横浜副流煙事件「反訴」の第1回口頭弁論が、10日、横浜地裁で開かれ、原告の藤井敦子さんが「(被告らは)事実的根拠のない所見を記載した診断書に基づいて高額請求に及んだ」として、裁判所に厳密な事実検証を求める上申書を口頭陳述した。

被告の作田学・日本禁煙学会理事長ら4人と、代理人の山田義雄弁護士、片山律弁護士は欠席した。原告側からは、藤井さんと古川健三弁護士とが出廷した。

※被告は、第1回口頭弁論に関して欠席が認められている。

山田・片山の両弁護士が提出した答弁書

この事件は2017年11月にさかのぼる。藤井さん夫妻と同じマンションに住むAさん一家(夫妻と娘)が、藤井家の煙草が原因で「受動喫煙症」に罹患したとして、4518万円の損害賠償を起こした。しかし、藤井家からは、副流煙はほとんど漏れておらず、たとえ漏れていたとしても、気象庁の風向きデータによると、藤井家が風下になることが多く、A家への煙が流入していたとする主張には根拠がなかった。さらにA家3人の診断書のうち娘のものを、作田医師が診察せずに交付していたことが分かった。もちろん娘と面識はなかった。これは医師法20条違反である。

つまりA家の3人は、違法行為の下で作成された診断書を根拠として、4518万円の金銭請求を行ったのである。喫煙の禁止を請求しただけならともかく、高額の金銭請求を行ったのだ。

それが訴権の濫用にあたるとして、藤井夫妻は前訴の判決が確定した後に、A家の3人と診断書を作成した作田医師に対して約1000万円の損害賠償裁判を起こしたのである。

ちなみに藤井夫妻の地元、横浜市青葉区の青葉警察署は、2022年1月、作田医師を虚偽診断書行使の疑いで横浜地検へ書類送検した。横浜地検は、不起訴としたが、検察審査会が「不起訴不当」の議決を下した。

今回の民事訴訟は、A家による損害賠償裁判、藤井夫妻らによる刑事告訴に続く第3弾である。法的措置の前段の時期を含めると、事件は勃発から6年目に入っている。

◆山田弁護士、「今なお重大な健康被害を被っている」

被告の訴訟代理人山田弁護士(A家の3人の担当)は、10日に裁判所へ提出した答弁書の中で、「被告Aらが、原告らの喫煙によって今なお重大な健康被害を被っていることは厳然たる事実である」と述べ、現在も健康被害の原因が藤井さん夫妻にあるという事実を摘示している。

しかし、藤井敦子さんは、喫煙者ではない。夫の将登さんは、喫煙者であるが、自宅では1日に2、3本吸う程度である。しかも、喫煙場所は、防音装置がある密封性が高い音楽室に限られている。

前訴の確定判決で、Aらの健康被害と藤井将登さんの喫煙との間に因果関係は存在しないことが確定している。従ってAらの健康被害はタバコ以外に原因がある可能性が高い。

片山律弁護士(作田医師の担当)は答弁書の中で、作田医師の医師法20条違反を認定した前訴・横浜地裁判決について、「判決記載内容の限度で認め、その余は否認ないし争う」と述べている。今後、作田医師の医療行為が医師法20条に違反しないとする主張を展開する可能性が高い。

また藤井夫妻らが起こした刑事告発については、「虚偽告訴等罪を構成する可能性もあるため、被告作田においては、同罪についての告訴も検討している」と述べている。

原告の藤井敦子さんは、自宅で英語を教えている

【藤井敦子さんの上申書全文】

私は前訴において被告となった藤井将登の妻、藤井敦子です。この上申書では、本件裁判の被告らが、前訴(平成29年(ワ)第4952号事件)で請求した4518万円の根拠とした3通の診断書により、私たち原告がどのような被害を受けたかを述べさせていただきます。これらの診断書は被告・作田学医師が作成したものです。そのうちの一通は医師法20条に違反して自ら患者を診察しないで交付された違法なものでした。

事実的根拠のない所見を記載した診断書に基づいて被告らは高額請求に及んだのです。

平成29年12月5日、A家からの1通の訴状が我が家に届きました。これを機として、以後、4年のあいだ私たちの生活は翻弄され続けました。

長年にわたり、盆踊りやお神輿、高齢者の歌の会など多くのボランティア活動を行っていた私は、裁判に巻き込まれた後、これらの活動を中止せねばならなくなりました。裁判に時間を費やさなければならかった事情もありますが、「被告藤井家」の噂が地元で広がっており、誤解や噂がさらに伝播するのを恐れたのもその理由のひとつです。

年老いた義父母に対しても、私は接し方で迷いました。90歳を過ぎた義父母に対して、息子将登が4500万円もの裁判に巻き込まれたなどと告げることは出来ません。伝えれば義母などショックで寿命を縮めかねないと思いました。従って、未だ義父母には、裁判のことを伝えていません。

提訴されるまでは、同じ団地に住む義母の所へ月に2回ほどお喋りに行くことが、私の大きな楽しみの一つでありました。が、裁判を起こされたことで、私は笑うことが出来なくなっていました。義母が「何かよくない事が起こっている」と察してしまうのを危惧して、私は会いに行くのをやめました。

一度だけ、控訴審で裁判所にいた時、うっかり義母からの電話に応えてしまったことがあります。すると、義母は私の声の様子がただならぬと察し、その後、随分長い間、「あの時何があったのか」と聞き続けました。

兵庫県に住んでいる実父には、事情を話しました。そして頻繁には帰省できなくなったことを理解してもらったのです。

4500万円という金額を他人から請求されるのは想像を超える屈辱でした。大きなストレスになりました。ちょうど住宅ローンを払い終える時期でしたから、また借金をせねばならないのかという不安にかられました。請求額全額が全額認められることは無いとわかっていましたが、一軒の家を買えるぐらいの金額ですから、一時も平穏ではいられませんでした。

