東京23区を対象に新聞部数のノルマ制度を調査、際立つ毎日新聞の闇、全国では年間1400億円の「押し紙」資金が暗躍、汚点がメディアコントロールの温床に 黒薮哲哉

新聞部数のノルマ制度を東京23区を対象に調査した。その結果、「押し紙」政策の存在が裏付けられた。

調査は、各新聞社を単位として、各区ごとのABC部数(2016年~2020年の期間)をエクセルに入力し、ABC部数の変化を時系列に調べる内容だ。部数に1部の増減もなくABC部数が固定されている箇所は、新聞社が販売店に対してノルマを課した足跡である可能性が高い。

 
(上)人目を避けて、コンテナ型のトラックで「押し紙」を回収。(中)コンテナの内部。(下)紙の「墓場」

実例で調査方法を説明しよう。たとえば次に示すのは、東京都荒川区における2016年10月から、2018年4月までの朝日新聞のABC部数である。2年の期間があるにもかかわらず、1部の増減も観察できない。

2016年10月:8549部
2017年4月:8549部
2017年10月:8549部
2018年4月:8549部

グーグルマップによると、2021年10月の時点で荒川区にはASA(朝日新聞販売店)が4店ある。これら4店に対して、朝日新聞社が搬入した部数合計が、2年間に渡って1部の増減もなかったことが上記のデータから裏付けられる。つまり朝日新聞は、新聞購読者の増減とはかかわりなく同じ部数を搬入したのである。荒川区における朝日新聞の購読者数が、2年間、まったく増減しないことなど実際にはあり得ないが。

4店のうち、たとえ1店でも部数の増減があれば、上記のような数字にはならない。販売店サイドが2年間、自主的に同じ部数を注文し続けた可能性もあるが、たとえそうであっても、朝日新聞社サイドがその異常を認識できなかったはずがない。

このような部数のロックは、販売店に対して部数のノルマを課していた高い可能性を示唆している。新聞社が販売店に対して特定の部数を買い取らせる行為は、独禁法の新聞特殊指定で禁止されている。

◆調査方法の弱点について

なお、わたしが採用しているこの調査方法の弱点についても、言及しておこう。この調査は、ABC部数の公表単位である区・市・郡の部数を基礎データとして採用しているために、調査対象地区に店舗を構える販売店が多くなればなるほど、地区全体でのロック現象を確認できる確率が減ることだ。たとえば販売店が多い世田谷区などでは、ロック現象は確認できない。部数を減らすように新聞社と交渉して、減部数を勝ち取る販売店が存在する確率が高くなるからだ。

逆説的に言えば、地域全体としてはノルマの実態が浮上しなくても、差別的にノルマが課されている販売店が存在する可能性もあるのだ。

◆朝日、毎日でノルマ政策を顕著に確認

以上を前提として、調査結果を公表しよう。着色された箇所が、ロック部数とその期間を現わしている。また、赤文字の箇所は、100部単位で部数の増減を行われた不自然な箇所でる。どんぶり勘定で新聞の卸部数を決めている可能性もある。朝日、読売、毎日、産経、順番に表示する。

東京23区別の朝日新聞ABC部数の推移
東京23区別の読売新聞ABC部数の推移
東京23区別の毎日新聞ABC部数の推移
東京23区別の産経新聞ABC部数の推移

ちなみに大阪府堺市を対象とした同類の調査もある。大阪府の『府政だより』の水増し問題を取り上げた次の記事の後半で紹介している。東京都よりも顕著に、新聞社によるノルマ設定の実態を確認することができる。

◎[参考記事]「大阪府の広報紙『府政だより』、10万部を水増し、印刷は毎日新聞社系の高速オフセット、堺市で『押し紙』の調査」

◆「世論調査」なるものの欺まん

さて、「押し紙」の何が問題なのだろうか?これについて、わたしの考えを述べておこう。結論を先に言えば、それは新聞社による「押し紙」政策を公権力が把握していることである。把握したうえでそれを黙認し、新聞社経営を支える構図があることだ。このような配慮により、公権力は新聞社を権力構造の「広報機関」として歯車に組み込んでいる。

