし、逆にお巡りさんがそばにいてくれたことにより、わりとギリギリのところまで入ることができたというのも事実だった。

最初は警備部公安二課の刑事が私についていたのだけど、本部の人達は忙しいらしく札幌中央署の警備課員に監視役が引き継がれた。当然ながら所轄署員もやることが多く、カメラマンにそんな重要な張り付きは必要ないということのようで、ただ人員確保の為に呼ばれただけの小樽署の警備課員2名が私の監視につくことになった。車で一時間かけて来たという50代と30代の男性警察官の二人組。
「こういうのは初めてなんだけど、東京はもっとすごいの?」と聞かれたので「今日のこれでも静かなくらいです」と言ったらとても驚いていた。

私は警察マニアで特に機動隊が好きなので現場に行くと必ず機動隊の人員輸送車を確認していて、この日も見たくてお巡りさんに見に行きたいと言ったら「行ってもいいよ。でも一緒についていくからちょっと待って」と無線で誰かに連絡を取っていた。「あ、機動隊のバスが見たいとご所望ですので行ってきます」と私のせいでマヌケな通信をさせてしまったと少し反省した。

13時30分にデモ出発前の集会が始まり、二人の警察に付き添われながらの不便な撮影が始まった。何より車道横断が出来ないのには辟易した。車が来なければ横断歩道以外の道路を渡るのは普通のことだが、公務中の警察官がそばにいるので青信号が光る横断歩道の通行しか許されず、自由の素晴らしさを痛感することとなった。

14時30分にデモ隊が街中へと歩を進めた。「不逞鮮人撃滅」と書かれたノボリを掲げ「朝鮮人がー!!」と叫ぶ一団を目撃した街の人々は目を逸らしたり絶句したりすることが多く、何人かはデモ隊に文句を言った人もいた。
そんな中、デモを警備する警察に対して文句を言った一人の観光客がいた。
男性「こんなのやらせていいの?」
警察「いや、届け出が出ているちゃんとしたデモです」
男性「おかしいでしょ。ひどいよ!」
警察「危ないので道路に出ないでください!」
この男性は映像の2分40秒頃にも登場している男性で、ホテルにいたら外が騒がしくて出てきたそうで、しばらく一緒にデモを追走しながら「ヘイトスピーチが許されるわけがない!」と主に警察に向けて文句を言っていた。

そもそも存在が許されるはずもないこの人種差別デモは、行進の途中で地元の御神輿の行く手を阻み、お祭りから笑顔を奪い法被姿の男たちの怒りを買った。もしかしたら神様も怒っていたかもしれない。それを行っているのが日の丸を掲げ、日本の為や愛国だと言っている連中なのだから頭が痛い。
国を愛することは家族や隣人や住んでいる地域、つまりは自分のすぐそばを大切にすることから始まるはずだ。それがなければ中身なんてあるはずがない。足場の無い空っぽな愛国を叫ぶのは即刻やめるべきだ。

15時31分に出発地に戻り解散集会が始まった。終止デモ隊を追いかけ回し、叱りつけていたカウンターはテレビ塔の下に構え拡声器や肉声で「帰れ!」コールを叫んでいた。出発の時よりもカウンターの人数は増えており、発する音量も大きくなっていた。

ここに写る機動隊の並び方に注目してもらいたいのだが、彼ら隊員は交互に違う方向を向いている。もっと正確に言えばデモ隊とカウンターの両方を向いて立つよう命令されている。
実質ヘイトスピーチ・デモを守っている警察に対し最近は批判が多く、このことを重く見た各地の警察本部が対応をし始め、全国的にこの警備配置が広がってきている。

それから大した発言もなく30分程度でヘイトスピーチのデモは解散となり、カウンターも活動を終了した。私も装備品を下ろして帰る準備を始めた。
「全然息切れしてないねー。もう疲れたよ。走り過ぎ…」と担当の警察官。
「いや、今日はお巡りさんが一緒にいたのでいつもより全然走れませんでした」
「え、そうなの?」
「まだいけます。あ、この撮影の装備ちょっと持ってみます?」と重量11kgのベストを手渡す。
「うそー!!こんな重い荷物を持って走ってたの!?」と非常に良いリアクション。
担当してもらった二人の警官に挨拶をしてカウンターのもとへと行ったのだけど、二人はまだまだ付いてくる。どうやら私が帰らないと彼らも帰れないようだった。

「私はこれから、『きのとや』でケーキを食べるつもりなんですけど…」
「大通りの?じゃあそこまで送るよ」
「えー!何で警察官に護送されてケーキ屋さんに行かなくちゃいけないんですかっ!!」
けれど、そこでこんな話が聞けた。
「まぁ、これじゃあ警察が差別デモ守ってると言われても仕方ないよね…」と小樽のお巡りさんは私に言ってくれた。

その後、ケーキ2個とキャラメルラテを頼んだということを記したところで、この話はおしまい。

[2015年7月5日(日)・北海道]

▼秋山理央(あきやま りお)
1984年、神奈川県生まれ。映像ディレクター/フォトジャーナリスト。
ウェブCM制作会社で働く傍ら、年間100回以上全国各地のデモや抗議を撮影している現場の鬼。
人々の様々な抗議の様子を伝える写真ルポ「理央眼」を『紙の爆弾』(鹿砦社)で、
全国の反原発デモを撮影したフォトエッセイ「ALL STOOD STILL」を『NO NUKES voice』(鹿砦社)にて連載中。

《ウィークリー理央眼》
◎《007》戦争法案に反対する若者たち VOL.3 渋谷
◎《006》戦争法案に反対する若者たち VOL.2 札幌
◎《005》戦争法案に反対する若者たち VOL.1 京都
◎《004》若者に影響された沼津の戦争法案反対デモ
◎《003》自民党街宣へのカウンターin福岡・天神
◎《002》福島/名古屋ヘイトデモ反対行動
◎《001》150回目の首相官邸前抗議

巻頭グラビアは「理央眼」!話題の『紙の爆弾』8月号発売中!