読売新聞の仕入部数「ロック」の実態、約5年にわたり3132部に固定、ノルマ部数の疑惑、「押し紙」裁判で明るみに 黒薮哲哉

新聞の没落現象を読み解く指標のひとつにABC部数の増減がある。これは日本ABC協会が定期的に発表している新聞の「公称部数」である。多くの新聞研究者は、ABC部数の増減を指標にして、新聞社経営が好転したとか悪化したとかを論じる。

最近、そのABC部数が全く信用するに値しないものであることを示す証拠が明らかになってきた。その引き金となったのが、読売新聞西部本社を被告とするある「押し紙」裁判である。

◆「押し紙」と「積み紙」

「押し紙」裁判とは、「押し紙(販売店に対するノルマ部数)」によって販売店が受けた損害の賠償を求める裁判である。販売店サイドからの新聞の押し売りに対する法的措置である。

とはいえ新聞社も簡単に請求に応じるわけではない。販売店主が「押し紙」だと主張する残紙は、店主が自主的に注文した部数であるから損害賠償の対象にはならないと抗弁する。「押し紙」の存在を絶対に認めず、店舗に余った残紙をあえて「積み紙」と呼んでいる。

つまり「押し紙」裁判では、残紙の性質が「押し紙」なのか、「積み紙」なのかが争点になる。下の写真は、東京都江戸川区にある読売新聞販売店で撮影された残紙である。「押し紙」なのか、「積み紙」なのかは不明だが、膨大な残紙が確認できる。

東京都江戸川区にある読売新聞販売店で撮影された残紙
同上

◆1億2500万円の損害賠償

ABC部数の嘘を暴く糸口になったこの裁判は、佐世保市の元販売店主が約1億2500万円の損害賠償を求めて、今年2月に起こしたものである。裁判の中で、新聞販売店へ搬入される朝刊の部数が長期に渡ってロックされていた事実が判明した。

通常、新聞の購読者数は日々変動する。新聞は、「日替わり商品」であるから、在庫として保存しても意味がない。従って、少なくとも月に1度は新聞の仕入部数を調整するのが常識だ。さもなければ販売店は、配達予定がない新聞を購入することになる。

販売店が希望して配達予定のない新聞を仕入れる例があるとすれば、搬入部数を増やすことで、それに連動した補助金や折込広告収入の増収を企てる場合である。しかし、わたしがこれまで取材した限りでは、そのようなケースはあまりない。発覚した場合、販売店が廃業に追い込まれるからだ。

◆仕入部数を約5年間にわたり「ロック」

現在、福岡地裁で審理されている「押し紙」裁判も、残紙が「押し紙」なのか、「積み紙」なのかが争点になっているが、別の着目点も浮上している。それは、販売店に搬入される仕入れ部数が、「ロック」されていた事実である。「ロック」が、販売店に対するノルマ部数を課す販売政策の現れではないかとの疑惑があるのだ。

以下、ロックの実態を紹介しよう。

・2011年3月~2016年2月(5年):3132部
・2016年3月~2017年3月(1年1カ月):2932部
・2017年4月~2019年1月(1年10カ月):1500部
・2019年2月(1カ月):1482部
・2019年3月~2020年2月(1年):1434部

この間、搬入部数に対して残紙が占める割合は、約10%から30%で推移していた。

◆長崎県の市・郡における「ロック」

この販売店で行われていた「ロック」が他の販売店でも行われているとすれば、区・市・郡のABC部数にも、それが反映されているのではないか?と、いうのもABC部数は、販売店による新聞の仕入れ部数の記録でもあるからだ。

そこでわたしは、この点を調査することにした。調査方法は、年に2回(4月と10月)、区・市・郡の単位で公表されているABC部数を、時系列で並べてみることである。そうすれば区・市・郡ごとのABC部数がどう変化しているかが判明する。

まず、最初の対象地区は、「押し紙」裁判を起こした販売店がある長崎県の市・郡別のABC部数(読売)である。下表のマーカーの部分が「ロック」部数と期間である。かなり頻繁に確認できる。

長崎ABC(読売)

◆香川県の市・郡における「ロック」

他の都府県についても、抜き打ち調査をした。その結果、次々と「ロック」の実態が輪郭を現わしてきた。典型的な例として、香川県のケースを紹介しよう。下表のマーカーの部分が「ロック」部数と期間である。

香川ABC(読売)

若干解説しておこう。高松市の読売新聞の部数は、2016年4月から2019年10月まで、ロック状態になっていた。高松市における読売新聞の購読者数が、3年以上に渡ってまったく変化しなかったとは、およそ考えにくい。まずありえない。

新聞の搬入部数がそのまま日本ABC協会へ報告されるわけだから、ABC部数は実際の読者数を反映していないことになる。信用できないデータということになる。

なお、「ロック」について、読売新聞東京本社の広報部に問い合わせたが回答はなかった。部数の「ロック」は、他の中央紙でも確認できる。詳細については、順を追って報じる予定だ。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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