岸田政権にはまったく理性がありません。原発の四十年越え運転のみならず、60年越え運転まで認めてしまいました。岸田最悪政権によるとんでもない判断により、日本で再び原発事故が発生する可能性は、さらに増してしまいました。

 

『季節』2023年秋号

福島第一原発事故被害者の厳しい現実(生活破壊・甲状腺がんなどの健康被害)を、この国の政府やマスコミは全力で隠蔽しようと血道を上げています。東京五輪開催やリニアモーターカーの建設、そして軍事費の倍増が、被災地の復興と関係があるでしょうか。まるで原発事故などなかったかのように、政権やマスコミは虚飾にまみれた日常を演出しています。意図的に原発事故の忘却を進めようとする連中の行為は、原発事故を引き起こした人間たちの責任と同様に極めて重大です。そしてあろうことか岸田最悪政権は「福島第一原発汚染水」(「処理水」と国やメディアは報じますが欺瞞です。「汚染水」であることに間違いありません)の海へ垂れ流し(海洋放出)を8月24日に国内外の圧倒的反対を無視して開始する暴挙に出ました。

個人の興味や趣向は様々で人間は多彩です。しかし、原発事故による被害はどんな人であろうと平等に襲いかかります。本誌をご覧の皆さんには当然の道理かもしれませんが、日本に住む多くの人は「原発事故が起きれば国家を失う一歩手前であった」2011年3月11日の経験を忘れさせられています。

今号では特集で、元京都大学原子炉実験所助教小出裕章さんと元福井地裁裁判長樋口英明さんに「原発問題の本質を論じる」対談をお願いしました。今日誰一人の例外なく、わたしたちが直面させられている「原発」や「戦争」の危機についてお二人には5時間以上にわたり対談していただきました。予定調和の対談ではありません。危機の時代にあって個人がどう考え、どう行動すべきか、への示唆がふんだんに盛り込まれた対談は必読です。

そして、読者の皆様に編集部からのお願いです。本誌は発刊以来、今日まで多くの皆様に支えられ発刊を続けておりますが、決定的な弱点があります。それは読者数が増加しないという現実です。これにはもちろんわれわれの努力不足もありますが、読者の皆様にもお力添えをいただけないでしょうか。まず本誌のご愛読者には一名で結構ですのでご友人かお知合に本誌の購読をお勧めいただきたくお願い申し上げます。あるいはご近所の図書館に、本誌の定期購読をお申込みいただくことも、読者増のためにはとても有益です。

自然の季節は移ろいますが、原発を巡る季節は好ましからざる停滞を強いられています。わたしたちはすべての原発廃炉が実現する日まで『季節』を発刊し続ける所存です。皆様のお力添えを重ねてお願いいたします。

2023年9月 季節編集委員会

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年秋号

通巻『NO NUKES voice』Vol.37
紙の爆弾2023年10月増刊
2023年9月11日発行
770円(本体700円)

《グラビア》真の文明は、海を荒らさず ── 福島の漁師と船上の民俗学者
「おれたちの伝承館」

《コラム》川島秀一(民俗学者)
海を回るもの 循環と放棄の違い

《インタビュー》小野春雄(福島県・新地町漁師)
海はつながっている。だから福島の漁師だけじゃなく、
全国の人たちが、人間として反対の声を上げてほしい

《対談》樋口英明(元福井地裁裁判長)×小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原発問題の本質を論じる
原発と戦争をなぜ止められないのか

《インタビュー》木幡ますみ(福島県・大熊町議)
転居八回当選二回
この十二年間でどれだけ暮らしが変わったか

《報告》尾崎美代子(西成「集い処はな」店主)
「おれたちの伝承館」ができるまで

《講演》コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【後編】
最新フランス原子力事情と日仏の原発回帰

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発事故は国の責任です
最高裁判所の判例変更を成し遂げるために

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出(投棄)と反対運動 
 
《報告》原田弘三(翻訳者)
グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
電気自動車(EV)は原発で走る

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
ジャニーズよ 永遠なれ

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
「不沈空母」タエタニップ号の沈没
~ヤマんト魂一本槍で沈没に突き進む米国隷属「会社主義」国家ニッポン

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子が語る世界〈21〉
文化に人権の香りがない国・日本

再稼働阻止全国ネットワーク
汚染水を海へ捨てるな!
原発再稼働反対! 福島第一原発大惨事忘れない
《女川原発》舘脇章宏(「ストップ!女川原発再稼働」意見広告の会)
女川原発再稼働に反対する意見広告=紙面デモにご協力を!
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
知っていますか? 汚染水は減っています!
《反原発自治体》結柴誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
「福島を忘れない」取り組みを再開! 原発推進法の実施許さない闘いを!
反原発自治体議員・市民連盟第一三回総会で闘う方針を決定
《常陽》渡辺寿子(元・核開発に反対する会)
高速実験炉「常陽」運転再開の意味するもの
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
11・18首都圏大集会に向けて
《汚染水》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
東電本店合同抗議行動「汚染水の海へ投棄反対」で盛り上がる!
トリチウムなどを含む「処理水」は「陸上保管が望ましい」……経産省高官発言
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「老朽原発うごかすな!」 闘いの報告と今後の闘い
岸田政権は「原発依存社会」に向かって暴走
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
島崎邦彦の責任を糾弾する
~原子力規制委員会地震学者初代委員長代理が今の日本をもたらした!
《読書案内》天野惠一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
今田高俊・寿楽浩太・中澤高師『核のゴミをどうするか もう一つの原発問題』

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CH36DVW8/

デジタル鹿砦社通信の小島卓編集長から、『情況』8月発売号の紹介をしてみてはいかが、というお誘いをいただきました。ありがたくお受けしたいと思います。

過日、『情況』第6期にご注目を、という記事をアップしたことがあります。おかげさまで、第6期『情況』誌は3号をかさね、11月発売号が出れば晴れて「3号雑誌」(勢いよく刊行したものの、3回で休刊)の誹りをまぬがれるわけです。読者の皆さまのご購読、ご支援に感謝いたします。

◆新しい論壇誌のスタイル

 

変革のための総合誌『情況』2023年夏号[第6期3号]【特集】音楽

さて、新左翼系の老舗雑誌と『情況』は呼ばれてきました。しかし、新左翼そのものが衰退、解体している昨今、その存続意義はあるのかという問いが生まれます。
じじつ、新左翼的な記事はほとんどなくなり(かつては、三里塚闘争や安保闘争、狭山闘争などが誌面を埋めた)、唯一果敢に闘われている沖縄反基地闘争(辺野古基地反対運動)も、新左翼特有の実力闘争ではなく、不服従の抗議闘争というのが実態だと思います。

運動誌・理論(学術)誌・オピニオン誌と、3つの性格を併せ持ってきた『情況』ですが、いまも有効なのはおそらく研究者にとっての論文発表の場、なのではないでしょうか。全国の大学図書館に70冊ほど、しかし岩波の『思想』、青土社の『現代思想』には遠く及びません。そして何よりも、学術誌は売れないのです。

もうひとつはオピニオン誌(論壇誌)としての性格で、第5期はここに比重を置いてきました。できればワンテーマこそが、クオリティマガジンとしてのステータスを高めるものになるはずですが、編集部をオープンにした結果、ごった煮の雑誌となったわけです。あれもこれも載せてくれと、ぶ厚い雑誌になりました。