もちろんこの種の「アメとムチ」の構図は、「押し紙」問題だけに見られるものではない。他にも、新聞に対する軽減税率の適用、再販制度の維持、学校教育における新聞の使用(学習指導要領)、などの問題もある。

しかし、その中でも「押し紙」の放置は、中心的な問題なのである。と、いうのも「押し紙」を通じて想像を絶する規模の資金が動くからだ。

新聞1部の価格は、100円から150円ぐらいで、「高額」という印象はない。ところが全国の日刊紙の発行部数は、約3245万部(日本新聞協会の2020年度のデータ)にもなり、新聞1部に付き10円値上げするだけで、1日に約3億245万円の収入増となる。事業規模は想像以上に大きいのだ。
 
全国の「押し紙」の割合が20%と仮定したとき、649万部が「押し紙」という試算になる。新聞の仕入代金を1部60円で計算すると、全国の新聞社が得る1日の「押し紙」収入は、3億8940万である。ひと月(30日)に換算すると116億8200万円になる。年間では、1400億円を超えるのである。

念のための記しておくが、これは誇張を避けたシミュレーションである。

しかも、「押し紙」によるABC部数のかさあげにより、新聞社は紙面広告の媒体価値を引き上げる。販売店は折込広告の水増しをしている。従って、不正な金額は無限大に膨張する。公取委、警察、裁判所、通産省などはこの問題にメスを入れることもできるが、半世紀近く放置してきた。

その理由は単純で、新聞社の経営上の決定的な汚点を把握することで、暗黙のうちに報道内容に介入できるからだ。新聞人らは、自分が所属する企業を犠牲にしてまで、ジャーナリズムを守ることはしない。

わたしはマスコミが発表する「世論調査」なるものを全く信用していない。ジャーナリズムの土台の実態を知っているからだ。

◆客観的な事実の中に、新聞ジャーナリズムが腐敗した原因を探る

半世紀以上も前から、評論家たちは新聞批判を繰り返してきた。その論調の大半は、記者としての自覚が足りないからジャーナリズムが機能しないという批判だった。

【引用】たとえば、新聞記者が特ダネを求めて“夜討ち朝駆け”と繰り返せば、いやおうなしに家庭が犠牲になる。だが、むかしの新聞記者は、記者としての使命感に燃えて、その犠牲をかえりみなかった。いまの若い世代は、新聞記者であると同時に、よき社会人であり、よき家庭人であることを希望する。

この記述は、1967年、日本新聞協会が発行する『新聞研究』に掲載された「記者と取材」と題する記事から引用したものである。このような精神論の思考体系は今も変わっていない。従って、東京新聞の望月衣塑子記者のように有能な記者が次々に現れたら、ジャーナリズムは再生できるという論理体系になってしまう。

しかし、精神論ではなく客観的な経済上の事実の中に、新聞ジャーナリズムが機能しない原因を探らない限り、問題は解決しない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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大阪府の広報紙『府政だより』、10万部を水増し、印刷は毎日新聞社系の高速オフセット、堺市で「押し紙」の調査 黒薮哲哉

大阪府の広報紙『府政だより』が大幅に水増しされ、廃棄されていることが分かった。

わたしは、全国の地方自治体を対象に、新聞折り込みで配布される広報紙が水増しされ、一定の部数が配達されずに廃棄されている問題を調査してきた。

 
大阪府の広報紙『府政だより』

この記事では、情報公開請求で明らかになった大阪府の『府政だより』のケースを紹介しよう。悪質な事例のひとつである。

大阪府は、広報紙『府政だより』(月刊)を発行している。配布方法は、大阪府のウェブサイトによると、「新聞折り込み(朝日、毎日、読売、産経、日経)」のほか、「府内の市区町村をはじめ、公立図書館、府政情報センター、情報プラザ(府内10カ所)などに配備」している。さらに「民間施設にも配架」しているという。