提訴された日にインターネットで作田医師について調べると、作田氏は日本禁煙学会という全国規模の反喫煙団体の長であることが判明しました。また作田学という名前とともに「禁煙ファシズム」という言葉も検索で出て来ました。その人物が「藤井将登が犯人である」と根拠ない診断書を交付したわけですから、当然、日本禁煙学会の政策目的が背景にあると考えました。実際、診断書の中で作田医師は、被告家族が重篤な病気になったのは、私の夫によるタバコの副流煙だと事実摘示をしています。現場に来たこともないのに、憶測でこうしたことを所見として記述したのです。夫を勝手に「犯人」にして、「禁煙撲滅運動」のマニュアルどおりのストーリーに仕組んだことは明らかでした。

診断書は、警察がわが家の捜査をはじめる根拠にもなりました。前訴が提訴される前後、藤井家に神奈川県警青葉署が2度にわたり来訪して取り調べを行いました。最初に刑事が来たのは、平成29年8月25日でした。2度目は12月27日でした。夫をなんとか犯人に仕立て上げようとしていることは明白でした。その偏見の根拠となっていたのが作田医師の作成した事実的根拠のない診断書でした。しかし、刑事らは、診断書の所見と整合するような事実はなにも確認できませんでした。2度とも深く謝罪して、わが家を後にしたのです。

ちなみに被告A妻と前訴の原告代理人山田義雄弁護士が、当時の神奈川県警本部長斎藤実に対し、わが家を取り調べるように陳情を行っていた事実も判明しています。夫に対して最初に内容証明を送りつけてきたのも、3通の診断書が交付された直後でした。これらの診断書が常に事件の根底にあるのです。

前訴の控訴審において、被告・A夫がある資料を証拠として提出しました。それは我が家を4年間監視したことを裏付ける日記でした。そこからは被告A夫が日常的に、我が家の行動をチェックしていた様子が読み取れます。特に、駐車場に夫の車があるか無いかを確認していたことがうかがわれます。車が無い時に、「臭う」とA夫が感じれば、その原因は私か娘の煙草だと疑っているようでした。裁判の中で、私は、何度か「私と娘は喫煙者ではない」と被告側に伝えましたが、彼らには私達が嘘をついているとしか映っていなかったようです。

受動喫煙の被害についての記録をつけることは、日本禁煙学会の「お困りになったら、こうしましょう」というマニュアルにも明記されています。裁判を起こしたり警察を動かすための証拠が必要だからにほかなりません。そして提訴の段階になると、日本禁煙学会の医師が診断書を作成するのです。

私は、患者の自己申告だけを鵜呑みにした診断書の作成は絶対にやってはいけないと思います。

まして客観的な証拠がないのに、自己申告だけをそのまま書いた診断書を根拠に裁判で法外に高額な金銭を請求することは訴権の濫用に該当します。診断書は、医師が患者本人を直接診察して、客観的な事実だけを記入するのが原則です。作田医師は、その原則を踏み外しました。

裁判所にはこの点に鑑みて、慎重に審理していただきたいと思います。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

横浜第3検察審査会は4月14日、横浜副流煙事件の元被告らによる刑事告発を受けて横浜地検が下した「不起訴」処分を、「不当」とする議決を下した。

◎議決の全文 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/04/mdk220420.pdf

この事件は、煙草の副流煙で「受動喫煙症」に罹患したとして、Aさん一家が隣人の藤井将登さんに対して4518万円の損害賠償を求めた裁判に端を発する。請求は棄却された。判決の中で、裁判所はAさんらが提訴の根拠とした診断書のうち1通(娘の診断書)が、無診察の状態で交付されていたことを事実認定した。(医師法20条違反)。診断書を作成した作田医師の医療行為を問題視した。

 

ニューソク通信に出演中の藤井さん(左)と、支援する会・石岡代表(右)

作田氏は、A家の娘と面識もなければ、オンラインで言葉を交わしたこともなかった。高齢の両親から懇願されて、娘の診断書を交付したのである。A家は、この虚偽診断書を高額請求の根拠とした。しかし、提訴の訴因に事実的根拠はなかったのである。

裁判所が4518万円を請求する裁判を棄却すると、藤井さん夫妻は、訴権の濫用に対する「戦後処理」に入った。妻・敦子さんは、作田医師に対する刑事告発を検討するようになった。一部の医療関係者からは、敦子さんの方針を支持する声があがった。

そして2021年春、藤井さん夫妻と数人の支援者が神奈川県警青葉警察署に、作田医師とA家の3人を被告発人とする刑事告発を行ったのである。

容疑は、虚偽診断書行使罪である。青葉警察署の刑事は約半年をかけて、念入りにこの事件を調査した。そして2021年1月に作田医師を横浜地検へ書類送検した。

ところが、この事件を担当した横浜地検の岡田万佑子検事は、3月15日に作田学医師を不起訴とする処分を下した。

◎[参考記事]岡田万祐子検事が作田学・日本禁煙学会理事長を不起訴に ── 横浜副流煙事件、権力構造を維持するための2つのトリック

◆作田医師、アメブロで虚勢を張る

岡田検事が下した不起訴処分に作田医師は、元気づけられたのか、みずからの「アメブロ」にコメントを発表した。藤井さん夫妻に対して、「ファイティング・ポーズ」をとり、反撃の姿勢を宣言したのである。記事のタイトルは、「 当然ながら検察庁の『不起訴』が決定しましたので、ご安心ください(作田 学)」。このタイトルの下に、処分通知書の写真を貼り付けて公表した。(下記の写真)

以下、次のように述べている。全文を紹介しよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本件では、告発や起訴される理由は全く何も無く、事実無根なので、当然ながら検察庁の「不起訴」が決定いたしました。ご安心ください。
 尋常を外れた虚偽告発、名誉棄損、誹謗中傷、個人攻撃を執拗に繰り返しているようですが、YouTube配信が停止とされたり、メディアも全く相手にしなくなっているようで、当方としてもこのようなフェイク(嘘)には一切係わらないことが賢明と思うところです。
 今国会で「改正侮辱罪」が可決成立し、このような侮辱行為には「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が7月までに施行される見通しとのことですので、諸々よろしくお願いいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・【引用おわり】・・・・・・・・・・・・・・・・・