雑誌というものは雑なものの集合体、いろんなファクターを入れた大船ですから、それはそれでいいのですが、いまひとつテーマの掘り下げに苦しんできたのが実態でした。

新しい編集部(第6期・塩野谷編集長)は、ヘンに背伸びをせず(難しいテーマを抱え込まず)、身近なテーマを掘り下げるところに特長があります。創刊号は「宗教」、2号目は「動物」、今回は「音楽」でした。

「音楽」は鹿砦社通信でもたびたび取り上げられていますが、時代性とテーマをその中にふくんでいます。プロテストソングを80人以上のアンケートで実施、特集の記事も20本と多彩なものになっています。政治と音楽(芸術)というテーマそれ自体、メッセージや音楽性の相関、扇動性、快楽といったかなり広い論軸を持っているものです。

その意味で、政治的なテーマや経済論評、政治経済の提言や批評がやや有効性をうしなっている(論壇誌で残存しているのは『文藝春秋』『世界』『中央公論』ほどしかない)現状では、人間にとって切実な「動物=食物」「音楽=日常に接する音」から人間を掘り下げる。これはなかなか良い手法だと思います。次号は「メンタルヘルス」だそうで、やはり切実なテーマだなと思います。

◆鹿砦社の広告について

ところで、『情況』は鹿砦社様の広告を表3(巻末)に定期掲載しています。『週刊金曜日』が当該者(団体)の抗議で、鹿砦社の広告を拒否した契機となった『人権と利権』も掲載しています。当然のことです。ご出稿いただいていることに、あらためて感謝するものです。

明らかに差別や人権侵害を目的とした刊行物でないかぎり、その表現や主張に、結果として差別的な内容・人権侵害的な内容が含まれていたとしても、誌上で批判・反批判をするべきです。そこにこそ、イデオロギー闘争としての「反差別」「人権擁護」が成立すると考えるからです。

したがって、今回の『週刊金曜日』の措置は、ファシストの焚書行為に相当するものと、わたしは考えます。『人権と利権』は運動内部に存在する「利権」を暴き出し、健全な反差別運動の発展をめざす視点から編集されていると、一読してわかるものです。

内容に誤りがあり、あるいは不十分であると考えるならば、批判の論攷を書けば良いのであって、人の眼に触れさせないのは矛盾の隠ぺい、自由な批判を抑圧するものにほかなりません。

『情況』も、昨年の4月刊で「キャンセルカルチャー特集」を組みました。2021年の呉座勇一さん(日本中世史・『応仁の乱』が50万部のベストセラー)のツイッターアカウントをめぐり、女性蔑視とするネット上の論争が起きた件をめぐり、執筆者から「情況の不買運動」を呼びかける論攷も掲載しました。

反差別運動の基本は、現代社会が資本主義の景気循環において相対的過剰人口を生み出し、そこにレイシズムの歴史的ファクター(差別意識)が結合することで、差別を再生産する社会であること。この基本認識があれば、差別を排除するのではなく俎上にあげて、分析・批判することを通じて、差別意識を変革していくことが求められるのです。

差別は個人・組織が起こすものですが、差別社会にこそ原因があることを忘れるならば、差別者のキャンセル、排除によって変革を放棄し、結果的に差別を温存することになります。すなわち『週刊金曜日』の今回の措置(広告拒否)こそが、差別を温存・助長するものにほかならないのです。

◆共産同首都圏委の逃亡

「排除」といえば、本通信でも何度か取り上げてきた、共産同首都圏委のウクライナ帝間戦争論について、8月発売号の「ウクライナ戦争論争」(本誌特別解説班)で結論を書きました。

首都圏委は人づてに聞いたところ「横山と論争をしないことに組織決定した」というのです。「排除」いや「逃亡」です。もう笑うしかありませんが、かれらは書き散らした論旨改ざん(論文不正)、誤読・誤記、引用文献の版元の間違いなど、恥ずかしいばかりの誤報の後始末もしないままなのです。そこでわれわれが彼らに代わって、訂正とお詫びを誌面に書きました(苦笑)。

また、新たな論敵として労働者共産党(元赤軍派の松平直彦氏が代表)の批判も全面展開しています。同世代の元活動家、研究者たちから「メチャメチャ面白い」の連絡をいただいています。

紹介と論軸の提起が長くなりました。今後とも、鹿砦社の出版物とともに『情況』をよろしくお願いいたします。(筆者敬白)

変革のための総合誌『情況』2023年夏号[第6期3号]【特集】音楽

『情況』HP http://jokyo.org/
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CDJ84P4J/
模索舎 https://mosakusha.com/?p=6153 

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

森奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』 最寄りの書店でお買い求めください

森奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C5GCZM7G/

2023年6月発行の書籍に感銘を受けたので、取り急ぎ紹介したい。著者は高齢化が加速する社会において、私たちが向かうべき地域づくりの道を開拓する医師だ。

◆「笑顔で自分らしく生き、自宅で人生の最期を迎えるための地域医療」

 

松永平太『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』(幻冬舎)

『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』(幻冬舎)の著者である松永平太氏は、地域づくりを先駆的に進めている1人だ。

千葉県南房総市千倉町に生まれ育ち、1983年、東京理科大学薬学部を卒業。その後、86年に東京医科歯科大学に入学し、卒業後、民間病院に入職。そこで医師と看護師とは対等であることを学び、その3年後となる1997年に松永医院を継ぎ、院長となった。

彼の願いは、「高齢者が笑顔で自分らしく生き、自宅で家族や友人とともに人生の最期を迎えられる地域医療のかたちを実現させること」。そのためには、もちろん在宅医療に加え、介護や福祉との連携が必要だ。そこで、「外来診療から在宅看取りまで対応した診療所を拠点に、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、デイサービス、デイケア、グループホーム、老人保健施設などを整備」した。

松永氏は、「全国に先駆けて人口減少や高齢化が進んだ千倉の地域医療は、これからの医療の最先端モデルになり得るのではないか」と考えて、本書を執筆したという。

千倉町の「高齢化率(65歳以上の高齢者人口の割合)はすでに50%」とのことで、2022年4月の高齢化率を調べると南房総市全体でも46.8%、千葉県内では御宿町、鋸南町に次ぐ第3位となっている。

千葉県内市町村別高齢者人口(2022年4月1日現在)

https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/toukeidata/kourei-jinkou/documents/r4koureishajinkou.pdf

ちなみに2035年には限界集落化という役所の職員もいたが、現在、高齢化が進みすぎていて2040年には65歳以上の人数自体は減ってしまう。
http://www.chiiki-chienowa.net/003_PPS/12chiba/12_kt_chiba.html 

◆高齢者のリアルと人間の生きがいとのギャップ

そのような中で松永氏は、診療所について、「命のコンビニエンスストアでありたい」と考えている。ただし、彼の目にうつるのは、「若い世代の重荷とされてしまう一方、お年寄り自身もどのようにして生きればいいのか迷い、誰にも相談できず、途方に暮れている」、そんな姿だ。「特にやりたいことはない」「早く死にたい」と口にし、一命を取り留めても「なぜ自分を助けたのだ」と苦情をいう人すらいるという。