このうちわたしは大阪府に対して、新聞折り込みに割り当てられた部数を示す資料を、過去10年にさかのぼって開示するように申し立てた。その結果、6年分が開示された。

データを解析した結果、『府政だより』の新聞折り込み部数が、大阪府における日刊紙の流通部数をはるかに超えていることが分かった。ここでいう流通部数とは、日本ABC協会が定期的に公表している新聞の発行部数のことである。新聞社が販売店に搬入する部数だ。

次の表に示すのが、ABC部数(朝日、毎日、読売、産経、日経)と『府政だより』の折込枚数の比較である。いずれの調査ポイントでも、『府政だより』の部数が、新聞の流通部数を大きく上回っている。

ABC部数(朝日、毎日、読売、産経、日経)と『府政だより』折込枚数の比較

上の表に示したように、2020年10月ごろには、少なくとも約10万部が水増しされている。

たとえ「押し紙」(新聞社が販売店に割り当てるノルマ部数で、残紙とも言う)が1部たりとも存在しなくても、『府政だより』が水増し状態になっている実態が判明した。「押し紙」が存在すれば、水増しの割合はさらに増える。

筆者が「水増枚数」として表で示した枚数は、「予備部数」に該当するという考え方もあるが、たとえそうであっても「予備部数」の割合がばらばらになっており、場当たり的に部数を決めたとしか思えない。

ちなみにこれらの部数には、販売店を通じてコンビニなどに卸される新聞部数も含まれている。これらの新聞に、『府政だより』は折り込まれない。従って新聞に折り込まれずに廃棄される『府政だより』の部数は、表で示した部数よりも多い。

◆堺市で5年にわたり新聞部数をロック

ABC部数に「押し紙」が含まれていれば、水増しの割合はさらに高くなる。そこでわたしは、大阪府に「押し紙」が存在するかどうかを調べることにした。

結論を先に言えば、全国のほとんどの新聞社が「押し紙」政策を採用している。ここ数年に限ってみても、読売新聞、毎日新聞、産経新聞で、元店主が「押し紙」による損害賠償を求める裁判を起こしている。

そこでわたしは、大阪府堺市をモデルとして、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞の「押し紙」の実態を検証した。堺市を選んだのは、堺市が大阪府の大都市であり、ここに「押し紙」が多いという話を聞いたことがあったからだ。

「押し紙」の量は、販売店の内部資料を入手しない限り把握することはできないが、新聞社が販売店に搬入する部数が、新聞購読者の増減とは無関係にロック(固定)されていれば、「押し紙」政策が敷かれていると考え得る。 

新聞は「日替わり商品」であり、在庫にする価値がないので、毎月、販売店からの注文部数が変化しなければ不自然だ。

次に示すのは、大阪府堺市における読売新聞のABC部数の変化である。着色した部分は、部数に変化がなく、部数がロックされていると解釈できる。

大阪府堺市における読売新聞ABC部数の推移

東区では、5年間に渡って読者の増減が1部もない。常識ではありえないことである。残紙となった新聞は、『府政だより』と一緒に廃棄された可能性が高い。

朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞についても、次に示すように同じようなロック状態が観察できる。

大阪府堺市における朝日新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における毎日新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における産経新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における日本経済新聞ABC部数の推移

なお、堺市以外でも、同じような実態があちこちで確認できる。

◆「押し紙」のない熊本日日新聞

ちなみに次に示すのは、「押し紙」政策を導入していない熊本日日新聞の例である。ロックされている箇所は一ヶ所もない。正常な取り引きを反映した結果である。

熊本日日新聞は、「予備紙(残紙)」の割合を、搬入部数の1.5%とする販売政策を公表している。それゆえに取り引きが正常で、販売店主が部数の増減を決めることができる。

熊本市における熊本日日新聞ABC部数の推移

わたしは熊本県全域を調査したが、熊本市と同様に部数のロックは1件も発見できなかった。(この点に関しては、別に報告する機会があるかも知れない。)