◎【作田氏のアメブロ】https://ameblo.jp/tobaccofree-202105/

作田医師は、暗黙のうちに藤井夫妻に対して「侮辱罪」で刑事告訴することをほのめかしてきたのである。これには藤井敦子さんも、一瞬、たじたじとなったようだった。支援者と話し合って検察審査会に審査を求めることを決めた。とはいえ検察審査会が検察の処分に対して疑義を議決することはめったにない。それに4月16日の時効まで30日ほどしか残っていなかった。それまでに検察が起訴しなければこの刑事事件は終わる。

しかし、藤井さんらにとって、横浜地検の処分に対する自分たちの見解を表明して、記録として残しておくことは重要だった。「禁煙ファシズム」に対する責任追及を今後も続けるからだ。

そこで藤井さんらは、横浜検察審査会に対する審査理由書を作成した。その骨子は、①不起訴が判例違反であることの説明、②診断書の所見における具体的な虚偽記述の指摘、③医師法20条の法解釈に関する私見、④岡田検事が処分を決める際に、厚労省に相談した事実の提示、の4点である。

◎【審査申立理由書】http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/03/mdk220321-2.pdf

◆損害賠償裁判と医道審議会

横浜第3検察審査会が、時効が成立する前に、不起訴不当の決議を下した意味は大きい。横浜地検が作田医師らを再捜査して起訴する時間は残されていないが、藤井さんたちの「禁煙ファシズム」解体運動に影響を及ぼしそうだ。

たとえば、今後、作田医師を厚労省の医道審議会に告発する際の有力は証拠となる。医道審議会は、医療関係者の不祥事を処分する機関である。形骸化しているとの批判もあるが、診断書の偽造は大変な不祥事なので、まったく関与しないわけにはいかないだろう。

一方、横浜副流煙事件の舞台は、藤井さん夫妻が3月に起こした作田医師らに対する損害賠償裁判に移る。この裁判でも、検察審査会の議決は、作田医師らの方針の不当性を裏付ける有力な証拠になる。

第1回口頭弁論は、5月10日、午前10時半から横浜地裁609号法廷で始まる。

※筆者は分煙に賛成の立場である。煙草も吸わない。しかし、法律による喫煙者の取り締まりには反対の立場である。作田医師らが推進している「喫煙撲滅運動」に違和感を感じる。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年5月号!

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

2022年3月15日、横浜地検の岡田万佑子検事は、日本禁煙学会の作田学理事長を不起訴とする処分を下した。

この事件は、作田理事長が患者を診察することなく、「受動喫煙症」等の病名を付した診断書を交付した行為が、医師法20条に違反し、刑法160条を適用できるかどうかが問われた。

医師法20条は、次のように患者を診察することなく診断書を交付する行為を禁止している。

【引用】「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

一方、刑法160条は、次のように虚偽診断書の「公務所」(この事件では、裁判所)への提出を禁じている。

【引用】「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。」

横浜地検が送付した処分通知書

告発人の藤井敦子さんらは、岡田検事が下した不起訴処分(嫌疑不十分)を不服として、検察審査会へ審理を申し立てた。しかし、4月16日で事件が時効になるために、作田医師が起訴されないことがほぼ確実になった。作田医師は、岡田検事による法解釈と時効により、2重に「救済」されることになる。

◎[参考資料]審査申し立ての理由書全文
 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/03/mdk220321-2.pdf

筆者は、この刑事告発を通じて日本の司法制度のからくりを理解した。2つの「装置」の存在を確認した。法律を我田引水に解釈することを容認する慣行と、時効による「免罪」である。いずれも権力構造を維持するための「装置」にほかならない。検察は昔からおなじ手法を繰り返してきた可能性が高い。

この点に言及する前に事件の概要を説明しておこう。

◆事実的根拠に乏しい診断書で4518万円を請求

この事件の発端は、2017年11月にさかのぼる。ミュージシャンの藤井将登さんが自宅で煙草を吸っていたところ、同じマンションの住民一家3人(夫妻とその娘)から、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円を請求する裁判を横浜地裁で起こされた。3人が金銭請求の根拠にしたのが、「受動喫煙症」等の病名を付した娘の診断書だった。

ところが審理の中で、この診断書を作田理事長が娘を診察しないまま交付していたことが分かった。作田医師は、娘となんの面識もなかった。さらに3人の原告のうち、ひとりに25年の喫煙歴があることも判明した。

つまり高額訴訟の根拠となった事実に強い疑念が生じたのである。

横浜地裁は、単に原告3人の請求を棄却しただけではなく、作田医師による診断書交付が医師法20条違反にあたると認定した。これまでの判例によると医師法20条違反は、刑法160条の適用対象になる。

そこで前訴で被告にされた藤井将登さんが、作田医師に対して虚偽診断書行使罪で神奈川県警青葉署へ刑事告発したのである。告発人には、将登さんのほかにも、妻の敦子さんら数名が加わった。青葉署は2021年5月に刑事告発を受理して捜査に入った。そして2022年の1月に横浜地検へ作田医師を書類送検した。

しかし、横浜地検の岡田検事は、事件の当事者から事情聴取することなく嫌疑不十分で不起訴を決めたのである。

◆動物の診断書も無診察は許されない

藤井敦子さんは、不起訴の理由を岡田検事に電話で問い合わせた。わたしはその録音テープを視聴した。その中で最も気になったのは、作田医師が娘の診断書を交付する際に、娘が別の医療機関で交付してもらった診断書等を参考にしたから、虚偽診断書とまではいえないという論理だった。