彼は本書に、「この世で最大の不幸とは、貧困や病ではなく、見放されて誰からも必要とされなくなること」というマザー・テレサの言葉を引用している。実際、最も元気な80代の1人は、常に軽トラで地域を走り回り、広い田んぼを手がけ、「次は本業」といって店番もする。用事があって会いに行っても、なかなかつかまらない。お子さんにこのような話をしたところ、「仕事がいちばん好きだといっている」とのこと。やはり、求められているということが人間の生きがいとなるのだろう。

また、地域の人々の話を楽しく聴くだけで、ご本人やご家族に感謝されたり、野菜や魚を頻繁にもらったりする。お返しをしても、なかなか追いつかない。ただし、わたしが勝手に会話を楽しんでいることが役に立っているなら、大変うれしいことだ。そのような人間の生きがいや喜びのためにも、松永氏は「高齢者医療で大切なことは、とにかく入院期間を短縮すること」と述べている。

◆理想的なケアの形と介護保険の問題点

しかし、本書の中で、わたしがどうしても違和感を抱く個所があった。それは、家族の介護を大前提とする、いくつかの描写や意見・感想だ。なぜなら、わたしは個人的に小学校高学年の頃から複雑化した家庭環境に育ち、この社会の婚姻制度、家族制度や家制度(戸籍制度)に違和感を抱き続けるなどしているからだ。ちなみに、アメリカには扶養義務という概念がなく、スウェーデンやデンマーク、フィンランドでは子が親を扶養する義務が廃止されているそうだ。

ただし詳しくは第2回以降で触れるが、さまざまな現実に真剣に向き合ってきた松永氏の考えは実際、わたしとまったくかけ離れていることはない。また、彼が手がけていることは、まさにコミュニティでのケアを理想的な形で実現させるためのものなのだ。

そして本書では、介護保険の問題点についても述べている。まず、要介護認定の制度によって、経営上の問題を抱える介護サービス事業所は利用者のサービスへの依存度を高めようとすることになり、足腰を弱らせて寝たきりにしたほうがよいという判断をしかねないという。

わたしが介護に関する取材・執筆を重ねていた2005年前後には、事業所の善意とボランティアが介護を支えている面もあり、また予防重視の方向性によって介護が必要な人に届かなくなるのではないかと危惧されていた。それが、実際には、だいぶ複雑な方向に進んでいるのだと感じた。また、現場のヘルパーさんたちの労働に関する問題も根深いと、わたしは考えている。(つづく)

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『紙の爆弾』『NO NUKES voice(現・季節)』『情況』『現代の理論』『都市問題』『流砂』等に寄稿してきた。フリーランスの労働運動・女性運動を経て現在、資本主義後の農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動、釣りなども手がける。地域活性に結びつくような活動を一部開始、起業も準備中。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

前田和男さんは鹿砦社創業に関わり、最初の出版『マルクス主義軍事論』などの編集をされました。最近では『続・全共闘白書』も編纂されています。

その前田さんが新著『昭和街場のはやり歌──戦後日本の希みと躓きと祈りと災いと』を上梓、A5判、300ページの大著です。

『マルクス主義軍事論』から『昭和街場のはやり歌』へ ── 現在の鹿砦社も硬派(社会問題書)から軟派(芸能本)まで同じ位相で出版しています。

とりいそぎ、三波春夫と美空ひばりの項目の一部を紹介しておきます。なお、ご注文の際には松岡の紹介とお書き添えください。

株式会社 鹿砦社 代表
松岡利康

前田和男さんの新著『昭和街場のはやり歌 ── 戦後日本の希みと躓きと祈りと災いと』

デジタル鹿砦社通信の小島卓編集長から、太田出版刊行の『はたちの時代 60年代と私』の編集後記を書いてほしいとの依頼をいただきました。小島編集長の話では、武蔵小金井駅北口のくまざわ書店で、平積みになっている本をめくったら、横山の企画・編集であることを知ったとのこと。

力をこめて編集した本が、思いのほか好評を博していることもあり、このお話はありがたくお受けしたいと思います。と、いつになく丁寧語で書き始めました。

 

重信房子『はたちの時代 60年代と私』(太田出版)

◆元気な出所姿に感激

12年前に東京拘置所で重信さんと面会したとき、これが最後になるかもしれないからと周囲の人を誘った記憶があります。彼女のことは明大土曜会でもしばしば話題になり、芸能関係にかこつけて慰問訪問をすることは可能ではないか、などと話をしたこともありました。

その明大土曜会そのものが、重信房子を支えるために発足した会合なのですから、昨年6月の出所には参加者みんな感慨深いものがありました。多少は歳をとったとはいえ、人への気づかいがあふれる重信さんの輝くような笑顔が、初夏のマロニエ通りのいろどりに映えていたのを思い出します。

誰にも好かれるひとがら、彼女が結果的にシャバに軟着陸した理由を知ったような気がしたものです。とはいえ、10回以上のガン手術をへての現在なのです。ともに生きる喜びと、健康への祈念を忘るべからず……。

◆学生運動の端境期を描く

さて『はたちの時代』です。

当時のままを書き残して若い世代に伝えたい、事実を書いておきたいという重信さんの発意で、「オリーブの樹」「さわさわ」「野次馬雑記」などに連載された原稿、および新たに書き起こしていた赤軍派時代をまとめて、一冊にしたものです。

新左翼の活動家・理論家にありがちな政治論文で事実を粉飾してしまうのではない、まことに等身大の評伝・史実になっていると思います。

とくに、学生運動にとって三派全学連のつまづきとなった「2.2協定」について、ここまで詳述した公刊本は初めてでしょう(宮崎繁樹教授の私家版『風雲乱れ飛ぶ』・『明治大学新聞』が原資料)。

この「2.2協定」は、1966~1967年の明大学費闘争で、最終的に学内の混乱を収拾する策として、値上げ分はプールしたままいったん妥結する、というものでした。学生たちの大衆討議に付さないまま、いわゆる「暁の妥結」「深夜のボス交」と呼ばれてきました。しかし闘争の過程は、きわめて誠実に自治会民主主義の手続きを履行し、大衆的な議論を尽くしています。その議論の結果、夜間部の学費は値上げをせずに凍結という、いわば「改良の果実」もあったのでした。

そのいっぽうで三派全学連の結成は、同じ年の10.8羽田闘争(初めてヘルメットとゲバ棒が登場し、機動隊を敗走させる)をはじめ、実力闘争と革命的敗北主義にひた走るのです。したがって、社学同をふくむ三派は明大自治会の執行部(社学同)をつるし上げ、斎藤全学連委員長の罷免へと事態が発展したのです。これが、戦後学生運動(民主主義)から全共闘運動(革命的敗北主義)への転機でした。ここを丹念に記述したところに、重信さんの『はたちの時代』の画期性があると申せましょう。

重信房子さん

◆ブント分裂の秘密

もうひとつ、重信さんはブントの分裂「7.6事件」も、実況中継のように詳述しています。その前段にある不可思議な「藤本敏夫拉致事件」も詳しく書いています。

赤軍派の武装闘争路線がもたらしたブントの分裂劇は、もっぱら政治思想路線の分岐として分析されてきました。思想的には「唯銃主義」への批判として、解決したのかもしれません。

しかし、この事件の背後には、いまだに謎が多いのです(この点については『情況』2022年春号の「特集解説」を参照)。事件の事実関係として、権力の謀略があったのかどうか(たとえば中島慎介さんは『抵抗と絶望の狭間に』鹿砦社刊において、当日の軍事的作業を遂行した人物が消えてしまったと述べています)。