◆ホープオフセット共同企業体

大阪府の『府政だより』の配布業務を請け負っている広告代理店は、年度により変わっている。最近は、福岡市に本社にあるホープオフセット共同企業体という団体が、『府政だより』の印刷と新聞販売店への配布を請け負っている。この共同企業体は、(株)ホープと毎日新聞社系の(株)高速オフセットで構成さている。

わたしが情報公開請求で入手した資料に、(株)ホープの連絡先が記されていたので、電話で事情を聞いた。次のような説明だった。

「弊社が広告販売を担当させていただき、高速オフセットさんが印刷を担当されています」

次に高速オフセットに事情を聞いた。しかし、応対した社員は、

「契約事項なのでお答えできません」

と、言って乱暴に電話を切った。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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朝日新聞の「押し紙」、広域でノルマ部数設定の疑惑、丸亀市では7500部を3年間にわたりロック 黒薮哲哉

新聞社が販売店に課している新聞のノルマ部数(広義の「押し紙」の原因)は、半世紀近く水面下で社会問題になってきた。今年に入ってから、わたしは新しい調査方法を駆使して、実態調査を進めている。新しい方法とは、新聞のABC部数(日本ABC協会が定期的に公表している部数)の表示方法を調査目的で、変更することである。ABC部数を解析する祭の視点を変えたのだ。そこから意外な事実が輪郭を現わしてきた。

現在、日本ABC協会が採用している部数の公表方法のひとつは、区・市・郡単位の部数を半年ごとに表示するものである。4月と10月に『新聞発行社レポート』と題する冊子で公表する。しかし、この表示方法では時系列の部数の変化がビジュアルに確認できない。たとえば4月号を見れば、4月の区・市・郡単位の部数は、新聞社ごとに確認できるが、10月にそれがどう変化したかを知るためには、10月号に掲載されたデータを照合しなくてはならない。冊子の号をまたいだ照合になるので、厄介な作業になる。

そこでわたしは、各号に掲載された区・市・郡単位の部数を時系列で、エクセルに入力することで、長期間の部数変化をビジュアルに確認することにしたのである。

かりにある新聞のABC部数に1部の増減も起きていない区・市・郡があれば、それは区・市・郡単位で部数をロックしていることを意味する。ABC部数は新聞の仕入部数を反映したものであるから、その地区にある販売店に対して、ノルマ部数が課せられている可能性が高くなる。

新聞は「日替わり商品」なので、販売店には残紙を在庫にする発想はない。正常な商取引の下では、読者の増減に応じて、毎月、場合によっては日単位で注文部数を調節する。販売予定のない新聞を好んで仕入れる店主は、原則的には存在しない。

販売店に搬入される総部数のうち、何パーセントが「押し紙」になっているかはこの調査では判明しないが、ノルマ部数と「押し紙」を前提とした販売政策が敷かれているかどうかを見極めるひとつのデータになる。

従前は、販売店の内部資料が外部に暴露されるまでは、「押し紙」の実態は分からなかったが、この新手法で新聞社による「押し紙」政策の有無を地域ごとに判断できるようになる。

ちなみに「押し紙」は独禁法違反である。

朝日新聞販売店で撮影された残紙

◆香川県の市郡を対象とした調査

が、こんな説明をするよりも、実際に作成した表を紹介しよう。下記の表は、香川県の市・郡をモデルにして、朝日新聞を調査した結果である。同一色のマーカーは、ロック部数と期間を示している。

香川県ABC(朝日)

上の表から、たとえば丸亀市のABC部数の推移を検証してみよう。次に示すように、2016年4月から2018年10月の約3年の間、朝日新聞の部数(読者数)は一部も変動していない。常識的にはあり得ないことだ。

2016年4月:7500部
2016年10月:7500部
2017年4月:7500部
2017年10月:7500部
2018年4月:7500部
2018年10月:7500部