◎[参考資料]藤井敦子さんによる取材音声
 https://rumble.com/vy7w3h-57475133.html?fbclid=IwAR1pbAQZ505EuewQY0s6dg7PRo24OPh3r__-u11DG6UvU55QH2hEV1l94ek

しかし、作田医師が交付した診断書には、娘が「団地の一階からのタバコ煙にさらされ」ているとか、「体重が10Kg以上減少」したといった事実とは異なる記述が多数含まれている。これらの記述は、作田医師が参考にしたとされる他の医師が書いた診断書には見あたらない。つまり作田医師が交付した診断書の所見には明らかな「創作」が含まれているのだ。

こうした診断内容になった原因のひとつは、作田医師が娘を診察しなかったからにほかならない。あるいは事件の現場を検証しなかったからである。さらに禁煙運動という日本禁煙学会の政策目的があったからだ。

ちなみに獣医師が動物の診断書を交付する際にも、診察しないで診断書を交付する行為を禁じている。次の法律である。

【引用】「第十八条:獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

動物についても、人間についても、無診察で診断書を交付する行為は法律で厳しく禁じられているのだ。

改めて言うまでもなく、法律は文字通りに解釈するのが原則である。好き勝手に解釈することが許されるのであれば、秩序が乱れ、法律が存在する意味がなくなるからだ。

医師法20条は、他の医師の診断書を参照にすれば、患者を診察することなく診断書を交付することが許されるとは述べていない。

現在の司法制度の下では、検事が我田引水の法解釈をすることで、起訴する人物と起訴しない人物を選別できるようになっている。これが公正中立の旗を掲げて、権力構造を維持するためのひとつの「装置(トリック)」なのである。

◆時効というトリック

もうひとつの「装置」は、時効のからくりである。作田医師を被告発人とするこの事件の時効は、2022年4月16日である。藤井さん夫妻は、検察審査会に審理を申し立てたが、この日までに起訴されなければ、事件は時効になってしまう。検事が「牛歩戦術」を取れば、時効がある事件では被疑者を無罪放免にできる制度になっているのだ。「時効」も権力構造を維持するための巧みな「装置」なのである。

なお、岡田検事はこの事件の処分を決めるに際して厚生労働省に相談したという。内容は、藤井敦子さんが岡田検事に対して行ったインタビューで確認できる。この事実は、「民主主義」の仮面の下に、日本を牛耳っている面々が隠れていることを物語っている。

◆岡田検事に対する質問状
 
筆者は、岡田検事に対して下記の問い合わせを行ったが回答はなかった。

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2022/03/23  

岡田万佑子検事殿
発信者:黒薮哲哉

 はじめて連絡させていただきます。
 わたしはフリーランス記者の黒薮哲哉と申します。

 貴殿が担当された横浜副流煙事件(令和4年検第544号)を取材しております。
 3月15日付で貴殿が下された不起訴処分について、お尋ねします。告発人の藤井敦子氏と貴殿の会話(18日)録音を聞いたところ、貴殿が処分を決める前に厚生労働省に相談されたことを裏付ける発言がありました。

 つきましては、次の点について教えてください。

1,厚労省の誰に相談したのか。

2,相談した相手から、どのようなアドバイスを受けたのか。

 また上記質問とは別に、次の点について教えてください。

3,他の医師の診断書を参照にした場合は、無診断で診断書を交付してもかまわないという法律はあるのでしょうか。

 25日(金曜日)の午後1時までに、ご回答いただければ幸いです。よろしくお願いします。

【連絡先】
Eメール:xxmwg240@ybb.ne.jp
電話:048-464-1413

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◎[参考動画]【横浜副流煙裁判】ついに書類送検!!分煙は大いに結構!!だけどやりすぎ「嫌煙運動」は逆効果!!

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

煙草の副流煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、隣人が隣人に対して約4,500万円を請求した横浜副流煙裁判の「戦後処理」が、新しい段階に入った。前訴で被告として法廷に立たされた藤井将登さんが、前訴は訴権の濫用にあたるとして、3月14日、日本禁煙学会の作田学理事長ら4人に対して約1,000万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こしたのだ。前訴に対する「反訴」である。

 

原告には、将登さんのほかに妻の敦子さんも加わった。敦子さんは、前訴の被告ではないが、喫煙者の疑いをかけられた上に4年間にわたり裁判の対応を強いられた。それに対する請求である。請求額は、10,276,240円(将登さんが679万6,240円万円、敦子さんが330万円、その他、金員)。

被告は、作田理事長のほかに、前訴の原告3人(福田家の夫妻と娘、仮名)である。前訴で福田家の代理人を務めた2人の弁護士は、被告には含まれていない。

原告の敦子さんと代理人の古川健三弁護士、それに支援者らは14日の午後、横浜地裁を訪れ、訴状を提出した。「支援する会」の石岡淑道代表は、

「禁煙ファシズムに対するはじめての損害賠償裁判です。同じ過ちが繰り返されないように、司法の場で責任を追及したい」

と、話している。

◆医師法20条違反、無診察による診断書の交付

この事件は、本ウエブサイトでも取り上げてきたが、概要を説明しておこう。2017年11月、横浜市青葉区の団地に住む藤井将登さんは、横浜地裁から1通の訴状を受け取った。訴状の原告は、同じマンションの斜め上に住む福田家の3人だった。福田家が請求してきた項目は、次の2点だった。

(1)4,518万円の損害賠償

(2)自宅での喫煙の禁止

将登さんは喫煙者だったが喫煙量は、自宅で1日に2、3本の煙草を吸う程度だった。ヘビースモーカーではない。

喫煙場所は、防音構造になった「音楽室」で、煙が外部へ漏れる余地はなかった。空気中に混合した煙草は、空気清浄器のフィルターに吸収されていた。たとえ煙が外部へ漏れていても、風向きや福田家との距離・位置関係から考えて、人的被害を与えるようなものではなかった。(下写真参照)

 