本書にも触れられていますが、当時の赤軍フラクの高校生活動家が、ブント幹部を殴るよう強要された事実も、最近になって明らかになりました。関係諸氏の事実との向かい合いを期待したいものです。

◆なぜ太田出版だったのか

小島編集長からは、太田出版からの発行になった経緯を知りたいとの御所望もありました。デジタル鹿砦社通信の読者は関西の方が多いと思いますので、出版社が多い東京の事情(疑問)が、たぶんこれに重なります。

太田出版という版元は、当初、たけし軍団などで知られる太田プロの出版部でした。歴史はまだ浅く、いわゆる老舗大手ではありません(情況出版や鹿砦社のほうがよっぽど老舗です)。

北野武や東国原英夫らの本を皮切りに『完全自殺マニュアル』や『バトルロワイヤル』、雑誌では『クイック・ジャパン』『エロティクス』など、90年代サブカルチャーを代表する出版社だとされています。柄谷行人が『批評空間』の発売元を移管したのも、太田出版の勢いに依拠したいというものだったと思います。

当時、わたしは『情況』第二期編集部にいて、太田出版の奔放かつダイナミックな出版事業を羨ましく眺めていたものです。というのも、当時の情況出版の営業担当に元社青同解放派の方がいらして、同じ解放派出身の高瀬社長と懇意にしていたのです。

ここまで読まれた方で、新左翼の事情に詳しい方はピンときたことでしょう。新左翼(三派)はそれぞれ、党派の機関誌(『共産主義』『共産主義者』など)に準じる商業雑誌を持っていました。ブント系では『情況』のほかに京大出版会の『序章』があり、解放派が『新地平』、中核派は『破防法研究』。やや遅れて80年代に共労党系(いいだもも他)が『季刊クライシス』を、同志社出身のブント系ノンセクト松岡利康さんが『季節』(エスエル出版会)を発行し、わたしの世代の必携書になったものです。

それらの中で、岩波の『思想』や青土社の『現代思想』に伍して、学術的論壇を形成しえたのは、太田出版の『批評空間』およびそれを継承した『at』(連載陣に大澤真幸さん・上野千鶴子さんら)でした。われわれの『情況』は、第三期にいたって運動誌と学術誌の境目の曖昧さ、実践と理論をいまひとつ結び付けられないジレンマの中で低迷していきました。

時代を驚かすベストセラーを出しつつ、ニューアカ後のポストモダン状況を、正面から引き受けたのが、2000年代の太田出版だったといえましょう。わたしが太田出版の扉を叩き、ふたつの路線で企画を提案したのはそんな時期でした。ちょうどアソシエ21(御茶の水書房・情況出版などが母体)から柄谷行人さんが離脱し、NAMを立ち上げた時期だったので「なぜ、横山はNAMの太田出版に与しているのか」と疑念を持たれたこともありました。

◆『アウトロー・ジャパン』の頃

じつは思想界の動向とは、あまり関係がありません。わたしが持ち込んだのは、ヤクザ路線と新左翼路線だったのです。

ヤクザのほうは宮崎学さん(キツネ目の男)を媒介に北九州の工藤會、新左翼は荒岱介さんの実録ものでした。じつはこの時期、早稲田の学生たちがアソシエ21を自分たちのバックボーンにしたいと訪ねてきたので、わたしが彼らを出版の仕事(テープ起こしなど)でフォローすることにしたのでした。のちに彼らは、出版社の取締役、編集プロの社長、業界紙の記者、通信社の記者になりました。

工藤會の溝下秀男さんは当時、洋泉社(宝島社系)から出版した著書『極道一番搾り』などが文庫本化され、『実話時代』を舞台に現役親分論客として一世を風靡していました。いっぽうの荒岱介さんは、ワークショップ(昔の政治集会)を開けば700人を動員する全盛期で、故廣松渉さんも注目していた理論家でした。

溝下さんと宮崎さんの『任侠事始め』『小倉の極道謀略裁判』、荒さんの『破天荒伝』『大逆のゲリラ』など、確実に2万部近くは重版するので、高瀬さんから「横山さん、これを機に雑誌をやってみませんか」と提案されたのが『アウトロー・ジャパン』でした。

これは個人的には思い切った冒険で、官能小説作家として軌道に乗っていた仕事量の半分以上を、雑誌の編集作業に割くことになりましたが、このとき助けてくれたのが、今回の『はたちの時代』の版元編集者・村上清さんなのです。今回、10年ぶりのタッグとなりました。こういう人脈は、出版業界の記録として書き記しておくべきでしょう。

◆出版界はけっこう人脈で成り立っている

太田出版の高瀬社長は一昨年に亡くなられましたが、幻冬舎の社外役員も務められていました。見城徹さんとご昵懇だったのです。

その見城さんといえば、重信房子さんの歌集やアラブ関係の本(近著では『戦士たちの記録』2022年刊)を多数出されています。学生運動での挫折や奥平剛士さんの闘い(リッダ闘争)が、生き方として強い影響を及ぼしているということのようです。

その幻冬舎は、宮崎学さんの本を文庫化していた関係で『アウトロー・ジャパン』に広告出稿をしてくれたものです。付言すれば、鹿砦社(松岡さん)も広告を出してくれました(スキャンダル大戦争)。いまも鹿砦社は『情況』の貴重な広告スポンサーです。

高瀬さんも東アジア反日武装戦線の大道寺将司さんの支援、句集の発行などをされていました。出版文化のこころざしというものは、けっきょく伝えたい記録と史実、ゆるがせにできない証言を活字化すること、なのだと思います。

という思いを綴りながら、本をお読みいただいているすべての読書子のみなさんに、心から感謝いたします。活字の道しるべが心の癒しに、あるいは明日の指針になりますように。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

前々回、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳/岩波現代文庫2016年)を取り上げた。これは戦争に関わり巻き込まれたソ連従軍女性たちの隠されてきた声を発掘した、ノーベル文学賞作家によって記される貴重な記録だ。その続きの書評をお届けしたい。

◆理想のため、そして祖国防衛のため、立ち上がる女たち

 

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳/岩波現代文庫2016年)

二等兵で土木工事を担当していたタマーラ・ルキヤーノヴナ・トロブの父について、「あの人たちが信じたのはスターリンでもレーニンでもなく、共産主義という思想です。人間の顔をした社会主義、と後によばれるようになった、そういう思想を。すべてのものにとっての幸せを。一人一人の幸せを。夢見る人だ、理想主義者だ、と言うならそのとおり、でも目が見えていなかった、なんて決してそんなんじゃありません」と語る。彼女自身は共産党員を継続しており、「私が信じていることは当時からほとんど変わっていません。一九四一年から……」とも述べているのだ。

「もし私たちが空想家のようだといわれるならば、救いがたい理想主義者だといわれるならば、出来もしないことを考えているといわれるならば、何千回でも答えよう。『その通りだ』と」という、チェ・ゲバラの名言すら思い浮かぶ。

1941年といえば、第二次世界大戦中、独ソ不可侵条約を破棄したドイツの大兵力がソ連に侵攻したことを機に、ナチス・ドイツを中心とする枢軸国(連合国と戦った諸国)とソ連間との「独ソ戦」が始まった年。ソ連軍は大きな犠牲を払ったが、スターリングラードの戦いでドイツ軍が43年に降伏してソ連軍が反撃。ドイツ国内に侵攻して45年、ドイツの無条件降伏によって幕を閉じた。