東かがわ市に至っては、3年間に渡って同じ部数がロックされている。また、高松市の場合は、ロックの期間こそ1年だが、5年間でロックが3度も行われている。しかも、その部数は、それぞれ2万2002部、1万8877部、1万3882部と大きなものになっている。

◆長崎県の市郡を対象とした調査

次に示すのは、長崎県の朝日新聞のケースである。香川県のようにすさまじい実態ではないが、西彼杵郡などで典型的なロック現象が確認できる。

長崎県ABC(朝日)

なお、2019年10月から翌年の4月にかけて、西彼杵郡の部数が一気に590部も増えている。その反面、長崎市の部数が一気に1913部減っている。(いずれも表中に赤文字で表示した。)不自然さをまぬがれない。

◆読売新聞との比較

モデルケースとして香川県と長崎県を選んだのは、「押し紙」裁判を取材する中で、これらの県で部数をロックしている可能性が浮上したからだ。 

さらにわたしは全国の都府県を抜き打ち調査した。その結果、東京都と大阪府を含む、多くの自治体でロックが行われていることが判明した。

香川県と長崎県における読売新聞社の部数ロックについては、9月7日付けの記事、「読売新聞の仕入部数「ロック」の実態、約5年にわたり3132部に固定、ノルマ部数の疑惑、「押し紙」裁判で明るみに」で紹介している。

◆名古屋市の17区を対象とした調査

名古屋市の各区における朝日新聞のロックについても、データを紹介しておこう。やはり部数のロックが確認できる。

名古屋市ABC(朝日)

わたしがこの調査結果を最初に公表したのは、ウェブサイト「弁護士ドッドコム」である。その際に朝日新聞社は、「本社は、ASA(黒薮注:朝日新聞販売店)からの部数注文の通りに新聞を届けています。 ASAは、配達部数の他に、営業上必要な部数を加えて注文しています」とコメントしている。

このような弁解がこれまで延々とまかり通ってきたのである。それが「押し紙」問題が解決しない原因だ。

一方、日本ABC協会は部数ロックの現象について、わたしが行った別の取材で次のように答えている。日経新聞の部数ロックを提示した際の見解であるが、一般論なので他の新聞社についても当てはまる内容だ。参考までに紹介しておこう。

「ABCの新聞部数は、発行社が規定に則り、それぞれのルートを通じて販売した部数報告を公開するものです。この部数については、2年に1度新聞発行社を訪問し、間違いがないかを確認しています。」

◆独禁法の新聞特殊指定に抵触

独禁法の新聞特殊指定は、新聞社が販売店に対して「正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること」を禁止している。

(1)販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)

(2)販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

部数ロックは、(2)に抵触する可能性が高い。しかも、業界ぐるみで部数ロックの販売政策を敷いている疑惑がある。

公正取引委員会は調査に着手する必要があるのではないか。さもなければ、日本の権力構造の歯車だとみなされかねない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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読売新聞の仕入部数「ロック」の実態、約5年にわたり3132部に固定、ノルマ部数の疑惑、「押し紙」裁判で明るみに 黒薮哲哉

新聞の没落現象を読み解く指標のひとつにABC部数の増減がある。これは日本ABC協会が定期的に発表している新聞の「公称部数」である。多くの新聞研究者は、ABC部数の増減を指標にして、新聞社経営が好転したとか悪化したとかを論じる。

最近、そのABC部数が全く信用するに値しないものであることを示す証拠が明らかになってきた。その引き金となったのが、読売新聞西部本社を被告とするある「押し紙」裁判である。

◆「押し紙」と「積み紙」

「押し紙」裁判とは、「押し紙(販売店に対するノルマ部数)」によって販売店が受けた損害の賠償を求める裁判である。販売店サイドからの新聞の押し売りに対する法的措置である。