福田家の主婦・美津子さんは、「藤井家の煙草の煙が臭い」と繰り返し地元の青葉警察署へ駆け込んだ。その結果、青葉署もしぶしぶ動かざるを得なくなり、2度にわたり藤井さん夫妻を取り調べた。しかし、将登さんがヘビースモーカーである痕跡はなにも出てこなかった。結局、この件では青葉署が藤井夫妻に繰り返し謝罪したのである。

が、それにもかかわらず福田家は裁判を押し進めた。この裁判を全面的に支援したのは、日本禁煙学会の作田学理事長(勤務先は、日本赤十字医療センター)だった。作田医師は、提訴の根拠になった3人の診断書を作成したうえに、繰り返し意見書などを提出した。判決の言い渡しにも姿をみせる熱の入れようだった。自宅での喫煙を禁止する裁判判例がほしかったのではないかと思われる。

 

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

ところが審理の中でとんでもない事実が発覚する。まず、福田家の世帯主・原告の潔さんに、25年の喫煙歴があったことが発覚した。「受動喫煙症」に罹患しているという提訴の前提に疑義が生じたのである。また、潔さんの副流煙が妻子の体調不良の原因になった可能性も浮上した。

さらに作田医師が、真希さんの診断書を無診察で交付していたことが発覚したのだ。患者を診察しないで診断書や死亡証明書を交付する行為は医師法20条で禁止されている。これらの証書類を交付するためには、医師が直接患者に対面して、医学上の客観的な事実を確認する必要があるのだ。しかし、作田医師はそれを怠っていた。

福田家は、隣人に対して高額訴訟を起こしてみたものの、訴因となった事実に十分な根拠がないことが分かったのだ。当然、訴えは棄却された。控訴審でも福田家は敗訴して、2020年10月に前訴は終了した。

これら一連の経緯については、筆者の『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』に詳しい。事件の発端から、勝訴までを詳細に記録している。

◆「ごめんなさい」ですむ問題なのか? 

その後、藤井さん夫妻は、2021年4月、数名の支援者と一緒に作田医師を虚偽公文書行使の疑いで青葉署へ刑事告発した。青葉署は告発を受理して捜査を開始した。そして2022年1月24日、作田医師を横浜地検へ書類送検した。現在、この刑事事件は横浜地検が取り調べを行っている。

このような一連の流れを受けて藤井さん夫妻は、福田家の3人と作田医師に対して約1000万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのである。「支援する会」の石岡代表が言うように、この裁判は「禁煙ファシズム」に対するはじめての損害賠償裁判である。前例のない訴訟だ。

最大の争点になると見られるのは、福田家の娘・真希さんの診断書である。既に述べたように作田医師は、真希さんを診察せずに「受動喫煙症レベルⅣ」「化学物質過敏症」という病名を付した診断書を交付した。そして福田家は、この診断書などを根拠として、高額な金銭請求をしたのである。将登さんの喫煙禁止だけを求めていたのであればまだしも、事実ではないことを根拠に高額な金銭請求をしたのである。この点が最も問題なのだ。

訴因に十分な根拠がないことを福田家の弁護士や作田医師は、提訴前に認識していたのか?たとえ認識していなかったとしても、「ごめんなさい」ですむ問題なのか? これらのテーマが裁判の中でクローズアップされる可能性が高い。

◆訴権の濫用には「反訴」で

筆者は2008年から、高額訴訟を取材するようになった。その糸口となったのは、わたし自身が次々と高額訴訟のターゲットにされた体験があったからだ。2008年から1年半の間に、わたしは読売新聞社から「押し紙」報道に関連した3件の裁判を起こされた。請求額は、総計で約8000万円。読売の代理人は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。

最初の裁判は、1審から3審までわたしの完全勝訴だった。2件目の裁判は、1審と2審がわたしの勝訴で、3審で最高裁が口頭弁論を開き、判決を高裁へ差し戻した。そして高裁がわたしを敗訴させる判決を下した。3件目の裁判(被告は、黒薮と新潮社)は、1審から3審までわたしの敗訴だった。

3件の裁判が同時進行している時期、わたしは「押し紙」弁護士団の支援を受けて、読売による3件の裁判は「一連一体の言論弾圧」いう観点から、読売新聞に対して5500万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こした。しかし、訴権の濫用の認定はハードルが高く敗訴した。喜田村洋一弁護士に対する懲戒請求も申し立てたが、これも棄却された。

筆者は訴権の濫用を食い止めるという意味で、不当裁判の「戦後処理」は極めて大事だと思う。とはいえ、訴権の濫用に対する「反訴」の壁は高い。日本では提訴権が憲法で保証されているからだ。米国のようなスラップ防止法は存在しない。

しかし、だからといって訴権の濫用を放置しておけば、自由闊達な言論の場が消えかねない。「反訴」したり、スラップ禁止法などの制定を求め続けない限り、言論の自由が消滅する危険性がある。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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黒薮哲哉の最新刊『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

請求額は約4500万円。訴えは棄却。煙草の副流煙で体調を崩したとして、同じマンションの隣人が隣人を訴えたスラップ裁判の「戦後処理」が、新しい段階に入った。

日本禁煙学会の作田学理事長に対する検察の捜査がまもなく始まる。この事件で主要な役割を果たした作田医師に対する捜査が、神奈川県警青葉署ら横浜地検へ移った。

それを受けて被害者の妻・藤井敦子さんと「支援する会(石岡淑道代表)」は、24日、厚生労働省記者クラブで会見を開いた。

◆藤井さんの勝訴、診断書のグレーゾーンが決め手に

 

告発人の藤井敦子さん

事件の発端は、2019年11月にさかのぼる。藤井さん夫妻と同じマンションの2階に住むAさん一家(夫・妻・娘の3人)は、藤井さんの夫が自宅で吸う煙草の副流煙で、「受動喫煙症」などに罹患したとして、4500万円の損害賠償を求める裁判を起こした。しかし、審理の中で、提訴の根拠となった3人の診断書(作田医師が作成)のうち、A娘の診断書が無診察で交付されていた事実が判明した。無診察による診断書交付は医師法20条で禁じられている。刑事事件にもなりうる。