本書に登場する女性の多くに、燃え上がるような闘志を目の当たりにする。装甲車の野戦修理工だったアントニーナ・ミロノヴナ・レンコワは、「こんなかわいい子たちは惜しいからな」と言われて書記にさせられそうになると、「かわいいかどうかなんか関係ないじゃない!」「私たちは志願兵です! 祖国の防衛に来たんです。戦闘員でなけりゃやりません」と断言。そして修理工として従事するが戦後、24歳にして自律神経のすべてが破壊されていることがわかり、全身の痛みに悩まされる。内蔵の位置もずれたものの、学業に専念し、インタビューの終わりには「『くそっ! てめえの×××!』って感じ」と捨て台詞のような言葉も伝えているのだ。

◆当時としてはいわゆる「男勝り」な面と、恋する女性の顔

女性たちが悩まされたのは、「女の子扱い」や自律神経の破壊だけではもちろんない。電信係に携わったナヂェージダ・ワシーリエヴナ・アレクセーエワはシラミに吐き気すら催しながら、「凍傷になると頬が白くなるって聞いていたけど、私のほっぺは真っ赤だった。私は、色白なほうがいいからいつも凍傷だったらいいのになんて思った」と口にする。

曹長で砲兵中隊衛生指導員だったソフィヤ・アダーモヴナ・クンツェヴィチは、這ってばかりでズボンは破れていたが、シャツやズボン下を脱いで裂いてくれる男たちを前に恥ずかしさを感じることもなく、「私は少年のようでした」と振り返るのだ。

軍曹で高射砲兵だったクララ・セミョーノヴナ・チーホノヴィチは、「看護婦が不足なら看護婦になる、高射砲の砲手が足りなければ砲手になるだけのこと」「初めのうちはとても男と同じになりたかった」と言う。いっぽうで3枚以上の下着は捨てさせられるため、生理の際には草で脚を拭き取り、トップスの下着の袖をもぎ取ってボトムの下着にしたようだ。

愛する人との別れを体験した女性も多い。大尉で軍医だったエフロシーニャ・グリゴリエヴナ・ブレウスは、通常すぐに埋葬される夫の遺体を持ち帰ろうとし、「あたしは夫を葬るんじゃありません、恋を葬るんです」と口にし、それができない場合、「私もここで死ぬわ。彼なしで生きる意味がありません」と思いを伝える。結局、棺を持ち帰ることになったが、彼女は特別な飛行機の機内で気を失ってしまう。衛生指導員だったソフィヤ・Kは、戦地・現地妻であり第二夫人だった。彼女はおそらく「売春宿」のかわりに男たちを相手にし、その中で恋に落ち、子どもも身ごもったのだ。同様に衛生指導員だったリュボーフィ・ミハイロヴナ・グロスチも、少尉に恋をしている。

◆両脚を奪われ、乳飲み子の命を自ら奪う女たち

ドイツの侵攻に対し、女たちがどのように向かっていったのかも描写される。連絡係だったワレンチーナ・ミハイロヴナ・イリケーヴィチは、精神の均衡を失った女性の話を説明。その女性は5 人の子どもと一緒に銃殺に連れて行かれ、その際、乳飲み子に対し、「空中に放りあげろ、そしたらしとめてやるから」と身振りでうながされた。その女性は、自ら赤ん坊を地面に投げつけて殺したのだ。そして、「この世で生きていることなんかできない」と話したという。別の女性の話ではドイツ軍は、少年を四つん這いにさせ、投げた棒きれを口にくわえて取ってこさせたそうだ。

パルチザンだったフョークラ・フョードロヴナ・ストルイは、負傷した両脚を切断。計5回の手術に耐え、「あんな人は初めてだ。悲鳴1つあげない」と医師に言わしめた。

女たちは決死の覚悟で戦場へと踏み出すも、女性であるからこその悩みを抱えさせられ、そして愛する人を失う。さらには、健やかな心身を奪われ、自ら子どの命を殺めることすら選ばされた。国家や政治の都合によって巻き込まれる戦争の現場には、当然1人ひとりの人間がおり、生々しい現実が存在する。これらの記録は、女性の口だからこそ集められた赤裸々なものだ。

現在進行形の戦争についても触れながら、次回を最終回とする予定だ。(つづく)


◎[参考動画]映画『戦争と女の顔』予告(原案『戦争は女の顔をしていない』)

◎《書評》『戦争は女の顔をしていない』から考える
〈1〉 村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチと戦場に向かう女性たちの心境から
〈2〉祖国のために立ち上がる女、子を殺めることすら選ばされる女

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。労働・女性運動を経て現在、農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動なども手がける。月刊『紙の爆弾』4月号に「全国有志医師の会」藤沢明徳医師インタビュー「新型コロナウイルスとワクチン薬害の真実」寄稿。
Facebook https://www.facebook.com/hasumi.koba

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

統一地方選挙ただ中である。すでに奈良県知事選では維新の会の新知事(山下真)が誕生し、自民党内では放送法解釈変更問題で渦中にいた高市早苗県連会長の責任(調整能力の不足)が問われる流れだ。維新の会が自民党批判(既成政治批判)の受け皿になっているのは間違いのないところだ。

 

タブーなき記事満載!月刊『紙の爆弾』5月号

この地方選前半と同様に、4月11日に公示された山口ダブル補選(2区・4区)をふくむ衆参5議席の補選が、支持率低迷にあえぐ岸田政権の最初の試金石になる。総選挙までのモラトリアムの間、結果次第では政局が動きそうだ。

このうち衆院山口ダブル補選について、「紙爆」では出身地が地元でもある横田一が「安倍背後霊退治なるか」という記事でレポートしている。

とくに4区は亡き安倍晋三の選挙区であり、統一教会問題を追及してきた有田芳生の出馬が注目される。じっさいに横田と有田の一問一答が収録されているので、安倍亡き後の下関に注目する向きは、ぜひ記事を読んでいただきたい。

自民党の候補者は安倍後援会が推す吉田真次前下関市議だが、じつはこの擁立には安倍昭恵が一枚かんだ「やっちまった」感があるらしいので、結果を待って裏側を詳報して欲しいものだ。裏側というのは、もちろん安倍派と林芳正外相との確執である。

政治とカルトをめぐっては、段勲が統一地方選を視野にレポートしている。ここにきてメディアもヒートダウンしている統一教会と自民党の関係や公明党(創価学会)批判だが、段は昨年の暮れに行われた西東京市議選で元創価学会員のトップ当選が「カルト批判」だったことなど、公明党の選挙における衰退を指摘する。

いっぽう山口2区は、故安倍元総理の甥(岸信夫前防衛大臣の長男)が出馬し、対抗は民主党政権の法務大臣だった平岡秀夫(弁護士)となった。

じつは平岡は死刑廃止運動で評者も同席しているので、出馬の事情もわかっている。横田がレポートしたとおり、立民の県議も記者会見に同席するなどしたが、おぜん立ては市民運動や政治家個人の支援・根回しによるものだ。共産党も平岡の出馬をうけて、独自候補を降ろした。おそらく立憲民主からの出馬なら、本人も出る気にはならなかっただろうし、地元メディア(長周新聞)も「拮抗」という評価にはならなかったはずだ。平岡の選挙アピールは、岩国基地強化・上関原発反対のほか、政治家の世襲批判になるであろう。結果を待ちたい。