とはいえ新聞社も簡単に請求に応じるわけではない。販売店主が「押し紙」だと主張する残紙は、店主が自主的に注文した部数であるから損害賠償の対象にはならないと抗弁する。「押し紙」の存在を絶対に認めず、店舗に余った残紙をあえて「積み紙」と呼んでいる。

つまり「押し紙」裁判では、残紙の性質が「押し紙」なのか、「積み紙」なのかが争点になる。下の写真は、東京都江戸川区にある読売新聞販売店で撮影された残紙である。「押し紙」なのか、「積み紙」なのかは不明だが、膨大な残紙が確認できる。

東京都江戸川区にある読売新聞販売店で撮影された残紙
同上

◆1億2500万円の損害賠償

ABC部数の嘘を暴く糸口になったこの裁判は、佐世保市の元販売店主が約1億2500万円の損害賠償を求めて、今年2月に起こしたものである。裁判の中で、新聞販売店へ搬入される朝刊の部数が長期に渡ってロックされていた事実が判明した。

通常、新聞の購読者数は日々変動する。新聞は、「日替わり商品」であるから、在庫として保存しても意味がない。従って、少なくとも月に1度は新聞の仕入部数を調整するのが常識だ。さもなければ販売店は、配達予定がない新聞を購入することになる。

販売店が希望して配達予定のない新聞を仕入れる例があるとすれば、搬入部数を増やすことで、それに連動した補助金や折込広告収入の増収を企てる場合である。しかし、わたしがこれまで取材した限りでは、そのようなケースはあまりない。発覚した場合、販売店が廃業に追い込まれるからだ。

◆仕入部数を約5年間にわたり「ロック」

現在、福岡地裁で審理されている「押し紙」裁判も、残紙が「押し紙」なのか、「積み紙」なのかが争点になっているが、別の着目点も浮上している。それは、販売店に搬入される仕入れ部数が、「ロック」されていた事実である。「ロック」が、販売店に対するノルマ部数を課す販売政策の現れではないかとの疑惑があるのだ。

以下、ロックの実態を紹介しよう。

・2011年3月~2016年2月(5年):3132部
・2016年3月~2017年3月(1年1カ月):2932部
・2017年4月~2019年1月(1年10カ月):1500部
・2019年2月(1カ月):1482部
・2019年3月~2020年2月(1年):1434部

この間、搬入部数に対して残紙が占める割合は、約10%から30%で推移していた。

◆長崎県の市・郡における「ロック」

この販売店で行われていた「ロック」が他の販売店でも行われているとすれば、区・市・郡のABC部数にも、それが反映されているのではないか?と、いうのもABC部数は、販売店による新聞の仕入れ部数の記録でもあるからだ。

そこでわたしは、この点を調査することにした。調査方法は、年に2回(4月と10月)、区・市・郡の単位で公表されているABC部数を、時系列で並べてみることである。そうすれば区・市・郡ごとのABC部数がどう変化しているかが判明する。

まず、最初の対象地区は、「押し紙」裁判を起こした販売店がある長崎県の市・郡別のABC部数(読売)である。下表のマーカーの部分が「ロック」部数と期間である。かなり頻繁に確認できる。

長崎ABC(読売)

◆香川県の市・郡における「ロック」

他の都府県についても、抜き打ち調査をした。その結果、次々と「ロック」の実態が輪郭を現わしてきた。典型的な例として、香川県のケースを紹介しよう。下表のマーカーの部分が「ロック」部数と期間である。

香川ABC(読売)

若干解説しておこう。高松市の読売新聞の部数は、2016年4月から2019年10月まで、ロック状態になっていた。高松市における読売新聞の購読者数が、3年以上に渡ってまったく変化しなかったとは、およそ考えにくい。まずありえない。

新聞の搬入部数がそのまま日本ABC協会へ報告されるわけだから、ABC部数は実際の読者数を反映していないことになる。信用できないデータということになる。

なお、「ロック」について、読売新聞東京本社の広報部に問い合わせたが回答はなかった。部数の「ロック」は、他の中央紙でも確認できる。詳細については、順を追って報じる予定だ。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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