さらにその後、A家の娘の診断書が2通存在していて、しかも病名などが微妙に異なっていることが明らかになった。同じ患者の診断書が2通存在することは、正常な管理体制の下では起こり得ない。これらの事実から作田医師がA家の娘のために交付した診断書が偽造されたものである疑惑が浮上した。

横浜地裁は3人の請求を棄却すると同時に、診断書を作成した作田医師に対して医師法20条違反を認定した。また、日本禁煙学会が独自に設けている「受動喫煙症」の診断基準が、裁判提起など「禁煙運動」推進の政策目的で作られていることも認定した。この裁判では、日本禁煙学会の医師や研究者が次々と原告に加勢したが、なにひとつ主張は認められなかった。

また審理の中で、原告の1人が元喫煙者であったことも判明した。

その後、控訴審でも藤井さんが勝訴して裁判は終わった。

◆広義の「スラップ訴訟」、訴権の濫用に対する責任追及

 

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このスラップ裁判に対する「戦後処理」を、藤井さん夫妻らは刑事告発というかたちで開始した。告発の対象にしたのは、診断書を作成した作田医師、3人の原告、それに弁護士である。今回、青葉署が書類送検したのは、このうちの作田医師のみである。

告発人らの主張は、作田医師の医師法20条違反は、刑法という観点からは虚偽診断書行使罪に該当するというものである。事実、そのような判例は存在する。「作成罪」ではなく、「行使罪」としたのは、前者が時効の壁に阻まれたからにほかならない。

ちなみに作田医師が3人の診断書に付した「受動喫煙症」という病名は、WHO(世界保健機関)が決めた疾患の国際分類である「ICD10」コードには含まれていない。つまり「受動喫煙症」という病名は、日本禁煙学会が独自に作ったものである。従って保険請求の対象にもならない。化学物質による人体影響を診断する正確な病名は、化学物質過敏症である。これについては、「ICD10」コードには含まれている。

近々に藤井さん夫妻は、スラップ訴訟に対する損害賠償裁判(民事)も提起する。今度は民事の観点から関係者の責任を追及する。最初のスラップ訴訟を提起した根拠が、疑惑だらけの診断書であるからだ。それを前提に作田医師らが、自論を展開したからだ。

また弁護士に対する懲戒請求も視野に入れている。弁護士職務基本規程は、「弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない」(第75条)と規定しているからだ。

スラップ訴訟の「戦後処理」は、これから本格化する。

【藤井敦子さんのコメント】

「わたしたちは分煙には賛成の立場です。しかし、根拠なく喫煙者に対して高額訴訟で恫喝するなど過激な行為は容認できません。横浜地検が今後、この事件をどう処理するかは分かりませんが、今後も引き続きラジカルな禁煙運動に対しては警鐘を鳴らし続けます」

【石岡淑道代表のコメント】

「多くの医師の規範となるべき作田医師は、医師法20条違反を犯しながら見苦しい言い訳に終始しています。反省も謝罪もしていません。どんな弁明をしても、その行為は正当化されるものではないと考えます」

※なお、この事件については、筆者の最新刊『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)に詳しく書いている。2月1日に書店発売になる。

【参考記事】煙草を喫って4500万円、不当訴訟に対して「えん罪」被害者が損害賠償訴訟の提訴を表明、「スラップ訴訟と禁煙ファシズムに歯止めをかけたい」

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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黒薮哲哉の最新刊『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』2月1日発売開始!

「受動喫煙症」とは、第三者による煙草の煙によって引き起こさせる化学物質過敏症のことである。副流煙を避けるために、レストランなど公共の場で分煙措置が取られているのは周知の事実である。マンションの掲示板にも、煙草の煙に配慮するように注意書きが貼り出されていることが多い。「受動喫煙症」という言葉が、日常生活の中に入り込んできたのである。

しかし、ほとんど知られていないが、「受動喫煙症」という病名は、実は日本禁煙学会(作田学理事長)が独自に命名した病名で、国際疾病分類(ICD10)に含まれていない。公式には認められている病気ではない。従って、保険請求の対象にはならない。「そんな病気は存在しない」と言う医師も少なくない。

が、それにもかかわらず横浜副流煙裁判にみられるように、2017年に「受動喫煙症」と付された診断書を根拠とした高額訴訟が提起された。副流煙の被害者とされる家族が、隣人に対して「受動喫煙症」を根拠に4518万円の金銭支払いを請求したのである。請求は棄却された。

◎【関連記事】煙草を喫って4500万円、不当訴訟に対して「えん罪」被害者が損害賠償訴訟の提訴を表明、「スラップ訴訟と禁煙ファシズムに歯止めをかけたい」
 

日本禁煙学会の医師らは、この「受動喫煙症」についてどのように考えているのだろうか。患者が、「受動喫煙症」を立証する診断書を交付するように求めてきたとき、どう対処しているかを客観的に調査するために、筆者ら横浜副流煙裁判を取材してきた4人(黒薮哲哉、藤井敦子ら)は、98人の医師(若干看護士も含む)に問い合わせてみた。

98人の医師は、「受動喫煙症の診断可能な医療機関」(日本禁煙学会のウェブサイト)に登録されている。(2021年10月18日現在)

問い合わせは次の3点である。

①受動喫煙症の診断書を交付しているか?

②診断書を裁判に提出する方針はあるか?

③診断にあたっては、検査を実施するか?

ただし口頭でのやり取りなので、②や③の問い合わせに辿り着かなかった場合や、話が大きく逸れてしまった場合もある。

◆受動喫煙症の診断書を交付しているか?

まず、質問1「受動喫煙症の診断書を交付しているか」についての調査結果を公表しよう。

①受動喫煙症の診断書を交付するか?