◆コオロギ食の可否

さて、期せずして今回の「特集」となったのが、コオロギ食である。「昆虫食を推奨するグローバリストの不純な動機」(青山みつお)、「コオロギ食促進の隠された目的」(高橋清隆)のほか、西田健の「コイツらのゼニ儲け」とマッド・アマノの「世界を裏から見てみよう」がコオロギ食のテーマとなった。

ハッキリ言って、このコオロギ食には非常に危うい陰謀や、逆陰謀論がうずまいているようで、生半な評価は下せそうにない。高橋清隆が云うとおり「読者諸賢に判断してほしい」というしかない。

すいません。それほど奥が深く、読み解くのが容易くないのである。高橋が紹介する「コオロギ摂取による人間の電極化(クラウドを通じたAI支配)」はショッキングというか、もの凄く怖い。一連の記事のご一読を勧めたい。

袴田事件の解説として「シリーズ 日本の冤罪」(青柳雄介)は保存版であろう。わが国司法の誤りを認めない体質、具体的には再審システム(検察の特別抗告の無意味さ・無条件の証拠開示など)もはや課題は明白なのである。

「虚飾にまみれた安倍晋三回顧録」は青木泰による、森友事件の検証である。公文書改ざんという、およそ民主主義の根幹を左右する史実について、これも保存版の記事とすべきであろう。

三浦瑠麗の夫が逮捕された「太陽光発電事業」と安倍晋三の関係を解説する片岡亮の記事も、安倍政治とは何だったのかを回顧させる。安倍政権はある意味で、日本の政治を変えたのだ。かれが標榜した経済的な成果はないに等しかったが、官邸(永田町)と官僚(霞ヶ関)の政治構造(力関係)を変えたという意味では、歴史的に革新的な史実である。それが財務省官僚たちの「省益」との抗争なのかどうか、闊達な議論を待ちたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年5月号

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鈴木邦男さんが11日亡くなったとの報に27日接した。鹿砦社と鈴木さんは80年代から交流があり、出版点数からすれば、鈴木さんの書籍をもっとも数多く世に出したのは鹿砦社であろう。思想・プロレス・時事問題など広い分野で、忌憚のない手書き原稿を送って頂き、活字にした日々が懐かしく思い出される。

鈴木さんはその後活動範囲を広げ、言論界では、押しも押されぬ著名人としてテレビでも幅広い活動をされたのはご承知の通りである。21世紀に入ったからは、本社の在るに西宮市で『鈴木邦男ゼミ』を開催し、数々の著名人と対談していただいた。ここ数年は体調を崩しておられると伺ってはいたものの、鹿砦社が関わった大学院生リンチ事件(いわゆる「しばき隊リンチ事件」)への対応をめぐり、両者が微妙な関係に陥っていたこともこの際告白しよう。

しかし、「暴力ではなく言論で活動できることを教えてくれたのが鹿砦社だ」(複数回同様の表現あり)と評して頂いた我々は、鈴木さんご逝去の報に接し、虚心坦懐にご冥福をお祈りする。

鈴木さんありがとうございました。

在りし日の鈴木さんが元気に表現された書籍が少数ながら残っている。この際鈴木さんかつての書籍をご存知ない皆様に鹿砦社出版の書籍をご紹介し追悼の意としたい。

以下が、鹿砦社が出版してきた鈴木邦男氏の著作である(著者表記のないものは単著)。他にもあるが品切れとなっているものは省いた。

在庫のあるものは鹿砦社での直接購入(ホームページ またはメール sales@rokusaisha.com)、全国書店、ネット書店等で購入可能です。

『慨世の遠吠え 強い国になりたい症候群』(内田樹×鈴木邦男対論)1,540円(税込)2015年3月

『慨世の遠吠え 2 呪いの時代を越えて』(内田樹×鈴木邦男対論)1,430円(税込)2017年2月

『終わらないオウム』(上祐史浩・鈴木邦男・徐裕行。田原総一朗改題)1,650円(税込)2013年6月

『右であれ左であれ 鈴木邦男対談集』(重信末夫〔重信房子父〕、松崎明、青木哲、猪瀬直樹、井上章一らとの対談を収録)1,760円(税込)1999年9月

『生きた思想を求めて 鈴木邦男ゼミ in 西宮報告集〈Vol.1〉』(2012年)、『思想の混迷、混迷の時代に 鈴木邦男ゼミ in 西宮 報告集〈Vol.2〉』(2013年)、『錯乱の時代を生き抜く思想、未来を切り拓く言葉 鈴木邦男ゼミ in 西宮報告集〈Vol.3〉』(2014年)

『生きた思想を求めて 鈴木邦男ゼミin西宮報告集 Vol.1』(対論=飛松五男、水谷洋一、浅野健一、Paix2〔ぺぺ〕、野田正彰、山田悦子)1,026円(税込)2012年3月

『思想の混迷、混迷の時代に 鈴木邦男ゼミin西宮報告集 Vol.2』(対論=本山美彦、寺脇研、北村肇、重信メイ、田原総一朗、池田香代子)1,320円(税込)2013年2月

『錯乱の時代を生き抜く思想、未来を切り拓く言葉 鈴木邦男ゼミin西宮報告集 Vol.3』(上祐史浩、神田香織、湯浅誠、前田日明、青木理、内田樹)1,540円(税込)2014年1月

『【復刻新版】闘う日本語 愛と革命の読書道 鈴木邦男コレクション1』1,650円(税込)1999年9月

『【復刻新版】宗教なんてこわくない 上手な付き合い方 鈴木邦男コレクション2』(鈴木邦男・編著 島田裕巳・ひろさちや/対談)1,320円(税込)1999年9月

『テロリズムとメディアの危機 朝日新聞阪神支局襲撃事件の真実』(1987年)、『謀略としての朝日新聞襲撃事件 赤報隊の幻とマスメディアの現在』(1988年)、『赤報隊の秘密 朝日新聞連続襲撃事件の真相』(1990年)

『【復刻新版】赤報隊の秘密 朝日新聞連続襲撃事件の真相 鈴木邦男コレクション3』(鈴木邦男・編著 伊波新之助〔朝日新聞編集委員〕対談)1,320円(税込)1999年9月

『【復刻新版】闘うことの意味 プロレス、格闘技、そして人生 鈴木邦男コレクション4』(鈴木邦男・編著 佐山サトルほか対談)1,320円(税込)1999年9月

『がんばれ!! 新左翼 「わが敵わが友」過激派再起へのエール』(〈初版〉1989年、〈復刻新版〉1999年)、『がんばれ!! 新左翼 Part2 激闘篇』(1999年)、『がんばれ!! 新左翼 Part3 望郷篇』(2000年)