約37%の医師が、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付しないと回答した。

「交付しない」と答えた医師のコメントは、「受動喫煙症」の病名を付した診断書は、「裁判に使えない」からという趣旨のものが複数あった。「受動喫煙症」の証明が医学的に困難と答えた医師もいた。他に、「診断書を書いても法的拘束力がない」、「横浜副流煙裁判を機に、もう書かない」というコメントもあった。

◆診断書を裁判に提出する方針はあるか?

質問①で61人の医師が「受動喫煙症」という病名の診断書を交付すると答えた。これらの医師を対象に、診断書を裁判に提出する方針はあるのか否かを問うた。結果は次の通りだった。

②診断書を裁判に提出する方針はあるか?

「提出方針はない」と答えた13人の医師のうち、5人は、企業を被告とする裁判であれば、交付に応じると回答した。

◆診断にあたっては、検査を実施するか?

質問③は、「診断にあたっては、検査を実施するか」である。次のような結果になった。

③診断にあたっては、検査を実施するか?

診断書を作成するにあたって、「検査を実施する」と答えた医師はわずか12人だった。検査内容は、尿コチニン検査・呼気検査、spO2の測定などである。

われわれが③の質問を用意したのは、横浜副流煙裁判の判決が、「客観的証拠がなくとも患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわない」とする日本禁煙学会の診断基準を批判したからである。実際、日本禁煙学会の作田学理事長や松崎道幸理事らは、横浜副流煙裁判の中で患者の問診のみによって受動喫煙症と診断を下したも問題ないと主張した。

検査をしない理由として、「高額だから」、「受動喫煙直後に検査しなければならないから」、「検査をして値が出ないことも多いから」、「客観的指標がないから」などのコメントがあった。これらは「検査は必要だが難しい」という見解といえるだろう。

◆「客観的証拠が出せないので、検査はしていない」

アンケート開始当初には④「オンライン、或いは委任状での診断書作成は可能か?」という質問事項を設けていた。この質問を設定したのは、横浜副流煙裁判の中で作田医師らが、副流煙による健康被害を診察する際に、オンラインによる診察・診断や委任状による診察・診断も認められるべきだという主張を展開したからである。

この質問について、ほとんどの医療機関は、「とんでもない」、「あり得ない」と強く否定した。そこでわれわれは途中でこの質問項目を外した。

この調査を通じて、医療関係者から多くの興味深い話を聞くことが出来た。そのいくつかを紹介しよう。

「(受動喫煙症の)客観的指標がないのでタバコが(体調不良の)原因とは(診断書に)書けない。症状しか書けない」

「メールで(患者の)状況を確認、メールでやりとりして診断内容を決める」

「受動喫煙症の裁判に必要なシビアな資料を作るのは無理、(裁判をしても)絶対負ける」

「(受動喫煙症の)客観的証拠が出せないので、検査はしていない」

「(副流煙についての)問い合わせが多くなって、本当に受動喫煙かどうか分からないので、書くのが難しい」

「病気には元々の素因もあるので、喫煙者の煙が(体調不良の)原因だと断定にはいかない」

「(患者さんに)精神的に問題がある場合は、そちらを紹介する」

「裁判以前に(副流煙問題を)解決するのが一番いいわけですね、今はそういう事例を積み重ねる段階。診断書を使わずに、内容証明を弁護士の名前で送ったりとか」

「問診だけだったら、そりゃ(診断に)客観性がないわな。コチニン検査は絶対要だけどやってくれる場所が検討つかない」

「近隣の場合は空気が分散するので(副流煙の)立証できない。職場の隣の人なら別」

「大学の先生に頼んで(受動喫煙症の)検査するならよいが、そんな厳密な診断書はクリニックの医師は書けないよ」

「(副流煙による)健康被害の医学的証明は出来ない。現場に行けないから」

問い合わせを通じて医療関係者の熱心な姿勢を感じた。しかし、診断書を喫煙者の個人糾弾に使うことを前提としている印象を与えた医師もいた。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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煙草の副流煙による健康被害の有無が争われた裁判で、原告から加害者の烙印を押された藤井将登さんが、裁判に加担した日本禁煙学会理事長の作田学医師らを相手取って、損害賠償裁判を起こすことが分かった。9月29日、将登さんの妻・敦子さんが代理人弁護士と話し合って、提訴の意志を固めた。原告には、敦子さんも加わる。提訴の時期は、年明けになる予定だ。「反訴」の方針を決めた敦子さんが、心境を語る。

「3年ものあいだ裁判対応に追われました。家族全員が喫煙者だという根拠のない噂を流され迷惑を受けました。ちゃんと『戦後処理』をして、訴権の濫用(広義のスラップ訴訟)と禁煙ファシズムに歯止めをかけたいと考えています」

藤井敦子さんは英語講師で、自宅で英語の発音を教えている

◆藤井家から副流煙が、団地に広がったウワサ

横浜副流煙裁判は、2017年11月にさかのぼる。横浜市郊外の青葉区・すすき野団地に住むミュージシャン・藤井将登さんは、同じマンションの2階に住む福田家(仮名)の3人から、4518万円の金銭を請求する裁判を起こされた。訴因は、将登さんの煙草の副流煙だった。将登さんが音楽室で喫った煙草が2階の福田家へ流入して、一家3人(夫・妻・娘)が「受動喫煙症」などの病気になったというものだった。

将登さんはヘビースモーカーではない。1日に2、3本の煙草を、喫う程度だった。それも喫煙場所は防音構造の音楽室で、煙が外部へもれることはなかった。しかも、仕事の関係で外出が多く、自宅に常時滞在しているわけではなかった。敦子さんと娘さんは、煙草を喫わない。

が、それにもかかわらず藤井家からもうもうと白い煙が発生しているかのような噂が団地に広がった。副流煙で娘が寝たきりになったということになっていた。藤井さん夫妻は2度にわたり警察の取り調べを受け、将登さんが「代表」で法廷に立たされたのである。

しかし、審理が進むにつれて、提起行為そのものに次々と疑問が浮上し始めた。まず最初に3人の原告家族のうち、夫に約25年の喫煙歴があった事実が分かった。煙草による健康被害を訴えていながら、実は、提訴の2年ほど前まで煙草を喫っていたのである。その事実を本人が法廷で認めた。この時点で、提訴の根拠がゆらぎ始めたのだ。

さらに別の重い事実が判明した。提訴の根拠となった3人の診断書のうち、娘の診断書が不正に作成・交付されていた疑惑が浮かび上がったのだ。この診断書を作成したのが日本禁煙学会の作田医師であった。作田医師は、娘本人を診察しないで、診断書を交付した。娘とは面識すらなかった。宮田幹夫医師(北里大学医学部名誉教授)らの診断書を参考にしたり、娘の両親から事情を聞いて、「受動喫煙症」などとする病名の診断書を交付したのである。それが訴訟に使われたのだ。

しかし、無診察による診断書の交付は医師法20条違反にあたる。それが司法認定されると、医師としての生命を失いかねない。それにもかかわらず作田医師は、大胆不敵な行為に及んだのである。

横浜地裁は2019年11月28日に、原告一家の請求を棄却する判決を下した。判決の中で横浜地裁は、作田医師による医師法20条違反を認定した。それが原因になったかどうかは不明だが、翌年の3月末に、作田医師は日本赤十字医療センターを除籍となった。同センターによると、それに伴い「受動喫煙外来」もなくなった。

原告は東京地裁へ控訴したが、高裁は2020年10月29日に控訴を棄却した。原告(控訴人)が上告しなかったので、東京高裁の判決が確定した。それを受けて敦子さんは告発人を募り、神奈川県警青葉署へ虚偽公文書行使罪で作田医師を刑事告発した。青葉署はすみやかに告発を受理して、関係者の捜査に入った。

こうした一連の流れの中で、藤井夫妻は「戦後処理」の一環として損害賠償を求める民事訴訟を提起するに至ったのである。その背景には、後述するように、広義のスラップ訴訟(訴権の濫用)に対する警鐘がある。スラップ訴訟は、水面下で社会問題になっている。ツイッターで「いいね」を押しただけで、提訴されかねない時代になっている。

◆「1年前から団地の1階でミュージシャンが」

わたしは藤井将登さんが法廷に立たされてから約1年後にこの事件の取材を始めた。その中で、日本禁煙学会の作田医師が、深く裁判に関わっていることを知った。福田家のために根拠に乏しい診断書を作成した事実はいうまでもなく、次々と新しい意見書を裁判所へ提出するなど、その奮闘ぶりは尋常ではなかった。第1審の判決日には、みずから法廷に足を運んだ。

自宅での禁煙禁止を命じる判例が誕生するのを期待していたのではないか?

作田医師は、福田家の妻の診断書の中では、医学的所見とは関係がない記述をしている。

 

藤井将人さんが喫っていたガラム

「1年前から団地の1階にミュージシャンが家にいてデンマーク産のコルトとインドネシアのガラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸う(ママ)ようになり、徐々にタバコの煙に敏感になっていった」

現場を自分で確認することなく、このような事実摘示を行ったのである。

また、追加意見書(2019年3月28日)では、「現状でできることは、藤井氏側が直ちに自宅でのタバコを完全に止めることなのです」「これは日本禁煙学会としてのお願いでもあり、また、個人としてのお願いでもあります」などと述べている。原告3人の体調不良の原因を将登さんの副流煙だと決めつけているのである。

◆独り歩きしている病名「受動喫煙症」

裁判の中で、わたしは次々と興味深いことを知った。まず、日本禁煙学会が日本学術会議によって認定された「学会」ではない事実である。「学会」と付されているが、禁煙撲滅運動を進める市民運動の性質もある。

またわたしは、提訴の根拠となった3通の診断書に、作田医師が記した「受動喫煙症」という病名が、国際的には認められていないことを知った。WHO(世界保健機構)は、認定した病名に「ICD10」と呼ばれる分類コードを付すのだが、「受動喫煙症」は含まれていない。

つまり「受動喫煙症」という病名は、作田医師が理事長を務める日本禁煙学会が独自に命名したものであることを確認したのである。この病名を使うことが、法律に抵触するわけではないが、訴訟で4518万円を請求する根拠に使われた事実は重い。

◆スラップ防止法が存在しない日本

このように福田家が起こし、作田医師が加勢した訴訟そのものにグレーゾーンがあるわけだが、しかし過去に訴権の濫用が認定された裁判判例は極めて少ない。憲法が提訴権を優先している事情がその背景にある。

過去に訴権の濫用が認められたケースとしては、わたしが調べた限りでは、幸福の科学事件、武富士事件、長野太陽光発電パネル事件、DHC事件、N国党事件の5件である。

このうち長野太陽光発電パネル事件は、業者が太陽光発電のパネルを設置したところ、近隣住民から苦情が出たことに端を発する。太陽光パネルの撤去を求める住民に対して、業者は反対運動の中で名誉を毀損されたとして6000万円の損害賠償を求める裁判を提訴した。これに対抗して住民が、訴権の濫用で反訴した。裁判所は、住民の訴えを認めて、業者に50万円の支払を命じた。(長野地裁伊那支部平成27年10月28日、判決)

提訴しても勝訴の見込みがないことを認識しながら、あえて訴訟を起こした場合は、訴権の濫用とされるが、立証の壁は高い。

藤井さん夫妻が予定している裁判では、虚偽の診断書などを根拠として4518万円の巨額を請求した事実を、裁判所がどう判断するかに注目が集まりそうだ。まったく前例のないケースである。

藤井夫妻が予定している「反訴」は、スラップ防止法が存在しない日本の司法界に一石を投じそうだ。

※筆者は喫煙者ではない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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