『【復刻新版】がんばれ!!新左翼 「わが敵・わが友」過激派再起へのエール』1,650円(税込)1999年8月

『がんばれ!!新左翼 Part2 激闘篇』1,760円(税込)1999年8月

『がんばれ!!新左翼 Part3 望郷篇』1,650円(税込)2000年5月

『UWF革命 シューティングの彼方に』1,078円(税込)1988年8月

『格闘プロレスの探究』1,100円(税込)1989年1月

『夢の格闘技・プロレス』1,100円(税込)1989年10月

『プロレス・シュート・格闘技 よみがえれ!!過激伝説』1,078円(税込)1988年3月

なお、いずれも残部は少数で出版時期の古いものには、若干の汚れがあるものもございます。ご注文時に品切れになっていればご了承ください。

鈴木邦男さんと松岡利康鹿砦社代表

【松岡より補足】

以上は「デジタル鹿砦社通信」編集部の見解で私松岡の見解とはいささか異にします。私は1980年代はじめから鈴木さんと長い付き合いがあり、相互の信頼関係から上記されたように多数の書籍を刊行しました。思い返せば、実に多くの多種多様な本を出したものだと、あらためて思いました。

知り合ったのは1980年代はじめ、装幀家の府川充男さんの紹介で、まだ「統一戦線義勇軍」事件の前でした。府川さんとも組み、著者・鈴木、編集/出版・松岡、装幀・府川の3人で刊行した本も少なくありません。鈴木さんが創設した一水会の機関紙『レコンキスタ』の縮刷版(1巻=1号~100号、2巻=101号~200号)まで出版しました。このことによって、私のホームグラウンド・兵庫県西宮市で起きた朝日新聞襲撃事件について関係を疑われました。それにもかかわらず、長年多くの書籍を出し続けました。

ちなみに、当時大阪朝日社会部記者で、72年の早稲田大学で起きた、革マル派による「川口君虐殺事件」で抗議の声を挙げ、朝日退職後その件について『彼は早稲田で死んだ』を刊行した樋田毅氏も取材に来られています。樋田氏にとっては、この2つの事件における暴力の問題は深刻だったものと思われます。

しかし、「大学院生集団リンチ事件」(しばき隊リンチ事件)に対するスタンスで義絶せざるをえませんでした。鈴木さんは、配下の見澤知廉(故人)の「統一戦線義勇軍」によるリンチ殺人・死体遺棄事件を経験していながら、これを教訓化せず日和見主義的態度を取り、むしろしばき隊寄りの態度を取られました。昵懇の辛淑玉らとの関係に配慮されてのことだろうと推察します。統一戦線義勇軍事件を体験され運動内部の暴力について身を切るような経験をされた鈴木さん(鈴木さんが激しい行動右翼から言論戦にコペルニクス的転換を遂げたのは、この事件が契機となっていると私なりに考えている)にこそ問題解決に協力してほしかった。こうした時のために、長年共に思想を研鑽し一緒に数多くの本を作って来たのではなかったのか──。上に挙げた本の数々を見ていただきたい、鈴木さんや私たちの思想的営為の雰囲気が感じられるでしょう。

そうしたことにより、私たちがみずからの全思想を懸け会社の業績にも影響することも厭わず全力で取り組んでいた大学院生リンチ事件の問題にケリがつくまで義絶せざるをえませんでした。バカはバカなりに、私にとっては断腸の想いでした。もう6~7年になります。関係修復を勧める方もおられましたが、やはり私には、大学院生リンチ事件の問題に決着がつくまでは、とてもその気にはなりませんでした。複数の裁判も昨年末まで続き一応終結しました。リンチ事件問題に一定の決着がつけば、いずれはきちんと話し合わなければ、と思っていましたが、柔道などの格闘技をやり酒・たばこもほとんど飲まず健康には人一倍気をつけておられた鈴木さんがこんなにも早く逝かれるとは……。今はただご冥福をお祈りするしかありません。

昨年12月には、元読売新聞記者で学生時代に暴力を受けた体験もあって「大学院生リンチ事件」への私たちの取り組みを理解された山口正紀さんも亡くなられました。鈴木さんと共に私に長年影響を与えたお2人が相次いで亡くなられショックで、興奮と虚脱状態です。その前には、岡留安則さんや北村肇さんらも亡くならています。私もそろそろ……と思わないでもありませんが、もう一仕事、二仕事をやり抜かないと死ぬに死ねません。

鈴木さんに対する私の見解は,後日明らかにいたします。合掌

*鈴木さんとの義絶については、「デジタル鹿砦社通信」2017年6月27日号「【公開書簡】鈴木邦男さんへの手紙」、これに加筆した「リンチ事件に日和見主義的態度をとる鈴木邦男氏と義絶」(『カウンターと暴力の病理』所収)を参照してください。

鹿砦社=鈴木邦男の本
http://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=suzuki

新年、明けましておめでとうございます。厳しい政治経済状況のなか、皆様の一年が良い年でありますよう、心から祈念いたします。

 

好評発売中! 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

さて、われわれの社会は批判的な視点、批判の武器こそが発展の糧であります。その意味では活字を媒介にした雑誌メディアは、創造的な社会・文化の原動力とも言うべき役割を果たすものと思料します。

一般論で言っているわけではありません。政治批判・社会批判の切っ先を鈍らせ、あらかじめ企業批判の制約をかけるシステムが、メディアの中にも存在するからです。そう、その元凶は電通をはじめとする広告代理店、イベント代理店の存在にほかなりません。広告スポンサーの威力をもってジャーナリズムの機先を制す。この悪習はいまだ、わが国の前途を覆っているといえましょう。

『紙の爆弾』2月号は、まさにこの悪習が東京五輪という公共性を持ったイベントを食いものにしてきたこと、その中枢で電通が果たした悪行を暴露する記事が巻頭を飾りました。以下、読みどころを掻い摘んでご紹介しましょう。

『紙爆』2月号では、本間龍と片岡亮の論考「電通のための五輪がもたらした惨状」「東京五輪グッズ 新たな汚職疑惑」が、電通の犯罪的な立ち回りをあますところなく暴露している。あらためて、広告収入に頼らない本誌ならではの記事と称賛を贈りたい。

まず、電通が単体で世界最大の企業、グループで第6位に入るコングロマリットであることに、あらためて驚かされる。同じく男性衣料のトップメーカーである青木、出版界における最大手KADOKAWAと結びつくことで、電通の東京五輪は巨大疑獄へと発展したのだ。

広告代理店のシステムは、そもそも業界内提携にある。ビッグイベントに対しては、スポンサー契約という枠組みで利権の配分を「オフィシャルサポーター」としてグッズの販売、関連商品の販売特権をスポンサーに付与する。今回の場合は高橋治之被告が元電通役員であり、五輪組織委員会理事という立場を利用した贈収賄・官製談合だったところに、構造的な利権が露呈した。

かつて、電通のキャッチフレーズに「電通には人いがいに何もありません」というものがあった。そう、広告代理店業界は人脈と業界内の提携があるのみで、あとは芸術家づらをしたデザイナーと制作会社があるだけなのだ。小さな代理店に友人が居たら、その事務所に行ってみるといい。壁に代理店の電話・ファックスの一覧表が貼ってあるはずだ。

もちろんデータ通信、Eメールでも業務は行なっているが、主要なやり取りは電話とファックスである。なぜならば、広告クライアントの代理店同士のやり取り(年間広告費管理)は、すべて人対人の交渉力で決まるからだ。ほとんどすべての代理店が、電通と博報堂、東急エージェンシーなどの大手代理店に系列化されている。

その意味で、電通に「人いがいに何もありません」は実態を照らしているが、その人脈が国家レベルの巨大イベントに係る、人と人の関係、すなわち贈収賄であれば看過できない。本間は電通談合ルート構造がオリンピックの発注金額の膨張につながったこと、それを看過してきた大手メディアの責任を問いただす。大手メディアがスポンサー(電通)に慮るのであれば、司直の厳しい追及をうながすためにも、われわれのような在野メディアが奮闘するしかない。

片岡亮の「東京五輪グッズ疑惑」も、その背後に電通という「本丸」があることを指摘するが、取材は公式グッズの販売現場からだった。片岡はクアラルンプールの日系ショッピングモールで、一枚のTシャツを発見する。そのTシャツには、東京五輪のエンブレムとタグが付いていたが、胸のエンブレムは別のデザインで塗りつぶされていた。別デザインで塗りつぶしたのは東京五輪が終わったからだが、片岡が取材したところ、そこにはマネーロンダリングと旧エンブレム(デザインのパクリ疑惑で取りやめ)という、いかにも利権がらみの背景が判明したのだ。マネーロンダリングは日本から輸出することで、名目的な売り上げが五輪関係者に計上される、いわば伝票上の予算消化である。旧エンブレムの塗りつぶしは、あらためてデザイン選考が出来レースだったことを露呈させた。

これら五輪スポンサードに係る利権、グッズ販売における不透明な構造は、膨大なものになった建設予算とその後の管理費をふくめた収支決算として、情報公開が求められるところだが、大手メディアには期待できない。内部告発をふくめた、電通城の攻略こそジャーナリズムの使命ではないか。

◆左派の新党を待望したい

ほかに、統一教会被害の救済新法をめぐる各政党の思惑、公明党と立憲民主党の内幕が明らかにされています。「創価学会・公明党 救済新法骨抜きの重いツケ」(大山友樹)「ザル法に賛成した立憲民主党の党内事情」(横田一)。創価学会・公明党の場合は自公路線による支持者の減少、立憲民主党の場合は維新との共闘による独自性(および野党共闘)の喪失ということになるが、れいわ新選組を除いて野党共闘に展望があるとも思えない。共産党や社民党など、賞味期限の切れた党に代わる、たとえば参政党のような求心力のある左派の登場が待たれる、と指摘しておこう。

◆レールガンは脅威か、平和の使者か

小さな記事だが、マッド・アマノが注目する「レールガン(電磁砲)」が気になる。究極の防衛システムは、電磁波を発生させることで、誘導ミサイルや戦闘機など、電気で動く兵器を無力化するものだ。通常は核爆発による電磁波の発生で、電子系の兵器は無力化されると考えられている。そんな武器が手軽に、3Dプリンターで製作できるというのだ。ミサイル制御の精密電子装置の有効性は、ウクライナ戦争でいかんなく証明された。そして超高速兵器の脅威やドローン(パソコン誘導)の有効性も明らかになっている。最前線が電子機器である以上、それらを無力化する兵器が待望される。願わくば、すべての武器を無力化する「レールガン」の登場を。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

政治と宗教の議論、および旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題の議論は、ようやく端緒についたばかりだ。わが「紙の爆弾」も特集といえる論攷、レポートが並ぶことになった。

 

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年1月号

いくつかの視点があると思う。政教分離を信教の自由における法的担保とする考え方は、戦前の国家神道(内務省による神社神道の国教化=官幣社制度)の批判、その下に行なわれた宗教弾圧である。

もうひとつの視点は、宗教団体といえども政治的自由は有しているので、他の圧力団体(各業界の生産者団体・労働団体・文化団体・各種企業)と同等に、政権への働きかけ、政党との提携・協定は自由であるというものだ。

前者を過度に強調すれば、宗教団体への規制となりうる。しかるに、宗教団体が支持母体の政党が政権を担ってよいのかどうか、議論は分かれるところだ。言うまでもなく、この議論の延長上には公明党が与党であることの可否が浮上する。議論の本格化を期待したい。

「旧統一教会と自民党 現在も続く癒着」(片岡亮)は、自民党が統一教会被害者への「守り」にとどまり、悪質な宗教団体の取り締まり、すなわち「攻め」に消極的であることを批判する。

さらに教団と癒着する萩生田政調会長が、ほかならぬ教団との窓口(調整役)を務めていると指摘する。前述したとおり、創価学会を支持母体とする公明党と自民党の現政権が、旧統一教会の規制(解散)に消極的なのは言うまでもない。そのうえ、ステルス信者となった教会員が自民党の選挙運動をになう動きが指摘されている。

あらためて言うまでもなく、自民党にとって韓国に本部を置く旧統一教会の「理念」ではなく、その会員の選挙運動力が「役に立つ」から癒着を断てないのである。政治は「政治理念」ではなく、敵の敵は味方という「政治の原理」で成り立っている。

また、片岡は幸福の科学が「自殺防止相談窓口」や駅頭での自殺防止キャンペーンに乗り出していることを指摘する。参政党の支持基盤でもあるというわjクチン反対運動の神真都Q、内部での厳格さが指摘されるエホバの証人など、新宗教の動きも気になるところだ。ほかに「統一教会『救済新法』めぐる与野党攻防」(横田一)が新法の問題点をあばき出している。

「旧統一教会における信仰とは何か」(広岡裕児)は、セクト(破壊的カルト)の判別規準をフランスの例から解説している。旧統一教会が多額の献金をさせるから問題なのではない、と広岡は指摘する。既成仏教でも多額の献金はあるし、それを伝統的な仏教宗派だからいいのだとすれば、それは新宗教への差別にほかならない。

それではマインドコントロールだからダメだと言えるのか? このテーマを、広岡はオウム裁判の判決理由から解説する。自由意志をどこまで確認できるのか、オウム被告(元死刑囚)たちの告白は迫真である。

「統一教会政界汚染と五輪疑獄をつなぐ闇」(藤原肇)の副題は「火だるまになる自公ゾンビ体制」である。その筆致は快刀乱麻ともいうべき痛快なものだ。描き方は陰謀論だが、旧統一教会が満州人脈をテコに、アメリカと日本の中枢に拠点を築き、日本そのものを乗っ取ってしまったというものだ。

キーパーソンは言うまでもなく岸信介であり、岸の娘婿安倍晋太郎亡き後は、安倍晋三に焦点を絞って政権乗っ取りを画してきたという。陰謀論だからといって、暗いばかりではない。やがて大掃除が始まり、大疑獄事件のすえに日本は生まれ変わるのだと。読んでいるうちに、楽しみになってきた。

「偽史倭人伝『プランA』」(佐藤雅彦)は危険な記事だ。

なにしろ第三次世界大戦のプランが進行しているというのだ。そして、そのプランを知ったうえで第三次大戦を欲しているのが、現在ロシアと戦火を交えているウクライナのゼレンスキー大統領だというのだから、危険きわまりない。評者もゼレンスキー政権の救国民族解放戦争を支持する立場だが、その祖国防衛戦争の延長に第三次大戦が招来するのであれば、話はまったく別ものになってくる。

いや、戦争は成り行き(敵と味方の攻防の弁証法)なのだから、やむを得ないものとしよう。問題は「プランA」がどこまで具体的で、現実性のあるシナリオなのかであろう。ロシアの解体という、いまだ誰も議論の俎上には上げていないものの、世界の新秩序を安定化させるキーワードの一つが「プランA」なのだ。すなわちプーチン政権の転覆であり、広大な国土と資源を持つロシア連邦の解体である。これまた読んでいるうち背筋が冷たくなり、しかしその恐怖が楽しみになったと告白しておこう。危険、危険。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年1月号 目次

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